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8の旅『失せた本の国』
しおりを挟む新しい世界で線路を見つけ、駆け抜けること三日目。
本日は道中人型になって、たまに出くわす人々から情報を集め、その先にあるという本の国へ訪れていた。
ここはどうやらずっとロングセラー、ベストセラーなど、多くの本を出版し、人々に親しまれる国だそうで、数多くの著書を保管しているというのだ。
実際に訪れて見ると、国のほとんどが図書館になっており、確かに多くの書物があったのは良いだろう。
‥‥‥けれども、数多くの物語があるという事は、「すべて面白い」という訳でもなかったようだ。
「…‥‥うわぁ」
その内容を読み、私は思わずそのような声を上げてしまう。
「全部ありきたり、同じ類…‥‥しかも、酷いのが多い」
ある程度のテンプレなどが存在するのはまぁ良いだろう。
そう言うテンプレに面白さを加えて、作者の構成・考え方次第で色々と変動するのは良く分かっている。
それに、斜め上の発想や、その他にはない独特性が存在するのも良いだろうし、その物語の面白さを十分に発揮させるのはいいかもしれない。
けれども、これはない。
全部がテンプレしかなくて先が怖ろしく想像しやすい。
物語の序盤でネタバレが書き込まれている。
武術、剣術などの描写で細かいのが無くて、「キンキンカンカンぐらいの効果音しか存在しない‥‥‥‥何と言うか、もうちょっとどうにかできたんじゃないか、と言えてしまうのが多いのだ。
「何で、これでベストセラーとかあるんだ‥‥?」
私は蒸気機関車、ゆえに物語を書く才能があるわけでもない。
なのでそこまで批評することもできないのだが、ちょっとなぁ。
面白い書物は全て図書車両に保管したりするが…‥‥保管する蔵書を増やせるかと思ったのに、飛んだ見当違いしかない。
仕方がないので、そこが悪かっただけだと思い、別の図書館へ訪れて見たが…‥‥まさかの、同じような書物ばかり。
あちこち駆けまわって見て、探したがどれもこれも同じ話しかなく、中には途中で独創性の方向性を誤ったのかゲシュタルト崩壊する本とか、読んだら呪われる本とか、とんでもないものばかりしかなかった。
一応、呪いの類は人限定で、人型を取っていても蒸気機関車な私には意味がなかったが…‥‥うーん、どうなっているんだろか。
あちこちにいた人々に聞きまわり、おすすめの本が置いてあるところへ向かってみるも、どこもかしこも同じようなモノばかり。
なんというか、本当は面白かったはずが、何処かで思いっきり薄れさせられてしまったような気までしてきた。
そして100件ぐらい超えたところで、ようやくこのような状況に至った訳を知っている人に出会い、話を聞くことができた。
「もう、本当は出版していない?」
「ああ、そうさね」
小さな図書館の一角にて、司書を務めていた老婆がそう答える。
…‥‥いわく、確かにこの国は、元々ベストセラーなどをバンバン出版し、周辺諸国どころか遠く離れた国にまで輸出し、売れに売れまくって非常に景気が良かったらしい。
だがしかし、良い本がそれだけ多く出てしまえば、その分その本をまねて書こうとする人が出始め、徐々に内容が似通ってきてしまったそうな。
すると当然、似たような内容の本が多くなると売れ行きも悪化し、そこを改善するためにまた違う本を出して売れれば、また同じような本が出て繰り返す状況となった。
それから何年も経過し、何度も何度もサイクルを繰り返すうちに、どうしてもアイディアそのものが枯渇してしまい、最終的には全体的に同じようなつまらない本しかなくなったそうだ。
「…‥‥それなら、元々あったオリジナルの本とかはないのだろうか?それならまだ、色あせた物語ではないとは思うのだが‥‥‥」
「残念ながら、既にないよ」
同じような本が多く出れば、元々あったオリジナルの本もその中に埋もれてしまい、現在はどれがそうだったのか分からない。
似たような内容が多すぎて、元々あった面白さを量によって薄められてしまい、何もかも今一つになったようである。
例えで言うのであれば、元々濃かったジュースを水で極限まで薄め、味を無くしたようなものだろうか‥‥‥この場合は、物語の面白さを失くしたとも言えるだろう。
何にしても、遂には出版もできなくなり、アイディアも枯渇し、この国は本を出すことが無くなった。
そして、売れ残った本は量産され過ぎて、処分しようにも仕切れず、今は全部、この国の数多くの図書館に収められているそうだ。
「そんな事情があったのか‥‥‥」
「だからこそ、もうこの国には面白い本はないんさね。ああ、悲しいねぇ…‥‥」
事情を話し終え、ぽつりとそう口にする司書。
なんというか、昔面白い物語を味わっていた人なのだろうけれども、今はもう何もなくなってしまったこの国に、憂いを想っているのだろう。
「今はもう、孫たちでさえも物語を書く気を失せ、徐々に衰退し始めているよ‥‥‥。昔は本当に活気があって、いい国だったんだけどねぇ…‥‥もう、多分誰もいなくなるよ」
物語を多く出し、その数々の面白い内容で人々を魅了し、物語を楽しむ人が多く、活気があった。
けれども今は、全てが同じような内容しかなく、もう二度と新しい本は出されない。
徐々に飽き飽きしてきた人たちが国外へ出て、衰退する一方だとか。
「新しい本が出ればいい。けれども、この国の者だと同じようなモノしかできない…‥‥他国からいい本も入って来るが、結局真似されてまた薄める輩もいるからこそ、もうここは希望がないのかもねぇ」
物語は夢も希望も与えてくれるはずなのに、この国はもうそのどちらもないのかもしれない。
ここから出た人がどこかで新しい物語を作ってくれればとは思うが…‥‥それでも、ここに入ってしまえばまた真似をされ、似通ったものになって薄められる。
真似なきゃいいのにとは思うが、それでも昔の栄光を思い出すとどうしても我慢できない人も多く、もはやどうしようもない状況でもあるらしい。
「‥‥‥わかりました」
情報を提供してくれた司書に礼を述べ、これ以上この国にいても面白いものはないと判断し、私はここを去ることに決めた。
線路に乗り、機関車ボディに切り替え、発車の汽笛を鳴らす。
ボォォォォォ!!
蒸気を吹き出し、ピストンを動かし、動輪が回り始める。
ふと街並みを見れば、どこもかしこも本がぎっしりの国。
けれども、その中身はどれもこれも同じような内容しかなく、つまらなくなってしまった物語の数々。
『…‥‥でも、色々と工夫できそうなものだけどなぁ』
なんとなく書く人によっては変えようがあって、より面白く出来そうな気がしつつも、この国の人たちではもうどうしようもないのかもしれない。
惜しくも思えつつ、読んだ内容に深みもなく、薄まった水のような感想を思い出し、振り返らずに先へ行く。
ボォォォォォォォォォォ…‥‥!!
汽笛を吹き鳴らしつつ、私は新たな物語を求めつつ、その国を去るのであった‥‥‥‥
…‥‥それから数年後、あの司書の言った通り国は衰退していき、人がいなくなった。
後に残されたのは多くの書籍であったが、そのどれもが価値もないと判断され、たまに盗賊とかが訪れても盗まれることが無かった。
それから更に歳月が流れ、何時しか自然発火してすべてが火に呑まれ、その国の物語は全て失われるのであった‥‥‥‥
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