異世界駆け抜け、あちこちへ ~人じゃないけど、旅人なんです~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
上 下
9 / 14

8の旅『失せた本の国』

しおりを挟む

 新しい世界で線路を見つけ、駆け抜けること三日目。

 本日は道中人型になって、たまに出くわす人々から情報を集め、その先にあるという本の国へ訪れていた。

 ここはどうやらずっとロングセラー、ベストセラーなど、多くの本を出版し、人々に親しまれる国だそうで、数多くの著書を保管しているというのだ。

 実際に訪れて見ると、国のほとんどが図書館になっており、確かに多くの書物があったのは良いだろう。



‥‥‥けれども、数多くの物語があるという事は、「すべて面白い」という訳でもなかったようだ。

「…‥‥うわぁ」

 その内容を読み、私は思わずそのような声を上げてしまう。

「全部ありきたり、同じ類…‥‥しかも、酷いのが多い」

 ある程度のテンプレなどが存在するのはまぁ良いだろう。

 そう言うテンプレに面白さを加えて、作者の構成・考え方次第で色々と変動するのは良く分かっている。

 それに、斜め上の発想や、その他にはない独特性が存在するのも良いだろうし、その物語の面白さを十分に発揮させるのはいいかもしれない。

 けれども、これはない。

 全部がテンプレしかなくて先が怖ろしく想像しやすい。

 物語の序盤でネタバレが書き込まれている。

 武術、剣術などの描写で細かいのが無くて、「キンキンカンカンぐらいの効果音しか存在しない‥‥‥‥何と言うか、もうちょっとどうにかできたんじゃないか、と言えてしまうのが多いのだ。

「何で、これでベストセラーとかあるんだ‥‥?」

 私は蒸気機関車、ゆえに物語を書く才能があるわけでもない。

 なのでそこまで批評することもできないのだが、ちょっとなぁ。

 面白い書物は全て図書車両に保管したりするが…‥‥保管する蔵書を増やせるかと思ったのに、飛んだ見当違いしかない。


 仕方がないので、そこが悪かっただけだと思い、別の図書館へ訪れて見たが…‥‥まさかの、同じような書物ばかり。

 あちこち駆けまわって見て、探したがどれもこれも同じ話しかなく、中には途中で独創性の方向性を誤ったのかゲシュタルト崩壊する本とか、読んだら呪われる本とか、とんでもないものばかりしかなかった。

 一応、呪いの類は人限定で、人型を取っていても蒸気機関車な私には意味がなかったが…‥‥うーん、どうなっているんだろか。



 あちこちにいた人々に聞きまわり、おすすめの本が置いてあるところへ向かってみるも、どこもかしこも同じようなモノばかり。

 なんというか、本当は面白かったはずが、何処かで思いっきり薄れさせられてしまったような気までしてきた。

 そして100件ぐらい超えたところで、ようやくこのような状況に至った訳を知っている人に出会い、話を聞くことができた。


「もう、本当は出版していない?」
「ああ、そうさね」

 小さな図書館の一角にて、司書を務めていた老婆がそう答える。

…‥‥いわく、確かにこの国は、元々ベストセラーなどをバンバン出版し、周辺諸国どころか遠く離れた国にまで輸出し、売れに売れまくって非常に景気が良かったらしい。

 だがしかし、良い本がそれだけ多く出てしまえば、その分その本をまねて書こうとする人が出始め、徐々に内容が似通ってきてしまったそうな。

 すると当然、似たような内容の本が多くなると売れ行きも悪化し、そこを改善するためにまた違う本を出して売れれば、また同じような本が出て繰り返す状況となった。


 それから何年も経過し、何度も何度もサイクルを繰り返すうちに、どうしてもアイディアそのものが枯渇してしまい、最終的には全体的に同じようなつまらない本しかなくなったそうだ。

「…‥‥それなら、元々あったオリジナルの本とかはないのだろうか?それならまだ、色あせた物語ではないとは思うのだが‥‥‥」
「残念ながら、既にないよ」

 同じような本が多く出れば、元々あったオリジナルの本もその中に埋もれてしまい、現在はどれがそうだったのか分からない。

 似たような内容が多すぎて、元々あった面白さを量によって薄められてしまい、何もかも今一つになったようである。

 例えで言うのであれば、元々濃かったジュースを水で極限まで薄め、味を無くしたようなものだろうか‥‥‥この場合は、物語の面白さを失くしたとも言えるだろう。

 
 何にしても、遂には出版もできなくなり、アイディアも枯渇し、この国は本を出すことが無くなった。

 そして、売れ残った本は量産され過ぎて、処分しようにも仕切れず、今は全部、この国の数多くの図書館に収められているそうだ。

「そんな事情があったのか‥‥‥」
「だからこそ、もうこの国には面白い本はないんさね。ああ、悲しいねぇ…‥‥」

 事情を話し終え、ぽつりとそう口にする司書。

 なんというか、昔面白い物語を味わっていた人なのだろうけれども、今はもう何もなくなってしまったこの国に、憂いを想っているのだろう。

「今はもう、孫たちでさえも物語を書く気を失せ、徐々に衰退し始めているよ‥‥‥。昔は本当に活気があって、いい国だったんだけどねぇ…‥‥もう、多分誰もいなくなるよ」

 物語を多く出し、その数々の面白い内容で人々を魅了し、物語を楽しむ人が多く、活気があった。

 けれども今は、全てが同じような内容しかなく、もう二度と新しい本は出されない。

 徐々に飽き飽きしてきた人たちが国外へ出て、衰退する一方だとか。


「新しい本が出ればいい。けれども、この国の者だと同じようなモノしかできない…‥‥他国からいい本も入って来るが、結局真似されてまた薄める輩もいるからこそ、もうここは希望がないのかもねぇ」

 物語は夢も希望も与えてくれるはずなのに、この国はもうそのどちらもないのかもしれない。

 ここから出た人がどこかで新しい物語を作ってくれればとは思うが…‥‥それでも、ここに入ってしまえばまた真似をされ、似通ったものになって薄められる。

 真似なきゃいいのにとは思うが、それでも昔の栄光を思い出すとどうしても我慢できない人も多く、もはやどうしようもない状況でもあるらしい。

「‥‥‥わかりました」

 情報を提供してくれた司書に礼を述べ、これ以上この国にいても面白いものはないと判断し、私はここを去ることに決めた。

 線路に乗り、機関車ボディに切り替え、発車の汽笛を鳴らす。


ボォォォォォ!!

 蒸気を吹き出し、ピストンを動かし、動輪が回り始める。

 ふと街並みを見れば、どこもかしこも本がぎっしりの国。

 けれども、その中身はどれもこれも同じような内容しかなく、つまらなくなってしまった物語の数々。


『…‥‥でも、色々と工夫できそうなものだけどなぁ』

 なんとなく書く人によっては変えようがあって、より面白く出来そうな気がしつつも、この国の人たちではもうどうしようもないのかもしれない。

 惜しくも思えつつ、読んだ内容に深みもなく、薄まった水のような感想を思い出し、振り返らずに先へ行く。

ボォォォォォォォォォォ…‥‥!!

 汽笛を吹き鳴らしつつ、私は新たな物語を求めつつ、その国を去るのであった‥‥‥‥





…‥‥それから数年後、あの司書の言った通り国は衰退していき、人がいなくなった。

 後に残されたのは多くの書籍であったが、そのどれもが価値もないと判断され、たまに盗賊とかが訪れても盗まれることが無かった。

 それから更に歳月が流れ、何時しか自然発火してすべてが火に呑まれ、その国の物語は全て失われるのであった‥‥‥‥
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...