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面倒事の拭い去りは拒絶したくとも
log-106 言葉は腹の底から
しおりを挟む魔人が襲撃してくる目標が巫女だった場合と、獣人達だった場合では対処が全然変わってくることになる。
「只人のはるひ様が襲われたと言うことは……っ今すぐこの村人の避難をさせなさい。戻れないことも念頭に、すみやかに!」
さっと後ろに控える護衛兵士達に叫ぶスティオンに、慌てて首を振ってみせた。
「あのっ待ってください! 違う かも、なんです……もしかしたらですけど…………」
スティオンを遮ったオレに、かすが兄さんは困惑した瞳を向けてから首を振る。
「スティオン、指示は他に任せて先にはるひの治療を」
「わかりました。どうぞ中に、道具を持ってきますのでその間に浄化をお願いします」
さっと宿に駆け込んでいったのを見ると、この宿がかすが兄さん達の拠点なんだろう。
「とにもかくにも、傷の手当だ、怖かったろう? すぐに浄化してあげるから……」
オレの右手に手をかざそうとしたのを遮って首を振ると、かすが兄さんは困ったように柳眉をほんの少し寄せてどうした? と言う表情を作ってみせる。
「その黒いシミを消してしまうだけだから、痛かったり苦しかったりするものじゃないよ? いつも浄化の光を当てているだろう? あれと一緒だ、だから安心して……」
にこにこと再び手を伸ばそうとしてくるのを止め、オレは右手を胸の前まで持ち上げた。
右手は小さな子供が黒いマジックで落書きしたかのような黒いシミの筋が、幾本も幾本も絡まるように肘近くまで這っている。
それが、あの魔人の這った後なのだと思うと……
本能が引き起こす嫌悪からくる吐き気に、ぐっと喉が鳴った。
「怪我が痛むんだろう? 早く治療しよう!」
「見ててください。きっと、魔人がオレを襲った原因だと思うんです」
「な に 」
神の寵愛が厚いと言われるかすが兄さんの前で力を使うことに抵抗がなかったわけじゃない。
なんでオレが? とか、只人なのに? とかいろいろな葛藤が胸をチクチクと刺激したけれど、魔人が巫女以外を襲うのか襲わないのかの判断を誤ってしまうのはまずいと思った。
「 ──── 」
すぅっと息を吸い込む瞬間、いつもより清浄な空気が肺に入った気がした。
明確なこれだと説明できることはなかったのだけれど、それでもオレは自分の体内にかすが兄さんとよく似たものがあるんだってことがどうしてだか感じ取ることができて……
それをすくい上げるように気持ちを込めてやれば、クラドに見せた時のように銀色の雫をころころと掌で躍らせてみせる。
美しい銀色の球は水のようにぐにぐにと形を変えながらかすが兄さんの顔を映し込んだ。
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