絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
上 下
119 / 184
面倒事の拭い去りは拒絶したくとも

log-111 吹き飛ばされ、生み出され

しおりを挟む
―――宙を舞う、小さな体。

 モンスターではない、ただの人間が利益にもならないものを助けて何になるのか。

 その問いかけをしたくとも、轟音と共に雷が突き抜け、吹き飛ばされる彼が答えられるだろうか。

【ウ、ウガーーーッヅ!!】

 怒りも忘れ、オーガの少女は身に纏わされた糸の塊をすぐに振り払い、彼の元へ駆け寄る。

 だが、彼女よりも素早い動きで蜘蛛の女が彼を受け止めた。


【ジャック…!!】

 ぼすんっと音を立てて抱えられ、勢いを殺してそのまま着地する。
 すぐにその様子を確認したが‥‥ひどい状態だった。

「ゴボッ…!!よ、よかった…ギリ生きているかも…流石、ハクロの服」
【いや、流石に限度がありますよ!!確かに私の糸は防御力は高いですが、それでもこれは…!!】

 ごぼっと血の塊を吐き出しつつ、かろうじて彼は生きていたようだ。
 しかし、それでも限界ギリギリのようで、一刻も早い手当てが必要に…


『---よそ見をしていていいのか?容赦なく、攻めさせてもらうぞ!!』
【【!!】】

 敵が簡単に、やすやすと時間をくれるわけがない。

【そうはさせるか!!】
『おっと、でもそれもう限界だねぇ、おらぁ!!】

 前にでてデュラハンが大剣を使って食い止めようとしたが、振るわれた拳にすでに限界が来てしまった武器では耐えきれず、砕かれて横へ吹き飛ばされる。

ドッガァァン!!
【グゥッツ!!】
『さぁ、これでもくらえぇ!!』

 剛腕がそのまま振りかぶられ、迫ってくる。
 彼の容態を考えると下手に動かせず、ぎゅっと蜘蛛の女が彼を守るように抱きかかえる。

 今度は、自分が守ろうと前に出るも、意味を成しえない抵抗になるだろう。

 でも、そうでもしないと守り切れない。

(ここに、力があれば‥‥!!)

 心の底から願いつつ、目の前に迫りくる拳からは目を離せない。

 大好きだったはずの、父の拳
 悪魔によって乗っ取られたそれは、もはやその拳にあらず。

 だからこそ、ここは守るために…!!

【ウッガァァァァァァァ!!】

 心から、あらん限りの咆哮を。
 奮い立てろ、この感情を。

 守るために、戦うために、敵を討つために。

【ウーーーーガーーー!!】

 拳が目の前にあと少しで到達するその瞬間…オーガの娘から強烈な光が解き放たれた。

カァァァッツ!!
『ぐぁぁぁぁあっつ!?目が、目がぁぁぁあ!!』


 真正面からまともに光を喰らい、悪魔はひるむ。

【あれは…まさか】

 ぎゅうっと大事なジャックを抱えつつ、ハクロは彼女に起きた変化に気が付いた。

【ぜぇ、ぜえようやく追いついたのなの…って、なにこの状況なの!?】
【マスター!?大丈夫ですか!!】
 
 輝きがあたりを照らす中、ようやく追いついたカトレアとファイ。
 状況を瞬時に理解して慌てるが、同じくオーガの娘の変化に驚愕する。


【…なるほど肉体面での修復は終えても、精神面は終わっていなかったか。それが今、守るべきものが出来たことで、一気に心身が共に成長したのか】

 剣が砕けた上に吹っ飛ばされたルミも、何とか立ち上がり、その光景を見てそうつぶやく。

【と言うか、今思いっきりあの悪魔隙だらけでは無いか!!皆、今のうちに畳みかけろ!!】
【あ、私はジャックを守ってますので!!】
【何がどうなのかわからないけど、とりあえずこのおっさんが全部悪いのはわかったのなの!!すぐにぶっ飛ばすのなの!!】
【準備、既に完了。マスターたちから、離れなさイ!!】

 目がくらんだ悪魔のその姿は、まさに絶好の攻め時。
 突然の変化に驚かされつつも、すぐにこの相手が敵だとカトレアたちも認識し、攻撃を仕掛ける。

【ボボンの実の100倍の爆発力のボボンガボボンの実喰らうのなのぉ!!】
【急速収束、ターゲットロックオン、『スラ・ウェーブカノン』照射!!】

 ジャックの身体をハクロに守ってもらいつつ、前に出たカトレアとファイ。
 大量の爆発する木の実を投げまくり、極太の光線が解き放たれ、オーガのガワをもった悪魔に直撃させていく。

『ぐぁぁぁぁぁぁっつ!?』

 油断して、まともに喰らった悪魔は、爆風と光の圧力に吹っ飛ばされ、宙を舞う。


 そのまま重力に引かれて地面に叩きつけられる間にも、光はあたりを照らし…消え失せた時には、そこには変貌したオーガの姿が現れたのであった…


しおりを挟む
感想 393

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私と、仲の良い友人達のお茶会

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
国名や主人公たちの名前も決まってないふわっとした世界観です。書きたいとこだけ書きました。一応、ざまぁものですが、厳しいざまぁではないです。誰も不幸にはなりませんのであしからず。本編は女主人公視点です。*前編+中編+後編の三話と、メモ書き+おまけ、で完結。*カクヨム様にも投稿してます。

元公務員が異世界転生して辺境の勇者になったけど魔獣が13倍出現するブラック地区だから共生を目指すことにした

まどぎわ
ファンタジー
激務で倒れ、そのまま死んだ役所職員。 生まれ変わった世界は、魔獣に怯える国民を守るために勇者が活躍するファンタジーの世界だった。 前世の記憶を有したままチート状態で勇者になったが、担当する街は魔獣の出現が他よりも遥かに多いブラック地区。これは出現する魔獣が悪いのか、通報してくる街の住人が悪いのか……穏やかに寿命を真っ当するため、仕事はそんなに頑張らない。勇者は今日も、魔獣と、市民と、共生を目指す。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

ドラゴンでもチートなのに、竜神になってさらにチートに! (修正中)

お寿司食べたい
ファンタジー
前の世界で死んだ時の記憶を持って生まれてきた者、今世では『ドラゴン』に生まれ変わり、フレーシャという名を与えられた。 両親(竜)はチートだが、しかし、俺は両親(竜)よりもチートだった…… これは、ドラゴンというただでさえチートな主人公がもっとチートになっていく物語。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 『小説家になろう』と『ノベルバ』と『ツギクル』にも投稿してます。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

過程をすっ飛ばすことにしました

こうやさい
ファンタジー
 ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。  どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?  そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。  深く考えないでください。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...