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運命の結びつき

log-016 悩みつつも覚悟を決めれば

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…ゴブリンたちが討伐されて、ギルド内では招集された面々は帰還することになった。

 大規模討伐になるかと思ったら、どうやら全滅したらしいという一報を受け、戦わずに済んで胸をなでおろす者や、物足りない顔をするものなどがいたが、それでも全員どうにか納得して去っていった。

 表向きはこのような理由になったのは…

「流石に半日もしないうちに、たった一匹のモンスターによって、人為的に強化された可能性のあるモンスターを全て叩きのめしたなんて事実、下手に広めるわけにもいかないか…」

 その事実を知っているのは一部の冒険者と、ギルドの上層部。
 そして国のほうに挙げられて、報告を聞く羽目になった国王含むその他臣下たちだったが…正直言って、頭が痛い問題である。


 百歩譲って、ハクロという名の厄災種のモンスターが暴れるだけ暴れて、群れを潰したことは良いだろう。
 かなりの大ごとになっていたことだし、周辺への被害の可能性を考えると、すぐに消してくれたのはむしろありがたいほどである。


 だがしかし、その中でも今回、一番問題視されたのは…人為的なものがあるということだ。

「ゴブリンに何者かが力を与え、異常なものにしたと…異常種と呼ぶべきものを、人為的に発生させた大馬鹿者がいるということか」
「あいにくながら捨て駒感覚というか、気まぐれで与えられたようなもので、情報を絞り取ろうと思っても、肝心のゴブリンには重要な情報がなさそうだったということか…引き出す前に討伐したようだが、生け捕りにしたところで大した結果がなさそうなのは目に見えているか」
「人為的に、このような群れを…しかも、モンスターの中でも弱い方のゴブリンがこれだけの力を持つことができたとなると、他のモンスターの場合、より厄介なものになるか…」

 ううむと頭を抱え込む者たちが多いが、それだけの厄介事であるということを否応なく認識させられるだろう。
 
 今回はまだゴブリン程度で良かったことなのだが、この様子を見る限り、事態を引き起こした黒幕がどこかにいるという事実が存在する。

 すぐに行動を起こすかは不明だが、やりようによっては国に対してとんでもないほどの被害を起こすことが可能だろう。


 
 そのため、出来るだけ早く元凶を捕まえたいが…あいにく、その証拠は残っていなかったようだ。

「全滅したゴブリンたちの解体及び調査が行われたが、手掛かりになるようなものはなかったか…」
「群れの原因となった、力を与えられたゴブリンの体内からは、異常な魔石が出てきたようだが、それでもつながるものではないと」
「いったいどこの誰がこんなことを…次はどこでやるだろうか」

 ああだこうだと話し合っても、良い意見は出てこない。
 群れの討伐に関しての情報は得られても、元凶への情報が無いからだ。

「とりあえず、今はそのような元凶がいるということを念頭に置いて、警戒していくしかないだろう。捕まえようにも手掛かりがない今は、どうしようもない」
「危険が迫ることがわかっているのに、対策をすぐに取れないのはもどかしいところだな…」

 何も情報が無い今は、警戒することしかできない。
 そのことがとてももどかしく感じ取れ、悔しく思う。

「しかし、警戒していたとしても、同様の事例が起きた場合…今の、国の守りで大丈夫だろうか」
「冒険者たちの強さも住む場所もバラバラですし、いざという時に備えにくいですな」
「なに、こういう時にこそ騎士団が存在するだろう」
「しかし、それでも何かこう、一つの安心感も欲しいところだな…」

 本当にヤバい相手が出てきたときの、何かしらの保証が欲しい。
 しかしながら、そう都合のいいものは無いのだが…その中で一つ、思いついたものがいた。

「…ふと思ったが、要はいざという時のカウンターとなりうるような力が欲しいということだな?」
「そうだ。しかし、その力はこの国には…」
「それこそ、例の厄災種を使えないだろうか?」
「「「…」」」

 …例の厄災種…今回の一件で手柄を立てたモンスター、ハクロという名の者。
 彼女の強さは証明されているようで、確かにいざという時には厄災種としての力は非常に頼りになるだろう。

 だがしかし、そううまく動くかが保証できない。

「無理だろう。情報によれば、彼女が最も優先するのは愛する者…番となっているジャックという名の少年に対してだけだ。国を守れと命令しても、従う気はないだろう」
「過去の厄災種の事例では、強制的にやらせようとした結果、国が一つ大穴に沈み、湖になったというのもあるようだ」
「ああ、それはそうだろう。厄災種…狂愛種と呼ばれるがゆえに、愛に生きているモノだからこそ、愛の対象以外は守らなくてもおかしくはない。しかし…強制的になるようなものでなければいいのでは?」
「む?どういうことだ?」

 その提案に対して、誰もが疑問符を浮かべる。

「簡単な話だ。その番となっている少年を…流石に国全体は厳しいだろうが、この王都内にどうにかして居住させるようなことができれば、もれなくその厄災種も一緒に住まうことになる。そうなれば、万が一の非常事態が起きたとしても、その少年が住まう場所な以上、可能な範囲になるだろうが…それでも、国丸ごとが、その黒幕に対して沈むことは避けられるだろう」
「なるほど…無理やりではない方法で、ここにか…」
「その案は良いかもしれないが、永住は無理だろう。その少年が村に帰ったりすることもあるだろうし、成長すれば他国へ出向く可能性も十分にある」
「それはわかっていることだ。人はその地に住まうとなっても、永住するかどうかまでは本人の意思があり、強制すればその厄災種の怒りを買う可能性だってある。だからこそ、その少年をここに来させて数年ほどだけでもどうにかしていてもらい…その間に、我々がどうにかして解決すれば良い話だ」
「…ふむ、試す価値はあるか」

 うまくいかない可能性だってあるし、数年以内に解決できないかもしれない。
 それでも、多少の期間だけいざという時の備えになるようなものがあるというのは、非常に心強い支えになってくれるはずである。

「その方法を行うのであれば、限られた期間で命がけでやり遂げる必要があるが…やれるだろうか」
「やってみなければわからない、未知数のもの…悲しいことに、保証はしきれないゆえに、場合によっては期限が来る前に、その厄災種すらも打ち倒すような輩が出てくる可能性だってあるでしょう。しかし、何も最初からやらないよりも…やれるだけのことを徹底的にやることに、意味があるでしょう」

 ここで何もできなければ、結果は見えているだろう。
 だからこそ、せめてもの抵抗として行えるのであれば、少しでも人への被害を減らすようにして、解決への道筋を手繰り寄せることが重要なのだ。


「ならば、やってみることにしよう。過去に初代国王も言っていたことに近いが…やらない善行よりも、やる偽善によって救われることもある。今回は善行ではないが、試すだけ試すのが、一番だろう」

 提案されたその案が採用され、すぐに彼らは動き始めることにしたのであった…



「…ところで、その少年をこの王都の方へ住まわせる方法としてはどうするのだ?」
「そう難しい問題ではございません。何事も今ある制度を利用すれば、うまくいくはずです」
「ふむ…失敗したら、責任はどうとる?」
「全力で爵位及び全財産を国へ献上し、辺境の国境警備隊のものにでもなりましょう。そのぐらいの覚悟が無ければ、国を守るこの役職につけませぬからな」

…覚悟があるからこそ、その方法をかけてみる。
 何をもって失敗とするかは様々なものがあるだろうが…だからこそ、少しでも民を思うのであれば、やれるだけのことは行うのである…
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