異世界駆け抜け、あちこちへ ~人じゃないけど、旅人なんです~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
上 下
10 / 14

9の旅『楽ができる国』

しおりを挟む
『23番ゲートへお進みください。本日の昼食はこちらになります』
「わかった。使う歩道は?」
『赤紫の歩道をご利用ください』

…‥‥動く歩道とは、これまた珍しいものだ。

 

 今回、新しく訪れたこの世界のこの国は、ほぼ自動で機械がこなす国。

 動く歩道から自動調理、自動洗浄、自動健康診断など、人の手間がいらない。

 壊れたとしても修理する機械が行い、その機械が壊れたらまた修理する機械が‥‥‥考えるとややこしいが、予備の予備まで毎日すべてメンテナンスが行われており、この国ができてもう何百年も稼働し続けているようだ。

「うん、美味しいな」

 訪れたホテルでチェックインし、昼食をいただいてみると、中々美味しい。

 機関車ボディでは味わえぬ料理の味を楽しめるのだが、ココのは結構いい感じだ。

 しかも、この国のほとんどすべてが自動だからこそ、まかせっきりにして肥満体形が増える可能性も考慮しているのか、適度な運動が義務付けられており、そのために使うトレーニング施設もあるようで、食後の腹ごなしにも丁度良かった。

 道行く人々も、動く歩道を利用したりしつつも、極度に太る人はおらず、全員スッキリとしている。

 というか、人々の健康そのものもここではすべて管理され、最高寿命がまさかの200歳越えである。

…‥‥人間の限界寿命、超えているような。それだけ適切に管理されているからだとは思うけれども…‥‥

「よぼよぼの動けない寝たきりとかになっていそうな‥‥‥」
『いえ、それはございません。全員、老後もしっかりと適度に運動が可能で、眠るように大往生ができているのです』

 っと、口にした疑問に対して、どこからか返答が来た。

 ちょっと試してみると、どうやら疑問も自動的に答えてくれる機能が配備されており、忘れっぽい人にも有効なようにしているのだとか。

「へぇ、便利だね…‥‥でもそれだと、考える人がいなくなりそうな」
『御心配には及びません。生来の気質の完全修正は流石に不可能ですが、ここではきちんと頭のトレーニングもなされているのです』

 どうやらこの国が自動化する前に、ある程度自動化した際の弊害を予想できていたらしい。

 だからこそ、その弊害に対しての対処方法をどんどん考えだし、実際に対処できるようにして置いたので、考えられる限りの自動化の弊害はほとんどないのだとか。

 しかも、人が考える限界も機械がさらに考えてくれて、毎年更新され、どんどん改良されているそうなのである。

『なお、センサーですでに、あなたが人ではないことも確認しております。蒸気機関車が人の姿になるケースは初めてですが、それでも対応可能なように更新済みです』
「いつのまに…‥‥」

 一応問題は無いそうだが、全てを分析しており、メンテナンスも請け負ってもらえるらしい。

 改良は流石にシステムを弄るところが多く、ちょっと危険性が高いのでできないそうだが、軽く部品の交換ぐらいとかはできるようだ。

…‥‥システムを弄るとかって、本当にどうなっているんだろうか私。

 まぁ、メンテナンスを受けられるには越したことはないので、その部屋へ案内してもらった。

「線路がしっかりと置いてあるな…‥‥」
『自動化客車などありますからね。どのような車両の手入れも可能なのです』

 お言葉に甘えて、機関車ボディに戻り、メンテナンスを受ける。

 細かな傷の補修や、欠けた部品の交換、細かい隙間の掃除など‥‥他の世界でも受ける時はあったが、ここは結構いい感じである。

 まぁ、私のような旅人は初めてらしいので、サンプルを取らせて欲しいと言われたが‥‥‥一応、ただで受けられるそうなので、軽く了承した。

 金属部品の一部が、どうもこの国にはない類だったようで、それを解析できれば更なる発展を目指せるらしい。

『未知の金属というか、流石異世界の列車です。分析できない機構も多くありますが、この国の発展に役立ちます』
『私自身、普通の蒸気機関車だと思いたいんだけど…‥‥』
『ボイラーの素材から、内部の燃焼機構、特殊レール精製などありますから、普通ではありません』

 本当にどうなっているんだろうか、私の身体。


 とにもかくにも一通りメンテナンスされた後、新しく石炭も補充され、ボイラー内の火も新しく燃焼を開始し始め、蒸気がさらに貯まりやすくなった。

『終了です。修理箇所もありましたが、メンテナンス前よりも15%ほど向上しているはずです』
『ある程度は分かるけど…‥‥何と言うか、すごいな』

 流石にちょっと分解して掃除された箇所もあってビビったが、それでもきちんと直されまくったので文句はない。

 というか、更に好調になったというべきか、この国の技術力に驚愕する。

『終了しましたが、まだここへの滞在を望みますか?』
『いや、別に良いかな。調子よくなって動きたくなったし、そろそろ別の場所へ向かいたいかも』
『では、他国へのレールがありますので、そちらに接続いたします。少々お待ちください』

 そう聞こえると、ごごごっと音が聞こえ、前の壁が開く。

 そしてどこからともなくガシャコンガシャコンっとレールが出され、乗っていたものに接続される。

『それじゃ、出発しますか』


ぼぉおおおおおおおおおお!!

 汽笛を鳴らし、車輪が動く。

 油もしっかりさしてあり、回転しやすく、なおかつ力もかなり出る。

『にしても、至れり尽くせりすぎるけど、こういう国の技術って他のところへ出そうなもんだけどなぁ』
『ええ、国外流失してますが、ほとんどの国が滅びてますから、そこまであるって訳でもないのです』
『‥‥‥え?』

 蒸気を吐き出し、さぁ今から他国へと動こうとしたところで、その返答を聞き思わずブレーキをかけた。





…‥‥話を聞くと、どうやら便利すぎる技術に適応できたのは、この国の人達だけ。

 これから向かおうとしていた他国はまだ良い方なのだが、その他の国々ではこの国の技術を用いて同様に行おうとした結果、何と全て滅んでしまったらしい。

『ここは昔から計画的に、そして臨機応変に対応し、国が亡ぶこともなく、国民は全て管理されながらも、自由を謳歌し、自身の健康にも気を遣い、満足度の高い生活が行えました。ですが、他の国では‥‥‥』


 この国では怠慢もなく、欲望をそれ以上求めることなく、緩やかに発展していた。

 だが、他の国では怠慢が出たり、その他の欲望がどんどん溢れ出し、制御不可能となったのだ。

『ある国では、動くのも馬鹿らしく、運動管理もなくした結果、全員が成人病‥‥‥主にメタボリックシンドロームにかかり、短命で滅亡。またある国では、機械が人間をいらない者だと判断するのではないかと恐れて反抗し、全てを破壊して自分たちでやっていこうとしたのですが、まとまり切らず自滅…‥‥まぁ、ほとんどが自業自得の結果で終わっているのです』
『わーお‥‥‥』

 便利すぎる技術というのは、人にとっては毒にも薬にもなるだろう。

 そしてこの国は適切な薬として使うことができたが、その他では猛毒、あるいは薬の効きすぎとなってしまったようだ。

『自動化も考えものなのか‥‥‥』
『ええ。ですので、きちんと怠慢などを育てない教育を行いつつ、国民のために動くのです』

 なお、他国からの難民も受け入れており、そちらでもこの国で教育を受けさせ、いつの間にか国民となっていることが多いそうだ。

 同じ地で血が混ざり過ぎないようにする配慮もしつつ、誰もが平和に、安全に暮らせるようにもしており、ここは楽園とも言われるらしい。

『まぁ、そんな滅びた国々もあるので、別の国では地獄とも言われますが…‥‥それはそれで仕方がありません。モノは使いようによって、変わりますからね』
『それもそうか』

 分かりやすいたとえ話は、結構あるだろう。

 例えば包丁は調理するのにも使えるが、人を殺める際にも使われてしまうことがある。

 火薬だって、花火のように美しい景色を魅せる事もあるが、戦争で大量破壊兵器として扱われる。

 炭だって、燃焼材料として役立ちはするけれども、密室で木炭を使って自殺を図る事もある。

 結局は、そのモノの可能性を引き出すのは全てが人であり、その人によって結果は変わるモノ。

 この国の人達はそれらを良い方向へ扱えたけれども、その他ではうまくいかなかった、ただそれだけの話なのだ。

『とりあえず、そう言う事だと理解しておくかな‥‥‥‥それじゃ、改めて出発します』
『ええ、どうぞ、お元気で。機会があれば、また是非この国へ訪れてください。分析したその技術を持って、更に発展をしておりますので、楽しみにしてくださいませ』
『わかりました』

 改めて汽笛を鳴らし、車輪を回転させ、私はその国から出ていく。

 出る前にとんでもない話を聞いたが、まぁ結局は扱う人次第なのはわかるだろうし、あの便利さだって一歩間違えれば危険なものだろう。

 けれども、やっぱり、それに対応できるような人がいるようだし、問題もないならそれで良いかと思い、私はその国を後にして、先へ進んでいくのであった‥‥‥‥





…‥‥数年後。再び訪れた時には、その国は存在していた。

 しかも、さらなる発展を遂げ、より人々が幸せそうに暮らしつつ、自動化の恩恵を受けてさらに幸福そうに暮らしていた。

 自動化でとやかく言うところもあるが、こういう風に受け入れ、柔軟に対応できる人が多い国って、実は結構稀なのかもしれない…‥‥‥



しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

神様に加護2人分貰いました

琳太
ファンタジー
ある日白い部屋で白い人に『勇者として召喚された』と言われたが、気づけば魔法陣から突き落とされ見知らぬ森の中にポツンと1人立っていた。ともかく『幼馴染』と合流しないと。 気付けばチートで異世界道中楽々かも?可愛いお供もゲットしたフブキの異世界の旅は続く…… この世界で初めて出会った人間?はケモ耳の少女いろいろあって仲間になり、ようやく幼馴染がいると思われる大陸へ船でやてきたところ…… 旧題【異世界召喚、神様に加護2人分貰いました】は改題され2018年3月書籍化、8巻まで発売中。 2019年7月吉祥寺笑先生によるコミカライズ連載開始、コミック1巻発売中です。 ご購入いただいた皆様のおかげで続刊が発売されます。

処理中です...