絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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訪れる学園生活

log-034 春風と嵐の前触れと

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…学園生活は、早々にしてちょっとばかりの出来事がありつつも、順調に進む。

 ハクロとカトレアが時々臨時の教師手伝いとなることになったが…まぁ、それは一応予想できる許容範囲内のこと。
 教会での教えや、トレントからの記憶の引継ぎを考えれば、おかしなことではないだろう。

 なので、そういうことをすることに関しては僕から言うこともなく、彼女たちの自由にすればいい。

「でも、成績操作とかはやめてね。そこは公平に、お願い」
【わかりましたよ、ジャック。できればジャックだけ満点にしたくもありましたが…】
【肩を入れすぎると、他の育たない、わかっているなの】

 変なことをさせないようにしていけば、大丈夫のはずである。
 ただ、問題を上げるのであれば、モンスターを相手にして素直に教わる生徒がいるのかと言えば…


ガァァァン!!
「ーーーくそっ!!全然剣が当たらねぇ!!」
「それどころか、素手で弾かれたのが心に来るんだが!?」

ぶわっつ
「ごふぶぇぐじょんかゆいかゆい鼻水と目がぁぁぁ!!」
「うぐぐぐぐ、甘い香りが眠気がぁ…ぐぅ」

【…学園内だからこそ、真正面からの勝負を挑まれたら一応、受けられるときは受けますけれども】
【全員、まだまだなの】

…体育の授業内、剣術の時間。
 正面からハクロ達に挑む生徒たちがいたのだが、悲しいことに相手になっていない。

 糸で弾かれ蔓でぶっ飛ばされ、素手で剣をへし折られ花粉で目と鼻をやられる。
 そもそもモンスターゆえに基本スペックが人以上のものを持っているというのもあるが…一応、怪我を刺させないように加減はしてもらっているはず。
 それに、彼女たちの得意技はどれも後方支援向きの様なものばかりのはずなのだが、それでも勝てない生徒が多いようだ。

「というか、カトレアの場合、あの東門の騒動以外の戦闘経験はないんじゃ?その割には、やけに手馴れているような」
【ミー、しっかりと知識受け継いでいるなの。その中に、戦い方に関しての内容もある程度あったのなの】
【経験自体は乏しいですが、トレントの知識は膨大だった分、ある程度補えるのでしょう。まだ未熟な部分もあるので、鍛えればより強くなれそうですね】

 実際に体験した内容はないが、トレントの方から受け継いだものが大きかったのだろう。
 体験がない部分は弱みとなるが、それも時間が立ち経験を積めば十分補えるようになってくるはずである。

【ハクロも強いのなの。蜘蛛、基本的に罠を張って待ち構える方で、白兵戦のイメージがないのなの】
【私、罠も張りますけど、自力で動いて仕留める派なんですよね。なので、そこそこ獣等の相手で戦いは慣れている方なのです】

 ふふふっと美しく笑いあう少女たちだが、その周辺で死屍累々のように倒れている他の生徒たち。
 実力差があり過ぎてぶっ倒れつつも、少々花粉などで悲惨な惨状になっていても、傷はついていない様子。

「こ、これで加減されているのか…」
「恐るべし、モンスター…こういうのを日夜相手にしている冒険者とか、憧れるかもしれない」
「でも、そうでなくとも強い少女たちって良いかもしれない…やべぇ、何か見えそう…」

 やる気盛んな様子で挑みつつも、圧倒的実力差で倒されたことによってか、素直に負けを認めて、受け入れる人も多い様子。
 何かしらの扉を開いてしまった人もいるようだが、そちらは後ほどそっと閉じてもらうことにしよう。




 とにもかくにも、授業を経ていく中で、彼女たちは次第に受け入れられていった。
 人とは違うモンスターだが、その心のありようは僕らと似ているのもあるし、次第に親しみを持たれていったようだ。
 
 生活する中で、この親しみやすさというのは、大きなものだ。
 村で受け入れられていても、より多種多様な人が集まる場所ではどうなのかという不安もあったが、どうにかなっている様子。




…しかしながら、それでも完全に敵意を持たない人というのは0ではない。

 それに、人が多い王都だからこそ、情報というのも素早く流れるものである。

 だがしかし、ましな敵意に関しては…彼女たちに関しての情報をひょんな筋から得てしまったとあるヤバい存在が潰していた。
 王家や上層部が動くべきことなのだろうが、この時ばかりは彼女たちがモンスターであるがゆえに、そちらの方が優先されたのだろう。



 敵意に晒されて姿を消されるのが困るからこそ、やる時はやるのだ。
 ただし、それがきちんと身に返ってくるかと言えば、そうでもない。

「でも、でも、でも…何で貴族用の学園のほうに入ってないのぉぉぉぉぉ!!請け負っているのがこっちだから仕方が無いけど、今から移動してもダメでしょうか!!」
「ダメです。貴女の過去のやらかしによって、人事異動は認められておりません。後悔するのであれば、その行いに関してしてください」
「うぐわぁぁぁ!!何をしでかしているんだ過去の私はぁぁぁ!!」


…グラビティ学園、貴族用の学園の職員室内。
 そこではとある教師が全力で平民用の学園への異動を願っていたが、その願いはかなえられなかった。

 何故なのか、答えは単純明快。
 過去にしでかしたことが大きすぎて、貴族用だからこそぎっちぎちの監視体制がおけるこの学園内で留まるように言われているからである。

 そんなものならばどこかへ放逐してしまえばいいのではないかと思うのだが…目を離せばそれはそれでやらかすために、むしろ人の目が届く場所にいたほうが都合が良いのである。
 ある意味、厄災種のモンスターよりもたちが悪い。

「それでもまぁ、自ら接近せずに、この地から去られないようにするために、厄介事を引き起こしそうな人を見つけては、問答無用で三日三晩語り尽くすのは良いでしょう」
「む?それは当たり前のことだろう?モンスターのすばらしさとは何なのか、語り尽くすことで共感を得てもらい、自然と敵意を無くしてもらうだけなのだが…」

 何やらそれぞれの認識にずれがあるが、突っ込まないほうが良いだろう。
 目の前の相手の監視役を任されている者はそう思いつつも、注意はしておく。

 悪い人ではない。それでも、総合的にやらかす度合いを考えれば…何とも言えなくなる。

「…一応、今後は語り尽くす前に報告をお願いしますね。こちらの方で事前に、対処できますので」
「え?でも話すことで共感と感動を」
「三日三晩、この時間を無駄に使い過ぎるおかげで、仕事が溜まってますよ」
「…ハイ」

 ぎろりと強く睨まれて、物凄く思いの籠った言葉で言われてしまえば、黙るしかないだろう。
 素直に従ったほうが良いと、貴族用学園の、モンスター学の教員、シルフィはそう答えるしかないのであった。


「ううっ、過去の私が何もしでかさなければ、今頃順調に超珍しいモンスターとのあははでふふふなふれあいと観察と知識の更新が…」
「過去どころか今もしでかしそうなのですが、本当に反省されてますか?」
「ええ、しっかりと。やらかしの一つ、長の毛根大量絶滅事件は特にね。アレは…ええ、流石に申し訳なさすぎて…まさかポイズンマッシュキングの胞子が寄生して、毛根を…」
「…痛ましすぎる事件でしたね」

 



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