絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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面倒事の拭い去りは拒絶したくとも

log-113 今日も薬屋の売れ行きは絶好調で

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―――グラビティ王国、王城内。

 その会議室では今、とある報告が出されていた。


「良い報告と悪い報告、それと頭が物凄く痛くなる報告があるが…心の準備は良いだろうか」
「前置きの時点で、ろくでもないことしか起きていないことが分かるのだが」
「というか、先日のあの轟雷で大体察せてしまうのだが…心の準備をする前に、皆の胃がすでに天に召されているのを理解しているのか」
「「「‥‥」」」

 その言葉に、集まっていた者たちは黙りこむ。
 ああ、今回も確実にかなりの面倒事がやってきたのだなと、悟ったのだ。

 昔ならばもう少し積極的にお互いの意見をぶつけ合い、争う場ではあったが…ここ最近に関して言えば、多少はお互いの中はもっとマシな理由で深まりたかったと言いたいほどだろうか。




 とにもかくにも、まずはどういうことがあったのか把握しなければ何も進まない。

 そのため、まずは悪い報告から確認することにした。

「…それが、悪魔の出現情報か」
「先日筋肉狂いの者が出たばかりだというのに、オーガに憑りついた悪魔か…我が国は筋肉にでも呪われているのだろう」

 王都へ入り込みかけていた、悪魔の情報。
 大闘争会や竜種騒動でも暗躍していたが、この世の中にどこにでも悪魔が溢れているのかとツッコミを入れたくなる。

「だが、良い情報としてはそれは無事に討伐されたとのことだ。より被害が拡大する前に、肉体事悪魔を消し去ったようでな…少なくとも、既に逃亡した悪魔たちよりも、今後の被害を減らせると考えればいい情報だ」
「おお、それは確かに朗報ですな」
「まさか討伐できるとは…だが、そうなるとまさか…」

「そうだ、頭が痛くなる情報は‥その悪魔を討伐したのは厄災種のモンスターだ。ああ、既にこの都市にいた厄災種及びその予備軍ではなく…まったくのノーマークだった、保護モンスターが進化し、なったらしい」
「や、厄災種か…ここで生まれたのか」
「種族はすでに判明しており…『オーガ・エレクトリカルハイウィザード』、オーガの中でも魔法にたけたものだ。ああ、単純に筋肉が魔法に割り振られたわけではなく、オーガの怪力とかはそのままに、遠近両方ともに強化されたと言って良いだろう」

 そう言いながら、各自に配られたのは、この度出現した新たな厄災種の姿絵。
 しっかりと記録されており、なおかつ実は、この厄災種に関しては情報は他にもあった。


「我が国の誇りたくはないがモンスターに対しての知識は膨大なモントラ製造機エルフ…まぁ、あのものに話を伺ったところ、実はほぼ同種が過去にも存在した記録があったようだ」
「なんと、記録があったのならば、既に居ついているものよりも情報はあるのか」
「今回のものは性別はメスだが…その記録では、オスだったというがな」


 どこぞやのエルフのもの曰く、厄災種でも種族被りする事例は珍しいようだが、実際には滅ぼされた国々が多いからこそ記録に残りにくいだけで、頑張って残されていれば多少は被るものもあるらしい。

 だが、記録が残されているからと言って、その全ての情報を得られるわけではない。

「と言うのも、当時のその厄災種のオーガは国を3つほど滅ぼしたそうで、記録も一緒に破壊されたらしく、少量しかないそうだ」
「3つも…一体何が原因で?」

 かくかくしかじかと確認すれば、その記録は厄災種が国を亡ぼす原因の一つとしてはありふれたものだった。

 とあるオスのオーガが町娘に恋をし、その娘のほうも乗り気ではあったらしい。

 だがしかし、ある日そのことを知らない他の国の皇子が…やらかした。

「その娘を攫い…そして、怒りを買ったのだ」
「ああ、厄災種…狂愛種に対して、愚者は踊ったか…」

 大体よくあってほしくはないが、馬鹿をするものはどこにでもいるもの。
 結果として国が滅ぼされたとなれば、その皇子は後でひどい罰を…いや、既に命は失われてい…

「いや、実は今もなお生きているらしい。永遠に罪を贖い続けるように、オーガが施したようで…その場所は知らぬが…知って良いこともあるまい」
「怖いな…」
「当然の末路だが、相当やらかしたか…」

 シャレにならない、悲惨な末路。
 だからこそ、厄災種は恐れられるのだ。

「幸いなことに、今その厄災種は例の少年と従魔契約を結び、名をもらった。それゆえに、今すぐに我々の敵となることはないのも朗報ではあるが…」
「逆に言えば、どんどんとんでもないものが集まりつつあると…大丈夫か、我が国は?」
「少なくとも戦争を仕掛けられる可能性も減るが、悪魔よりも厄介なことになっているのは無かろうか?」

 その言葉に全員想うところがあったが、表立って文句を言えるようなものではない。
 だからこそ、今後はさらに扱いをどうすべきか慎重に議論する羽目になり、胃痛が増していくのであった…

「いや、本当になんなのあの少年…何でそんなにとんでもないモンスターを連れ込むのか…」
「厄災種やその予備軍よりも、よっぽど理不尽の権化と言う言葉が似合いそうなものだな」
「そういえば、その厄災種…新たなオーガには、どのような名前を与えたのだ?」
「ああ、それが…」










「---『汝、その思いに偽りは無し。契りをかわして、名を与える。汝が拒絶するならば、名は与えられず、それもまた良し。汝に与える名は…《ルトライト》。それで、良きか』」
【ふむ、良いだろう我が君…その名前、オレは受け取ったぜ!!今日から、ルトライト!!我が君、お姉ちゃんたち、よろしくな!!】

…名前を与えると同時に、にこやかにそう答えるオーガの娘改め、ルトライト。

 悪魔との戦いから数日を経て、色々とやらかした内容に関しての報告などあわただしくもあったが、落ち着いたころにようやく行うことができた。

ぎゅううう!!
【いぇーい!!我が君本当にありがとうな!!今こうやっているのも、本当に皆のおかげだしなぁ!!】
「ちょ、ルトライト力強いって…!!魔法職のようなモンスターなのに、オーガの怪力はそのままか…!!」
【おっと、ごめんごめん、割とこういうのは家族でやっていたので…ああ、でも父さんは母さんにやり返されて、良くバックドロップされていたし、やり過ぎるのはダメか】

 思い出したかのように、ふっと遠い目をするルトライト。
 悪魔が絶対に憑りつく相手は、ルトライトの父ではなく母の方が良かったのではないかと思ったが…まぁ、そもそもの話、そんなことをされないほうが一番良いだろう。

【どこにでも、そういうことをやる輩はいるのか…遠い記憶の聖女様の行動が、時々まともに見えてくるな…】

 聖女は普通、まともではなかろうか。
 こっちはこっちでおかしい気がするが…うん、まぁこの世界の女性は強いというべきなのかな。

 そう納得しつつも、これでひとまずはジャックたちの一員となった。
 従魔の証も拳のほうに浮かんだらしく、しっかり従魔契約もできた様子だ。

【ありがとうな、我が君!】
【一応、この後ギルドの方にも届け出が必要なので、手続きしに向かいますネ。ルトライト、一緒に行きましょウ】
【おうよ!ファイお姉ちゃん!!それじゃ、また後でね!!】

 にこやかに笑いながら、ファイに連れられてルトライトが出ていく。
 元気いっぱいな様子で、もうあの倒れていた小さな娘だったことを微塵も感じさせないだろう。

「本当に元気になったというか、凄いなぁ…」

 活発さはあったようだが、よりパワーアップしたような様に、ジャックは感嘆の声を漏らすのであった…

【…】
【ん?どうしたのなの、ハクロ、複雑そうな顔をして】
【いえ、別に良いのですが…ええ、大事な番、ジャックが決めたことなので良いのですが…何でしょうかね、この感じ?】

 そんな中、ルトライトが出て行ったあと、ハクロが何か妙な表情を浮かべていた。
 疑問に思ったカトレアが声をかけたが、今のところすぐに答えは出ないようであった…





【ふんふん~♪良いねぇ、これでオレ、目標一つ達成したぜ】
【目標ですカ?何か、立てているとデモ】
【うん、でもお姉ちゃんたちには内緒だぜ!!こればっかりは、自力でしっかりやらないとな…!!】

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