絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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訪れる学園生活

log-38 魔法の可能性

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…夕暮れ時、周囲は暗くなりつつ、学生たちは寮へ戻る。
 一部は前世でいうところの部活をして学園内に残る者もいるが、あいにくながら部活動は学園に入ってから半年後でないと入れない決まりがあるようで、まだ帰宅部である。
 
 何故半年かと言えば、寮に入寮する用意や、長旅になったりする生徒への配慮、その他諸々の事情が存在しているらしいが、急いで入るようなものでもない。
 じっくりと時間をかけて、入りたいものがあれば入れるようにしておけばいいだけの話だ。


 そんなことはさておき、今日はお互いに魔法の授業と健康診断をこなしたことを話し合う。

「そういうわけで、初めての魔法は失敗したけど…まぁ、まだまだ練習していけば、どうにかなるかなと思っているよ」
【なるほど、杖の魔石を媒体に魔法を行うのですか…】
【ミーたちも、杖を使えばできるのかもなの?】
「いや、そこは一応先生に聞いてみたけど、多分ハクロ達なら自前の魔石で出来るから、杖は必要ないんじゃないかな、という意見をいただいたよ」

 かくかくしかじかと魔法の授業の内容を話すと、興味深そうに聞くハクロ達。

 僕ら人間の場合は媒体が必要だが、モンスターである彼女たちであれば、自前の魔石が杖代わりに魔法を使うための媒体になるかもと話を伺っていた。
 しかしながら、世の中そう甘くはないかもしれないという話も聞いていた。

「…でも、出来るかもしれないというわけで、実際のところ可能性は結構低いらしい」
【それは何故ですか?】
「魔法の相性などもあるけれども…ハクロ達の場合、使える分のリソースがないかもしれないんだよ」

 術者の才能や魔石と魔法の相性があるのも原因だが、モンスターが魔法を新たに覚えようとする場合、元から魔法を扱うようなモンスター出ない限り、取得は難しい傾向にあるようだ。

 火を吐いたり、体躯に見合わない翼で飛翔したりするモンスターなどの場合、それらの事象を引き起こすために既に魔石を自然に使っていることが多く、魔法のための分がない可能性があるらしい。

 可能性は0ではないのだが…既に糸や植物の成長などの力を扱えるハクロとカトレアの場合、その使うための方向性が決まっているため、新しく魔法を取得するための分が無いかもしれないのだ。

【むぅ、それは残念ですが…でも、あくまでも可能性ですよね?だからこそ、私たちが使えてもおかしくはないはずです!!】
【ミーも魔法を使ってみたいなの。水魔法とか使えたら、雨が降らない時とか便利なの】

 できない可能性は0ではない。
 そのため、ちょっと試してみることにする。

 ただし、ここは室内のため、危険な魔法は扱いづらいく…そのため、授業の時と同様に、水球を作ってみることにした。

【えっと、イメージが必要で、魔石にこう働きかけて…むむむむ…】
【なのなのなのなのなの】

 ぐいーっと体を捻ったり、曲げたりして、出るようなイメージを固めるが…うんともすんとも変化はない。

【はぁ、駄目ですね。私たちでは、魔法が使えないようです】
【残念なの。水は根っこで、地下からくみ上げる方式で我慢するなの】
「それはそれで、魔法じゃないとはいえ凄いことのような気がするけどなぁ…」

 残念ながら、彼女たちの手では魔法は扱えなかったようだ。
 まぁ、使えたらそれはそれで面白いのかもしれないが、彼女たちはモンスターとしての能力は十分並外れたものを持っているので、それ以上の高望みをしないほうが良いのだろう。

「やっぱり、自分が魔法を扱えた方が良いけど…むむ、杖を使ってもまたぽんっとはじけるか…んー、魔法との相性が悪いのか、あるいは魔石の方なのか…どっちにしても、今は無理なのかな?」

 ハクロ達の行動を見つつ、ジャックもまた授業でもらった杖を使って試みたが、不発に終わる。
 この様子だと、魔法の未知はあきらめたほうが良いのだろうか。

【魔法の相性が問題なだけなら、別の属性の物を使ってみるとか…ああ、いっそ、杖の魔石代わりに私の魔石を使いましょうか?今、掻っ捌いてちょっと砕いて…】
「そこまでやらなくていいよ!?室内を惨劇の場に変える気!?」
【えー】
【その体躯からの大出血は、シャレにならないのなの…あ、そうだ】

 ハクロが残念そうな顔をしつつも行わないようにジャックが抑える中、ふと、カトレアが何かを思いついた声を上げた。

【それ、ありかもなの、ミーたちの魔石、使わせるという方法】
【え?でもお腹を掻っ捌いて出す以外は…】
【要は媒体になればいいってことなの。つまり…ミーたちに密着してもらって、ミーたち自身が魔石の力をどうにかコントロールして、手助けすればいいのなの】
【…なるほど、その手がありましたね。媒体にするのなら、私たち自身が杖代わりになればいいと】
「あー…確かに、それならいける…のかな?」

 彼女たちの体内から魔石を抜き出す方法はやめて、杖代わりの感覚で扱えばいいのではないか。
 そう思いついたカトレアの考えであれば、先ほどのハクロのものよりは穏やかな方法だろう。


 なので、思い切ってその方法で試してみることにした。

「といっても、どういうのが最適かわからないから…二人とも、手を握って」
【わかりました】
【わかったのなの】

 杖じゃないからこそ、どうやってやるかは模索する必要があるため、まずは手をつないでみる。

【ふふふ、ジャックの手が暖かくて…このままにしたいですが、今は魔法の方が先決ですね。えっと、魔石魔石…糸を出す感覚でやれば、伝わるのでしょうか】
【ミーも、木の実を育てる感覚でやるのなの】
「そこに、魔法をイメージしてと…」

 うまくいくかはわからないが、出来たら儲けもので、そうでないならそれはそれで諦められるから良い。
 そう思い、先ほどと同様に水の球を…

ゴボン!!
「…できちゃった」

…先ほどまで杖を使っても、失敗していた魔法。
 それがたった今、彼女たちの協力を得てすぐに、水球を目の前に出現させられたのであった。

【おお!!凄いです、握りこぶしほどの大きさの水の球が、浮かび上がりました!】
【これが魔法…でも、一つ、いいのなの?】
「何が?」
【ジャック、あなたのイメージ、一つだけの水球だったのなの?それとも…ミーたちの前に浮かんでいるのは3つあるけど、このイメージなの?】
「…あれ?確かに、一つだけしか思い浮かべていなかったような…】

 数がおかしい、一つだけしか思い浮かべなかったんだけど…
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