48 / 184
訪れる学園生活
log-045 その居場所はどこにある
しおりを挟む
―――周囲に霧が立ち込め、視界が悪くなってきたのは、王都から少し離れた平原。
周辺には霧の原因になるようなものはなく、むしろこの辺りは普段はさんさんと太陽が良い具合に注ぎ込み、風通しの良いピクニックの場所として知られているはずの穏やかな場所のはずだった。
「しかし…こうも状況が変わるとは…やはり、デュラハンが原因か」
「アンデッド系は、夜分遅くが活動時間だという印象があるのですが」
その霧に包まれた平原を進むのは、グラビティ王国の王都から派遣された騎士団の一つ、ヘビニスト部隊。
分厚い鎧や大盾、大剣に大斧と言った重量感あふれるものを身に纏っており、本来であれば守りのほうに適した者たちである。
そんな彼らがここに派遣されてきたのは…王都に迫りつつあるという、アンデッドの一種、デュラハンに対してのことだ。
「いや、夜間活動は確かにゾンビやゴーストと言った類が行うが…奴らは単純に、太陽の明るい日差しが苦手な弱いものが多いからだ。それに対して、デュラハンやスケールメイルと言った、鎧を着こなしていたりある程度の強さを持った者のアンデッドに関しては、耐性があるらしく、昼間での活動は報告されているらしい」
騎士の一人が行った質問に対して、ヘビニスト部隊の隊長がそう答える。
騎士として働く以上、モンスターから王都を守るための実力も必要であり、求められる知識御ある程度揃えておくのも大事だからだろう。
かつて、あのシルフィの手によって、三日三晩のモンスターに関する教育のたまものであり、昔はやんちゃしていたようだが、いまではしっかりと騎士としての精神を身につけているのである。
なお、そのトラウマのせいで、街中で美人を射かけた時に、思わず恐怖を抱いてしまうため、今もなお独身と言う噂もあるが…それはそれで関係ない話。
「そんなことよりも、今は警戒をしておけ。デュラハンとなればある程度高名な騎士が後悔の成れの果てになったともされる、執念の怪物だ。ある程度の理性は見込めるからこそ、無駄に争う必要も生じない時があるらしいが…死の宣告など、警戒をするところはあるからな」
「アンデッド特攻として、聖魔法を扱える人を連れてこられれば…」
「通常のものならば、それでよかったが…どうもそれに対しての耐性があるものもいるらしくてな。時点で、重量級の攻撃と鉄壁の守りで、相手が出来そうな我が部隊が選ばれたらしい」
できれば恐ろしいものは相手にしたくはないが、それでも彼らは騎士である。
都市に危険が迫るのだとすれば、前に出て留めなくては意味がない。
「っと…どうやら、やっこさんの姿が見えてきたな…」
ふと前の方を見れば、霧の影から姿を現したものがいた。
黒い鎧に全身が包まれており、頭が首の上にはない。
いや、首元から青白い焔が浮かび上がっており、同じ炎が脇に抱え込むような形でフルフェイスヘルメットをかぶっている頭の下から出ている様子がうかがえる。
どうやら目当ての相手…この霧の発生源となったデュラハンのようだ。
デュラハンは普段、こういう霧を発生させることもできるらしく、身を隠して移動するために扱っているとされているだろう。
「さて…まずは普通に交渉で切ればいいが…」
モンスターの中で、デュラハンに関しては元が高名な騎士がなっていたという話があるだけに、実は話が通じる事例もある。
よっぽど凶悪すぎなければ、それだけで戦闘が回避できていいのだが…どうやら相手は、そうやすやすとことを進ませてくれないらしい。
見れば、頭を抱えている腕とは反対の手で、背中から大剣を手に取り、構え始めた。
「…交渉の余地は、最初から無しか。好戦的なだけか、あるいは…いや、考えるよりも、今は戦うことへ集中しよう。お前ら、死の宣告だけは確実に警戒しろ!!」
デュラハンが扱うという、死の宣告。
生き残れる確率はそれなりにあるが、命を落とす可能性があるのならば、警戒しておくに越したことはない。
そして、その舞台はデュラハンと交戦し…その強さを、身をもって味わうことになった。
ガシャァァン!!
「ぐっ…つ、強い…何て、奴だ…」
数分後、そこに立っていたのはデュラハンと、折れた剣を支えにかろうじて立っている部隊長のみ。
他の面々は既に敗れたようで、倒れ伏していた。
だが、命を奪われたわけではなく…圧倒的な実力差で、気を失わされただけのようだ。
いったい何が目的なのか、剣を交えても見えてこないデュラハン。
こちらの命をいつでも奪うことができるはずだが、何か別のものがありそうだ。
そのまま部隊長の横を通り、先へ進むデュラハン。
王都の方角なのでどうにか阻止しようとしても、既に足は限界を迎えている。
だが、それでも情報だけはどうにか得たい。
「お、おい…お前、一体何が目的で…王都に…!!」
【…】
部隊長の問いかけに答える気も無いのか、歩みを止めないようだったが…ふと、気が変わったのか、風に乗ってその声が届けられる。
【…主を、求めて。我が魂が、震える相手を…感じて…】
「…!!」
高名な騎士ということであれば、生前は何者かに仕えていたのだろう。
既に命亡き身になっている以上、その主が今もいる可能性はない。
ならば、この回答は何なのか。
いや、既に回答をしていると言って良いのだろうか。
「…まさか、お前は…仕えるべき相手を求めて…感じて向かっている…だけか」
部隊長の言葉に返ってくるものはなく、そのまま霧が晴れてデュラハンの姿はその場から失せる。
しかし、このやり取りだけでも十分得られたものはあり、確実に伝えなければいけない。
「…ぐっ…う伝えにいけ、ミニマチョポッポ…」
【ポッポー!!】
いざという時のための、伝達手段を騎士団は持っている。
その中には、超小型のマチョポッポを飼育し、素早い伝達を行う手段として有している者もおり、この部隊長もその一人。
聞くことができたその目的をすぐに王都へ届けるために飛ばし、彼もまた他の者たちと同様に、その場に倒れて意識を失うのであった…
周辺には霧の原因になるようなものはなく、むしろこの辺りは普段はさんさんと太陽が良い具合に注ぎ込み、風通しの良いピクニックの場所として知られているはずの穏やかな場所のはずだった。
「しかし…こうも状況が変わるとは…やはり、デュラハンが原因か」
「アンデッド系は、夜分遅くが活動時間だという印象があるのですが」
その霧に包まれた平原を進むのは、グラビティ王国の王都から派遣された騎士団の一つ、ヘビニスト部隊。
分厚い鎧や大盾、大剣に大斧と言った重量感あふれるものを身に纏っており、本来であれば守りのほうに適した者たちである。
そんな彼らがここに派遣されてきたのは…王都に迫りつつあるという、アンデッドの一種、デュラハンに対してのことだ。
「いや、夜間活動は確かにゾンビやゴーストと言った類が行うが…奴らは単純に、太陽の明るい日差しが苦手な弱いものが多いからだ。それに対して、デュラハンやスケールメイルと言った、鎧を着こなしていたりある程度の強さを持った者のアンデッドに関しては、耐性があるらしく、昼間での活動は報告されているらしい」
騎士の一人が行った質問に対して、ヘビニスト部隊の隊長がそう答える。
騎士として働く以上、モンスターから王都を守るための実力も必要であり、求められる知識御ある程度揃えておくのも大事だからだろう。
かつて、あのシルフィの手によって、三日三晩のモンスターに関する教育のたまものであり、昔はやんちゃしていたようだが、いまではしっかりと騎士としての精神を身につけているのである。
なお、そのトラウマのせいで、街中で美人を射かけた時に、思わず恐怖を抱いてしまうため、今もなお独身と言う噂もあるが…それはそれで関係ない話。
「そんなことよりも、今は警戒をしておけ。デュラハンとなればある程度高名な騎士が後悔の成れの果てになったともされる、執念の怪物だ。ある程度の理性は見込めるからこそ、無駄に争う必要も生じない時があるらしいが…死の宣告など、警戒をするところはあるからな」
「アンデッド特攻として、聖魔法を扱える人を連れてこられれば…」
「通常のものならば、それでよかったが…どうもそれに対しての耐性があるものもいるらしくてな。時点で、重量級の攻撃と鉄壁の守りで、相手が出来そうな我が部隊が選ばれたらしい」
できれば恐ろしいものは相手にしたくはないが、それでも彼らは騎士である。
都市に危険が迫るのだとすれば、前に出て留めなくては意味がない。
「っと…どうやら、やっこさんの姿が見えてきたな…」
ふと前の方を見れば、霧の影から姿を現したものがいた。
黒い鎧に全身が包まれており、頭が首の上にはない。
いや、首元から青白い焔が浮かび上がっており、同じ炎が脇に抱え込むような形でフルフェイスヘルメットをかぶっている頭の下から出ている様子がうかがえる。
どうやら目当ての相手…この霧の発生源となったデュラハンのようだ。
デュラハンは普段、こういう霧を発生させることもできるらしく、身を隠して移動するために扱っているとされているだろう。
「さて…まずは普通に交渉で切ればいいが…」
モンスターの中で、デュラハンに関しては元が高名な騎士がなっていたという話があるだけに、実は話が通じる事例もある。
よっぽど凶悪すぎなければ、それだけで戦闘が回避できていいのだが…どうやら相手は、そうやすやすとことを進ませてくれないらしい。
見れば、頭を抱えている腕とは反対の手で、背中から大剣を手に取り、構え始めた。
「…交渉の余地は、最初から無しか。好戦的なだけか、あるいは…いや、考えるよりも、今は戦うことへ集中しよう。お前ら、死の宣告だけは確実に警戒しろ!!」
デュラハンが扱うという、死の宣告。
生き残れる確率はそれなりにあるが、命を落とす可能性があるのならば、警戒しておくに越したことはない。
そして、その舞台はデュラハンと交戦し…その強さを、身をもって味わうことになった。
ガシャァァン!!
「ぐっ…つ、強い…何て、奴だ…」
数分後、そこに立っていたのはデュラハンと、折れた剣を支えにかろうじて立っている部隊長のみ。
他の面々は既に敗れたようで、倒れ伏していた。
だが、命を奪われたわけではなく…圧倒的な実力差で、気を失わされただけのようだ。
いったい何が目的なのか、剣を交えても見えてこないデュラハン。
こちらの命をいつでも奪うことができるはずだが、何か別のものがありそうだ。
そのまま部隊長の横を通り、先へ進むデュラハン。
王都の方角なのでどうにか阻止しようとしても、既に足は限界を迎えている。
だが、それでも情報だけはどうにか得たい。
「お、おい…お前、一体何が目的で…王都に…!!」
【…】
部隊長の問いかけに答える気も無いのか、歩みを止めないようだったが…ふと、気が変わったのか、風に乗ってその声が届けられる。
【…主を、求めて。我が魂が、震える相手を…感じて…】
「…!!」
高名な騎士ということであれば、生前は何者かに仕えていたのだろう。
既に命亡き身になっている以上、その主が今もいる可能性はない。
ならば、この回答は何なのか。
いや、既に回答をしていると言って良いのだろうか。
「…まさか、お前は…仕えるべき相手を求めて…感じて向かっている…だけか」
部隊長の言葉に返ってくるものはなく、そのまま霧が晴れてデュラハンの姿はその場から失せる。
しかし、このやり取りだけでも十分得られたものはあり、確実に伝えなければいけない。
「…ぐっ…う伝えにいけ、ミニマチョポッポ…」
【ポッポー!!】
いざという時のための、伝達手段を騎士団は持っている。
その中には、超小型のマチョポッポを飼育し、素早い伝達を行う手段として有している者もおり、この部隊長もその一人。
聞くことができたその目的をすぐに王都へ届けるために飛ばし、彼もまた他の者たちと同様に、その場に倒れて意識を失うのであった…
42
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私と、仲の良い友人達のお茶会
もふっとしたクリームパン
ファンタジー
国名や主人公たちの名前も決まってないふわっとした世界観です。書きたいとこだけ書きました。一応、ざまぁものですが、厳しいざまぁではないです。誰も不幸にはなりませんのであしからず。本編は女主人公視点です。*前編+中編+後編の三話と、メモ書き+おまけ、で完結。*カクヨム様にも投稿してます。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

その国が滅びたのは
志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。
だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか?
それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。
息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。
作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。
誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。

過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。

冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる