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訪れる学園生活
log-050 どこかにある痕跡
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「…やはり、鎧や剣に残されていた装飾や使用されていた材質を見ると…あのデュラハンの生前は、大昔に滅びたとある聖国で間違いなさそうね」
「それだけで、出身が分かるものなのでしょうか?」
…グラビティ王国の城内、研究調査室。
そこでは本来、各地から集められた珍しいものの解析が行われて、国のためにどうにか利用できないかと日夜研究が行われている場所なのだが、現在、その室内にはシルフィが招かれていた。
「ええ、アンデッドモンスターの着ているものは、基本的には生前のものが使用されているの。よっぽどのことが無ければずっと使い続け、時には自身の魔力で再生をさせて、長期にわたって使用し続けられるからこそ、生前の遺品としての価値があるのだけれども…これだけでも、十分な情報が得られるのよね」
「なるほど…となると、その情報はほぼ正確ということか」
その室内にいるのは、他の研究者たちに加えて、この国の国王もいた。
彼らが何故、この場に集まっているのか。
それは先日、騎士団の一部隊を全滅させることができたデュラハンが従魔としてこの国内にいるのだが、そもそも彼女がどこから来たのかということが気になっていたのだ。
基本的にモンスターは野生で増えたり、突然その地に現れたりするのだが…いかんせん、最近では何かと物騒な話題がいくつかあり、今回の出現も何者かの手によるものかと心配をしていたのだ。
そこで、物凄く物凄く物凄く…何重にも出すほど避けたかったが、モンスターに関しての情報であればこの国ではトップクラスの大問題研究者エルフの彼女を呼び、解析をお願いしたのである。
彼女の目の前には今、その件のデュラハンが来ていた鎧が置かれており、その分析が行われていた。
なお、そのデュラハン…ルミは今、鎧が無くなって裸になっているというわけではなく、他の鎧を借りており、いつもとは違った騎士の鎧を身に纏った姿をしていた。
「デュラハンの鎧が、こうもあっさりと脱げたことも、驚かされたがな」
「この鎧もまた、生き物のように動くのかと…」
「首無し騎士で有名なモンスターだけど、この鎧が本体ではないよ。中身にしっかりとした肉があるからこそ、動けるのさ」
鎧だけのモンスターもいるが、デュラハンは中身があってこそ成立するモンスター。
いつでも脱ぐことができ、やろうと思えば他の物の鎧を奪って常に新しい装備で居続ける…なんでこともできるのだが‥‥
「…だけど、その成り立ちは騎士としてのものが常に成り立つ。野党のようになり下がりたくないということで、過去の事例だと千年ほど頑張って、葉っぱ一枚になっても騎士であり続けたデュラハンもいる話もあったね」
「それはただの変態な姿をしたアンデッドでは?」
「デュラハン要素のイメージある鎧が皆無な時点で、分類して良いのだろうか」
そんな事例はさておき、この鎧を分析したところ、大昔に存在していたとある聖国出身で間違いないらしい。
「かつて存在した…聖女と呼ばれる存在を中心にしていた国だ。でも、歴史の中で悪魔の手によって滅ぼされた国でもある」
「悪魔によってか…」
聖国と呼ばれている国なのに、なぜ似合わないような存在が出てくるのか。
それは、その国の滅亡の原因が…
「…まぁ、長い歳月の中で、腐った体制が出来上がって、欲望に駆られたら愚か者による、悪魔召喚によるものだというありがちな話だけどね。…当時、その聖女を守るための騎士団が、非業の死を遂げたという記録があるけど、彼女の鎧は、その騎士団が使っていたものと似ているようだ」
「非業の死とは、一体」
「目の前で、悪魔の贄として聖女が捧げられ、呼び出された悪魔に贄が足りないということで、喰われたらしい」
「あっさりとしつつ、中々えぐいことをされたようだな…」
目の前で守るべきものを守れず、しかもその命すら足りず、全滅した騎士団。
ルミはその騎士団の着ていた鎧と似たようなものを着ているらしい。
「悪魔に贄にされたものは、その魂は死後も囚われ続けるという。しかし、彼女はどうやらデュラハンになるだけの執念を持っていたのもあり、悪魔の手からも逃げおおせて見せたようだね…あの首の炎もまた、他のデュラハンとは異なる特別製…特異種になっているというべきか」
「特別製の炎?」
「普通のデュラハンの首は…燃えていないんだよ。それなのに、彼女の首からは炎が出続けており、なおかつ熱ではなく冷気を持つ。ほら、ちょっと見て。サンプルとして、このカンテラに少しだけ炎を分けてもらったけど、枝を突っ込めば…」
ピキパキパキィ…!!
「…凍り付いた、だと」
「そう。これは他のあの世の…特に、悪魔によって囚われたものがその身を焼かれつつも凍てつくような寒さを感じさせられるという、魔界の炎の一種。それが、彼女の首の炎さ」
調べていくうちに出てきた、出生の理由。
そして身に宿す炎の特異性からも、通常種とは線を引いているだろう。
「何にせよ、今はまだ敵に回るような位置ではなくて良かったね。これだけの実力のものがいる間に、その力で騎士団を鍛えてもらうほうが良い。…いざという時に、本当に危ないのは間違いないのだから」
「…普段の貴女であれば、それはそれで死の宣告が味わいまくれるかもしれないぜひゃっほぉい、などと叫びそうなものなのに、深刻な表情でそう語るのですか」
「ちょっと待って、私のイメージ、何?通常主相手だったら確かに自ら死の宣告がどのようなものなのか、実体験を積み重ねまくろうとするのは否定できないけどさ」
(((その時点で、色々と思われるような実績があり過ぎるのがなぁ…)))
声に出さずとも、かつて彼女のモンスター講義を受けたことがある面々は、心を一つにする。
正直言って、厄災種とかそういう類よりも、はるかに厄介なのではないかと思うのは秘密だ。
「特に、彼女の使う死の宣告は3タイプあるらしい。不死であれば全タイプをバッチリ我が身で味わいたいけど…出来ないのが残念。誰かが実験台になってくれるのであれば、良いデータが取れるけど…」
ぼそりとつぶやかれた最後の言葉を聞き、その場にいた全員はそっと目をそらし、その誰かにならないように努力する。
別方面で厄災種すらも凌駕するほどの厄介さを持つようなエルフと言われているのは、だてではないようであった…
「それだけで、出身が分かるものなのでしょうか?」
…グラビティ王国の城内、研究調査室。
そこでは本来、各地から集められた珍しいものの解析が行われて、国のためにどうにか利用できないかと日夜研究が行われている場所なのだが、現在、その室内にはシルフィが招かれていた。
「ええ、アンデッドモンスターの着ているものは、基本的には生前のものが使用されているの。よっぽどのことが無ければずっと使い続け、時には自身の魔力で再生をさせて、長期にわたって使用し続けられるからこそ、生前の遺品としての価値があるのだけれども…これだけでも、十分な情報が得られるのよね」
「なるほど…となると、その情報はほぼ正確ということか」
その室内にいるのは、他の研究者たちに加えて、この国の国王もいた。
彼らが何故、この場に集まっているのか。
それは先日、騎士団の一部隊を全滅させることができたデュラハンが従魔としてこの国内にいるのだが、そもそも彼女がどこから来たのかということが気になっていたのだ。
基本的にモンスターは野生で増えたり、突然その地に現れたりするのだが…いかんせん、最近では何かと物騒な話題がいくつかあり、今回の出現も何者かの手によるものかと心配をしていたのだ。
そこで、物凄く物凄く物凄く…何重にも出すほど避けたかったが、モンスターに関しての情報であればこの国ではトップクラスの大問題研究者エルフの彼女を呼び、解析をお願いしたのである。
彼女の目の前には今、その件のデュラハンが来ていた鎧が置かれており、その分析が行われていた。
なお、そのデュラハン…ルミは今、鎧が無くなって裸になっているというわけではなく、他の鎧を借りており、いつもとは違った騎士の鎧を身に纏った姿をしていた。
「デュラハンの鎧が、こうもあっさりと脱げたことも、驚かされたがな」
「この鎧もまた、生き物のように動くのかと…」
「首無し騎士で有名なモンスターだけど、この鎧が本体ではないよ。中身にしっかりとした肉があるからこそ、動けるのさ」
鎧だけのモンスターもいるが、デュラハンは中身があってこそ成立するモンスター。
いつでも脱ぐことができ、やろうと思えば他の物の鎧を奪って常に新しい装備で居続ける…なんでこともできるのだが‥‥
「…だけど、その成り立ちは騎士としてのものが常に成り立つ。野党のようになり下がりたくないということで、過去の事例だと千年ほど頑張って、葉っぱ一枚になっても騎士であり続けたデュラハンもいる話もあったね」
「それはただの変態な姿をしたアンデッドでは?」
「デュラハン要素のイメージある鎧が皆無な時点で、分類して良いのだろうか」
そんな事例はさておき、この鎧を分析したところ、大昔に存在していたとある聖国出身で間違いないらしい。
「かつて存在した…聖女と呼ばれる存在を中心にしていた国だ。でも、歴史の中で悪魔の手によって滅ぼされた国でもある」
「悪魔によってか…」
聖国と呼ばれている国なのに、なぜ似合わないような存在が出てくるのか。
それは、その国の滅亡の原因が…
「…まぁ、長い歳月の中で、腐った体制が出来上がって、欲望に駆られたら愚か者による、悪魔召喚によるものだというありがちな話だけどね。…当時、その聖女を守るための騎士団が、非業の死を遂げたという記録があるけど、彼女の鎧は、その騎士団が使っていたものと似ているようだ」
「非業の死とは、一体」
「目の前で、悪魔の贄として聖女が捧げられ、呼び出された悪魔に贄が足りないということで、喰われたらしい」
「あっさりとしつつ、中々えぐいことをされたようだな…」
目の前で守るべきものを守れず、しかもその命すら足りず、全滅した騎士団。
ルミはその騎士団の着ていた鎧と似たようなものを着ているらしい。
「悪魔に贄にされたものは、その魂は死後も囚われ続けるという。しかし、彼女はどうやらデュラハンになるだけの執念を持っていたのもあり、悪魔の手からも逃げおおせて見せたようだね…あの首の炎もまた、他のデュラハンとは異なる特別製…特異種になっているというべきか」
「特別製の炎?」
「普通のデュラハンの首は…燃えていないんだよ。それなのに、彼女の首からは炎が出続けており、なおかつ熱ではなく冷気を持つ。ほら、ちょっと見て。サンプルとして、このカンテラに少しだけ炎を分けてもらったけど、枝を突っ込めば…」
ピキパキパキィ…!!
「…凍り付いた、だと」
「そう。これは他のあの世の…特に、悪魔によって囚われたものがその身を焼かれつつも凍てつくような寒さを感じさせられるという、魔界の炎の一種。それが、彼女の首の炎さ」
調べていくうちに出てきた、出生の理由。
そして身に宿す炎の特異性からも、通常種とは線を引いているだろう。
「何にせよ、今はまだ敵に回るような位置ではなくて良かったね。これだけの実力のものがいる間に、その力で騎士団を鍛えてもらうほうが良い。…いざという時に、本当に危ないのは間違いないのだから」
「…普段の貴女であれば、それはそれで死の宣告が味わいまくれるかもしれないぜひゃっほぉい、などと叫びそうなものなのに、深刻な表情でそう語るのですか」
「ちょっと待って、私のイメージ、何?通常主相手だったら確かに自ら死の宣告がどのようなものなのか、実体験を積み重ねまくろうとするのは否定できないけどさ」
(((その時点で、色々と思われるような実績があり過ぎるのがなぁ…)))
声に出さずとも、かつて彼女のモンスター講義を受けたことがある面々は、心を一つにする。
正直言って、厄災種とかそういう類よりも、はるかに厄介なのではないかと思うのは秘密だ。
「特に、彼女の使う死の宣告は3タイプあるらしい。不死であれば全タイプをバッチリ我が身で味わいたいけど…出来ないのが残念。誰かが実験台になってくれるのであれば、良いデータが取れるけど…」
ぼそりとつぶやかれた最後の言葉を聞き、その場にいた全員はそっと目をそらし、その誰かにならないように努力する。
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