絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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少し広がっていく関係性

log-147 悪に堕ちぬはやる気だからこそ

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―――悪魔討伐を掲げ、その実績は確かに積み重ねられたものもある。

 だが、それでも儚くそれまで獲得してきた自信が粉々に砕け散ることもあるが…

「それでも、我々は諦めない!あの敗北は、スライム状の悪魔が出た時に活かせる経験だと思い、かみしめて再起するのだ!!」
「そうとも、敗北もまた我らが成長のために!!」
「ここで砕けて良かったのだと、この慢心が踏みつぶされてよかったのだと、心の底から思い、鍛えるぞ!!」
「「「うぉおおおお!!」」」


…エルメリア帝国の帝都城壁。

 その外周部にて、悪魔との戦闘のためにこの国へ訪れたゴゴンドラズの面々は、心からやる気を溢れ褪せてランニングを行っていた。



 昨日負けた、スライムとの対戦。
 皇帝へ強さを見せるために、この国のギルドにて今一番強いものをお願いして対峙した結果、フルボッコにされた情けない結果。

 一度は心がへし折れそうになったが…そんなことで、へこたれるような彼らではなかったのだ。

「悪魔の誘惑も何のその、この心の強さこそが、最も大きな武器になりうる!!」
「慢心油断駄目絶対!!悪魔はその隙をついてくる!!」
「ちょっとばかり、あの本気を出さずに呆れた目で嬲られた快感はあるけど、それも悪魔の誘惑になりうるぞ!!」
「「「同意するけど、誘われるな開くな行くな!!」」」


【…うるさいな、あいつら】

 ゴゴンドラズの面々がえっさほいさっとランニングして心身を鍛える中で、その様子を見ていたものが、そうつぶやく。

「確かにそうだが…弱いと言っても、一応は悪魔討伐のための部隊。心だけはまだ強かったか」
【む…確かに、そのようだな】

 帝都の城壁の上から彼らを見ているのは、リアとルミ。

 悪魔とデュラハン…かつての神聖騎士としての敵と言って良いような立場になった身とはいえ、それでも悪魔討伐の部隊を少しは見守りたくはなるもの。

 弱さこそは嘆きたくなるレベルだが…それでもまぁ、折れるよりはマシなのかもしれない。

【そういえば、ここにわざわざ呼び出した理由は何だ?まさか、あいつらを観察するためだけにとかはないよな?】
「それはない。ちょっと一緒に見て、かつての騎士団の仲間と比較しては弱すぎる面々に嘆きたくなる思いはあったが…それはそれ、これはこれだ。…学園内では少々、耳がな」
【…なるほど】

 リアの言葉に対して、納得するルミ。
 かつての同僚だからこそ、何を言わんとしているかも理解できるだろう。

…ものすごい個人的なことを言えば、かつて聖女様におもいっきり惚れられた色々されていたこの悪魔に対しては思うところもあるが、それでも実力に関しては信用できるものがあるのだ。


「こういう場所ならば…多少は、帝都の守りにもかからぬ形で、秘密の話ができる結界を張りやすくもある」

 そう言いながらリアがパチンと指を鳴らせば、すぐに周囲に何かが覆いかぶさるような感覚を感じ取った。

「…単刀直入に話そうか。やつらを派遣してきた国…そこで今、蔓延している無気力教だが、何者が引き起こしているのかが分かった」
【悪魔、か?】
「その通り。どうやら、大罪の型枠がはめられた悪魔によるものだ。性質的にはおそらく…怠惰、だな」
【怠惰…ふむ、無気力の名を考えると、間違ってもない…のか?その割には、広まりが早いようだが】
「悪魔は願い事を叶えるために、人心掌握術も心得ておくものだからな。基本的に悪魔が契約するためには、人心掌握、信頼、確約のための条文見直しなど、やっておくべきことが多く…おそらくは、それなりに真面目なものが担当したのだろう」

 悪魔から真面目と言う言葉が出るのは変な感覚だが、間違ったことではない。

 悪魔とて、日々の悪魔としての活動のために、積み重ねるべきものがあり、成し遂げるだけの力があるということはそれだけの経験もあるというものも。

「嘘も真実も織り交ぜて…なおかつ、万人受けしやすいようにしているが、広がり方にわずかにだが悪魔の力の補助もあるのを感じ取った。最小限の労力で大きな利益を得るようで…怠惰の見合わなぬ格の大きなものがやっている可能性もあるな」
【それは相当厄介な…どうするのだ?他国の人々が信じている宗教の大本のような物だし、真正面から相手をするのも厳しいとは思うが…】
「それもそうだ。なおかつ、という点が相当厄介だ。信仰の力と言うのは、人の思い…そういうものは利用すれば想像以上に大きな力にもなる」

 ルミの言葉に対して、そう答えるリア。
 人は個々であればそんなにたいしたものではないのだが、集まれば厄介なもの。

 なおかつ、その想う力に関しては人ならざる者にも大きく影響を与えることがあり、見誤っては相当痛い目を見ることも、長い時を生きる悪魔だからこそ理解しているのだろう。


「…本来ならば、違法な召喚によるもの。自ら出向いて強制送還させるべきだが…いかんせん、現状は厳しくてな。最盛期ならばともかく、今の俺では手も出ぬな」
【そういうものなのか…わざわざこうして話してきたとは、まさかそれを手伝わせるためにとかか】
「正確に言えば、ちょっと違う。相手の力に対して、そちらの手助けもあると良いが、そうホイホイ移動することも出来まい。ただ、そんなことをせずとも…そういうものに対して、力を削ぐ手段と言うのは色々とあるものだ」

 にやりと口角を上げて、手立てを口にするリア。

 その説明を聞き…物凄く、呆れたような表情をルミは浮かべる。

【…え~…それは、どうなのだろうか…?え、本当に効果があるのか、その方法?】
「実例が、別のところでいくつかあってな…念のために知り合いにも手を借りるのだが、いかんせん材料不足なのもあって…そこで、少しばかりそれで手を借りたい」
【というと?】
「単純に言えば、その材料を取りやすくするために…アルミナ隊長もといルミ、そのほかにもハクロやカトレアと言った面々を従魔にした腕前を見込んで、彼にあるモンスターをテイムできるように仕向けようと思ってな。うまくいけば、そちらは癒しが手に入り、こちらは材料が手に入り、悪い話でもあるまい」
【…ふむ?だが、そう都合よくあるのか?】
「ある。まぁ、どのようなものになるのかはわからないし、当たりが引ければいいだけだが…奇想天外なものが出てくるわけでもあるまい」

 ははははっと笑い飛ばすリア。
 その姿にルミは、こいつはまだ良く彼を…ジャックのことを理解していないなと心の中で想う。


(…我らが主を甘く見ないほうが良いぞ。本当に、予想の斜め上のことをやらかすこともあるからな)
「心の声で、忠告をしているのが聞こえるからな?甘く見るつもりはないし、それに…いや、別に良いか」
【ぬ?】

 何かを言いかけたようだが、大したことでもないらしい。

 とにもかくにも、どうやら数日以内に彼が何か事を起こして、何かをジャックにさせようとしていることぐらいは理解できるのであった…







「…格落ちか。知り合いに似たようなものがいるからこそ、驚くが…人のことを言えないが、とんでもない女難の相を持っているな、彼は…」
【そういえば、リア。一つ聞きたいが良いか?】
「何だ?」
【我らが聖女様、その魂は今、どこで何をしているのだ?】
「…さっさと転生してほしいなぁ…あの人。…いや、ほんっとうに、ほんっとぉぉに、早く出て行ってくれよ…」

…詳しくは告げなかったが、何やら心の底からの叫びに、なんとなく察してしまう。
 だが、そううまくはいかないだろうなと、かつての聖女を思い出して、確信するルミであった…

【まぁ、その、なんだ…がんばれ。と言うか、まさかお主が教師としてここに残っているのはもしや…】
「やめろ、その先を言うな。奴は確実に、それだけでもかぎつける可能性があるんだ‥‥」
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