異世界駆け抜け、あちこちへ ~人じゃないけど、旅人なんです~

志位斗 茂家波

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10の旅『討論の街』

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「であるからして、我々は―!!」
「いやいやいや、そうではないだろう!!その政策は―――!!」


「‥‥‥失敗だったかな?」

 あちこちで聞こえる、様々な討論の声に、私は辟易していた。

 珍しくそこそこの発展ぶりの街に出くわし、寄って見たのは良いのだが‥‥‥どうもここは年がら年中様々な議論を交わし、ののしり合い、話し合うだけの討論の街だったらしい。

「お前の政策は穴が多すぎる!!こちらであれば、より賃金を向上させてだなぁ!!」
「それだと企業のバランスが取れないだろう!!働きに見合った者でなければいかんだろうが!!」


‥‥‥いや本当に、煩いなぁ。

 四六時中というか、この街の各所に大小さまざまなモニターが設置されており、色々異なる論争が交わっているのだ。

 うん、でも街の人にちょっと情報を聞いて見たんだけど、この論争の大半はほぼ無駄に終わっているらしい。

 というのも、話すだけ話し合って、結論が出たこともまともに無ければ、今の生活に変わることがなく、ただ煩い論争ばかりが飛び交うだけなのだとか。

「それって、意味があるのだろうか?」
「まぁ、無いだろうな。何しろあの論争は、この街の領主が視聴をできるだけ人々に見られるようにした物だからな」

 街の一角の屋台でそうつぶやけば、ラーメンを出してくれた店主がそう答えてくれた。

 なんでも、そもそものこの論争が大量に入り混じった原因は、この街の領主が大の討論好きが原因だったらしい。

 治めている中で、こういう論争繰り返しまくる光景が一生懸命に見えて、これだけの論争ができるのであれば人々に見てもらい、この熱意を伝播させて街の発展に活かそうと考え、様々な論争が映し出されるモニターを街中に設置したのだとか。

‥‥‥迷惑過ぎないかな、ソレ。

「というか、ほとんど繰り返しているだけにも見えるような」
「当り前だろう。あれ、全部録画データだからな」

 いわく、長時間の論争は流石に行う者同士の負担になると言われたので、先にある程度収録し、その光景をいくつか繰り返し混ぜておくことによって、長期の論争を繰り広げているように見せかけつつ、新規の論争は週に1,2回程度しか混ざっていないようである。

「‥‥‥本当に意味ないなぁ」
「まぁ、そんな意味の無い事を押しつけられている方はたまったもんじゃねぇからなぁ。しかもこれ、自分の懐をいかに肥やすかというのが多いしな」

 はぁっと溜息を吐きつつ、店主は替え玉を直ぐに用意して、入れてくれた。

「まぁ、おかげでこの論争を聞きたくない住人が増え、あちこちで耳栓がバカ売れしているからな。あんたも旅人なら煩いところを巡るだろうし、どこよりも高性能なココの耳栓を一つは買った方が良いぞ」
「どれだけ性能が良いんだ?」
「そうだな、確か音のデシベルだと‥‥‥120デシベルだったか。それすらも全く聞こえない無音になるものから、煩い討論の音の振動を発電力に変えて心地いい音楽に切り替えり耳栓など、種類は豊富だぞ」

 無駄に発展している部分もあるようだが、それはそれで面白いかもしれない。

 というか、耳栓が馬鹿売れしている時点で誰も聞いていないような者なのだが‥‥‥その耳栓で聞こえずに平然としている光景から文句もあるまいと判断され、領主は全くこの騒音を解決していないようである。

「最新機種は、本当に新鮮な声だけが聴きとれるこれだな。今も使っているが、本当に声が聞きやすいぞ」
「あ、店主も使っていたのか‥‥‥」
「まぁな、これが無いと生活できないからなぁ。旅人さんもどうよ?専門店を今ならただで教えるぞ」
「うーん、ここまで煩い所はそうないだろうし、明日にはここを去るつもりだからなぁ‥‥‥まぁ、言葉に甘えて、その専門店とか教えてくれないかな」

 とにもかくにも、せっかくなのでおすすめの耳栓を購入してみようと思い、専門店へ足を向ける。

 その道中に、街中のいたるところで煩い討論が繰り広げられているが…‥‥この内容が全部無駄だと思うと、もったいないような気がする。

 熱意とかあるのは良いのだが…‥‥口だけで、何もしないとはこういうことなのだろうか?

 まぁ、それはどうでもいいから耳栓を購入して見れば、確かに討論は聞こえなくなったので、良い店を教えてくれた店主にお礼を言おうと、先ほどの屋台へ歩み‥‥‥ある程度の距離で、最新の耳栓のおかげが討論を無視して、とある会話が入って来た。




「-----そうか、旅人がいるのか」
「ええ、せっかくなので親切に騒音対策の店を案内しましたが、どうやら明日にはここを去るそうです」
「なら、実行は明後日だな」
「はい」

(‥‥‥ん?)

 高性能なタイプの耳栓のおかげで、討論の騒音を無視して店主と誰の声だけを聴きとれるのだが、何やら妙な会話が聞こえてきた。

 盗み聞きをする趣味はないのだが、ステルス機能でそっと近づき、音も立てないように気を使いながらその内容に耳を傾ける。


「いやまぁ、しかしここの領主って無能すぎませんかねぇ?こうも意味の無い論争だけを延々と聞かせ続けてしまうとは、派遣された初日は地獄でしたよ」
「その分、耳栓も良いものがあっただろう。まぁ、そちらから地道な情報を得ることができて、ようやく攻め込む用意が出来たから良しとするか」
「それもそうですね、住民たちの耳栓全て、および街中の耳栓に、全部仕掛け終えましたし…‥ああ、旅人さんが訪れるのを先に連絡したので、専門店での購入品には取りつけさせませんでした」
「うむ、無駄な犠牲は出したくないからな」

 色々と怪しい会話だが、何か雰囲気が怪しい。

 内容を聞く限り、街中の耳栓には何か仕掛けが施され、私の方は配慮されてその仕掛けとやらが無いようだが‥‥‥?


「では、明後日に、耳栓に憑りつけたマイクロスピーカーでこの街の人々には眠ってもらおう。強制睡眠を可能にする、薬を使用する手間も省ける、環境にやさしい睡眠導入音楽だがな」
「そして、誰も出てこなくなったところでわが軍が一気に制圧し、この街を手に入れる‥‥‥まぁ、侵略ではなく、領主のみを的確に押さえるだけの大規模作戦で、ちょっと大げさな気もしますけれどね」
「そうしなければいけないだろうな。なにしろ、その無能の領主のせいで陛下の娘に後遺症が残ったからな…‥‥」

‥‥‥聞こえてきた内容を盗み聞きし、ちょっと整理してみれば、発端はこの街の領主による討論政策らしい。

 ここでとある国の王女がお忍びで遊びに来たそうだが、あまりの煩さに文句を言っていたところ、偶然通りかかった領主が痛めつけたようなのだ。

 国際問題になるレベルの事だったそうで、お忍びとはいえ国の王女を害したのは重罪レベル。

 しかも、王女の文句も正当だったのだが、当の領主は全然気にもせずに、自分こそが正しいというような感じだったがゆえに、その王女の親である国王が切れたそうなのだ。

 そしてその怒りで思考を巡らせた結果、物凄い大規模な復讐を決定したのである。

 それが、他国にこの街をくれてやってもいいから、占領された責任を負わせつつ、いかに愚かだったのか自覚させるとか言う作戦で…‥‥色々省くようだが、その第一歩が、耳栓を逆手に取った制圧のようである。




 この後に何が起こるのかは、そこまでは会話からは聞き取れなかった。

 ただ、少なくともあの店主は他国の工作員であり、この街をくれてやると宣言した国王の心意気にその他国も乗っかって、領主へ向けてのとんでもない仕返し作戦が練られているぐらいなのは理解した。

「…‥‥巻き添えになったら嫌だし、さっさと逃げようかな」

 予定通りに明日になった後、私はすぐにその街を去った。

 去り際に、線路から飛び立ち、空を駆け抜け地上を見下ろしたのだが、そこには街へ向けて進行する大規模な軍隊の姿を確認できた。

‥‥‥うん、さっさと出て行って正解だった。




 あの後、あの街の領主がどの様な目に遭ったのか、私は知らない。

 ただ、その後に風の噂で聞いたのは、領主が消え、街から討論が消えうせ、耳栓専門店も無くなったぐらいであろう。

 せっかくなので、入手した高性能耳栓はコレクション車両に保管し、また使用する機会があるまで飾ってみることにするのであった…‥‥

「にしても、これ本当に高性能だな‥‥小さいのに、中身にナノどころかピコとかフェムトレベルでぎっしり機械詰まっているし…‥‥この技術を他に活かせなかったのか‥‥‥?」
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