絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
上 下
111 / 178
面倒事の拭い去りは拒絶したくとも

log-103 保護する流れもありつつも

しおりを挟む
―――ここは、どこだろうか。

 彼女はそう思ったが、身体の自由はきかない。
 
 なすべきことがあるはずなのに、それをやれるだけの力が無い。

(…力も…ほぼ、失われた…)

 感覚的にわかるのだ。
 自分の父親に褒められた、大切な記憶の場所。

 そこが今、失われていることを。


 どんどん体が冷たくなり、このまま深い闇の底へ…沈み込みそうだった。


 しかし、ふと気が付く。

(…あれ?なんだろう、暖かい…)

 先ほどまで冷たい水底のような感覚がしていたというのに、今はそれが無い。
 なにかこう、ぬるっとしているような感じがしつつも暖かいものに包まれ、少しづつ体の冷え固まった部分が解け始め、じわじわと熱を持ち始める。

(これは一体…)

 何が起きているのかはわからない。
 ただ一つ、言えることとすれば死にかけていたこの身体を、誰かが助けてくれたことを‥‥




【グァ・・・ガッツ・・・ガッツ…】

「…っと、声が出てきたようだけど…大丈夫?」
【ガアッ…ガッ…】

 周囲の空気を温め、ファイのスライム布団(生暖かめ)で保温しじっくりと体温を上げていたオーガが目を覚まし始めたことにジャックたちは気が付いた。

 暴れられる危険性もあったが、そのような凶暴なそぶりも見せず、肉体の治療はできてきたが中身はまだボロボロのようだ。

【…駄目ですね、マスター。このオーガ、喉元が引き千切られてまス。事情を聴くのは難しいでしょウ】
「それってかなりの致命傷なんじゃ…」
【そこは大丈夫でス。スライムジェルでふさげますので、再生するまでは持つでしょウ。ただ、あくまでも表面を覆って補助するだけなので、発音まではできないでス】

 ファイのスライムボディは結構便利なようで、傷口がこれ以上細菌などによる悪化を防ぐ役目を果たせるようだが、流石に声帯の代わりにはならないらしい。
 

 それでも何とか一命はとりとめたようで、助けられていることがわかっているのか敵対心を向けられるようなそぶりもない。

【ガァ…グッ…】
「無理してしゃべらなくていいよ。…ここも治るよね?」
【問題ないはずなの。ミーの薬草はしっかり効くはずなの】
【モンスターの生命力を舐めてはいけないですよ。腕がひきちぎれようが、吹き飛ぼうが、栄養をたくさん取ってたっぷり時間をかけたり、あるいは成長して脱皮や進化すれば、治りますからね】
【しかし…主殿、こやつを治すのは良いが、どうする気なんだ?】


 ここは王都の外であり、このままオーガを放置するわけにもいかないだろう。
 治療しているとはいえ、手負いのモンスターをそのままにしておくほど、世界は甘くはない。

【んー…奴隷とかいろいろとヤバいことになって言るっぽいような情報もあるのガ…】

 オーガに関しての噂があるようで、どこかの奴隷商人の手元から逃げたという話がある。
 
 ほぼ違法とは言え、一時は誰かの所有物だったものを、勝手に扱って良いのかという問題もあり…色々と考えることが多い。

「まぁ、この寒い中行き倒れになっているような子を見放すわけにもいかなかったしね…とはいえ、オーガでだいぶ大きなイメージがあったけど、なんか同じくらいの少女っぽいな…」

 ファイのスライムジェルで汚れも色々と取れたようだが、改めてみると人型のモンスターと言えばそうだろう。
 角が折れているとはいえ、赤い地肌は人の者ではないが、それでも人の外見をいつだろうと思えば色々と隠すだけで多少はごまかせそうな気がしなくもない。

 そりゃ奴隷として目もつけられそうな気もするが…何かしらの事情もあるようだし、一旦保護したほうが良いと判断する。

「一応、モンスターの保護も可能だっけ?」
【適切な申請が必要ですが、従魔にしてなくとも可能ですネ】

 ならば、このままギルドのほうに向かって、保護申請をすべきなのかもしれない。
 そう考え、もう少しだけこのオーガの回復を待ってから、ジャックたちは動くのであった…


【…それにしても、このオーガの傷…何によるものだというものが分からないが…】
「どうしたの、ルミ?」
【いや、何かこう嫌な気配を感じてな。呪いとかがあるわけではないが、傷をつけた相手が何かこう、やばいような気がしてな…】
しおりを挟む
感想 386

あなたにおすすめの小説

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

そんなの知らない。自分で考えれば?

ファンタジー
逆ハーレムエンドの先は? ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

【完結】「図書館に居ましたので」で済む話でしょうに。婚約者様?

BBやっこ
恋愛
婚約者が煩いのはいつもの事ですが、場所と場合を選んでいただきたいものです。 婚約破棄の話が当事者同士で終わるわけがないし こんな麗かなお茶会で、他の女を連れて言う事じゃないでしょうに。 この場所で貴方達の味方はいるのかしら? 【2023/7/31 24h. 9,201 pt (188位)】達成

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動

志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。 むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。 よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!! ‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。 ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。

処理中です...