上 下
2 / 5

拝啓、国王陛下へ…

しおりを挟む
…拝啓、バルムス王国の国王陛下へ

 そちらの国で現在魔王と相打ちになって死亡したと噂になっている勇者ですが、この度魔王軍の幹部の方からスカウトを受け、魔王軍に入隊いたしました。

 入隊したとしたといっても、まだ新人の立場で…

―――――

「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁあ!!勇者が魔王軍に入隊したとはどういうことだ!!」

 
 魔王と勇者が一騎打ちを行い、お互い相打ちになって世界に平和が訪れたと、人々が噂をしていた中で届いてきた何の変哲もなさそうな手紙。

 なぜか国王宛てとされており、差出人も不明になっていたが、念のために危険物がないのか検閲していた兵士は、内容を先に読んで思わず叫んでいた。

 どういうことなのだろうか。確かに勇者は相打ちになったと伝わっているはずなのに、その勇者から届いてきたのは憎き魔王軍に入隊したという連絡。
 わざわざ連絡してくるとはどんな神経をしているのかと思うが、それでもまだ続きがあるようで、真偽を確認するために兵士は続きを読むことにした。


―――――

…毎日が訓練で厳しいですが、国王陛下の手によってこの世界に召喚され、いきなり勇者としてこの国を侵略してくる魔族を、その親玉である魔王も倒して来いと言われて、どういうことなのか状況を把握する前に、隷属の腕輪をはめさせられた日々と比べたら、格段に楽しく過ごせております。

 私は何の特別なものも何もない、ただの一般人だったはず。
 この世界に召喚されてから勇者としての力を宿したとしても、その感覚は一般人と変わりなかったはずです。

 それなのに、突然手を血で染める日々を味わされた苦痛…アレは酷いものでしたね。


 何十、何百、いえ、何千万人の魔族を、私は切り捨てさせられたのでしょうか。
 どれだけの大怪我を負ったとしても、勇者としての治癒力の高さを理由に、無理やり戦場に立たされたのでしょうか。
 隷属させられているから、何もできないと分かって欲望のはけ口にもされたあの辛い日々…ああ、こうやって手紙を書いても、まだまだ書ききれないほどのものがあったでしょう。

 ですが、全てを無理に思い出して書くことはありません。それはもう過去の事であり、取り返しのつかない日々なのですから。
 国民の皆様に対して、この国を救うための勇者として紹介されたときは、人々の希望のまなざしなどは悪くはなかったと思えましたからね。

―――――

「…どういうことだ?隷属の腕輪だと?あれは犯罪者にしか使用されないはずで、遠目から見た時があったが、勇者様にそんなものはついていなかったはずだが…」

 内容がぶっ飛んでいたことに当初は頭に血が上ったが、冷静になって読んでいくうちに兵士は気が付く。
 これらがすべて本当のことだと思いきれない。魔王軍に加担したと書いてある時点で、偽りがある可能性が否定できないのだから。

 けれども、中身ににじみ出ているものを見て、疑惑の心が芽生え、読み進めていく。

―――――

 ええ、隷属の腕輪が見えないように、魔王を倒す旅路として付けた仲間たちの中で、魔法使いの人に魔法で隠させたのは覚えています。
 はた目から見たら、私は単なる鎧を着込んだ勇者にしか見えなかったでしょう。

 でも、国王陛下。あなたの人選、ちょっとヤバかったですよ。
 仮に魔王を倒させる勇者パーティにするならば、もう少しまともじゃないと危ないですって。

 今書いた魔法使いの人、王妃様の親族の方で、裏ではヤバい人体実験を行っていた方でもあり、毒の耐性を付けるためだと言って、勇者の回復力を利用してありとあらゆる猛毒を注射し、酷い状態なのを魔法で隠していたのですからね。

 他の方々…例えば、戦士の方。
 ムキムキマッチョの筋肉バカでしたが、頭の中身までもが筋肉でできていたのか、勇者は常に回復するからという理由で、人間砲弾として投げたり、盾代わりに使ったり、筋トレと称してはけ口に利用するとか最悪でしたよ。
 まぁ、国王陛下の息子さんらしいですが…本当に息子さんですかね?なんか疑いたくなるぐらいに見た目とか髪色とか違い過ぎて、王子を名乗ろうとして名乗れなかっただけの不審者にしか見えませんでした。

 治療を行ってくれた聖女に関しては…私のほうが色々とあったためか、結構怒っていたようで。
 治療と称して傷口に劇薬を塗りこんできたり、引きちぎったり、果ては適当な村で人をたぶらかして、大量に呼び寄せてきたりと迷惑しかかけられませんでした。
 ああ、そういえば旅路を終えてから神殿に籠りきりと噂になっているようですが、娼館に通いきりになっているというのは知ってますよ。私で何か目覚めちゃったようですね。

 その他離脱したり入ってきたりと色々ありましたが、どなたも酷いろくでなしでした。まともだったのは、商人の方ぐらいですかね?勇者の治癒力を見て、これは売れるぞと思って目玉をえぐったのはドン引きですが。

―――――

「おおぅ…答えは出たが…酷いな」

 先ほど口にした疑問がすぐに出てきたのは良いのだが、他に出てきてしまった内容にドン引きする兵士。
 今まさに、現在進行形で知ってはいけないような闇を覗き見ているような気がしてきており、既に嘘偽りではなさそうだと思い始めていた。

 神々しく、それでいてうらやましがられるような、勇者の仲間たち。
 勇者が相打ちになって死亡したと伝えてきたときは悲しんでいるように見えたのだが…この内容を見ると、あの涙のほうが偽りだったのではないかと思い始める。

―――――

 さて、なんやかんやとありましたが、それでもどうにか魔王城へ到達し、魔王と戦うことができました。
 魔族の方々と戦わされて、どういう魔王なのか道中で嫌でも情報が入ってきましたが…実際に目にしたんですけれども、本当に魔王なのか疑いたくなりました。

 だって、あなた方からお聞きしていた魔王というのは、悪逆非道で残虐な、それでいておぞましい様な怪物の姿をしていると言っていたのに…肝心の魔王の本当の姿は、まさかの動くまな板だったんですよ。

 まな板に手足が生えて、簡単なへのへのもじの顔だけ書いた手抜き感あふれる魔王…二度も言いますけれども、本当に魔王なのか疑いたくなりました。


 ですが、そんな手抜き感あふれるような姿をしていても、流石魔王というだけあってか、声だけはイケボでしたね。まな板の姿でしたが。
 それに、道中無理やり戦わされて気が付いてましたが…国王陛下、嘘をたくさんついてましたね。

 魔族が侵略してきている?いえ、侵略してきたのはあなた方です。
 魔族が恐ろしい存在?いえ、恐ろしいのは異世界のものとはいえただの人間を無理やり酷使してきたあなた方です。
 魔族は滅ぼすべき邪悪な存在?…それも嘘でした。滅ぼすべきなのは…本当の敵は、あなた方…いえ、人間と思い込んでいるだけの、皮をかぶった化け物どもです。

 まな板の魔王フラットさんは教えてくれましたよ。
 本当は昔、普通の人間が存在していたということを。

 けれどもある時、魔族の中で突然変異というか、人間の姿をしたものが出て…それだけならばまだ特に大したことではなかったのですが、悪意をこれでもかと詰め込みまくった化け物が誕生したそうです。

 その化け物は自らを人間と偽り、ある王国に入って密かに権力者たちとなり替わって…そのまま人間たちを利用して、世界を手中に収めようとしていたことを。

 ただ、流石に手駒がこの世界のものだけでは厳しいと思って…他の世界から、強力な人材を奴隷として酷使して、利用しようと企んでいたことを。


 国王陛下、いや、化け物の皆さん。
 いつのまにか深く国へ食い込み、自身の尽きない欲望のためだけに、あらゆるものを踏みにじり、利用しようとしてきた方々へ、宣言いたしましょう。

 私、勇者はこの度魔王軍へ寝返りつつも…人間をすべて滅ぼすまではしないが、あなた方化け物をすべてこの世から屠り去るために動くと。
 幸いにも、既に情報は確認しており、誰が化け物なのか判別はできています。

 それどころか、この手紙をここまで読んでくれた時点で、発動させてますよ。
 その国に潜む、人の皮をかぶった化け物全ての皮を剥ぐ魔法を。

 国王陛下まで、まともに手紙が届くとは思えなかったので…もしも、その前に誰かが、何も知らなかった人が少しでもこの手紙で疑いを抱いてくれた時点で発動してくれるように仕掛けておきました。
 化け物さん、あなたが直接読んでいたら…ああ、見えたかもしれませんね。

 たったいま、文字通り化けの皮がはがれたその瞬間の顔を…
―――――


【ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!】

「な、なんだ!?」

 手紙を読み終えようとしていたその時、突然物凄い絶叫があちこちから聞こえてきた。
 何事かと思い、兵士は手紙をいったんしまって慌てて確認しに向かう。

「どうした!!なにがあった!!」
「大変だ!!国王陛下やその他勇者パーティの方々の姿が、突然見るのも悍ましい化け物に成り果てたんだ!!」
「それどころかあちこちの大臣や役人、その他もろもろ化け物になっていると情報が!!」
「な、な、なんだと…!?」


 突然入ってきた情報は、先ほどの勇者の手紙の内容にあったことで、兵士は驚愕する。
 もしや本当に化けの皮がはがされたのかと思いつつ、事態の対処へ動き…その日、バルムス王国は大混乱に陥るのであった。








―――――

追伸。
ああ、そういえば化けの皮がはがれるとありましたけど、そう単純にはがれるわけがないですって。
魔族の突然変異と書きましたけど、そもそもこの世界の人間の発生自体が分かっていないところがあるので、ちょっと伝わりやすい様に書いただけだったりします。私の表現がうまくないので、誤解しそうですが…。

これはね、魔王軍の魔法に詳しい方々に頼んで、仕掛けてもらった魔法でして、
今まで私に対してやってきたことを前衛アートのような形にして、何百倍にもやってきた人々へ返すだけの魔法で…中身は、人間そのままだったりしますよ。

見かけは人間でも、中身が化け物なのは間違っていないのですけどね☆

―――――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子から婚約破棄……さぁ始まりました! 制限時間は1時間 皆様……今までの恨みを晴らす時です!

Ryo-k
恋愛
王太子が婚約破棄したので、1時間限定でボコボコにできるわ♪ ……今までの鬱憤、晴らして差し上げましょう!!

婚約破棄されてしまった件ですが……

星天
恋愛
アリア・エルドラドは日々、王家に嫁ぐため、教育を受けていたが、婚約破棄を言い渡されてしまう。 はたして、彼女の運命とは……

体裁のために冤罪を着せられ婚約破棄されたので復讐した結果、泣いて「許してくれ!」と懇願されていますが、許すわけないでしょう?

水垣するめ
恋愛
 パーティ会場、観衆が見守る中、婚約者のクリス・メリーズ第一王子はいきなり婚約破棄を宣言した。 「アリア・バートン! お前はニア・フリートを理由もなく平民だからと虐め、あまつさえこのように傷を負わせた! そんな女は俺の婚約者に相応しくない!」 クリスの隣に立つニアという名の少女はクリスにしがみついていた。 彼女の頬には誰かに叩かれたように赤く腫れており、ついさっき誰かに叩かれたように見えた。 もちろんアリアはやっていない。 馬車で着いてからすぐに会場に入り、それからずっとこの会場にいたのでそんなことを出来るわけが無いのだ。 「待って下さい! 私はそんなことをしていません! それに私はずっとこの会場にいて──」 「黙れ! お前の話は信用しない!」 「そんな無茶苦茶な……!」 アリアの言葉はクリスに全て遮られ、釈明をすることも出来ない。 「俺はこいつを犯罪者として学園から追放する! そして新しくこのニアと婚約することにした!」 アリアは全てを悟った。 クリスは体裁のためにアリアに冤罪を被せ、合法的に婚約を破棄しようとしているのだ。 「卑怯な……!」 アリアは悔しさに唇を噛み締める。 それを見てクリスの傍らに立つニアと呼ばれた少女がニヤリと笑った。 (あなたが入れ知恵をしたのね!) アリアは全てニアの計画通りだったことを悟る。 「この犯罪者を会場から摘み出せ!」 王子の取り巻きがアリアを力づくで会場から追い出す。 この時、アリアは誓った。 クリスとニアに絶対に復讐をすると。 そしてアリアは公爵家としての力を使い、クリスとニアへ復讐を果たす。 二人が「許してくれ!」と泣いて懇願するが、もう遅い。 「仕掛けてきたのはあなた達でしょう?」

ブチ切れ公爵令嬢

Ryo-k
恋愛
突然の婚約破棄宣言に、公爵令嬢アレクサンドラ・ベルナールは、画面の限界に達した。 「うっさいな!! 少し黙れ! アホ王子!」 ※完結まで執筆済み

婚約破棄されました。あとは知りません

天羽 尤
恋愛
聖ラクレット皇国は1000年の建国の時を迎えていた。 皇国はユーロ教という宗教を国教としており、ユーロ教は魔力含有量を特に秀でた者を巫女として、唯一神であるユーロの従者として大切に扱っていた。 聖ラクレット王国 第一子 クズレットは婚約発表の席でとんでもない事を告げたのだった。 「ラクレット王国 王太子 クズレットの名の下に 巫女:アコク レイン を国外追放とし、婚約を破棄する」 その時… ---------------------- 初めての婚約破棄ざまぁものです。 --------------------------- お気に入り登録200突破ありがとうございます。 ------------------------------- 【著作者:天羽尤】【無断転載禁止】【以下のサイトでのみ掲載を認めます。これ以外は無断転載です〔小説家になろう/カクヨム/アルファポリス/マグネット〕】

虚偽の罪で婚約破棄をされそうになったので、真正面から潰す

千葉シュウ
恋愛
王立学院の卒業式にて、突如第一王子ローラス・フェルグラントから婚約破棄を受けたティアラ・ローゼンブルグ。彼女は国家の存亡に関わるレベルの悪事を働いたとして、弾劾されそうになる。 しかし彼女はなぜだか妙に強気な態度で……? 貴族の令嬢にも関わらず次々と王子の私兵を薙ぎ倒していく彼女の正体とは一体。 ショートショートなのですぐ完結します。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

婚約破棄で、自由になったと思ったのに

志位斗 茂家波
恋愛
「ヴィーラ・エクス公爵令嬢!!貴様と婚約破棄をする!!」 会場に響く、あの名前を忘れた馬鹿王子。 彼との婚約破棄を実現させるまでかなりの苦労をしたが、これでようやく解放される。・・・・・・ってあれ? ――――――― 息抜きで書いてみた単発婚約破棄物。 ざまぁも良いけど、たまにはこういう事もやってみたいと思い、勢いでやってしまった。

処理中です...