絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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運命の結びつき

log-004 あなたの名前は

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…閉鎖的な環境ではなく、ある程度受け入れるだけの土壌があって良かっただろう。
 その性癖的な部分にかなりの難がありそうな気はするが、気にしないほうが吉である、

 とにもかくにも、何とか説明し終え、どうにかこうにか村に彼女を置いておけることになった。
 ゴブリンたちに関しては、村の周辺にこれまで見られなかったモンスターが出てきたということで警戒として見回りが増え、近々村外から調査を行ってくれる人たちを呼ぶことで結論づいた。

 だが、それはそれとして…

「…彼女に、正式な名前を付ける必要があるの?」
「ええ、普通の名づけではなく、『従魔契約』と呼ばれる正式な契約を結びながらになりますが」

 村人の数名がうっかりで轟沈し、引きずられながら連れ帰られていく光景もある中、神父様が前に出てきて説明してきた。

 僕を助けてくれて、番と言っている蜘蛛の下半身と女性の上半身がある彼女。
 好意的なものとはいえ、それでも野生のモンスターと言う点は変わらず、いつ豹変しても変わらない怖さはあるようだ。

 多少はご理解のある人たちが多くても、ぬぐい切れない不安要素。
 それを防ぐための手段として…従魔契約と呼ばれるものを行う必要があるらしい。

「テイマーと呼ばれる職業の方々が行う、モンスターを多少は制御しやすくするための契約、それが従魔契約と呼ばれるもので、いざという時のストッパーとして働きかけることが可能となります」

 村の中で一番知識を持っている神父様が、丁寧に説明してくれる。

 どれほど友好的だとしても、相手は確実に人外の存在。
 人以上の力を持っていたりするからこそ、最悪な時の損害は想像したくもなく…そういった事態を防ぐための手段として生み出されたようだ。

「他の地方や国によってはテイムや真名契約、魂縛儀式などと様々な別名称がありますが、原理としては名前そのものを概念として一つの強力な鎖として、モンスターと結びつきを得る手段となります。どのようなものにも対応可能というわけではなく、双方の合意が無ければ成立しないなどの条件がありますが…少なくとも、この契約を結んでもらえれば、いざという時のトラブルを抑えられるかと思われますね」
「なるほど…首輪を名前で付けるようなものか…」

 放し飼いにされているよりも、しっかりとつなぎとめていたほうが安全性がある。
 その手段として生み出されたのか従魔契約と呼ばれるもののようで、友好的なモンスター相手に結んでもらうことで、下手なトラブルを起こさないようにするというのも目的にあるようだ。

【んー…必要なら別にやっても良いですよ。ですが、私は…彼以外に、絶対に結び付けられたくないのですが】
 
 説明を受けてちょっと考え、抱きしめてきながらそう口にする彼女。
 理解は得られているようだが、他者の手が入るのは絶対に嫌らしい。

「ええ、それで良いでしょう。そのため、ジャック、今日いきなりの出来事で大変だとは思うのだが…従魔契約は双方の合意が無ければ確実に成功しない契約だ。彼女の要望で君しか指名されない以上、引き受けてくれないだろうか」
「必要ならばやるけれども…難しくは無いですよね?」

 こういうものに関しては、何かしらの必要な儀式だとか道具などが必要になるのが想像でき、田舎の少年が揃えられないものの可能性があってもおかしくはなかっただろう。

 けれども、そんなこともないらしい。

「契約方法自体はいたって簡単。この本の内容にそって契約の文言を告げて、名前を与え、合意してもらうだけだ」

 形式を守れば自然にできるほどのもの…概念的なものになっているらしく、魔法だとかそういうのにちょっと近いながらも、別物のようなもの。
 どうやらこの世界ではそれだけ名前に関してはある程度の力を持つ概念的なものが出来上がっているようで、重みがあるらしい。

「えっと、内容は…これで良いのか。内容に沿って、名前か…どういうのが良いの?」
【名前、ですか…私としては、あなたが付けてくれたものならば、どんなものでも嬉しいですよ】

 こういう回答が、結構困る。
 どうしたものかと考えてみるが、重みがある分、責任も重大だろう。

 
 アラクネのような彼女。
 それでいて、優しもありつつ、何かヤバそうなものもにじみ出ているような気がしなくもない。
 綺麗なものとかそうでないものを混ざっているような、こういうのは白黒はっきりしてほしいような…

(…ん?白黒…しろくろ、はちょっとわかりにくいし、もうちょっとはっきりと…白日とかいう言葉もあるし、混ぜて…はくくろ、もうちょっと呼びやすくして…)


「…良し、決めた。それじゃ、これから契約の文言を告げるから、答えてね」
【わかりました】

 彼女に与えるべき名を思いつき、手順を踏んで契約を行う。
 さくっと呼んでみたが、ちょっと中二病とかっぽいような…いやまぁ、呪文の詠唱とかそんな感じのお決まり物のが多いだろうし、変なことではないのだろう。

 気にしないようにしつつ、文言を声に出す。

「『汝、その思いに偽りは無し。契りをかわして、名を与える。汝が拒絶するならば、名は与えられず、それもまた良し。汝に与える名は…《ハクロ》。それで、良きか』」
【ハクロ…うん、それで良いよ!!私はこれから、その名前で!!】

 アラクネの彼女が…ハクロがその名前を受け入れたその瞬間、ぽうっと淡く彼女の体が光った。

パシュン!!

 そして続けて、何かがはじけるような音がして、すぐに終わった。

「…えっと、これで終わり?」
「そのはずだ。契約による合意が行われ、正式に名前が付いたけど…ああ、成功したようだ。彼女の蜘蛛部分の背中を見てごらん」

 見れば、彼女の背中…蜘蛛部分に、前にはなかったはずの何か小さな模様が浮かび上がっていた。

 赤い線でひし形とその中身にハートマークがついており、確実に無かったはずのもの。


「これが、従魔契約を交わしたモンスターに付く契約印だよ。体のどこに付くかは、完全にランダムらしく、過去には目の中や舌の下側、へそ周辺だったりしたらしいけれども、今回はここのようだね」

 従魔契約が成功すれば、自然と出来上がるという契約印。
 これが結んだ相手とのつながりを示し、従魔であるという証明にもなるようだ。

「なるほど、こんな感じなのか。ハクロ、体の具合は何か異常解かないよね?」
【えっと、大丈夫ですよ。あれ?むしろ…前よりも調子が良いような?】
「従魔契約は、相手に名前を与えて縛るもの。とはいえ、それだけではモンスター側には何も利点が無いから、ちょっとした副次効果として実は、結んだ瞬間にちょっとだけコンディションを良好な状態に高めたりするようになっている。永続的なものではなく、その瞬間にだけだが…結びつく相手だからこそ、元気でいてほしいという意味も込めてできているようだ」

 とにもかくにも、これで正式に契約は結ばれ、彼女に名前が与えられた。


【ふふふ、ハクロ、ハクロ、ハクロ…これが、私の名前。これからよろしくね、ジャック!!】

 名前が与えられ、体調も良い感じになっているのもあってか、喜びながらそう口にするハクロ。
 その喜びようは、どこかほほえましく思うのであった…



「さてと、村長さん。後は頼みますよ」
「え、ちょっと待ってくれ、神父様。先ほどから、ワシ、かなり空気だったんだが、何かあるのか?」
「ええ、村人に新しく従魔が来ましたが、その届出等はしっかりと村長の責任になりますからね。過去に従魔契約を悪用して、大量の狼型モンスターを溜めまくり、周辺を襲いまくったという大悪党の事例がありましたからね。その他同様の事例もあったため、従魔が出来た場合、登録作業が必要なのが各国の法律で決まっており、なおかつその契約者が未成年の場合はその上の方、この場合は村長さんが国へ届け出るようになっているのです」

…さらっとやばい事例が出ていたけど、そんなことがあったのか。
 まだまだ知らない契約の事情等がありそうなので、しっかりと学ぶことを決めるのであった。
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