絡みあうのは蜘蛛の糸 ～繋ぎ留められないのは平穏かな？～

移り変わる季節と、変わる環境

log-閑話 村の復興 大人たちの話

―――竜種災害によって、カルク領内のあちこちは焼け落ちた。
幸いにも、グラビティ王国はこういう災害にもしっかりとした制度で対応が可能であり、迅速に対応が進められて、被害はまだ抑えられた方だろう。

畑や鉱山も被害に遭っているため、当面の間は税収の減少が考えられるが…それでも、人命があるからこそ、復興するための力は残されている。

これで人っ子一人残さない全滅だったら、それこそ何もできなかっただろうが…こういう時に、人の輪のつながりというのは必要になるものなのだ。


「だからこそ、協力し合っての復興で早く立て直しをと考えたが…」
「結果としては、予定よりも早く復興が進んでいるようですな」

カルク領内、男爵邸。
領内の復興状況を確認する中で、カルク男爵は各地の状況を確認していた。

悪魔の手による人災の様なものであり、下手人は今すぐにでも血祭りにあげたいところ。
しかし、そうたやすくはできないのもわかっているため、復興に尽力を注いでいたのが、当初の予定よりも思ったよりも早く進むところがある。

　何が原因だろうか。それは明らかである。

「…厄災種及びその予備軍での力が、破壊などよりもこちらのほうに使われたことで、より早くできたか…」

　思いっきり目に見えて分かる形で評価できるのは、ナモアリ村。
　そこには今、領内の厄災種…アラクネ、およびその予備軍とされる他２体のモンスターがいるのはわかっており、彼女たちの力が思いっきり使われたのが予想できるだろう。

　一つでも扱いを間違えれば、たちどころに大災厄になりかねないのだが…うまいこと、彼女たちの主はその手綱を握れているようである。

「ほぼ壊滅的だった畑の復活や、糸での補強に村の守りの見直し。その他今後の防災計画に緊急時用の避難通路の建設…いや、これは彼女たち以外も誰かがいるか…と言うか、扱えるならその主の少年が考えたものなのかもしれないが…この様子だと、ここが一番早く復興が終わるな」

　各地の状況を見る中で、群を抜いて復興の終盤に来ている。
　モンスターを従魔にする有用性が、ここにきて盛大に生かされているともいえるのだ。

「可能ならば、他の場所にも向かってほしいが…今は、夏季休暇の最中か。休みのほとんどを、未来溢れる若者の貴重な休みを代償に刺せるのは少々厳しいか…」
「そもそも、竜種騒動を収めたのも、彼女たちが動いたのもありますからね」

　男爵の言葉に対して、執事がそう答える。
　既に色々とやってもらっているというのに、これ以上仕事を積み重ねてしまうのも厳しいところがあるか。

　貴族としての権利を扱うこともできなくはないが…怖いのは、彼女たちの期限を損ねる方。
　たとえ主の少年のほうが良くてそれに従ったとしても、働かせすぎだなどの反発を招く恐れも否定はできない。

　ゆるゆると、他へ支援をしてくれればいいのだが…その方がまだ穏便に済むだろうか。

「はぁぁ、それでも被害はまだこれで済んだのは良いか…これ以上やられていたら、それこそもっと長くかかっていたか」

　遅かったら、もっと復興も遅れ、時間もかかった。
　そう考えると、早期に助けを呼び出し、その手が迅速にやってきてくれたのは幸いだ。

　しかし、いつでもそううまくいくとは限らない。
　ここで頼り切りにしてしまえば、いざという時にやらかす可能性もある。

　それゆえに、手放しでなすがままに喜ぶことも頼りすぎることもできないので、気を引き締める。

「だが、従魔の有用性も証明しているからこそ…ここは、いっそ領主足るもの、領内のことを行えるようなモンスターを得られたら…いや、そう都合よくはいないか。特に厄災種当たりの力も…」
「そんなにバンバンいたら、厄災だらけで世界が終わりそうですがな…」

　便利なものほど取り扱いは慎重にしなければいかず、下手に刺激して爆弾のように爆発されても困るだろう。

　やれることが限られているのであれば、その範囲だけに、身の丈に合う分だけやればいい。

「何にしても、復興させつつ、悪魔対策も兼ねて各方面への支援の要請なども…ああ、やることが多いな」

　色々と考え込むことが多いながらも、自身の生活や領民のために、男爵は働くのであった…


「…それでも、頼りすぎることはしたくはないが、欲しくなるものもあるな。いっそ、手が足りるよう、足りない部分も補えるようなモンスターを手にできれば良さそうだがな。バランスを見ると、治療行為が可能なものや、魔法攻撃、空を飛べるものなど…」
「ははは、男爵様、そのようなものが追加されたら…後者はまだしも、前者のほうがもっと幅広く必要とされそうですがな」
「それもそうか」

…笑いつつも、ちょっと想像したくなるものである。