絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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訪れる学園生活

log-048 その忠義は今ここに

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…モンスターは様々な生まれがあるが、アンデッドに関して言えば、元は人だったことが多い。
 人はモンスターではないはずなのに、どうしてアンデッドの身になるのか。

 一説によれば、その身に宿る思いが何らかの原因で魔に転じて、魔石と化してモンスターへと成り果てる。

 うまいことやれば、アンデッドの身とはいえ死から外れた存在になるのではないかと考える輩も出そうなものなのだが…世の中、そんな単純な話で済むようなことはない。
 人から外れて魔に堕ちたからこそ…それなりの代償も当然存在している。

 その例の一つが…


【…生前の記憶がほぼすべて失われているとはいえ、この身は常に、仕えるべき主を求めていた。そして今、見つけたのです‥‥ジャック殿、貴方こそが我が魂を震わせる、主であると】
【キュルルルルルゥ・・・・】
【‘ハクロ、盛大に威嚇の声を上げているのなの、文字数にして100万以上なの】

 そんな短い言葉のどこに、それだけのものを詰め込んでいるのかはさておき…問題なのは、目の前のことだろう。

 ハクロの知り合いらしい、アンデッドのモンスターの一種、デュラハン。
 そんなものが目の前に来て、いきなり主であると言われたとして、どう対応しろと言うのか。


「えっと…つまり、従魔契約を結びたいと…デュラハンが?」
【うむ、話の分かる主殿だ!!】
【それはもちろん、私の大事な大事な大事な番ですからね】

 言っていることが分かって嬉しい声を上げるデュラハンに対し、素早くジャックの身体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめるハクロ。

 これだけで、大体どのような関係なのか、察せそうな部分がある。

【記憶もなくさまよい続け、それでもなお騎士としてゆえか、この身は主を欲し…この巡り合いは非常に幸運だろう。我にとっての長い旅路が、ようやく終わりそうだ…】

 相当な苦労をしてきたのか、そう言葉にするデュラハン。
 彼女の話によれば、デュラハンとしての生が始まってからずっと、主探しの当てのない旅路が待ち受けていたらしい。

 そして一時期、番を探していたハクロと遭遇し、お互いに探す者同士のモンスターと言うことで、何となくの感覚で一緒に探す旅路を送っていたらしいが…数年前に、わかれていたようだ。

【あの時確か、どこかの巨大な川で、物凄く大きな怪魚に食べられて、そのまま水の中に消えたはずですが…】
【アレはもう、本当に二度目の死を迎えるかと思ったが…思いのほか、胃の中に流れ込むものを再利用できてな。ちょっとばかり生活をしていたのだ。まぁ、その日々も、先日魚がなんやかんやで爆散し、放り出されたことで再び旅をする羽目になったのだがな…】
「どんな面白道中をやっていたの、二人とも」

 道理でハクロと遭遇した時、彼女一人だけだった理由が分かった。
 もしも別れずにそのまま一緒にしていたら、出会いも一緒だったのかもしれない。

【まぁ、そんな話はさておき…ジャック殿、考えてくれないだろうか。我が旅路の終着点…主度として、仕えさせていただけないだろうか】

 色々と話としては気になるが、彼女としてはそっちの方が優先になるらしい。
 従魔契約を結び、従魔にしてほしいようだが…さて、これは簡単にうなずいて良いものなのだろうか。

「カトレアは反対しない?」
【ミーとしては、別に良いのなの。でも…ハクロはどうなの?】
【…】

 彼女の顔を見れば、何とも言いようがない、見たことが無いような複雑な表情を浮かべていた。
 前に僕の考えには賛成し続けるみたいなことを言った手前、反対する気は本当は無いのだろうが…一時期旅をしていた仲間とはいえ、デュラハンの彼女とは何かとあったようで、うなずきづらいのだろう。

【うぐぐぐぐ‥‥で、ですが…ええ、私は、番の意見に賛同しますよ。たとえ、契約を結ぶ相手が度し難いような相手でも…ううっ】
「そんなにつらいなら、無理にやる必要はないけど」
【それは困る!!お願いします、どうにか、どうにか、何とぞ!!すでに死せる身とはいえ、求める主への渇望に飢え、満たしてほしく‥‥!!】
「んー…まぁ、それならしょうがないか。ハクロ、ちょっとまだ納得いかないかもしれないけど…我慢してくれたら、その分の埋め合わせを今度の休日にしてあげるよ」
【良し、結びましょう。文句、ございません】
「変わり身はやっ!?」

 速攻で自身の納得のいかない部分を叩き潰したようで、無表情でそう答えた。
 いや、無表情な時点でまだ思うところは隠しきれないのだろうが…うん、まぁ本当に後でどうにかしてあげればいいかと思う。

「それなら、後は従魔契約を結ぶけど、本当にいいの?主とはいえ、まだ子供だよ」
【いえいえ、我が身を仕えさせてくれるのであれば、その身が例え何であろうとも、魂の震える主殿ノ傍であれば、何の問題もございません】
「それなら…始めるか」

 その場の空気を整え、契約の文言を唱える。
 彼女に与えるべき名前は、何が良いのか考え…それで結ぶ。

 花言葉でも見た目でもなく、このデュラハンには何が合うのか。
 死してもなお主を求め、忠誠を誓う、気高き女騎士には、何を与えるべきか。
 
 死せるものだからこそ、あの世のような名前が良いのか。地獄、黄泉の国…そのまますぎてもちょっと違うし、少し変えたほうが良いか?
 地獄ってヘルって読んだり、黄泉を反対でミヨで…もうちょっと変えるべきか。

 そう考えると…

「契約の文言---『汝、その思いに偽りは無し。契りをかわして、名を与える。汝が拒絶するならば、名は与えられず、それもまた良し。汝に与える名は…《ルミ》。それで、良きか』」

【ルミ…ええ、その名前、我は受け入れよう!!我が主殿に、忠誠を捧げようぞ!!!!】

 浮かんできた名前を足して二で割って、付けたルミの名。
 その名に対してデュラハン…ルミは、受け入れ、従魔契約が結ばれる。

【おぉぉ‥‥ようやく、我が主が…この日を、忘れません…】

 契約印が浮かび上がり、それを見て号泣するルミ。
 どれほどの間、主を欲していたのかはわからないが、嬉しいのならば良いだろう。

 問題としては…

【…キュル、キュルル、キュルルルゥ…】
「…あの発音に、どれほどの言葉が詰まっているの」
【自分自身を納得させ切ろうと、膨大な数が出ているのなの】

…ハクロが少しの間、自分自身を納得させようと、言葉を失った状態になっていることであった。



「そういえば、名前を付けたのは良いけど、本当は生前の名前が分かればそっちのほうが良かったかな?」
【いや、問題は無い。昔の名前も思い出せぬが…主殿に与えられた名前が、我としては優先すべきものなのだ】
【案外、女騎士だから、クッコロみたいな名前だったりするかもなの】
【記憶はないが、そんな名前ではなかったことは断言できる】

…カトレアの言葉に、かなりの真顔で答えたルミ。 
 ここまで否定するってことは、本当にそうではなかったのか、それとも実はちょっと覚えているが、出したくない名前だったのか…無理に聞く必要は無いか。
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