絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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移り変わる季節と、変わる環境

log-099 それは遠い昔の夢で‥

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…ああ、これは夢だ。
 
 そう何となく、私は感じ取ってしまうのは、目の前の光景が次から次へと切り替わっていくからだろう。


 無残に焼き尽くされる村、蹂躙されて潰される街並み、谷底へ落下していく馬車、降り注ぐ矢の雨によって貫かれていく人々…様々なものが消し飛ばされ、理不尽な力によって洗い流され、失われていく。


 それが、何も関係ない者たちならば特に気するようなことはなかったはず。
 今ならば多少は心が痛むかもしれないが、私が私でなかった時には関心はなかった。


 けれども、そのどれもに共通して起きていたのは…絶望を感じさせる喪失感。

 今度こそ、今回ならば、この時には…手を伸ばし、あと少しのところですり抜けていく、かけがえのないモノ。


 どれほどの年月を、どれほどの生と死を乗り越えた先にも生じた悲しい記憶。
 これは呪いか、それとも私に与えられた何かの罰なのか、その自問自答に答えるものはない。


 だめ、絶対に失いたくない。
 そうやって必死になって手を伸ばしては、失われていくその光景は…一体、どの時の者だったのだろうか。


【…私の、大事な…番…】

 ぼつりと口からこぼれ落ちる言葉が、失われて行ったものを何なのか、自覚させるだろう。
 そのたびに狂うような気持を抱き、そして次へすぐに旅立ち必死になって追いすがる。


 それが例え、自分自身をどれほど削り、その存在を失わせていくものだとしても、抗いがたいモノ。

 狂った愛は、一種の呪いとでもいうべきか、魂につなぎ留められた残酷な楔か。

 その衝動によって次から次へと切り替わっていき、私は求め、そして手に入らず、それがどれほど繰り返されたのかはわからない…


【やめて…私から…奪わないで】

 懇願するような声を出して、どれほど願ったのかはわからない。
 だが、その全ての願いはどこでも叶うことはなく、消え失せていくもの。



【お願い…私から離れないで…大事な番を、引き離さないで、奪わないで…!!】

 ぎゅうううっと心が締め付けられるようなこれは、いつからあったのか。
 その始まりの時はもう、覚えてもいない。


 わかっているのは私は長い間求め続けてきたことであり…そして今、ようやく手に届くところにあったとしても…また、失う可能性だってあるだろう。

【駄目…私は絶対に、今度こそ大事な番を‥】

 夢の中とはいえ、今の私が最も愛し、そしてこの手から放したくない存在…ジャックの姿を感じ取り、二度と手放さないように強く抱きしめる。

 もう、失いたくはない。
 けれども、またここで失う可能性も…


【お願い…私を一人にしないで…】








―――ドォォンドォォォンドォォン!!
【---って、うるさいです!!何ですか、耳元で急に、凄い音が!!】
【やっと起きたかハクロ!!さっさとその手を放さないと不味いのだが!!】
【しっかり今の状況を見るのなの!!潰す気なのかなのぉおお!!】

【へ?】

 あまりにもけたたましい音が鳴り響いたがゆえに、目を覚ましたハクロ。

 見れば、室内にはルミとカトレアが両手に巨大な打楽器をもっていたが必死な形相を浮かべている。
 
 一体何があったのかと思えば、手元には物凄く安心する存在が…


「んんんんんん----!!」
ベチベチベチィ!!…べちぃ…がくっ

【って、ジャック!?どうしたんですか、何で急に力を失うんですか!!】
【【お前が抱き潰したからだぁぁぁぁぁぁ(なのなのなのぉおおお)!!】】
スパアァァアン!!
【いっだぁぁぁぁあ!!】
【慌てず迅速に、救命活動を行いますネ】


…意識を失ったジャックに対してファイが起こす間に、ハクロはルミとカトレアに盛大にツッコミと説教を入れられるのであった。


「はぁ…生きているって素晴らしいけれども…まさか、三途の川っぽいのを見るとは…」
【本当に、ごめんなさいジャック…私がうなされていて、様子を身に来たら手元に引き入れて抱き潰していたなんて…】

 ぶはっと酸素たっぷりの救命活動用スライムグミとかいうのを食べさせてもらいつつ、ジャックの目の前でハクロは土下座していた。

 マナ酔いで絶賛大不調だった中、どうやら悪夢を見ていたらしい。
 うなされていて、心配してジャックが手を握った瞬間に、目にもとまらぬ速さで抱きしめ、そのままがっちりと自身の巨乳にジャックの頭を抑え込むようにして絶対に話さない意思を見せて、抱き潰しまくっていたようである。

「次から、気道確保のための何か防具を付けておこうかな…」
【そうしたほうが良いかもなの。このとげとげっぷりなヘルメットならあるのなの】
【そんなの抱きしめたら、穴だらけになっちゃいますって!!】
【まず、その状態でもやろうとするなよ…】

 呆れられつつも、こればかりはどうしてもしたくなる時があるのだから仕方がない。
 愛しい番を抱きしめたくなる思いと言うのは、中々制御が難しいのだ。

「それにしても、マナ酔いで体調が悪化していたとはいえ、相当うなされていたようだったけど…大丈夫なの?」
【ええ、問題ないですよ。悪夢は悪夢としてわかっているので、そう引きずることはありません】

 二度と見たくはない、私ではない私が見てきた、絶望の日々。

 だからこそ、今の私がある時点で過去のものとして切り替え、考え続けることはない。


 そう、今はこの手元に大事な番がいるからだ。


【心配を、かけさせてすみませんでしたね、ジャック。悪夢はもう失われたことですから】
「そう?なら良いけど」
【ええ、大丈夫ですよ…でもちょっとだけ、手を握っても良いですか?】
「別に良いよ…あ、引き寄せないでね。まだちょっと、抱きしめ死の恐怖があるから」


 それは本当に、心の底から申し訳ないとハクロは思いつつも、そっとジャックの手を握る。

 愛しい、大事な番の存在。
 その温かさを、守るべきものを実感し、優しく握り返し、ハクロはしばし至福の時間を過ごす。

【ふふふ…ありがとう、ジャック。これだけでも大分、元気になりましたよ。マナ酔いも多分、明日には収まるでしょう】
「それなら良かったよ、ハクロ」

 ハクロの言葉に安堵の息を吐くジャック。

 その姿を見て、心配をかけさせたことへ心から謝りつつも、二度と失わないようにしようと改めて心の中で彼女は思う。


(…良いのですよ、私ではない過去の私。私がつないだ手は、愛しい番はここにありますからね)

 悪夢の中の、今の自分になる前の自分自身。
 それに語り掛けるように心の中で想いつつ、ぐっと体に力を入れ、回復に専念する。

【ああ、でもちょっとこれいけないですね。マナの影響か少し早まったようなので…すみません、明日には収まりますが、私の元に来るなら明後日にしてください】
「え?何かあるの?」
【その、実は脱皮の時期が来ちゃったようで…今触るとすごいむずむずするんですよね…】

…回復も必要だったが、身体の成長も必要らしい。

 物凄く久しぶりの脱皮の時期を感じつつ、ハクロはゆっくりと準備をするのであった…




(---ええ、もう二度と失いたくはないですし、少しばかりこれで強くなるでしょう。もう、いくつかの中での…、その悲劇を二度と起こさないためにも私は…)
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