絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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少し広がっていく関係性

log-閑話 ある悪魔の独白 その『ビターエンド』

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―――結論から言って、これは敗北したと言って良いだろう。

 悪魔ではなく人として過ごしていたからこそ、防げなかった悪意。


 いや、人の悪意と言うのは時として悪魔以上に悪という概念すらも超えることがあり、その執念や想いと言うのは恐ろしいものもある。



「…ははは、聖女様でも流石にこの人の悪には敗北するか。でも…まぁ、どうにか国一つが滅びただけでどうにかことを収め切ったのは良かったというべきか」


 煙が立ち上り、朝日が国を…いや、既に失われた亡国を照らし、その惨状を映し出す。

 崩壊した城に、焼き尽くされた城下町。
 見える範囲全てが破壊されつくし、多くの命が失われたこの惨劇があった光景を。





 リアが…いや、既に人間の肉体は命を散らし、悪魔としての肉体へ切り替わったゼリアスが左手に握りしめているのは、一握りの灰。

 誰がこれを、元は聖女だったと理解できるだろうか。




 そう、この朝が明けるまでの間に、この国は滅亡した。
 
 怪しんでいた教皇候補…聖女の怪しんだその勘は正しかっただろう。
 だがしかし、悪意による動きと言うのはつかむよりも早く動き、教皇が殺害されて彼はその地位に就いた後すぐに、事前に用意していた悪魔たちを利用して動こうとしていたのだ。

 どうにかして、大罪の悪魔を利用した術式なども防ぐために騎士団総出で対応したとはいえ…結果としては全ての命が失われ、最悪の結末を迎えてしまった。

 ゼリアス自身は右腕を切り飛ばされ、アルミナは首を堕とされて命を落とし、そして聖女は…




「首を切られたら、そりゃそれ以上は戦えないのはわかるけど…肉体に残っていたあの執念…念のために冥界の炎を使ったとはいえ浄化しきれずに、将来的にアンデッドになって化けて出てくる可能性があるのもシャレにならないか…っ…」

 焼いたことで止血した、右腕の痛み。
 悪魔の肉体に戻ったのでやろうと思えば再生できなくもないが、今すぐにやるつもりもない。

「…ははは…これが本当に、バッドエンド…いや、どうにかして収めたからビターエンドと言うところかな」


 国は失われた。大事なものも何もかも消え去った。
 しかし、その代償と言うように今回の件で暗躍してい輩の企みは全て潰し、これ以上の被害が世界中に拡大することを防げたのは良かったというべきか。

「聖女の命もまた散らされていたとはいえ…アレでどうにかなったのは、その魂の強さゆえか」

 目の前で、失われた聖女の命。

 それは敵にとっては、その最後の目的として必要な物であり、奪われてはいけないものであった。

 だが、人の悪意が予想を簡単に覆して何もかも奪いつくすのであれば、その逆もしかり。
 聖女の善意が最悪の結末を回避するために…あの呼び出された訳の分からない化け物…明らかに悪魔ではなく、何かしらの術式の失敗したことによって引きずり出された最悪の化け物が万全に性能を発揮しきらなかったのは聖女の命があってこそであり、どうにかして抑え込めたとも言えるのだ。

「最強の聖女、それは次元を超えた化け物に対しても最強だったか…」

 そう考えながら、ゼリアスが左手を開けば、風に晒されて残された灰が空へ散っていく。
 太陽の光を浴びて、きらきらと輝く宝石のように世界へ散っていく。


「…まぁ、今回の人間研修は悪くはなかったよ。…ありがとうな、聖女様」

 空へ散っていき、消えゆく聖女の灰。
 その光景を見ながら、ゼリアスはそうつぶやく。


 人の魂は、悪魔の手でつかむことができるだろう。
 だがしかし、今回の場合は様々なイレギュラーが積み重なったのもあって、その行先はわからない。

 運が良ければ、正規の流れに乗って神の審判を経て、再びこの世界に生れ落ちるのかもしれない。

 生き返らせることもできたかもしれないが…何故か、彼女は望まないとゼリアスはわかっていた。


「っと、そろそろ他国からの間諜等も来るか…早めに去らなければな」

 あれだけの被害を出したからこそ、周辺諸国ではすでにこの国が滅亡したのはわかっているだろう。
 何がどうなったのか、その原因となったものが再び利用されないように破壊しておいたが、それでも人に見られる気はない。

「ああ、でも逃げ出した人も一部はいたようだし…伝わるとすれば、悪魔が国を滅ぼしたということになるか。それはそれで、問題ないな」

 呼び出されたアレでないもの、悪魔。
 その仕業だと思ってくれた方が、何かと都合が良いのかもしれない。


「それじゃ、さよならだ、この国よ」

 悪魔の住まう世界への門を開き、ゼリアスはその場を去る。

 後に残されたのは全てが滅亡しきっただけの国の残骸と言うべきものであり…人々はそれを見て、しっかりと滅びたことを理解するだろう。


 あとはそれで、他にもあの悲劇を産みだすようなものが人々に知られなければそれで良いと思いながら、門はゆっくりと閉じて…この世界から、消え失せるのであった…



「…っぅ…戒めで、しばらくこの腕は義手にでもしておくか。それにしても、あのくそったれやろう…あれは人間も…使が…いや、しばらくはゆっくり休んだほうが良いか…」

…少々気になることがあったが、今すぐに調べて動くだけの力もない。
 強大な悪魔とはいえ、思った以上にあった心のダメージは…それだけ大きかったのだから…
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