絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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王都への道のり

log-020 旅する道中、平穏はいずこに

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「はいよタゴサーーック!!疾走だぁぁ!!」
【グマグマグマァァ!!】

 ガンゴードさんの声に応えるように、どすどすと足音を響かせてタゴサックが駆け抜ける。
 鈍重そうな音で、馬よりは遅いと聞くが、それでも十分な速度を出しているだろう。


 村を出て2日目。
 道中は今のところ平穏無事であり、変わったことはない。

 しいて言うのであれば…

ドドドドドド!!
【やっぱり、並走して走ったほうが良い運動になりますね!!馬車の中でじっと座っているだけだと、なまってきますからねー!!】
「ハクロ、疲れたら馬車の中に戻ってきてね」

 横を並走しているのは、タゴサックよりも早い速度で駆け抜けられるハクロ。
 抜かせはするのだが、そこは進行を考慮して抑えているらしい。


 大きな幌馬車なので中に入ってもゆったりと休めるが、座りっぱなしよりも動かしたほうが体が楽なようだ。

「蜘蛛って罠を張ってじっくりと待つイメージもあったけど…ハクロの場合、それが出来なさそう」
【いや、できますよ?私だって、罠を仕掛けて待つ時がありますけど…正直、自分で動いたほうが早いなって時のほうが多いので…】
「ああ…」

 なんか、納得できた。
 確かに、彼女の実力ならば、獲物に対して待つよりも動いたほうが早く仕留められるだろう。


 そんなことはさておき、馬車はガタゴトと揺れつつも、王都へ向けての道は順調な様子。
 こういう旅路だと道中、賊やモンスターに襲われたりするのが定番みたいだが、今のところその様子は見られない。

「はっはぁ!今回は中々順調な方だな。いつもだったらヘルドッグズ等が出てくるが、今回は見ないからすごく楽だ」
「本当なら、ちょっとは姿を見せるのですか?」
「そうだ。群れで狩りをするモンスターからすれば、人間なんぞ弱い獲物だからな。狙おうと思えば狙ってくるが…タゴサックもそうだが、そのハクロの嬢ちゃんがいるのもあってか、大抵の弱っちい奴らは襲う気もないようだ」

 タゴサックの見た目で周囲を威圧しているのもあるが、ハクロの強さも合わさってか、かなりのモンスター除けの効果を出してしまっているらしい。
 簡単には手出しができないと悟って、襲ってこなくなるようだ。

 その代わりに、そんなものを気にしないのが賊たちだが…そちらも見える気配がない。

「ふむ、出てきてもおかしくはないが…まぁ、まっとうな賊ならこの馬車を狙うよりも、もうちょっと手薄な方を選ぶだろうな。うちのタゴサックと真正面からぶつかるのは得策でないと判断するのだろう」
「確かに、見た目が熊の相手は絶対にしたくないな…」

 馬ならまだしも、バリバリに熊の見た目。
 馬扱いされているとはいえ、どう見ても異形の熊の怪物にしか見えないため、得体の知れなさのほうが勝るのかもしれない。

 賊にまっとうな輩がいるかはさておき、命が惜しければ襲わないのだろう。
…ハクロの容姿に釣られる輩はいるかもしれないが。


 それでも、現在のところ進路に異状は無し。

「とりあえず、このまま順調に進めば、夕暮れごろにはボボン村について、今日はそこで一泊することになるぞ」
「ボボン村?」

 馬車の道中、何もずっと野営をし続けるわけではない。
 王都までの間にはいくつかの村や町が存在しており、そこを経由して進むのだ。

 その方が、夜中の警戒などをする必要も少なく、物資が足りなければ補給も可能。
 場合によって宿屋に泊まったりなどもできるとのこと。宿泊料金もかかるが、それは国の負担になるので、可能であれば体を休めやすい場所に泊まるほうが良いようだ。

 そんな休憩ポイントの中で、存在しているのがボボン村という村。
 やけに変わった名前の村だと思ったが、特産品に理由があるらしい。


「ここは、ボボン酒で有名だからな。酒飲みにとっては寄りたい場所の一つだ」
―――
『ボボン酒』
酒精が非常に強く、一口飲めば口の中でボボンっと爆発したような衝撃を受けるお酒。
それが癖になるという理由で人気があるが、残念ながら輸送中に酒精が抜けやすいという性質も持つため、原酒本来の味を楽しむにはボボン村内でしかできないという。
―――

「残念ながら、お子様には酒は味わえないが、その代わりにボボンジュースという子供向けのものもある。それを飲むのが良いだろう。ハクロの嬢ちゃんは…そもそも、酒が飲めるのか?」
【飲めないことは無いですが…話を聞くと、ちょっと苦手な感じですね。私としては、ゆったりと落ち着いた感じのものが好きですからね】

 となると、ちょっとばかり残念な場所でもあるだろう。
 それでも、もしかしたら将来的には僕自身も飲むかもしれないし、今はどういう反応をしているのか、他の人の姿を観察するのもありかもしれない。




 そう思いながらも、馬車は進み…そして、予定通りに夕暮れ時、ボボン村に

 話を聞く限り、酒飲みの好む場所であり、酒を求めて人々が集うからこそ、賑やかな光景を想像していた。
 しかし、現在目の間に広がっているのは…


「…何だこりゃ、どうしたことだ?やけに、村の中が静かだが…」
「薄暗くなってきたけど、明かりも何もないよ」
【人の気配が全く感じられないですね…】

 賑やかさとはかけ離れた、静まり返った村。
 いや、そもそも人自体がいなくなっているようで、空っぽの場所になっている。

「おかしいな、いつもならば酔いの音楽と酒飲みの合唱が聞こえてくる村だが…一体、どういうことだ?ここにいたやつら、どこへ行ったんだ?」

 知らない間に、何かしらの賊にでも襲われたのか。
 それにしては争った形跡もなく、どこかが燃えていたり壊れていたりするようなものは無い。

 でも、その代わりに他の痕跡はあった。

【ん?】
「どうしたの、ハクロ」
【何かこう、村全体に…変な臭いがしますね。だいぶ薄れていますが…】

 すんすんと嗅ぐように、ハクロがそう口にする。
 何かの臭いが残っているようだが、それが何なのかは不明。

【グママ…】
【ええ、これは人間には感じにくい薄さですね。ですが、私たちモンスターにはわかります】
「ふむ、人間には分からないような臭いか…まさか、何かの薬か?」

 消えた人影に、怪しげな臭いの痕跡。
何やら平穏だった道中に、妙な影が忍び寄ってきたようであった…
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