絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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移り変わる季節と、変わる環境

log-079 輝く宝石

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―――ミミックはボコられまくった。
 ちょっとばかりオーバーキルになっている気がしなくもないが、それでもこの大人数を前にしては、元よりトラップを仕掛けて待ち受けるようなモンスターでは厳しかったのだろう。

 その結果、残骸を残してミミックはばらばらとなり、もはや原形をとどめていない。


【ふぅ…すっきりしたナ!】
【私としても、大事な番を食べようとしたこの箱を成敗出来て良かったですよ】

 ミミックが完全に絶命したのを確認し、ぼこぼこにしていたジェリースライムとハクロ達が笑いあう。

 ひとまずはこれで、ミミックの対処はできたわけだが…別のことへ、話を移せる。

「ところで、ミミックに食われていたようだけど…君、結局何なの?」
【ん?ああ、あたしのことカ?ミミックに捕食されていた、哀れなスライムなのサ】

 かくかくしかじかと話を聞いてみれば、このジェリースライムは元々、ただの一匹のスライムとしてどこかで生まれ落ちたようだ。

 スライムは天然ものも人工的に製造することも可能なモンスターの一種であり、どちらかになるらしいが…

【あたしは多分、後者だナ。生まれた時に、こう聞いたモノ。『残念、失敗作だ』とナ】
「失敗作‥?」

 何者かに作られたようだが、失敗作の烙印を押され、放置されたもの。
 だが、そんなことは別に彼女にとってはどうでも良かったようで、じっくり長い野生生活を経て、周囲の影響を受けて身を転じさせていこうと日夜努力していたらしい。

【失敗作だろうと何だろうと、そんなことはどうだっていい。あたしはあたし、何か目標でも作ろうかなと思って、他の野生のスライムとも話して、定めたのサ】

 スライムにとっては、強大な存在…クイーンやキングと言った系統になるのが夢らしい。
 それを聞き、だったら自分もなってみようかなと思いつき、強くなることを目標に動いたそうだ。

 だがしかし、そんな日々を送っていたある日、ある道中でミミックに遭遇してしまった。

 罠を仕掛けて待つモンスターでもあるミミックだが、自分よりも弱そうな存在であればすぐに化けの皮を剥がしてそのまま襲う習性もあるらしく、その結果として捕食されたらしい。

 とはいえ、それでも根性で生き延びようと、ミミックに飲み込まれた後消化されないように、喉元のあたり…ミミックのどこに喉があるのかはさておき、ギリギリで踏みとどまっていたようだ。

【でも、まともに出たとしてもまた捕食される可能性がある…だからこそ、利用して強くなったんダ】

 ミミックは愚かなものを罠にかけるために、そのための道具を自力で生成することが出来たりする。
 一般的な物であれば金銀財宝の類を生み出して、宝に目がくらんだ人間を捕食するらしいが、このミミックの場合は宝石を生み出していたようだ。

 その体内で出来上がっていた宝石を少しづつ横取りして、いつしかスライムボディに影響を与えて…気が付いたら、このジェリースライムになっていたという。

「そういえば今更だけど、宝石ならジュエルスライムの名称じゃないの?」
「ゼリーみたいな見た目でもあって、それで混ざったからジェリースライムでもあるらしい。一応、モドキタイプもいるようで…そっちはガチでゼリーとして捕食できるのだとか」
「いるんだ、偽物」
「一応、モンスターだが同時に宝飾品の類に分類される以上、偽物もいるようだ」

 ガンゴードさんの説明曰く、その場合の正式な種族名はゼリースライムとなり、ジュリースライムよりも価値は大幅に下がるようだが、一部の愛食家には大金を積んでも食べたいほど美味しいらしい。


 どっちにしても、損はないモンスターとしてもそれなりに有名だとのことだが…


「…だが、どういうわけだ?話に入らせてもらうが、スライムの嬢ちゃん…何故、?」
【ン?あたしのコノ姿に関してカ?んー…知らんナ】


 質問をしている中、ふと、ガンゴードさんがそう問いかけてきた。

「人型なことに、何か問題があるのでしょうか?」
「あるといえばある。普通は不定形な形が多いが、それは形を定めにくいからだ。型に入れて作っても、大抵失敗するらしく、ましてや複雑な人型は成功例がほぼ無いと…前に、モンスタートラウマ三日三晩製造機の彼女が話していたことを聞いたことがある」

 例のあの人変人エルフのことか。
 そう考えると確かに、そのような話を知っていてもおかしくは無いだろう。


「それなのに、人型のようなものを作れるとは…奴が聞いたら確実に突撃してきて、三日三晩どころか当分質問攻めにされる未来が見えているからな…」
「ああ…」
【納得しました。確かに、その情報は必要そうですね】
【うわぁ、なの】
【納得しかないな…事前に聞いておかねば、万が一遭遇したらその光景が目に浮かぶぞ】


 その言葉に、僕らは納得する。
 まだ短い付き合いしかないが、それでもどのようなものなのか理解できてしまうほどなのだ。

【あのー、ジェリースライムさん、貴女絶対に王都に近づかないほうが良いですよ。確実に、ド級のド変態の学者がやってきますからね】
【なんだそリャ?】
「分かりやすく言えば、さっきのミミックが擬人化して、より執拗に情報をまさぐろうとしてくる人がいるということです」
【…なるほど、なんとなく理解シタ。やばい人と言うことカ】

 一言で簡潔に言われたが、そうとしか言いようが無いだろう。
 犠牲になる前に、遠くへ離れてもらったほうが良いかもしれない。

【でも、大丈夫ダ。あたし、宝石喰ってこの姿にパワーアップしたからナ!!変人奇人超人なんのそので問題ないのサ!】
「絶対に大丈夫じゃないですって!!」
【呪いの影響で、いるだけで結構むかつくことになる人ですよ!!】

 えっへんと胸を張るスライムの彼女だが、その自信はへし折られる可能性があるだろう。

【…そこまでのものなのカ?】
【そうなのそうなの、やばい人なの】
【まぁ、普段は別の場所で監視されている身のようだから、そう出くわすことは無いだろうが…隠しても無駄なような気がするな】

 うーんっとジャックたちは悩まされる。
 このまま目撃しなかったことにして黙るという手もあるだろう。

 だがしかし、放置しておくのもいかがなものか。

「なんというか、見て置ける場にいたほうが良いような…後から発覚するよりも早期に見せたほうがまだましなような…」
【難しい問題ですね…ワイバーンやファルコンなら、こうやって撃沈させれば住むだけなのに、人と言うのは厄介なものですよ】

 力づくでではどうにもできないことも、この世の中には多くある。
 悲しいことに、そういう問題程厄介なことが多い。

【ふむ…なら、主殿。この手はどうだ?】
「ん?ルミ、何かあるの?」
【このスライム、光線の遠距離攻撃やスライムゆえの柔軟性に宝石の硬度…我々には無い部分での能力が優れていると思ってな。ならばいっそ、加わってもらうのはどうかと思ってな】
「…従魔にするという提案か」

 確かに、その方法はありと言えばありかもしれない。
 先日の騒動もあってか、色々と欲しいものも確かにあったが…彼女はまさにうってつけの部分が多いだろう。

 でも、それが果たして受け入れられる提案かどうかは、わからない。

【従魔にですか…んー、ジャックが良いのならば、別にかまいませんよ】
【ミーも反対しないのなの。けれど、スライムの人、それやってもありなの?】
【従魔にならないか、ということカ?ふむ、一体どういうものなのダ?】

 かくかくしかじかと手短に説明し、どのようなものなのか理解してもらう。

【なるほど、理解したヨ。あたしをその従魔とやらにして、多少はその変人から守る目的もあるようだしナ】
「完全には無理だけど、後から…そうだな、全力疾走で追いかけてくる確実に何かしらの不機嫌になるヤバい存在が真夜中だろうと何だろうと襲撃をかけてくる可能性が無くなったと思えばいいかも」
【うん、今の言葉で確実にさっさと片付けたほうが良いことだというのは理解したゾ】

 速攻でご理解をいただけたようである。






 とにもかくにも、それで良さそうだが…さて問題は、その名前とかもどうするかだ。

「というか、ガンゴードさんはやらなくていいの?」
「タゴサックがいるから別に良い。というか、また増えるのか…この様子だと、お前さんが卒業するころにはより大きな馬車を持ってくる必要がありそうだ」
「ははは、流石にそこまで増えないって」


 そうなる未来はないと思いたい。
 いやまぁ、今の面子だけでもそこそこの面積はとるので…否定しきれないのは気にしないでおこう。

「なら、さっさとやろうかな。えっと、それ用の道具をセットして、しっかりと手順を確認して…契約の文言を…」


 既に何度もやったから、慣れたもの。
 問題は、どういう名前を付けるかにあるが…宝石のようなスライムなら…

「---『汝、その思いに偽りは無し。契りをかわして、名を与える。汝が拒絶するならば、名は与えられず、それもまた良し。汝に与える名は…《ファイ》。それで、良きか』」

 宝石の一つ、サファイヤ。
 その名前を少しだけ取って、名付けることにする。

 色合いとしてはどちらかと言えば紅い方なのでルビーやガーネットなどもありと言えばありだったが、真逆な蒼い宝石の名前を少しだけいただくのも悪くはない。


【『ファイ』…いいネ、あたしはそれを了承する!!今日から、ファイと名乗らせてもらうヨ!!】

 名づけがされ、契約が成り立ち、その身に契約紋が現れる。
 ただ、他の面子は体の表面に浮かび上がっていたが、彼女の場合はスライムゆえに中身が流動する関係なのか…お腹の中に、ぼうっと輝くようにして浮かび上がった。


【へへっ、これからよろしくナ、えっと…他の面々は、どういう風に呼んでいるのダ?】
【私はジャック、もしくは番、夫ですね】
【ミーも普通にジャックで呼んだりしているのなの】
【我は主殿と呼ぶな。剣を捧げる相手だからこそ、その忠誠を誓うからだ】

「別に好きな感じに呼んで構わないよ。そこは皆自由にやっているからね」
【なるほど…ならあたしは、こう呼ばせてもらウ。マイマスター、とナ!】

 にかっと笑顔を浮かべ、ジェリースライム、もとい新たな従魔のファイは、そう口にするのであった…


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