絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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王都への道のり

log-032 職員の胃は無敵ではない

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―――グラビティ王国、王都支部冒険者ギルド。

 そこは、王国内でも最大の規模を誇り、多くの冒険者が存在する場所。
 基本的には小遣い稼ぎの依頼を受けるための副業として登録する人も多いが、それでもやれることは多く、素材採取、討伐依頼、護衛等々、行うものは多岐にわたる。

 一見すると便利屋や何でも屋と呼ばれるような類に近いが、内容によってはハイリスクハイリターンな面も見え隠れするため、それに対してどこまで踏み込めるかが人によって異なるだろう。

 そんな中で人気があるのは、従魔契約をした冒険者からの納品作業である。

 モンスターは一度討伐してしまうと、その素材を提出してからは再び得ることが難しくなるが、従魔契約を結んでいるモンスターであれば、生きている限り素材を提供してくれる可能性が高い。

 定期的ではないかもしれないが、それでもモンスターの素材は通常の他の獣などの類からとれるものと比較してかなり高い性能や質を誇っており、利益としてもかなり良い。

 そのため、敵対する相手ならば討伐はやむを得ないが、素材をもたらするようなもので従魔契約が可能ならば、出来る限り将来的な利益を考えて行ってほしいという暗黙の了解もある。



 そんな中で本日、この王都支部内のある受付嬢は…かなり重大な責任を負わせれる羽目になってた。

 
(…いやいやいや、ギルドマスターから話は聞いていたけど、この素材を扱うのはかなり大変じゃないかな!?)

 ギルド受付職員として勤めて、10年目の受付嬢ロリンは今、目の前に納品された素材を見て、内心叫んでいた。

 受付を行って経験を積み重ね、ベテランとして良し悪しに関する目利きはできるようになってきた。
 そのため、今回の話…何やらギルドに初納品される品物の対応を行うように任され、緊張しながらも対応を行ったのだが、出されたものが心臓に悪い。

【えっと…これで、大丈夫ですよね?】
【ミーの果物、ここで換金できるのは楽なの!】

 そう言いながら受付の前にいるのは、美しい女性と少女の姿をしたもの。
 しかしながら人ではなく、それぞれ異なったモンスター…ギルドにて登録された資料ではアラクネとアルラウネということだが、納品された素材の良さがあり過ぎた。

 まず、アラクネ…ハクロとしての名前で登録されており、王城からの極秘対応指令が記載されていたものだが、どうやら厄災種と呼ばれるもので、その能力は未知数な部分が多い。

 そんな彼女が提出してきたのは、糸の束だが…きらめくような色合いをした束であり、下手をすれば相当な金額になるのが目に見えるだろう。
 そのうえ、通常の糸ではなく、アラクネ…蜘蛛のモンスター全般に言えることだが、彼女たちが出す糸は相当な強度を誇り、並大抵の武器では傷がつかない衣服の様な超軽量の防具を作成出来たりと、用途が非常に多く、価値が高い。

 一方、アルラウネ…カトレアという名で本日登録された彼女のほうは、何種なのかはまだ不明らしいが、提出された木の実が超高級食材に値するものだった。

 こちらはこちらで、負けず劣らずの素材の価値があり、料理人の類であればぜひとも手に入れたくなるようなものも混ざっており、高級食材のごった煮と化している。


(個人的には、どっちも提出してくれるのは良いけど…これを査定する方が、大変なんだけど―!!)

 価値と言うのは、付けるのが難しいモノ。
 需要や供給、季節や流行等、様々なバランスを考慮し、適切な値で対応しなければならない。
 
 ベテランの域にあった彼女でさえも、どう対応すれば良いのか悩まされるほどである。

 見積り切れないならば、値段を引いて…という手もあるが、ギルドの方針で不正は許されない。
 こういう場面でこそ、より適した基準が欲しくなるのだが…いかんせん、相手が相手なので、こっそり目で助けを求めるも、他の職員たちはそっと目をそらす。

(は、薄情者ぉぉぉぉぉぉ!!)







…受付嬢が心の中で、次は絶対に他の人に押し付けると心の中に刻み込んでいたその頃。

 ジャックは今、従魔登録での詳細部分をに関して手続きしていた。

「名前の登録までは簡易的なもので良いけど…せっかく来たのだから、やれるところはやっておかないといけないからね」

 ハクロに関しては、村長経由で大人たちに任せた部分もある。
 しかし、カトレアに関しては道中で契約をしたのもあって、このギルド内でしっかりと本登録を済ませる必要がある。

 大人たちがいないので、自力でやることになるのだが…その間はちょっと彼女たちに構えない。

 そのため、ギルドに有った従魔からとれた素材を買い取れる仕組みがあることを確認して、今はお願いしてそちらに向かってもらっていた。

「えっと…とりあえずこれで、書類に不備は無いですよね?」
「どれどれ…ええ、問題ないですね。この内容で、登録を進めます。登録カードを発行しますので、しばらくお待ちください」

 受付に提出し、内容を確認してもらい、作業はほぼ終わりを迎える。
 従魔契約による契約印があるとはいえ、それでも何かしらの目的で不正を狙う人もいるようで、その対策として発行する必要があるとのことで、こういう証の類が発効されるようだ。

「しかし、そういう不正ってあるんですかね?従魔契約をすれば、契約印があるのに」
「それが、意外とあるんですよ。こういう従魔からの素材納品による利益を求めて、他の人の従魔を勝手に連れ出して素材を抜き取ったり、あるいは違法な手段で契約していないのに契約しているふりをしてかいくぐろうとしたり…犯罪者の悪知恵と言うのは、いつの世も移り変わり、対策をしていても抜け道を探ってやらかそうとする人が出るのは防ぎきれませんからね」

 ギルドの職員でも辟易するほど、やらかす人はいるようである。
 そのたびに対策を立てても、悪知恵で抜け道を見つけだし、そこから入り込むとする人が出るのは悩みの種のようだ。

 今もこの契約をした所有者の証が発行されるようになっても、偽造を行おうとしたりとする人もいるので、年々アップデートして対応するしかないようである。

「偽造対策に魔法契約、精霊契約、なども検討されてますが、いかんせんこちらはこちらで難しいところもあり…大変なんですよね。なので、もしも新しい従魔を契約したら、すぐにギルドへの登録を行うように心がけてください。人によってはうかうかしている間に、奴隷の首輪を無理やりつけたりする違法行為をするなどありますからね」
「わかりました」

 様々な手続きを経て発効されつつ、注意も確認する。
 まぁ、今の彼女たちだけで十分だし、増やす予定もないが…しっかり、そこは覚えておくとしよう。

「ああ、それとついでであれば、冒険者登録も行っておきますか?学生であれば、小遣い稼ぎのバイト感覚で、学生用の簡易依頼も受付できますからね」
「あー…じゃあ、それもついでにお願いいたします」

 できれば安定した生活を送れるようにしたいが、小遣い稼ぎもちょっとしたいいところ。
 なので、ついでに冒険者登録もやっておくのであった…


「ところで、簡易依頼って具体的にはどのようなものがあるのでしょうか?」
「基本的には王都内の住民の困りごとの手伝いなどですね。庭の草むしりや、屋根の清掃、限定販売品獲得のための代行行列等、色々とありますよ。ただし、中には微妙なものがあるため、そのような物は簡易には流さないようにしています」
「どういうものが、簡易に流れないのでしょうか?」
「激マズ飯製造機の名称で知られる方からの味見依頼や、貴族寮からの宿題代行ですね」

 後者はまだいいとして、前者のその名称は人につけて良いのか。

「昔、冒険者を副業としていた時に興味本位で受けて…ブタザルガニの雑草煮込みを…うぐっ…」

…前言撤回。そういう危険があるなら、確かに簡易の依頼には流してはダメだろうなぁ。いや、まず誰だ、そんなものを出したの。

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