絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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面倒事の拭い去りは拒絶したくとも

log-102 凍てつく寒さと心

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…王都の外と言うのは、そこまで出る様なものでもない。

 モンスターの侵入を防ぐための大きな壁が張り巡らされているが、そもそも寄せ付けないように警戒もしっかりされつつ、視界確保のためにしっかり視界が開けた場所になっているところが多い。

 そして少しばかり雪が降ってきた中、さらに白くなってきてもっと積もれば綺麗な雪原が広がっていただろうが…


【ユキユキユキィイイ!!】
【ユキユッキィイイイイイ!!】

「…わーお、もっこもこの白い塊があちこち漂っているのか」
【他の冒険者たちもちらほら見えますね…手に持ったたいまつで一体一体丁寧に溶かして、魔石を回収しているようですよ】
【魔石の価値は下がりますが、合って困るものでもないですからネ】

 松明を持った冒険者たちが、手当たり次第に溶かすのはちょっと奇祭のような光景に見えなくもない。

 この時期は依頼も減るわけで、少しでも収入を得るために必死になっているのはわかるのだが、絵面的に何とも言えなくなるだろう。

「というか、熱に弱いって聞いてはいたけど、松明程度で倒されるって…凄い弱いね」
【最弱のモンスターと言って間違いなさそうですよ】
【いえ、違いますネ。ギルドの公式記録で最弱は…確か、100年前に出たもので、出現した瞬間に絶命したらしいでス】
「…最弱?」

 ファイはギルドで色々と知識を仕入れているらしいが、なんだその生まれた意味が全く持って見えない悲しい生命体は。
 何のために生まれて、どうして生きるのかと自問自答する前に亡くなるって、モンスター以前に生命として色々終わっている気がするだろう。




 とにもかくにも、目的のユキンコユキユキを見ることはできたが、どうやら単純に松明で消えるだけの哀れな存在と言うわけでもないらしい。

 数が多いおかげですぐに全てが消し飛ばないようで、一部が反撃をしていた。

【ユキィイイ!!】
「ぎゃぁぁぁあ!!せなかがさっむぅううう!!」
「ひぇぇ!!やめろ、腹が冷えてぐぇぇぇぇ!!」

「…的確に嫌な攻撃もしているなぁ」

 単純に弱いだけではないと見せるように、冷気を吹きかけ操って、冒険者たちを凍えさせていく。
 見た目はそれなりに可愛らしいが、やることが陰湿感あふれているだろう。


「一応、どうにかしたほうが良いかな…ハクロ、ファイ、対応できる?」
【大丈夫ですよ、こういう時のために…ランタンを付けたモーニングスターと…】
チュイン!!ボジュン!!
【レーザーで対処可能ですネ】

 倒しておいたほうが良いモンスターなので、他の人たちの収入の邪魔をしないようにしつつ、少しは手助けをしておく。

 こういうふわふわと動く類は狙いを定める練習台としてもちょうどいいのだろう。

 あちこち飛び回られつつも、的確に狙って落としていく。

 ついでにジャック自身も、少し魔法も使ってこちらもコントロール技術を上げて置く。

「普段ハクロ達に任せてばかりだし、ついでに僕自身もやらないとね」
【んー、私たちだけでも問題ないですけれども…ふふ、私に手をつないで魔法を発動させる姿も良いですよ、ジャック】
【この感覚は悪くないヨ。マスターの魔法の練習にちょうどありだネ】










 お手軽に倒せるモンスターでもあるため、苦にもならない作業。

 他の冒険者たちの収入源でもあるため根絶しきらないように気を付けつつ、身体も動かして体温も上がってくるので、中々良い感じだ。

「でも、そろそろ帰ったほうが良いかな。目的も達したし、良いところで…ん?」
【どうしました、ジャック】
「いや、今雪が解けたところ…なんか地面の色がおかしくない?」
【ム?】

 周囲を見渡す中、少し目標から外れてしまった火の玉が地面にあたったが、何かおかしなものが見えた気がした。


 そう思い、ジャックはその場所へ近づく。

「ここだけど…地面じゃない?何か、埋まっている?」

 土色ではなく、少々赤い何かが埋まっていた。

【今、溶かしますネ】

 ぐにゅっとファイがスライムの腕を伸ばし、その埋まっている範囲にかぶせ、赤く発光する。

【レーザーよりも威力を下げて、熱だけ発している状態にしていまス。何かがあるのならば傷つけずにこれで溶かせますが…生き物のようですネ】

 じゅうじゅうと音を立てて、雪が解けていく。
 そしてその下から何者かが出てきた。

「これは…モンスター?」
【額の角が折れてますけれど、これってもしかして】
【…オーガ、ですネ。しかし、酷い怪我とこれは…頑丈そうな首輪や鎖が絡みついてますネ】

 出てきたのは、ところどころが赤黒く変色した、大怪我を負っているモンスター…オーガ。
 ぼろぼろの皮を着ており、全身が少し焦げているようでもありつつ…息はまだある模様。

【そういえば、先日奴隷商人からオーガが逃げたという情報がありましたが…コレでしょうカ】
【どうしましょうか、ジャック。危険なモンスターなら…】
「…」


 普通ならば、危険な存在なら即座に消したほうが良い。
 この状態ならば、楽に討伐はできることはできるだろう。

 しかし、このがんじがらめになっている鎖とかを見ると…

「…治療したほうが良いかも。いや、オーガって凶悪なモンスターでもあるって聞いているけど…その奴隷商人から逃げたオーガとかいうのならば、放置しないほうが良いか」

 ここで、治療するという選択肢をあえてとることにした。

 討伐のほうが最適解なのかもしれないが、何故か放っておけないような気持ちが勝ったのだ。

「ハクロ、すぐに薬草を用意できるカトレアを呼んできて。ファイ、この状態だと動かすと不味そうだから、そのままスライムボディで出血個所を抑えつつ、傷の把握を頼む」
【わかりました、助ける命令であれば、やりましょう】
【承知したよ、マスター。ついでに、この鎖とかも捕食して良いでしょうカ?治療の邪魔になると思うから、取り除くヨ】
「ああ、それで頼む」

 とにもかくにも今は、このオーガを助けてみようと僕らは動くのであった…

【…なの、呼ばなくても大丈夫なの。もう来ているのなの】
「わぁっつ!?びっくりした、カトレアか。留守番しているんじゃなかったの?」
【ああ、我もいるぞ。一応留守番するといったが…やはり、主殿の警護は皆がいたほうが安心かと思ってな。こっそりとついてきていたんだ】
【ルミまでいたんですカ】


…呼ぶ手間が、どうやら省けたようであった。
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