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中編 開業しました

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……パーティの追放から1カ月後。


 メディは元々いた国から離れ、つい1週間ほど前にようやくある都市に定住し、薬屋として開業した。

「よし!これで良いはずね」

 見かけが幼い少女ゆえに、色々と大変な事もあったが、何とか頑張って今日ようやく開業にこぎつけた。

 冒険者をやっていたのは、薬の材料を自ら手に入れるためという理由があり、人数が多い方が身の安全もあると思ってパーティ『リールコン』に入っていたが、考えてみればあれはかなり無駄な時間であっただろう。

 何しろ薬草を取りたくとも、メンバーがすぐに動いて追いつかねばいけなかったし、薬草があっても戦闘で踏みつぶされたり、中には保管していた薬草をうっかりで台無しにされたりしたし……あれ?もしかして最初から私はパーティに所属しないほうがよかったのではないだろうか?


 まぁ、そんなことを考えつつも、メディは看板を立て、薬屋として活動し始めた。

 頭痛薬、風邪薬、回復ポーションなど、あまり派手ではないが、それでも生活にはそれなりに必要となるような物を扱った。







 口コミで少しづつ広まり、お客が増えていく。

 薬草などがたまに足りなくなるが、それはギルドに依頼して手に入れる方針へ切り替えたので問題はなかった。

・・・・・あれ?じゃあやっぱり最初から冒険者になる必要はなかったのかも。





 とは言え、そんなに無駄という事でもなく、どうやらギルド間には繋がりがあったようで、彼女の評判はここにあるギルドにも伝わっていたらしい。

 特に、美容液などの女性受けする商品は連日すぐに売り切れて、儲かるけれども生産が追い付かないことになってしまった。



「どうしようかな…‥‥流石にこればかりは、誰かに応援を頼みたいわね」


 と、色々とその為の情報を収集してみると、実はギルドには冒険者が所属している冒険者ギルドだけではなく、魔法屋と呼ばれる者たちが所属している魔法ギルドと言う存在を彼女は知った。

 そして、魔法屋の主な仕事は生活のための事ばかりであり、その中には薬草の栽培などをある事を見つけたのだ。

「これだわ!」


 ギルドに依頼して集めてもらうだけではなく、魔法屋に育ててもらえばいい。

 いくつか珍しい薬草の類を育てられるような人に依頼して、定期的な納品をお願いすればいいのだ。

 いや、それはむしろ仕事の契約のような物であろう。



 そうと決まれば彼女はすぐさま実行し、魔法ギルドへ依頼に向かった。


「ええっと、冒険者ギルドはあっちで、魔法ギルドって言うのは‥‥‥ああ、あそこね」

 


 魔法ギルドに依頼するために中に入ったメディ。

 ギルド内は冒険者ギルドとはことなり、魔法屋と呼ばれるような人が多く、わかりやすく三角帽やローブを着こんでいたり、使い魔と呼ばれるものを従えたいたり、蛇にぎちぎちに拘束されている変わった人がいたりなどもした。



 奥へ入り、依頼をするために受付嬢の下へ、彼女は向かう。

「すいません、薬師のメディなのですが、依頼を出したいのです」
「ああ、メディさんですね。あの薬屋で評判の。えっと、依頼と言うとどのような類のですか?」

 受付嬢はメディの言葉を聞き、どうやら彼女の事を知っていてくれたようであり、優しく語りかけてくれた。

「最近、薬の生産をしているのですが、作る作業は良いのですけれども材料に関して不足してきたのです。それで、材料の薬草などを採取するものや、もしくは栽培してもらって定期的に納品してもらう契約依頼を出したいのですが‥‥‥」
「はい、そのような依頼ですね。では、こちらに詳細な説明と、出せる報酬額、定期的な納期契約であればどの程度の金銭がやり取りできるのかなど、細かく書いてください」
「わかりました」


 受け付け嬢が出してきた、依頼用の細かな書類を受け取り、その場でメディは書き始めた。

 薬草の相場価格や採取難易度、需要などを考えると細かい設定が必要ゆえに、少し計算に苦戦しつつも、描き上げていたその時であった。



「お、あの魔法屋の奴が来たぞ」
「おお、いつ見ても良いなぁ、あの使い魔は」

「?」


 ふと、何やらギルド内が騒がしくなったのでその方向を見て、彼女は固まった。

 そこには、魔法屋と思わしき青年とその使い魔と侍女のような者がいたのだが‥‥‥その使い魔に目を奪われたのである。


 美しく、そう、それこそメディが欲するような美貌を持ち、出るとこはでて、きちんと凹凸があって、まさに理想の女体とでもいうべきであろう使い魔。

 惜しむらくは、下半身の方に蜘蛛の身体がある事から、アラクネと呼ばれるモンスターであるという事であろうが…‥‥何にせよ初めて見て、メディは心を奪われそうになった。


「えっと、あの女性は誰なのでしょうか?使い魔のようですけれども…‥」

 気になったので、メディは受け付け嬢に尋ねた。

「え?ああ、ハクロさんね。メディさんはまだこの都市で日が浅いし、ここに来ることがなかったから知らなかったのかしら?」
「どういう人、いえ、使い魔なのですか?」
「彼女はね、ほほらあの魔法屋の男の子……シアンという人の使い魔なのよ」


 魔法ギルドに所属している魔法屋は、あまり個人的な情報を漏らすことはない。

 ただ、それなりに知られている場合はもはや無駄であり、可能な部分ならばおしえることが可能なのだ。


「あのアラクネの彼女は美しくて、男どもがだらしなく鼻の下伸ばしていたりするでしょう?最初は私たちは男性たちからの視線を奪う彼女に嫉妬はしていたけれども、徐々に優しい性格とか、色々分かって来て、今ではわだかまりもないのよね」


 受付嬢はそう教え、メディは聞かせてもらったお礼を述べた。

(……ああいう使い魔がいれば、私の店はもっと有名になりそうなのよね)


 美貌を持つ使い魔がいれば、今開業している薬屋も、もっと繁盛するのかもしれない。

 ただ、残念ながら当てもないし、メディ自身はただの薬師なのでそのつながりはない。

 それに、繁盛したところで原材料不足であれば意味がないのだ。

 まぁ、原材料については、今日出す予定の依頼で解消できる可能性もあるのだが、やはりそういう使い魔の類を彼女は手に入れられないだろう。

 惜しいものだと考えて…‥‥そして、ふと彼女はある事を思いついた。



 あの使い魔は確かに美しい容姿をしているが、まだまだその容姿に磨きをかけられそうである。

 うまいこと行けば向こう側にも悪くないだろうし、こちら側としても悪くはない、都合のいい話を考え付き、思いついたが即実行と言う考えで、彼女は勇気をもって、話しかけることにしたのであった‥‥‥




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

……丁度その頃、メディの去った冒険者パーティ『リールコン』は今、非常に苦しいことになっていた。


【ゴブゴブァァ!!】

ぼっごぅす!!
「ぎゃぁぁぁ!!」


 
 自分よりも弱い・・・・・・・と思っていたゴブリンたちによって取り押さえられ、リーダであったマルスは今、ゴブリンたちにリンチされていた。

 しかも、ただ殴る、蹴るの暴行ではない。

 このゴブリンの群れは「シャドウメイジゴブリン」と呼ばれるものが統括しており、通常のものよりも非常に賢く、どのようにして目の前の男が苦しむのか理解しており‥‥‥

ぶっすぅ!!
「ひっぎゃぁぁぁぁぁ!」


 的確にこん棒で急所を殴り、出血させないように注意しつつ、狙いを定めて槍で浅く刺すように指示をしていたのだ。


「く、くっそう!!なんでこんなに簡単に負けるんだぁぁぁ!!」
【ごぶっつ!!】

びっしぃぃぃぃん!!
ばっしぃぃぃぃぃん!!
「いってぇぇぇぇぇぇ!!」


 悔しさで叫ぶマルスに対して、ゴブリンが指示を出して尻を丸出しにさせ、何処かの冒険者が残した鞭を持って尻たたきを開始する。


・・・・通常のゴブリンたちであれば、自分達よりも強かったはずの・・・・・・・マルス達には攻撃せずに、その場を逃亡する手を選んでいたはずであった。


 けれども、相手が自分たちよりも弱いとわかると、すぐには殺さずに、他の冒険者たちにも対する憂さ晴らしのための、いたぶる路線に切り替えたのである。

 なお、マルス以外のリールコンメンバーは、彼を生贄(囮)にして、当の前に逃走しており、町にあるはずのギルドへ向けて救援要請をしているのであった。


 よって、数時間後にはマルスは救援に来た冒険者たちに助けられたのだが、その姿が見るも無残と言うよりも……


「ぶぶっふぅ!!こいつがあのマルスか!?」
「ごっふぉぉ!!やべぇ、元の姿を知っているだけに、これはひでぇ!!」
「ぶふふふふふ!!でも笑いが抑えられねえ!!」

 全員、マルスの姿を見て哀れと思う反面、その姿に対して笑いをこらえるのが非常に困難になっていた。


 なんというか、晴れ上がった尻に、全身の毛は丁寧に剃られ、何故か落書きされて面白おかしい姿にされ、その上逆さ磔にされていたのである。

 ゴブリンの所業に鬼畜じみていると思ったが、それででもあまりにも滑稽な姿に一同は誰かの笑いと同時に我慢が出来なくなり、しばらくの間全員大爆笑の渦に包まれるのであった。


「ちくしょうちくしょう!!笑うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ただ一人、犠牲者であり、笑われているマルスは、全身の痛み故に、そう叫ぶしかできないのであった。












 救出後、ギルドに依頼失敗報告をして、医者へ向かうマルスを見て、受付嬢たちは話し始める。


「うわぁ、流石に悲惨と言うか、ここまでズタボロになるとは思っていなかったわね」
「これもそれも、実はメディちゃんを抜いたのが原因なのにねぇ」
「え?でもあの子は薬師だし、確か補助薬を作って渡していた程度だったと思うわよね?」

「それが原因なのよ。通常、用法容量正しく守って、補助薬を使用するのならば問題はないの」
「でもね、あいつらはメディちゃんが納品するための薬をちょろまかしていたって、前に話したわよね?」
「ええ、確か強くなったり、楽して倒せるようにするためだと思っていたけれど」
「多分、あいつらはその奪ったものもばれないように服用していたと思われるわ。そのうえで、もしかすると戦闘時にさらに補助薬をねだって、適切な使用をしなかったはず」



「そうなるとね、補助薬に四六時中頼り切りとなっていて‥‥‥」
「あ、もしかして、補助しすぎて鍛えられなくなったと?」
「そういうこと」


 経験にしても肉体にしても、積み重ねていくものがある。

 鍛えれば鍛えた分だけそれは体に還ってくるのだが、逆に言えば使わない分だけ減っていく。


「ずっと怠けていたようなもので、鍛えずにそのまま使っていれば、当然衰えていくわね」
「ゆえに、あのリールコンのメンバーも補助薬の服用をし過ぎたがゆえに、自分たちの弱体化に気が付かなかったのよ」
「でもそれだと普通分かりそうなものですよね?」


 例えるのであれば、極端だが補助薬は力を倍にするようなものである。

 例えば元の力が100であれば200、1000であれば2000となるが、元の力が10であれば20、1であれば2と、単純に見ても、わかりやすいほど力の差が分かるはずなのだ。


「弱体化すれば補助の効果も薄くなりそうなのですが‥‥‥」
「そう感じさせないほど、メディちゃんの薬は優秀だった、もしくは薬の重ね掛けが原因かしらね」
「何にしても、あのパーティはもう子供に負けるレベルまで力が落ちているわ」
「まぁ、私たちにとっては美容液をくれて、そして可愛らしい妹のようだったメディちゃんを追放した馬鹿たちだし、同情の余地もないわ。もう、強さも何もないし、除籍決定ね」
「「「「ふふふふふふふふふ・・・」」」」

 その不気味な笑いを浮かべる女性たちに対して、ギルドにいた男性たちは震えあがる。


 何にせよ、あのパーティはもはや崩壊したも同然であった‥‥‥



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