絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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訪れる学園生活

log-054 吹き抜けるのは風の息吹

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…誘拐犯はお縄に付き、糸玉に捕らわれたまま衛兵たちに引きずられて行った。

剥がそうにもかなりべたべたになっており、縄で周囲を囲んで引きずるしかなかったようだが…相当きついのか、物凄く後悔するような声が聞こえてくる。

そして、その誘拐犯に囚われていた袋の中身の人と言えば…


「ああ、ああお嬢様!!申し訳ございません!!まさか、あのような不遜な輩が堂々と出てくるとは、油断しておりました!!」
「別に良いですわよ、アンナ。貴女の手にはあの時、大量に荷物を持たせていたのが悪かったのですわ」
「それでも、お嬢様を袋詰めにして攫われるとは…」

 ううううっと泣きながら、先ほどまでは般若の形相で追いかけていた女性…メイド服にいくつかの鎧のような装飾品を身に着けたアンナと呼ばれる人は、袋から取り出された女の子に向かって懺悔している。

「助かったのだからそこまで、無く必要はありませんわ。それに…」

 ふと、ジャックが見ていることに気が付いたのか、改めて顔を向ける女の子。

 フワフワとしたドレスを身に纏いつつ、その頭は異世界お嬢様のテンプレの一つなのかと言いたいドリルな髪型を二つ背負っているかのような姿をしている。

「…改めまして、助けてくれたことに感謝しますわ、庶民の方」

 綺麗な所作でふんわりと、彼女はそう礼を言う。

「一応、訳があってお忍びの形ゆえに、名前までは明かせないのですが、それでも救われたのは事実であり、きちんと恩には礼を返す主義ですもの。なので…そうですわね、アンナ、あれを出してほしいですわ」
「はっ」

 ぱんぱんっと手を叩き、すぐさま先ほどまでの号泣般若だったメイドの人がどこかへ走り、すぐさま戻ってきた。

 手にしていたのは、何やら紋章が書かれた一枚のカード。

「これは?」
「それはちょっとした魔道具で、所有者が誰だったのか確実にわかる仕掛けが施されているものですわ。エルメリア帝国関係の店、もしくはその首都内の店で出せば、わたくしの関係者と言うことで全商品半額になりますもの。ドレス以外にも日用品等を扱っているので、そちらを使うと良いですわ」

 エルメリア帝国…確か、グラビティ王国近くにある国の一つで、過去に争うことはあったらしいが、今は友好国として交流を持っている国である。

 そんな国の関係者であり、所作や道具の効果から考えると…いや、これ以上庶民の身であるからこそ、踏み入れないほうが良いかもしれないか。


「わかりました。このようなもの、お礼としていただけてありがとうございmす」
「いえいえ、こちらこそ助けられたのですから当然ですわ。恩には礼を、罪には破滅を、投げつけろというのがわたくしの家のモットーであり、大したことではありませんもの。それでは、ごきげんよう」

 衛兵たちが戻ってきて、事情聴取のために向かうらしい。

 確保したのは自分だが、そもそもなぜさらったのかの目的を聞き出すために向かうようで…ここでひとまず別れを告げられる。

 ほんの少しだけ巡り合った、他国の少女。
 その出会いは風のように通り過ぎていくのであった…











「…お嬢様、本当にあれを渡して良かったのでしょうか。助けていただいたとはいえ、一般市民に渡すには少々、金銭感覚の危うさを招きかねない者かと思われますが」

…ジャックと別れた後、少女はようやく糸から引き剥がして縄で拘束されたという不審者から情報を聞き出すために向かっている中、メイドから問われていた。


「大丈夫ですわ。わたくし、人を見る目ならば、ある程度はあると自負してますもの。彼自身に悪意などもなく、正直な様子からしてバカみたいなことに使わないはずですわ」
「そうでしょうか」
「ええ。それに、アンナ…あの子が使った道具、よく見ていなかったのかしら?あの不審者を捕らえたあの糸…わたくしが今日買った衣服の布地に使われていたものと性質が違えども、同じものが使われていたことに」
「…え?」

 きらりと目を光らせ、そう告げる少女の言葉に、おどろくメイド。

「…おそらくは、何か関係があるものとみて良いですわね。彼とつながりを持っておけば、後々こちらの方も助けられることがあると思いますし、今のうちに多少縁をつないだ方が良いと判断したのですわ」
「そうですか…ええ、ミラージュお嬢様がおっしゃるのであれば、そうかもしれませんね」
「そうね‥‥この、皇女との縁、大事にしてほしいですわね…」

…そうつぶやきながら、少女は…エルメリア帝国の第3皇女ミラージュは先へ向かう。

 今はまだ、小さな縁であり、これから先再会するのかは知らない。
 けれども、どんなものであったとしても、繋いでおけば良いものになると感じたために、少しばかりつなぎを強くしていたのであった…

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