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後編

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‥‥‥‥悪魔ゼリアスとの契約を行って、歳月が流れました。

 恋愛ゲームの本編である学園に通える歳になっても、多くの破滅ルートがありましたわねぇ。

 そう、我が家の不正話が全部わたくしに押し付けられそうになったり、街中で異常性癖者に狙われて誘拐されかけたり、挙句の果てにはもう少し経ってから出ないと表れないような組織の手が出てきて実験材料にされかけたり…‥‥本当に死を彷徨うかと思えるほどの破滅の道が多くあったのは嫌な思い出。

 そして、入学後も破滅の道が待ち受けていましたけれども、それらも何とか乗り越えつつ‥‥‥ヒロインの観察をわたくしは怠らなかった。

 というのも、こういう悪役令嬢転生ものに付きものとして、ヒロインもまた転生者である可能性が存在している。

 なので、できればまともなヒロインであれば協力してもらい、わたくしの破滅の道を免れるようにして欲しかったのですけれども‥‥‥‥世の中はそううまく出来ていませんでした。

 というか、最も最悪なパターンでした。





‥‥‥普通の恋愛や乙女ゲームのヒロインと言えば、清楚で可憐で美しく、心が聖女なイメージがあるのですが‥‥‥けれども、現実は小説より奇なりということなのか、このヒロインは酷すぎた。

 攻略対象である騎士団長子息や宰相子息、我が家の兄やこの国の第1王子を次々と毒牙にかけ、本来であれば関わる事も無いようなモブの男性陣も次々と取り込んでいき、恐るべき逆ハーレムを作り上げていく様子は経国の女性とも言うべきなのでしょうか‥‥‥?

 というか、ヒロインにあるような苛めが何故かこちらに回って来て、毎回酷いような苛めがやってきたりしたのに‥‥‥何故か、わたくしが主犯格だと言いまくり、彼らは信じ切っていました。

 あれはもうヒロインではなく、悪魔がいる世の中だからこそ言える、本物のサキュバス。

 でも、どうやらその血とかはなく、純粋な人間らしいですけれども…‥‥あの手腕はすさまじいものがありましたわね。何でしょう、あの恐るべき手腕は。


 そしてその最中にも、これでもかとゲリラ豪雨のようにわたくしめがけての破滅ルートも多くありましたわ。

 不慮の事故に、学園内の変質者、入ってはいけない部屋からの呪いや学園のライバル校からの嫌がらせに攻略対象たちの思い込みでのやらかし…‥‥それはもう、これでもかというほど投げつけられましたわね。

 それでも、なんとか破滅の道を逃れようと抵抗していると、ちょっとは効果がある事が分かりました。

 本来はあの逆ハーレムに入って仲間になってしまうような第2王子が、ちょっとアレになって離脱し、学園内でのいじめもゼリアスのおかげで無傷で過ごせ、変質者の正体が教員の一人で懲戒免職され‥‥‥なんとか一つ一つ、潰すことには成功しました。

 




 まぁ、結果としては断罪は起きましたけれどね。

「-----、というすべての罪状がお前の罪の数々だ!!」

 卒業式当日‥‥‥前夜のうちに、既に分かっていましたけれども第1王子がわたくしへ断罪を下しました。

 その内容は、わたくしがやったこともない数多くの冤罪ばかりであり、一つ一つの罪状を丁寧に読み上げるもの。

 長々としているというか、本来のゲームであればもっと単純に終わらせる物ですが‥‥‥全部をいちいち言う必要はあるのでしょうか?

 そう思いながら、ふとヒロインの方に目を向けて見ましたけれども…‥‥彼女、逆ハーレムの人たちとイチャイチャしてましたし、なんか気が抜けますわね。

 うん、元々のゲームの断罪の方がより臨場感があったのに、これでは駄策過ぎますわね‥‥‥何をもって、ここまで残念な方々になってしまったのでしょうか。

 冤罪や断罪の段取りの稚拙さに、内心ちょっと情けなさすぎると思いながらも、言い終えたところで王子方は騎士を動かした模様。

 全てがあやふやな酷い冤罪ではありますが、あれでも一応一国の王子ということで従うようですけれども…‥まぁ、ここまでくれば聞く意味も無いですし、黙っている必要もないでしょう。



 なので、ここで終わらせましょう。

「‥‥‥なら、来てくださいませ、わたくしの悪魔‥‥‥ゼリアスさん」
「ああ、その指示に従おう」

 騎士たちが迫りくるのを見ながら、わたくしがそう口にすると、どこからともなく悪魔ゼリアスが現れる。

 そして、迫り来る者たちを吹き飛ばし、私の元へ推参してくれましたわ。

「さてと、呼ばれたからにはもういいんだよな、悪役令嬢‥‥‥いや、シアよ。令嬢としての立場を捨て、魔女としてこの場を去るとしよう」
「ええ、そうね。わたくしはもう皆様方の知っている令嬢ではなく、この瞬間に魔女になりましたもの。わたくしがいることを望まないのであれば、この場から去るとしましょう」

‥‥‥攻略対象となっていた方々や、ヒロイン。これでもういいでしょう?

 この場にもう、わたくしがいる意味もありませんし、わざわざ捕まる必要もありません。

 あっけに取られているようですが、その隙にわたくしたちはここから退出させていただきますわ‥‥‥もう、この物語の幕の締め時ですからね。


 ゼリアスが手をかざすと、離れた場所に扉が出現した。

 その行先は、この会場から離れた場所であり、直ぐにこの場にいる彼らはわたくしたちがそこから出ようとするのを妨害しようとしましたけれども‥‥‥あっけなく、全員失敗していく。

 はじかれ、ふっ飛ばされ、折られ、お見せできない惨状とさせ、様々な手で来るも誰も彼が妨害を成し遂げられない。

 そして気が付けば、扉の前にわたくしたちが立ったときには、もう全滅しているに等しい状況であった。


「それでは、さらばだ」

 扉に手をかけ、まずはゼリアスが先に入りこむ。

 そして、続けてわたくしも入ろうとしたところでふと、ヒロインたちの方に目を向けて見た。

 取りまきたちは既に全滅しており、何もできないような顔をしている。

 今すぐにでも押さえたいのになすことができないマヌケ面で…‥‥何と言うか、ここまでのやらかしなどを考えると仕返しをしたい気分もありましたけれども、物理的な事よりも精神面でやってやりたくなるいたずら心が湧いてしまいました。

「----そうそう、先ほどのわたくしへ向けてなさった罪状。あれら全部がわざわざ用意してくださった冤罪だという事は、当の前にわかってますわ。でも、ここでその反論を致す気もなく、仕返しも行いませんので、少しの平穏を最後の情として与えますので…‥‥ごきげんよう」


 そう、わざわざここでやる意味も無い。

 学園で過ごしている間は、あのヒロインたちは自由勝手に動くことができただろう。

 でも、もうこのゲームは悪役令嬢が退場するので、その後のことはもう何も、気にする必要はない。

…‥‥なのでこの後、どういう末路が待ち受けていようとも、やるのはもう彼ら次第なのだ。

 ゲームでもない、この生きた現実にどう対応できるかは、わたくしは知らない。

 わたくしはただ、自分の破滅を逃れるために一生懸命に努力を重ねたからこそ、今の結末がある。

 
 最後に告げた後、扉を閉める直前に見れば、何とも言えない表情になっていた。

 この言葉を、彼らがどう受け止めたのかもわからないが…‥‥ああ、でも気にする必要ない。

「わたくしはわたくしであり、自分でこの道を選びましたものね…‥‥」

 魔女となりつつ、念のために卒業後の残された破滅の道を潰し、わたくしはようやく悪役令嬢という立ち位置から降りることができただろう。



「…‥‥これでもう、破滅の道は無いな?」
「ええ、そのはずですわね」

 最後の破滅への道も潰し終え、ついに破滅からわたくしは逃れることに成功した。

 苦労し、長い年月が流れたとはいえ…‥‥それでも、ようやく得た安心感にわたくしは心の底から歓喜する。

 破滅の道に別れを告げ、新たな魔女としての人生の一歩をわたくしは踏み入れるのであった…‥‥
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