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6の旅『自然の星』
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―――――ボォォォォォ!!
汽笛を鳴らし、久々の線路にのって動輪を回し、蒸気を吹き上げる。
様々な世界へ旅することはするのだが、線路がない所も多く、こうやってきちんと走行できるのは久しぶりである。
とはいえ、少々走りにくい。
『全然手入れされていないというか、すっごい茂っているなぁ…‥‥』
線路があるし、廃墟も確認できたし、ある程度の文明の発展はあったのだろう。
だがしかし、今この場所は広大な森の中であり、辛うじて残っている線路の上を走行しているのだが、木々などがビシバシッと当たってくる。
シールドを張ってある程度は対応できる物の、いかんせん手入れのされてなさが酷い。
『人の気配とかもしないからなぁ…‥‥もしかしてこの世界、人間滅びた世界かな?』
様々な世界を渡ってきた私だが、人間がいない世界なども当然あった。
ひとではなく獣が文明を築き上げていたり、海から海洋類が進出していたり、挙句の果てには宇宙人が既に侵略済みであったなど、それなりにあるのだ。
…‥‥いやまぁ、何かと自滅して滅びたという事が多かったが、こうも自然豊かすぎる環境なのはそれだけではなさそうである。
この先もう少し進み、人がいなかったら飛行して空から探してみようかな…‥‥と思っていた、その時。
『ん?』
線路上に何かの影が見え、急ブレーキをかける。
ギイイイイィィィィィィ!!ぶっしゅうううう!!
蒸気を吐き、停車できたところでその影を見れば…‥‥
『なんだこれ?』
そこに横たわっていたのは、既に絶命した何かの獣。
進路妨害するように置かれているが、ただの野生動物に襲われたわけではないようだ。
なぜならば、全身おびただしい傷跡があり、矢がささっており‥‥‥
「ひやっはぁぁあぁぁ!!」
「今だ襲え野郎共ぉぉぉぉおl!!」
「「「ふぉぉぉぉぉぉ!!」」」
『!?』
突然、周囲の木陰から多くの人が飛び出してきた。
なんというか、別の世界で言う世紀末風な掛け声と共に、毛皮を衣服代わりに身にまとうむさくるしい男どもがとびかかって来たのだ。
どうも私を獣か何かと勘違いしているようだが‥‥‥うん、襲っても意味ないんだよなぁ。
ばしばしばっちぃん!!
「「「「「ぎゃああああああああああ!?」」」」」
‥‥‥だってね、シールド張ってますからね。バリヤーとか、障壁とかそう言う風に言った方が良いかもしれんが、それのおかげで襲ってきても無駄だもん。
見事に激突し、自爆してくれたが‥‥‥さて、どうしたものか。
『というか、文明の跡があるわりには、なんか全員石器時代の原人とかそう言うのに似た服装しているな』
気絶して倒れている現地人もとい原人な者たちを見て、私はそうつぶやく。
文明の痕跡があり、滅びたかと思ったが、生き延びていたのだろうか。
それにしてはいささかお粗末すぎるような気がするのだが‥‥‥っと、どういえばいいのか分からない中、茂みの方から隠れている視線に私は気が付いた。
『…‥‥そこに隠れている人、何者だ?』
「!?」
バレていないと思っていたようで、がさりと驚いたように茂みが揺れ動く。
そのまま数秒ほど考え込んだらしく、直ぐにその者が出てきた。
「‥‥‥た、頼む!!こいつらをどうか殺さないでくれ!!」
出てきたのは、むさくるしいおっさん‥‥‥とかではなく、普通に綺麗な女性。
骨で作ったらしい装飾品を付けているが、それなりに身が整えられており、襲ってきた奴らよりも理性はあるようだ。
『襲われた側だから、正当防衛もあるが‥‥‥まぁ、命を奪うことまではしないかな』
とにもかくにも、このままではちょっと話しにくそうなので一旦人間体を取ると、相手はびっくりしたように目を丸くするのであった。
「‥‥‥5年前の事故?」
「ああ、そうなんだ。そのせいで今は、この辺一帯が完全に大自然へ変貌したのさ」
場所を移し、寝床でもあるらしい洞窟へ招かれ、私はそこで話を聞いた。
女性の名前はベア。元はとある研究機関の優秀な研究員だったようで、この地が実は実験によって盛大にやらかされ、文明が退化してしまった場所だということを教えてもらった。
5年前まで、この星では文明が発展していたのだが、環境なんて考える暇もなく無駄に発展を続け、その代償に深刻な環境問題が発生し、連日連夜どうすべきかという会議が開かれていたらしい。
その最中で、どうにか再生できないかという事で、とある研究者が植物の生長を促す特殊なウイルスを散布して、一時的に失われた森林を回復させる成果を上げた。
実験したところ人間にも影響がなく、無害なウイルスであり、これであればまずは森林方面は解決すると大々的に報じられ、全世界に散布されたのだが…‥‥それが非常に不味かった。
「確かに人間に悪影響はなかったのだが‥‥‥いや、有機物全てに悪影響はないし、ウイルスの寿命も三日だけだったからこそ、直ぐに収まると思っていたんだ。けれども…‥‥」
‥‥‥確かに、人間やその他動植物に、ウイルスは何も作用しなかっただろう。
だが、そのウイルスはもっとよく調べて見れば、Icチップやその他精密な電子部品などにも影響を与え、腐らせて使い物にならなくする作用が発見されたのだ。
いわば、物理的なコンピューターウイルスに近い代物であり、文明がそれによって崩壊。
何しろ様々な文明の利器に電子部品が存在しており、全部が一斉にやられてしまったのだ。
情報収集のために動こうにもその機器も全滅し、気が付いたときには何もかも失われており、大自然に覆われてしまう状況になったようなのである。
「‥‥‥いや、それだけでここまで衰退するのかな?」
「衰退するんだ。何しろ、マッチ一本を何もない状況から作れるのか、という話が例にあってだな‥‥‥」
文明が進んでいたからこそ、今までは何の不自由もなく様々な生活用具なども扱えていた。
だが、崩壊した今はそれらを作るための機械も何もなく、遠出をしたくとも車も使えず、連絡しようにも電話も使えず、文明の利器に頼っていたためにあっという間に人々の生活は行き詰った。
生活の不自由さに文句を言いたくとも言う相手の場所も分からず、食料品を得ようにもスーパーとかも機能していないのであっと言う間に無法地帯となり、色々と世紀末なことになったようだ。
「そして5年たった今‥‥‥ようやくある程度の狩りの腕前など、サバイバル技術を習得して生活のめどが立ったんだが…‥‥」
ここの人はたくましいのか、混乱はしばらく続いたモノの、なんとか環境の変化に適応できたらしい。
だがしかし、適応しすぎて野生に帰り始め、先ほどのように私のような蒸気機関車も大きな動く獣としかみなせない人が続出してしまったのだとか。
「野生化しすぎじゃないかな?」
「私の見解だと、多分ウイルスのせいもあるんだよなぁ…‥‥」
害はないとされていたが、それはあくまでも短期的な話し。
流石に長期間このような状態にさらされた実験もなく、何かしらの作用が人々の頭の中で起こり、野生化しすぎる人々が出てしまったようだ。
で、目の前のベアさんは辛うじてその野生化しすぎる影響もなく、言うなればウイルスすらも克服して手に入れた理性を持つのだが、それ以外のココの近隣住民は全て野生化したらしい。
狩りをするための知能ぐらいは残っているが、後は獣。大自然と共に生きる存在になったらしい。
「理性が捨てられれば楽だが、残っているからこそ質が悪い。それに、ああなっても元々は同僚だから見捨てられなくてな‥‥‥」
野生化したとはいえ、大事な元同僚たち。
だからこそ狩りの場でも後を付けており、何かあればすぐ動けるようにしようと考えていたからこそ、あの場で出てきてくれたということだ。
‥‥‥なお、ウイルスに関しては、私の方も電子部品が客車などにあるのだが、そちらに関しては侵入できないようになっているので影響はない。シールド、本当にこういう時に便利。
「色々、大変だったんだね」
「ああ、一応貞操なども守り抜きつつ、しっかりと見ているのだが‥‥‥蒸気機関車が人の姿を取るとは、驚きだな」
「まぁ、私の方も色々ありまして…‥‥」
とにもかくにも、今はもう彼女ぐらいしか近隣には理性を持つ住民はおらず、見守ってはいるものの、話が通じる相手に会えたのは嬉しいらしい。
「まだほかにも、理性ある人々は残っているとは思うが‥‥‥それでも数えるほどしかなく、ほとんどの人々は野生に帰ってしまったのだろう」
そう言いながら、寝転がされている者たちを見て彼女は溜息を吐く。
既にほぼ野生動物に近い彼等とは、言葉を交えることができても会話が成り立ちにくく、話し相手がなかなかできなかった。
というか、男性が多い中で無事だった部分に驚くのだが、それはそれで彼らの本能的に襲われることはないのだとか。
「何しろ、研究所の元同僚たちだ。日夜やらかしていた人もお刈ったし、怒りを落とすのもしょっちゅうやっていたからねぇ」
要はオカンに逆らえない悪ガキ状態か。分かりやすいのだと、何処かの世界で見たガキ大将と母親の関係に近いのかもしれない。
何にしても、それでも見捨てることはできず、理性があるからこそ彼らの生活の中での不便な点を手助けしたりして、今まで生きてきたようだ。
「でも、不幸せそうには見えないな」
「そりゃそうだろう。これはこれで面白い生活でもあるからな」
文明の利器が崩壊しても、野生に還った彼らを観察するのは中々面白いらしい。
研究者としてのさがというべきか、この辺りでの最後の理性を持つ者としてか、飽きることはない。
昔の文明の一部が出てきても、それが使えずに右往左往する様とかもちょっと笑えるようで、充実はしているのだとか。
「むしろ、崩壊してよかったかもなぁ…‥‥限界に近かったというか、行き過ぎた発展で何もできなくなってきたんだもの」
文明が豊かになればなるほど、生活は確かに豊かになっていた。
だが、環境と引き換えにするだけではなく、心そのものにも代償があったようだ。
豊かになればなるほどさらに豊かにしたいと同時に、自分達もその豊かさを受け取りたい。
だからこそより一層豊かにするために働く奴隷になっていたようで、心休まる時がほとんどなかったようだ。
でも、今はどうなのだろうか。
文明の利器も崩壊し、毎日が野生生活で、何も考える必要はない。
無駄に考える意味合いもなく、だからこそ野生化しすぎる面々のように度が行きすぎたくはないが、それでも心配事などが余り無い以上、心の癒しにはなるそうだ。
「発展で減った心を、衰退で育むか…‥‥何と言うか、結果って分からないものですね」
「そうだろうなぁ。あの時は毎日が忙しかったし、こうやって自由奔放にできるというのもいいものだ」
まぁ、問題があるとすれば理性が唯一残っているので、野生化が余りできないことらしい。
もっと心をはじけさせたいとも思うが、それでも彼らを見るには理性がある方が都合よく、ちょっとしたジレンマに近いらしい。
「一応聞いておきますけど、貴女のような人がこの先この世界でいる可能性があるのでしょうか?」
「いるとは思うねぇ。‥‥‥でも、全員がこの生活になれていない可能性もあるし、理性があるからこそ発狂して何もできなくなった人もいるだろう」
彼女はまだ、この野生生活に適応はできる方だった。
けれども、理性を捨てていない者の中には文明の利器に頼り過ぎて何もできず、何もできないその苦しみゆえに発狂しているものもいるかもしれないようだ。
線路が残されており、終点までは存在しているかもしれないが、その先々に同じような人はほとんどいないらしい。
「この生活のままでこっちは良いけどね。興味があれば先へ進み、観ていきな」
そう笑いながら、ベアと私は軽く飲みかわしつつ、その場を分かれる。
‥‥‥文明が発展しながらも崩壊し、やり直している人々はいるだろう。
何もかも失い、生きられなくなった人もいるかもしれないが、それでも人というのはたくましいもので、そこから生きるすべも見つけるようだ。
そして、なおかつ適応して、平和に暮らせているのであれば‥‥‥これはこれで良い事なのかもしれない。
(あ、でも発狂している人とかには出くわしたくないなぁ)
そう思いつつ、蒸気機関車ボディに戻り、せっかくなので終点まで隅々探してみることにする。
おそらくは彼女のように生活している人もいるだろうし、理性を失ったもの、発狂した者もいるかもしれない。
けれども、それも人々によっては違うだろうし、どの様な人が対応できているのかということも見れるだろう。
ボォォォっと汽笛を鳴らし、ピストンを動かし、動輪を回転させる。
何にしても、せっかくの線路がある世界だし、ここの終点まで大自然と共に楽しんでみようかと私は思うのであった‥‥‥‥
‥‥‥そしてその先々で、私は新たな事を知る。
文明の利器が崩壊しても、案外たくましく生きる人々が多い事を。
そして新しく木々を組み合わせただけの文明を築き上げ、諦めることなく再び再興を試みる人々を。
それらを見ると、本当に人間はたくましい所もあるのだなぁっと関心するのであった。
汽笛を鳴らし、久々の線路にのって動輪を回し、蒸気を吹き上げる。
様々な世界へ旅することはするのだが、線路がない所も多く、こうやってきちんと走行できるのは久しぶりである。
とはいえ、少々走りにくい。
『全然手入れされていないというか、すっごい茂っているなぁ…‥‥』
線路があるし、廃墟も確認できたし、ある程度の文明の発展はあったのだろう。
だがしかし、今この場所は広大な森の中であり、辛うじて残っている線路の上を走行しているのだが、木々などがビシバシッと当たってくる。
シールドを張ってある程度は対応できる物の、いかんせん手入れのされてなさが酷い。
『人の気配とかもしないからなぁ…‥‥もしかしてこの世界、人間滅びた世界かな?』
様々な世界を渡ってきた私だが、人間がいない世界なども当然あった。
ひとではなく獣が文明を築き上げていたり、海から海洋類が進出していたり、挙句の果てには宇宙人が既に侵略済みであったなど、それなりにあるのだ。
…‥‥いやまぁ、何かと自滅して滅びたという事が多かったが、こうも自然豊かすぎる環境なのはそれだけではなさそうである。
この先もう少し進み、人がいなかったら飛行して空から探してみようかな…‥‥と思っていた、その時。
『ん?』
線路上に何かの影が見え、急ブレーキをかける。
ギイイイイィィィィィィ!!ぶっしゅうううう!!
蒸気を吐き、停車できたところでその影を見れば…‥‥
『なんだこれ?』
そこに横たわっていたのは、既に絶命した何かの獣。
進路妨害するように置かれているが、ただの野生動物に襲われたわけではないようだ。
なぜならば、全身おびただしい傷跡があり、矢がささっており‥‥‥
「ひやっはぁぁあぁぁ!!」
「今だ襲え野郎共ぉぉぉぉおl!!」
「「「ふぉぉぉぉぉぉ!!」」」
『!?』
突然、周囲の木陰から多くの人が飛び出してきた。
なんというか、別の世界で言う世紀末風な掛け声と共に、毛皮を衣服代わりに身にまとうむさくるしい男どもがとびかかって来たのだ。
どうも私を獣か何かと勘違いしているようだが‥‥‥うん、襲っても意味ないんだよなぁ。
ばしばしばっちぃん!!
「「「「「ぎゃああああああああああ!?」」」」」
‥‥‥だってね、シールド張ってますからね。バリヤーとか、障壁とかそう言う風に言った方が良いかもしれんが、それのおかげで襲ってきても無駄だもん。
見事に激突し、自爆してくれたが‥‥‥さて、どうしたものか。
『というか、文明の跡があるわりには、なんか全員石器時代の原人とかそう言うのに似た服装しているな』
気絶して倒れている現地人もとい原人な者たちを見て、私はそうつぶやく。
文明の痕跡があり、滅びたかと思ったが、生き延びていたのだろうか。
それにしてはいささかお粗末すぎるような気がするのだが‥‥‥っと、どういえばいいのか分からない中、茂みの方から隠れている視線に私は気が付いた。
『…‥‥そこに隠れている人、何者だ?』
「!?」
バレていないと思っていたようで、がさりと驚いたように茂みが揺れ動く。
そのまま数秒ほど考え込んだらしく、直ぐにその者が出てきた。
「‥‥‥た、頼む!!こいつらをどうか殺さないでくれ!!」
出てきたのは、むさくるしいおっさん‥‥‥とかではなく、普通に綺麗な女性。
骨で作ったらしい装飾品を付けているが、それなりに身が整えられており、襲ってきた奴らよりも理性はあるようだ。
『襲われた側だから、正当防衛もあるが‥‥‥まぁ、命を奪うことまではしないかな』
とにもかくにも、このままではちょっと話しにくそうなので一旦人間体を取ると、相手はびっくりしたように目を丸くするのであった。
「‥‥‥5年前の事故?」
「ああ、そうなんだ。そのせいで今は、この辺一帯が完全に大自然へ変貌したのさ」
場所を移し、寝床でもあるらしい洞窟へ招かれ、私はそこで話を聞いた。
女性の名前はベア。元はとある研究機関の優秀な研究員だったようで、この地が実は実験によって盛大にやらかされ、文明が退化してしまった場所だということを教えてもらった。
5年前まで、この星では文明が発展していたのだが、環境なんて考える暇もなく無駄に発展を続け、その代償に深刻な環境問題が発生し、連日連夜どうすべきかという会議が開かれていたらしい。
その最中で、どうにか再生できないかという事で、とある研究者が植物の生長を促す特殊なウイルスを散布して、一時的に失われた森林を回復させる成果を上げた。
実験したところ人間にも影響がなく、無害なウイルスであり、これであればまずは森林方面は解決すると大々的に報じられ、全世界に散布されたのだが…‥‥それが非常に不味かった。
「確かに人間に悪影響はなかったのだが‥‥‥いや、有機物全てに悪影響はないし、ウイルスの寿命も三日だけだったからこそ、直ぐに収まると思っていたんだ。けれども…‥‥」
‥‥‥確かに、人間やその他動植物に、ウイルスは何も作用しなかっただろう。
だが、そのウイルスはもっとよく調べて見れば、Icチップやその他精密な電子部品などにも影響を与え、腐らせて使い物にならなくする作用が発見されたのだ。
いわば、物理的なコンピューターウイルスに近い代物であり、文明がそれによって崩壊。
何しろ様々な文明の利器に電子部品が存在しており、全部が一斉にやられてしまったのだ。
情報収集のために動こうにもその機器も全滅し、気が付いたときには何もかも失われており、大自然に覆われてしまう状況になったようなのである。
「‥‥‥いや、それだけでここまで衰退するのかな?」
「衰退するんだ。何しろ、マッチ一本を何もない状況から作れるのか、という話が例にあってだな‥‥‥」
文明が進んでいたからこそ、今までは何の不自由もなく様々な生活用具なども扱えていた。
だが、崩壊した今はそれらを作るための機械も何もなく、遠出をしたくとも車も使えず、連絡しようにも電話も使えず、文明の利器に頼っていたためにあっという間に人々の生活は行き詰った。
生活の不自由さに文句を言いたくとも言う相手の場所も分からず、食料品を得ようにもスーパーとかも機能していないのであっと言う間に無法地帯となり、色々と世紀末なことになったようだ。
「そして5年たった今‥‥‥ようやくある程度の狩りの腕前など、サバイバル技術を習得して生活のめどが立ったんだが…‥‥」
ここの人はたくましいのか、混乱はしばらく続いたモノの、なんとか環境の変化に適応できたらしい。
だがしかし、適応しすぎて野生に帰り始め、先ほどのように私のような蒸気機関車も大きな動く獣としかみなせない人が続出してしまったのだとか。
「野生化しすぎじゃないかな?」
「私の見解だと、多分ウイルスのせいもあるんだよなぁ…‥‥」
害はないとされていたが、それはあくまでも短期的な話し。
流石に長期間このような状態にさらされた実験もなく、何かしらの作用が人々の頭の中で起こり、野生化しすぎる人々が出てしまったようだ。
で、目の前のベアさんは辛うじてその野生化しすぎる影響もなく、言うなればウイルスすらも克服して手に入れた理性を持つのだが、それ以外のココの近隣住民は全て野生化したらしい。
狩りをするための知能ぐらいは残っているが、後は獣。大自然と共に生きる存在になったらしい。
「理性が捨てられれば楽だが、残っているからこそ質が悪い。それに、ああなっても元々は同僚だから見捨てられなくてな‥‥‥」
野生化したとはいえ、大事な元同僚たち。
だからこそ狩りの場でも後を付けており、何かあればすぐ動けるようにしようと考えていたからこそ、あの場で出てきてくれたということだ。
‥‥‥なお、ウイルスに関しては、私の方も電子部品が客車などにあるのだが、そちらに関しては侵入できないようになっているので影響はない。シールド、本当にこういう時に便利。
「色々、大変だったんだね」
「ああ、一応貞操なども守り抜きつつ、しっかりと見ているのだが‥‥‥蒸気機関車が人の姿を取るとは、驚きだな」
「まぁ、私の方も色々ありまして…‥‥」
とにもかくにも、今はもう彼女ぐらいしか近隣には理性を持つ住民はおらず、見守ってはいるものの、話が通じる相手に会えたのは嬉しいらしい。
「まだほかにも、理性ある人々は残っているとは思うが‥‥‥それでも数えるほどしかなく、ほとんどの人々は野生に帰ってしまったのだろう」
そう言いながら、寝転がされている者たちを見て彼女は溜息を吐く。
既にほぼ野生動物に近い彼等とは、言葉を交えることができても会話が成り立ちにくく、話し相手がなかなかできなかった。
というか、男性が多い中で無事だった部分に驚くのだが、それはそれで彼らの本能的に襲われることはないのだとか。
「何しろ、研究所の元同僚たちだ。日夜やらかしていた人もお刈ったし、怒りを落とすのもしょっちゅうやっていたからねぇ」
要はオカンに逆らえない悪ガキ状態か。分かりやすいのだと、何処かの世界で見たガキ大将と母親の関係に近いのかもしれない。
何にしても、それでも見捨てることはできず、理性があるからこそ彼らの生活の中での不便な点を手助けしたりして、今まで生きてきたようだ。
「でも、不幸せそうには見えないな」
「そりゃそうだろう。これはこれで面白い生活でもあるからな」
文明の利器が崩壊しても、野生に還った彼らを観察するのは中々面白いらしい。
研究者としてのさがというべきか、この辺りでの最後の理性を持つ者としてか、飽きることはない。
昔の文明の一部が出てきても、それが使えずに右往左往する様とかもちょっと笑えるようで、充実はしているのだとか。
「むしろ、崩壊してよかったかもなぁ…‥‥限界に近かったというか、行き過ぎた発展で何もできなくなってきたんだもの」
文明が豊かになればなるほど、生活は確かに豊かになっていた。
だが、環境と引き換えにするだけではなく、心そのものにも代償があったようだ。
豊かになればなるほどさらに豊かにしたいと同時に、自分達もその豊かさを受け取りたい。
だからこそより一層豊かにするために働く奴隷になっていたようで、心休まる時がほとんどなかったようだ。
でも、今はどうなのだろうか。
文明の利器も崩壊し、毎日が野生生活で、何も考える必要はない。
無駄に考える意味合いもなく、だからこそ野生化しすぎる面々のように度が行きすぎたくはないが、それでも心配事などが余り無い以上、心の癒しにはなるそうだ。
「発展で減った心を、衰退で育むか…‥‥何と言うか、結果って分からないものですね」
「そうだろうなぁ。あの時は毎日が忙しかったし、こうやって自由奔放にできるというのもいいものだ」
まぁ、問題があるとすれば理性が唯一残っているので、野生化が余りできないことらしい。
もっと心をはじけさせたいとも思うが、それでも彼らを見るには理性がある方が都合よく、ちょっとしたジレンマに近いらしい。
「一応聞いておきますけど、貴女のような人がこの先この世界でいる可能性があるのでしょうか?」
「いるとは思うねぇ。‥‥‥でも、全員がこの生活になれていない可能性もあるし、理性があるからこそ発狂して何もできなくなった人もいるだろう」
彼女はまだ、この野生生活に適応はできる方だった。
けれども、理性を捨てていない者の中には文明の利器に頼り過ぎて何もできず、何もできないその苦しみゆえに発狂しているものもいるかもしれないようだ。
線路が残されており、終点までは存在しているかもしれないが、その先々に同じような人はほとんどいないらしい。
「この生活のままでこっちは良いけどね。興味があれば先へ進み、観ていきな」
そう笑いながら、ベアと私は軽く飲みかわしつつ、その場を分かれる。
‥‥‥文明が発展しながらも崩壊し、やり直している人々はいるだろう。
何もかも失い、生きられなくなった人もいるかもしれないが、それでも人というのはたくましいもので、そこから生きるすべも見つけるようだ。
そして、なおかつ適応して、平和に暮らせているのであれば‥‥‥これはこれで良い事なのかもしれない。
(あ、でも発狂している人とかには出くわしたくないなぁ)
そう思いつつ、蒸気機関車ボディに戻り、せっかくなので終点まで隅々探してみることにする。
おそらくは彼女のように生活している人もいるだろうし、理性を失ったもの、発狂した者もいるかもしれない。
けれども、それも人々によっては違うだろうし、どの様な人が対応できているのかということも見れるだろう。
ボォォォっと汽笛を鳴らし、ピストンを動かし、動輪を回転させる。
何にしても、せっかくの線路がある世界だし、ここの終点まで大自然と共に楽しんでみようかと私は思うのであった‥‥‥‥
‥‥‥そしてその先々で、私は新たな事を知る。
文明の利器が崩壊しても、案外たくましく生きる人々が多い事を。
そして新しく木々を組み合わせただけの文明を築き上げ、諦めることなく再び再興を試みる人々を。
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