絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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運命の結びつき

log-014 愛無き獣は愛ゆえに呪われしものに

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―――振るえ、その力の赴くままに。
 与えたその力をどう使うかは、君次第だよ―――



…そう告げられ、ただのゴブリンに過ぎなかった自分に対して、から与えられたのは、強大な力。
 仲間内でも弱いものとして見られていたのに、与えられた力をほんの少し使っただけで、やつらは容易く支配に置かれた。

 ああ、気分が良かった。
 自分をこれまで見下していた、力あるやつらが堕とされる様子を見るのを。

 それだけではない。他の群れにも手を出し、同族を次々と軍門に下らせ、群れが大きくなっていく光景はそれだけでも心地が良かったのだ。


 だからこそ、より多くの快楽を得ようと思うがままに力を振るってきた。
 与えられた力を好きに使って良いのならば、欲望の赴くままに使うだけ。

 そのうち、同種だけでは飽きてきたので、ここからより範囲を広げて…他の者たちすらも手中に収め、全てを得ようとした矢先に…悪夢は突如として、現れた。



 噂には聞いていた。最近、逃げ出したゴミ共が何者かにかられたということを。
 人間どもにやられたとかいう話であれば、他の場所でも聞いたことがあるので驚くに値しない者だったが…どうやら、そうではないらしい。

 どういうことなのか調べてみれば、どうやら自分たちとは異なる存在…他のモンスターにやられたようだが、そのモンスターはただ者ではないようだ。

 価値が無いはずの人間たちと共に暮らしているらしいが、その力はかなり強く、同族でもてこずっていた獣たちをいともたやすく狩るだけのものをもっているという。
 また、その容姿は自分自身でさえも見にくく思えるようなものとは異なり…儚い花のような美しさを持ちつつ、輝ける太陽のように明るく、包み込むような優しさがあるという。


 同族どもを血で洗うような日々に対して、そのような者を支配下に置ければ…それはそれでありだろう。
 それに、いくら力を与えられた身とはいえ、永遠に生き続けられるようなものでは無い。

 生物ならば持っている子孫を残す本能も強く…より、強大な力を持った子が出来れば、自身の一族だけで未来永劫、生きとし生けるもの全てを支配することができるだろう。
 



 そう思い、調べさせに向かわせ…現在、その大半の真実を思い知らされていた。
 その光景を見て、一つだけ言わせていただきたい。
 どこに、優しさがあるというのか、ということを。



 
 同族たちは、支配下に置いた後、強制的に力を伸ばし、人間どもでいうところのゴブリンロードになった。
 それも数が多く、並大抵の者であれば物量差でどのようなものも押し切ることができただろう。

 だがしかし…世の中は広く、より強大な力の前には数というのは無意味だった。




 彼女が手を振るうたびに、同族が消し飛んでいく。
 死角になる方向から攻めようとも見えているかのようにかわし、その身を切り刻む。

 花に集う蝶のように舞い、求愛をする鳥のように軽やかに動いている。
 例えるならばそう、人間どもの舞踏会のように…しかし、この場所は惨劇の会場にされていた。

 見よ、同胞たちよ。アレのどこに、優しさがあるというのか。
 その眼は揺らぐことなく、少しかすめるだけで凍てつかれそうな冷たいまなざしをしており、恐ろしさを感じさせる。

 しかしながら、月夜に舞う妖精のような美しさもあり…この場に立たず、観客の立場にいたのであれば、どれほど幸せな光景だっただろうか。



 だが、現実というのはいつでも残酷なもので、その時を否応なしに告げられる。

 この身に力を得たとはいえ、外見は変わらず劣らずそのままであり、紛れていれば気が付かれないかと思っていた。
 けれども、彼女の冷酷な眼は全てを見透かしているようで…こちらに気が付くと、周囲で攻撃をしかけようと動く同族たちを意にも介さないように、たちどころに物言わぬ屍を変えて迫ってくる。


【…ああ、なるほど。あの冒険者の人たちが分からないのも無理は無いですね。見た目が、他と変わらないですもの】


【けれども、その色はごまかせない。他のゴブリンたちに纏わりつくような色の、その発生源は…あなたですね】

 何で見抜いたのか。理解ができない。
 ただ、一つだけわかっているのは、全てがばれて、今、狩られようとしていることだ。

 命乞いをするか?否、したところで結末は変わらない。
 捨て駒を全力で使い、どうにか勝利を得るか?否、この状況下ではもはや抵抗は無意味に等しいだろう。


 どうすればいい、どのような方法で、逃れられるのか、誰か教えてくれ。

 そう願うも、その答えを返す者はどこにもおらず、一歩、また一歩と死神の鎌が近づいてくる。


 やめろ、やめてくれ。
 ここまでようやく来たのに、その全てを奪うようなことは。
 情報が欲しくないのか、この身に力を与えくれた、のことが!!

 我が身ではこれが限度でも、そなたならば確実にすべてを手中に収めるほどの力を手に入れることがーーーーーー!!



【…そんなの、いらないですよ。私が欲しいのは、たった一つだけ】

 心の叫びが聞こえるのか、ぽつりと口を漏らす美しき蜘蛛。続けて聞こえてきたのは…

【本当に、愛する人だけですから】




…ああ、なるほど。それならば、意味はなかったか。
 我が身は愛を知らない。だからこそ、厄災を、狂った愛を求める者にはなれなかった。
 彼女は、愛を知っている。だからこそ、それだけの力を持っていたのだろう。

 それが、どれほどのものなのか、理解はできない、する機会ももはや失われた。
 ただ、分かることとすれば愛ゆえに彼女は美しく、強く…そして、それがどれほど厳しいものなのかということを。


 既に悔むものもない、恨むものもない、惜しむものもない。
 ああ、愛を願い、愛ゆえに呪われしものよ、その道にせめてもの救いがあれ…

 最後に見た光景は、振り下ろされし、美しき死神の鎌。
 もはや、思い残すこともなく、野望はここに一つ、潰えたのであった…














「…ああ、残念な結果に終わったか。力無きものに対して、与えてみたが何も成し遂げられずに、終わってしまったか」

…一体のただのゴブリンだったものの命の炎が消える中、その光景を別の場所で見ていたものがそう口を開く。

「まさか、このような厄災種…いや、狂愛種にやられるとは、その狂気に恐れおののくよ」

 映し出されているのは、短い間にその場にいた敵を屠って見せた、一体の蜘蛛。
 今はまだ気が付いて…いや、少しばかり気配に気が付いたのか、何かを投げ、映像が瞬時に消え失せた。

「まぁ、良い。これはこれで、面白いものを見た。それだけでも、十分か…」

 これは、ほんの少しの気まぐれで行った実験であり、最初から大した成果を求めていたわけではない。
 せいぜい、人類のちょっとした脅威にまで育ってくれれば御の字だったが、運悪く早期に見つかり、潰されてしまったようだ。

 損はしていないどころか、むしろ、より面白いものを見ることができたから得をしたというか…何もせずとも、得られたものは大きいだろう。

「…さて、そうなってくるとどうするか…ふぅむ、悩むな…」

 終わったことはもう考えずに、次へ手を移したい。
 しかし、やりたいことが多すぎるうえに、今の映像で得たものもあったために、どうしたものかとしばらくの間、その者は悩まされるのであった…
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