絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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少し広がっていく関係性

log-145 実績は地道に積みつつも

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「…ふへぇ…ようやく、テストが終わったよぉ…」
【お疲れ様です、ジャック。私の上で、ゆっくりと倒れていていいですよ】
「うん…」

 もふぇっと脱力しながら、ハクロの蜘蛛の背中にジャックは倒れ伏していた。

 ようやく終わった、長く感じたテストの時間。

 どこの世界、どこの場所でも学生ならではこそのテストの緊張感からの解放と言うのは、身体の力をこれでもかと抜くことができるだろう。

「ハクロの背中のぬくもりが、心地良い…」
【むぅ、オレにもアレがあればいいのだが…ハクロ姉ちゃんはずるいな】
【こういう時に、主殿を休ませることができるものは便利だな】

 ハクロの背中でぐでっと脱力しているジャックの姿を見て、ルトライトやルミがそう口にする。

 この面子の中で、彼を乗せやすいのはハクロだとわかっているが、うらやむべきところはあるだろう。
 彼女の蜘蛛部分はたまに生活で邪魔になることもあるが、こういう時には重宝することもあるのだ。


「テスト疲れの面々は皆、安らぎを求めるものだ…」

 学園のテスト自体はどうにか乗り越えたと言って良いだろう。
 だが、それでも全力を出して頭を使うのであれば、誰も彼もが疲弊するもの。

「本当に羨ましいですわねぇ…わたくしも、同じようにこう、もふっとした大きなものに包まれたいですわね」
「ミラージュの場合は、メイドのアンナさんがいるじゃん…って、アレ、そのメイドの姿は?」
「これはお嬢様を確実に癒すために、『ダウンコカトリス』の羽根をむしって作られた、特注のもふぐるみです。ええ、これで包み込む柔らかさは特上ですので、確実に癒せます」

…巨大な雪だるまに毛が生えた姿に見えなくもない。毛玉の塊と言うほうが正しいか、見て見ぬふりをしたほうが良いか。

「まったく、わたくしにもこうまともな従魔を得られるような才能があれば今のあなたのようにできますのに…」
「皇女と言う立場なら、探し求めることも出来そうな気がするけど?」
「従魔を得られるかどうかは、本当にそう単純な話ではないのですわよ。と言うか、ここまで結構な従魔を得ているあなたのほうがおかしいと言って良いのですわ」
「…何も言えなくなるな」
【まぁ、従魔になる側も選ぶ権利はあるのなの】
【でもそう言われると、我が主ながらこういうところは規格外と言えるな…】

 ミラージュの言葉に反論の余地もないジャック。
 フォローを入れようかと思ったが、特に文句も無いので当たり障りない言葉で場はごまかされる。

「でも、本当に良いですわよねぇ…わたくしも、可能ならば巨大なモフモフのモンスターを従魔にすることができれば、こういう場で物凄く楽できますのに…」
「そんな都合良いのがいるのかな…あ、いたわ。マチョポッポのでっかい奴…」

 都合の良い存在、何かとあるもの。

 いくつかは候補に挙がりそうだが、それでも従魔になるかどうかはわからないもの。

 希望はあれども、癒しを求めるという気持ちは誰もが抱いているのであった…









「ーーーがはぁ…」
「悪魔すら倒せる我々が…スライムごときに…」

…癒しが欲しいなぁと学園内の心が一つになっていたその頃。

 監査中の帝都内のギルドでは今、模擬戦場でぶっ倒れている者たちの姿があった。

【ごときと言われましても…『皇帝陛下に実力を見せるために、ここで一番強いものを相手にして見せようぞ』といって、挑んできたあなた方のリクエストに応えただけなのですガ】
「実際に、強かったよねファイさん」
「得意技のビームすら使わずに、あっさり勝利したなぁ…」

 呆れたような声で答えるファイに対し、周囲でうんうんとうなずく職員たち。

【まぁ、範囲的に今のギルドの中でということで、もっと範囲を広げたらさらに上はいますけれどネ】
「ぐはぁ…こ、これで最強じゃないんかい…」
「恐るべし、帝国の猛者…いや、これ、我々がいるのか…?」

…色々と存在意義が問われそうだが、悪魔相手ではなかったので問題は無いと、彼らが後で言い張りそうな気がするのであった…
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