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訪れる学園生活
log-056 それは既に国を超えて
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…グラビティ王国と、現在は友好的な関係にある国々の一つ、エルメリア帝国。
その帝国の国境付近…とある貴族家が有している邸にて、彼女は人を待っていた。
「…待たせたな、ミラージュ。王国での用事は、無事に終えたか?」
「ええ、きちんと書簡を渡しましたし、ある程度の交流はしてきましたわ」
彼女…このエルメリア帝国の第3皇女ミラージュは、室内に入ってきた自身の兄、第2皇子ドランの質問に対して、そう答える。
「そのついでに買い物をしつつ…今の、王国の現状を見てきましたわね。友好を結んだままで、損は無いですわ」
「それはつまり、利用価値があるということか。…噂の、厄災種もいることがほぼ確定か」
「ええ、そうですわね‥‥ああ、このお土産を見てくださいまし」
椅子に座り、メイドに用意してもらった紅茶を飲みつつ、彼女は王国で手に入れたあるものを取り出す。
「衣服と…この糸は」
「わたくしを攫おうとした、哀れな生贄が身をもって得てくれた戦利品ですわ」
取り出したのは、王国内で購入したドレスの一着と、何かからとったような、粘着質の糸。
「ああ、そういえば影からの報告でわざと攫われたとあったが…これも狙ってのことか」
「偶然のものですわよ。本当は、わたくしたちを狙う者共の排除のために、使える駒を増やそうと泳がしていたのですけれども…助けられた時に、得たものですわ」
ある程度計算に入れて動いていたところはあった。
しかし、少しばかり予想外なことも起き、そのおかげで得られるものもあった。
「国の分析機関で、既にわかってますわ。この二つは同じ糸で…同時に、ただの糸ではないことも。間違いなく、噂になっていたアラクネというモンスターのもののようですわね」
「なるほど…こっちのドレスの生地は見事なものだが、この糸は的確に敵へ纏わりつくものか…様々なものを生み出せるようだな」
噂に聞いていた、王国に住み着いていると言われる、アラクネ。
ただの通常種ではなく厄災種の可能性が非常に大きく、得られたサンプルも少ないとはいえ、通常種のものとは比較にならない性能をしていたようである。
「あとは、他に出回って…この木の実と、凍える炎のランタンがありますわ」
「これは…アルラウネと、デュラハンのものか」
「ええ、どちらも帝国内で保管する希少な通常種のサンプルと比べても…群を抜いて、上回ってますわ。ほぼ間違いなく、今の王国内にはとんでもないモンスターがいますわね」
直接噂の主のもとへ探ることはできなかったが、それでも得られた成果は非常に大きいモノ。
その結果に対して、第2皇子のドランも満足げな表情になる。
「良くやったな、我が妹よ…この情報があるだけでも、非常に良いだろう。今の王国との関係性を、少々いらぬもの扱いにしようとする輩もいたが…」
「うかつに動けば、帝国が傾きかねない可能性も示せますものね。避けられる争いごとがあるのならば、これで収めたいですわ」
「それでも今度は、ならばそいつらを手に入れようと動く馬鹿も出るのがなぁ…」
目の前にある問題の一つが、これである程度抑制できる。
しかし、それでも愚かなものがいるのは変わりはなく、より捻じれた方向に突き進む者もいたりする。
「でも、実力行使以外の手段はおそらくは…通用しないですわね。彼の周りの守りが、非常に堅牢でしたもの」
「その口ぶりから察するに…おそらく、出会ったか」
「ええ、間違いなく、その主とされる少年に…攫われた際に、偶然助けられて少しだけ話す機会も得られたのですわ」
ミラージュの脳裏に浮かぶのは、誘拐犯から助けてくれた一人の少年の姿。
彼自身が気が付いているのかはわからないが…相当強固な守りの気配が纏わりついていた。
間違いない、出会った時に彼女はそれで確信したのだ。
これだけのものを持てる少年が、その件の厄災種のモンスターの主であると。
「正直でありつつ、驕り高ぶり過ぎず、ちょっと謙虚過ぎるのはまだ自信の無さで傷かもしれないですが…それでも、あの心の持ち主であれば、きっと悪しき者たちになびくことは無いですわね」
「なるほど…お前にそこまで言わせるとは、それはそれで貴重な人材も出あるな。なぁ、心のありようが見える、魔眼を有した妹よ」
「…ええ、本当に久しぶりに、この眼で見て、良い人に出会いましたわね」
ドランの言葉に対して、微笑むミラージュ。
様々な思惑が渦巻く貴族社会の中では、見ることができないようなその色が、美しく見えたのだ。
「まぁ、それでも今はまだ、縁をつないだだけですわ。それでも、もしも今後も出会えるようであれば交流を深めて損は無いですわね。できれば、そのモンスターたちも見たいですし…ああ、やりたいことがまた一つ、出来たのがうれしいですわね」
「積極的に動くのは良いが…まあ、迂闊にやり過ぎるなよ。下手な衝突でも起きたら、目も当てられない事態になるからな」
「わかってますわ」
兄にそう言われ、ふふっと笑って返答するミラージュ。
彼女自身、深い場所へ自ら飛び込む気もなく、ある程度の距離を保って静観できる位置に立てるようにすることだけを狙う。
その光景は、それぞれの立場を抜いてみれば、穏やかな兄妹の話し合いの場にしか見えないのであった…
「わかっているのは良いが…情報収集を表の目的として、裏でたっぷりと趣味の買い物もし過ぎるなよ」
「大丈夫ですわよ。これ、全部わたくしが稼いだお金で購入したものですもの。ああ、早くお兄様たちの誰かが王位について、特に必要なくなればさっさと商売の旅路に出たいですわね…」
その帝国の国境付近…とある貴族家が有している邸にて、彼女は人を待っていた。
「…待たせたな、ミラージュ。王国での用事は、無事に終えたか?」
「ええ、きちんと書簡を渡しましたし、ある程度の交流はしてきましたわ」
彼女…このエルメリア帝国の第3皇女ミラージュは、室内に入ってきた自身の兄、第2皇子ドランの質問に対して、そう答える。
「そのついでに買い物をしつつ…今の、王国の現状を見てきましたわね。友好を結んだままで、損は無いですわ」
「それはつまり、利用価値があるということか。…噂の、厄災種もいることがほぼ確定か」
「ええ、そうですわね‥‥ああ、このお土産を見てくださいまし」
椅子に座り、メイドに用意してもらった紅茶を飲みつつ、彼女は王国で手に入れたあるものを取り出す。
「衣服と…この糸は」
「わたくしを攫おうとした、哀れな生贄が身をもって得てくれた戦利品ですわ」
取り出したのは、王国内で購入したドレスの一着と、何かからとったような、粘着質の糸。
「ああ、そういえば影からの報告でわざと攫われたとあったが…これも狙ってのことか」
「偶然のものですわよ。本当は、わたくしたちを狙う者共の排除のために、使える駒を増やそうと泳がしていたのですけれども…助けられた時に、得たものですわ」
ある程度計算に入れて動いていたところはあった。
しかし、少しばかり予想外なことも起き、そのおかげで得られるものもあった。
「国の分析機関で、既にわかってますわ。この二つは同じ糸で…同時に、ただの糸ではないことも。間違いなく、噂になっていたアラクネというモンスターのもののようですわね」
「なるほど…こっちのドレスの生地は見事なものだが、この糸は的確に敵へ纏わりつくものか…様々なものを生み出せるようだな」
噂に聞いていた、王国に住み着いていると言われる、アラクネ。
ただの通常種ではなく厄災種の可能性が非常に大きく、得られたサンプルも少ないとはいえ、通常種のものとは比較にならない性能をしていたようである。
「あとは、他に出回って…この木の実と、凍える炎のランタンがありますわ」
「これは…アルラウネと、デュラハンのものか」
「ええ、どちらも帝国内で保管する希少な通常種のサンプルと比べても…群を抜いて、上回ってますわ。ほぼ間違いなく、今の王国内にはとんでもないモンスターがいますわね」
直接噂の主のもとへ探ることはできなかったが、それでも得られた成果は非常に大きいモノ。
その結果に対して、第2皇子のドランも満足げな表情になる。
「良くやったな、我が妹よ…この情報があるだけでも、非常に良いだろう。今の王国との関係性を、少々いらぬもの扱いにしようとする輩もいたが…」
「うかつに動けば、帝国が傾きかねない可能性も示せますものね。避けられる争いごとがあるのならば、これで収めたいですわ」
「それでも今度は、ならばそいつらを手に入れようと動く馬鹿も出るのがなぁ…」
目の前にある問題の一つが、これである程度抑制できる。
しかし、それでも愚かなものがいるのは変わりはなく、より捻じれた方向に突き進む者もいたりする。
「でも、実力行使以外の手段はおそらくは…通用しないですわね。彼の周りの守りが、非常に堅牢でしたもの」
「その口ぶりから察するに…おそらく、出会ったか」
「ええ、間違いなく、その主とされる少年に…攫われた際に、偶然助けられて少しだけ話す機会も得られたのですわ」
ミラージュの脳裏に浮かぶのは、誘拐犯から助けてくれた一人の少年の姿。
彼自身が気が付いているのかはわからないが…相当強固な守りの気配が纏わりついていた。
間違いない、出会った時に彼女はそれで確信したのだ。
これだけのものを持てる少年が、その件の厄災種のモンスターの主であると。
「正直でありつつ、驕り高ぶり過ぎず、ちょっと謙虚過ぎるのはまだ自信の無さで傷かもしれないですが…それでも、あの心の持ち主であれば、きっと悪しき者たちになびくことは無いですわね」
「なるほど…お前にそこまで言わせるとは、それはそれで貴重な人材も出あるな。なぁ、心のありようが見える、魔眼を有した妹よ」
「…ええ、本当に久しぶりに、この眼で見て、良い人に出会いましたわね」
ドランの言葉に対して、微笑むミラージュ。
様々な思惑が渦巻く貴族社会の中では、見ることができないようなその色が、美しく見えたのだ。
「まぁ、それでも今はまだ、縁をつないだだけですわ。それでも、もしも今後も出会えるようであれば交流を深めて損は無いですわね。できれば、そのモンスターたちも見たいですし…ああ、やりたいことがまた一つ、出来たのがうれしいですわね」
「積極的に動くのは良いが…まあ、迂闊にやり過ぎるなよ。下手な衝突でも起きたら、目も当てられない事態になるからな」
「わかってますわ」
兄にそう言われ、ふふっと笑って返答するミラージュ。
彼女自身、深い場所へ自ら飛び込む気もなく、ある程度の距離を保って静観できる位置に立てるようにすることだけを狙う。
その光景は、それぞれの立場を抜いてみれば、穏やかな兄妹の話し合いの場にしか見えないのであった…
「わかっているのは良いが…情報収集を表の目的として、裏でたっぷりと趣味の買い物もし過ぎるなよ」
「大丈夫ですわよ。これ、全部わたくしが稼いだお金で購入したものですもの。ああ、早くお兄様たちの誰かが王位について、特に必要なくなればさっさと商売の旅路に出たいですわね…」
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