絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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移り変わる季節と、変わる環境

log-096 ジャアクナキンニク

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―――異常な生徒がいたら、まず最初に動くべきなのは教師ではないか。
 
 見た目だけですでに様子がおかしいと判断できれば、当たり前のように対応するはずである。

 だがしかし、この闘技場内の異常事態において、なぜか貴族側の教師たちは動かなかった。


【何故なのかと思ってたが…おい、起きろ!!】
バシィン!!
「ほぎゅぅえ!?い、いだだだ…ひへぇっ!?首無しにんげんぇぇん!?」
【間違ってないから気にせぬが…やはり、ここもやられていたか】
「おい、こっちも起きろ!!」
ビタァァン!!
「いっでぇぇぇ!!はっ、ここは一体…」


 巨大な肉塊がぎちぎちと拘束から逃れようと膨れ上がる中、貴族側のほうの教師たちがいる場所では今、ルミ含め他の警備兵たちが集い、この惨状に厳しい顔を浮かべていた。


 普通であれば、まともに対応していたはずの教師たち。
 しかし今、その誰もかれもがどこか何もない場所を見ている虚無の表情を浮かべており、明らかにおかしくなってたのだ。

 手っ取り早くビンタで目を覚まさせることができるぐらい軽いものだったが…それでも、何者かが仕掛けたのは明白だろう。

 既に観戦していた他の人たちも避難を行っており、闘技場のほうもハクロ達が先に動いて抑えているので被害自体はそこまで大きくはない。

 いや、報告された内容では巨大な肉と化した生徒たちがいる様なので、大きい小さい云々は意味もないが…


【こういう細工は、一体誰が…っつ、そこか!!氷炎斬!!】

 周囲を見渡す中、感じ取った異質な視線。
 それにめがけて素早く自身の首の炎を剣に纏わせて飛ばす。


『おーっとっとっと!!危ない危ない、まさか気が付かれるとは』
「なっ、誰だ!!」
「お前は何者だ!!」

 飛翔した炎の斬撃で、その場に何もないはずった空間が揺らめき、次の瞬間には何者かが姿を現す。

 他の警備兵たちも集まってきて、その異様な光景に驚きつつも、職務のためにすぐに剣を構える。

『いやはや、経過観察がしやすいように洗脳の方から頭をボケッとさせる薬をばらまいて動きを鈍らせつつ、わざわざ魔改造の単細胞から気配隠しの道具を借りてきたというのに、感じ取るとは…流石と言うべきでしょうな』
【この気配、似たようなものは前にも感じたことがあったからな…ふむ、やはり悪魔か】

 ルミも油断しないように大剣を構える中、周囲を囲まれているにもかかわらず、ひょうひょうとしたどこか緩い動きでその人物が…見た目ことは確かに普通の人のようだが、耳の上あたりからは巨大な角が二つ生えているものがそう口を開く。

『なるほど、あのゲラゲラ笑いのやつが言っていた、従魔を引き連れた少年…その従魔の一体、デュラハンの方ですか。名乗らなくて失礼でしたな。小生は筋肉と傲慢の■■■…っと、そういえばこれでは通じないのでしたな。改めまして、邪悪筋肉研究者のマチョスラーとでも呼んでくださいな』
【邪悪筋肉?】
『ええ、そうでございます。筋肉とはパワーあり、力の象徴。どのような場面においても鍛え上げた筋肉は期待を裏切らず、これは悪魔も人間も何もかも同じものとして、湛えるべき存在でございましょう?蟲や魔改造、洗脳の輩よりも健康的であり、敵味方問わず鍛え上げた方は素直に賞賛すべきことでございますな』


 まさかの筋肉フェチ的な…いや、より何かを捻じ曲げてしまったような、悪魔以前のツッコミどころのある言葉に、周囲の者たちは困惑の表情を浮かべる。

 だが、ルミはすぐに気が付いた。

【邪悪な筋肉…すると今、起きている騒ぎの肉塊は貴様が原因か】
『察しの良いことで。ええ、ええアレは小生の実験の一つ、筋肉を急成長させる開発中の秘薬による効果でございますな。遅効性と…今の騒ぎになってますが、まだまだ暴走する副作用があるのが難点ですがな…まだ若い子供たちならばいい結果を得られると思ってましたが、精霊などが扱う空気中に漂うマナなるものをを悪用して吸い上げ増幅させるようにしていたはずなのに、何故か暴走する…むぅ、やはり筋肉は一夜にしてならずかな』
【子供を実験台にしたのか…貴様!!】


 はははと軽く笑うマチョスラーに対して、怒りの声を上げるルミ。

 この大闘争会の場において、子供たちは未来溢れる存在でその価値を見せ…当の昔に死人であるはずの自分以上に輝くような者たちに対しての外道な行いが許せないのだ。


『ああ、ご安心を。今もなお開発中の秘薬ですので、効果が切れれば元通りになります。ええ、効果が切れると同時に体内に暴走で吸い上げまくったマナと無理やり鍛え替え過ぎた筋肉の消失によるエネルギーの合わせ技で…このあたり一帯が、吹き飛ぶような大爆発を引き起こしたうえでね』
「何っ!?」
「つまり今、あの子供たちは」
『薬の効果が切れるまで威力を増し続け…切れた瞬間に大爆発を引き起こす、時限筋肉式爆弾になっているのですな』


【「「何だって!?」」】

 マチョスラーの文字通りの爆弾発言に、全員が驚愕させられる。

 つまり今、じわりじわりとこの王都自体が吹き飛びかねない緊急事態になっているのだ。

『おっと、捕捉するならば絶命しても同様の爆発が起きるでしょうな。効果が切れる前に犠牲として命を奪っても、爆発。待っていても周囲を飲み込み威力を増して爆発…どちらに転んでも見事な筋肉花火となりますでしょうな』

 さらに容赦のない言葉を軽く言うマチョスラー。

 そのひょうひょうとした他人事のような言動に全員がより一層異質なものを見るような目を向ける。

『では、これにて小生は失礼させていただきますかな。では、またの機会を』
【待て!!逃げるな、止める方法を吐け!!】

 くるりと踵を返し、逃走し始めるマチョスラー。
 そんな相手を逃すまいと、ルミは動くが…つかもうとした瞬間、その手がすり抜けた。

スカッ
【ちぃっ!!】

「ど、どうしましょうか!爆発をするって!!」
「落ち着け、今はとりあえず皆の避難が先だ!!」

【…その通りだな。あの悪魔、すぐに捕まえたかったが…避難を優先するぞ!!我はすぐにでも、主殿をこの場から逃すために動く!!】

 捕らえられなかったものは仕方がない。
 とりあえず今は、爆発から人々を逃す方を彼らは優先し、ルミもまたジャックをこの場から避難させるために動く。




 邪悪な筋肉野郎が仕掛けてしまった、最悪の爆発まであと少し…
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