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4の旅『吹雪の村』
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『‥‥‥うわぁ、動けないな』
しゅううっと蒸気を吐き、ボイラーの火を絶やさないように燃焼させつつ、私は立ち往生を喰らっていた。
びゅごおぉぉおぉっと風音もすさまじいながらも、車体の半分が埋まるほどの豪雪にあったのである。
雪かきを付けて、出力を上げれば走り抜ける事も不可能ではないが、こういう天候が悪い時は迂闊に動かない方が良い。
そう言う事を理解しているので、かれこれ数日間は雪の中に立ち往生しているのだが‥‥‥いかんせん、天候の回復は見込めそうになかった。
そもそも、最初はこんな天候ではなく、普通に日差しの心地いい晴れた世界であった。
だがしかし、進むにつれて猛吹雪が吹き荒れ始め、引き返そうにもいつの間にか激しすぎて引き返せなくなったのである。
しかも線路が無いからこそ宙に浮いているわけにもいかず、いったん地面に着陸したが…‥‥この様子だと、雲の上に走っていたほうが良かったかもしれない。でも、雷雲だったりするからな‥‥‥雷、人間じゃあるまいし多少直撃しても平気だが、音が怖いんだよね…‥‥。
『まぁ、石炭を燃焼させれば凍り付く心配もないのが幸いかな。燃料の残量自体に心配はないし、止むまでまだまだ停車できるか』
車体の半分が雪に埋もれているが、特に問題なし。
客車内もきちんと暖房を全開にしており、凍死する危険性はないだろう。いや、私は蒸気機関車だからまずそれは無いか。水を使っているので、そっちが凍ったらそれはそれで困るけど。
何にしても吹雪でどんどん車体が埋もれていくが、今のところ問題は無い。全力で動輪を回せば脱出できるし、雪の中に浸かっていても平気だからね。
せっかくなので内部で人間体の一部を解放し、車両の中にある図書室でゆっくりとこれまでの旅で仕入れてきた蔵書でも読み直そうかなと考えていた‥‥‥その時であった。
―――リンリンリーン!!リンリンリーン!!
『‥‥‥ん?』
なにやら吹雪の中、軽快な鈴の音が鳴り響き、何事かとそちらへ気配を探る。
猛吹雪だというのに何かが駆け抜けているようだが、いかんせん視界が悪い。
だが、だんだんこちらの方に近づいてきているのか、その姿がぼやぁっと移って来た。
『犬ぞりか』
そこで駆け抜けていたのは、数頭ほどの犬で牽引させて進む犬ぞり。
念のためにライトを消灯し、気配をちょっと消したところ相手は気が付かずに横を通り過ぎようとしている。
どうもこの先に人家でもあるようで、3台ほどの犬ぞりで荷台も牽引しているようだが‥‥‥ふと、様子がおかしいことに気が付いた。
『あ、犬でも厳しいな、コレ』
見れば、徐々に速度が落ちている。
この周辺に人家はないので、まだ先の方になるのだろうが、あの様子では辿り着く前に止まりそうだ。
「がんばれー!!もうすぐで着くぞ!」
「ですが旦那ぁ!!犬たちが限界に近いでっせぇ!!」
「それでも行かねばならんだろ!!何しろ薬草を一刻でも早く届けなければ不味いだろうが!!」
‥‥‥吹雪の音の中でも、カクテルパーティー効果というべきか、注意して聞けば会話内容が聞こえてくる。
なにやら切羽詰まった状況のようだが‥‥‥まぁ、ここであったのも何かの縁だ。手助けした方が良いだろう。
『ボイラー内、圧力上昇。ブレーキ弁解除。シリンダー内異常なし…‥‥出発進行!!』
―――――ボォォォォォォ!!
ドッゴォォォン!!
蒸気を吹き上げ、ピストンを動かし、埋まっていた車体を起こして雪から脱出する。
雪かきを素早く装備し、雪上走行を開始し始めるとすぐに追いついた。
「な、なんだあれ!?」
「なんか見たことないのが迫って来たぞ!!」
ボォォッと汽笛を鳴らし、ライトを点灯させて近づいてきた私に気が付いたのか、そりの人達は驚愕したような目でこちらに顔を向ける。
速度を落とし、そりに合わせつつ、私は彼らに声をかけた。
『怪しいモノではない!ただ単純に吹雪の中であなた方を見かけ、手助けしようと思った者だ!』
「しゃ、しゃべったぁぁ!?」
「何者かはわからぬが…‥‥我々を助けてくれるのか?」
『ああ、そのつもりだ』
そりで駆け抜けながらも、3台をまとめ上げているらしい中心の人物がそう尋ねてきたので、私は返答した。
者か物かその部分にツッコミを入れずに、まずはそこからいうところを見ると、結構心が図太そう。
「ならば頼もう!」
「だ、旦那ぁ!?こんな得体のしれない者に頼っていいのですぁ!?」
「どっちにしろ、犬たちではこれ以上走らせられん!!今はただ、この助け舟(?)に頼ればいい!!何かあれば儂が全責任を取る!!」
『おお、なんかカッコイイ言葉』
こうも堂々と発言されるのは面白い。
物語などでは聞いたりするが、旅する中でこういう発言をする人はあまりいなかったからなぁ‥‥‥うん、何かと面白そうだ。
ひとまずはそりも載せるためにいったん停車し、客車へ彼らを案内するのであった。
―――――ボォォォォ!!
「もらった地図だと、吹雪の中だが雪上走行で20分もあれば着くかな」
「は、早いな‥‥‥犬ぞりだとまだかかるというのに‥‥‥」
「いや、まず旦那、驚くポイントそこじゃないでしょ」
温かくした客車内にて、彼らの前に私は人型の姿で現れ、もらった地図を見て進路を確認すると、それぞれ私の姿を見て驚く。
「あんた、何者なんだ?人がいないかと思いきや、にゅっと床から生えるように現れて驚いたんだが」
「ああ、私はこの列車を牽引しているただの蒸気機関車さ。そちらこそ、この吹雪の中急いでいたようだが‥そっちは何者で、なにがあったんだ?」
「助けてもらったのに、まだ名乗らなくて済まない。こっちの二人は私の部下のヨーデルとヤン。儂はこの者たちの上司でもあり、この先にある村の村長のデンドラーだ」
部下二人はそれぞれひげズラ親父に、散切り頭。
そして、このデンドーラという人は一見ふくよかそうに見えるが、鍛えているようで筋肉質なおっさんであった。
「毎年、この時期に非常に猛吹雪が吹き荒れてな…‥‥いつもならば村全体で雪籠りをしていたんだ」
「だがな、今年はどうも違って、質の悪い風邪が流行り出したんだ」
「ほぅ?」
話によれば、彼らはこの先にあるイサム村という所の出身で、毎年この吹雪の時期には雪に埋もれつつ、大量に積もる事を逆手にとって、雪の下で建物が全部カマクラだったり、氷を溶かして水源にしたりして暮らしていたらしい。
だがしかし、今年はどうも村の中で質の悪い風邪が流行し、全滅の危機に陥っているのだとか。
「この時期は、国全体が雪に沈むからな‥‥‥移動は雪下にトンネルを掘るか、雪上の犬ぞりがメインとなる」
「だけど、今年度は掘る前にやられて、仕方がなく上を通って隣村まで行かなければならなかったんだ」
「何しろ、病自体は医学書でしっかり分かって、必要な薬草なども分かったんだが…‥‥備蓄が無くてな」
そのため、薬の製作に必要な薬草をわざわざ犬ぞりで取りに向かい、帰還中だったのだとか。
けれども今年は例年よりも非常に吹雪が激しく。犬ぞりでも中々進めない状態だったようだ。
「そこで、あなたが来てくれて助かった…‥‥色々と聞きたいこともあるが、窓の外を見る限り、この速度なら間に合うはずだ」
「ああ、話を聞いて今更に出力を上げたからね。吹雪で向かい風で、線路上ではないとはいえ、このぐらいなら何とか出せる」
悪天候な条件下だが、なんとかもうちょっとスピードを上げることができる。
安全を考えるならもうちょっと落とすべきだろうが、流石に今は緊急事態のようだしね…‥‥動輪を動かさないとね。
あ、犬たちに関しては床暖房システムを入れたからか、猫でもないのに丸くなって寝転がり中。車内を汚さないようにしてもらいつつ、今はこの悪天候を駆け抜けるのみ。
「にしても、酷い吹雪だ‥‥‥地図があっても見にくいなこれ」
「話しぶりを見ると、どうもあの牽引している蒸気機関車とかいうのがあなたのようだが…‥‥見にくいのか?」
「ああ、ちょっと目がややこしいけどね」
車内でも人間体を出して本体の方を動かすことができるけど、視界がちょっと分かりにくい時もある。
しかも今はかなり吹雪が激しく、より慎重にしつつ速度を出さないとなぁ…‥‥
「‥‥‥あ、ところで一つ良いかな?」
「なんだ?」
「今の話で雪の下に村を作ったのは分かるけど、これって停車時雪上に止まればいいの?それとも村の方に止まればいいの?」
「…‥‥そう言えば、どっちだ?」
「雪上に出る通路を使おうにもこの車体だと入らんぞ」
「あ、でも考えれば全部収納すればいいか。犬ぞりの方に薬草を載せているならそこで停車して、引っ込めれば良いからね」
「どうなっているんだ、その体?」
そのツッコミは受け付けておりません。私自身、自分でたまに自分が良く分からない時があります。そもそも誰に改造されたのかもよく分からないで旅を続けているが、特に気にすることはないからなぁ。
ああ、でもできれば線路がない世界とかあるなら、自力で線路を作れればいいなぁと思ったことはある。水上・雪上・空中走行ができても、足元が何か落ち着かないからね。
何にしても速度を上げ、ピストンを全力で動かし、動輪を回転させ雪上を駆け抜ける。
蒸気と雪がともに吹っ飛んでいき、どんどん突き進むうちに、そろそろ停車地点となる。
「っと、ブレーキを掛けないとな‥‥‥ちょっと待っててね」
人間体部分を消し、本体の蒸気機関車の方へ意識を全部向ける。
こういう停車時に、滑りやすい雪上では万全にして置かなければ、下手すると盛大な事故が起きかねないからね‥‥‥ああ、この体になる前に、富豪の家の線路で事故が起きて、脱線した時の思い出がなんか今思い出したなぁ。修理されたけど、地味にトラウマなんだよ。
ボォォォォォ!!
ギギギギギギギィ!!
汽笛を鳴らし、蒸気を吹き上げ、ブレーキを全開でかける。
急停止しすぎないように気を遣いつつ、目的地をオーバーランしないように調整して‥‥‥ようやく止まった。雪上走行だとブレーキが難しいね。
『それじゃ、一旦降りてくれ。人間体になる時に内部に人がいたら、ちょっとアレだったりするんで』
「アレ?」
『前に一回、ちょっとやらかしまして…‥‥』
詳細を聞かせず、全部降りてもらい、私も蒸気機関車ボディから人間体へ変身する。
そして薬を運ぶのを手伝いつつ、雪下の村へ到着した。
「薬が来たぞぉぉぉ!」
「急いで病人を運べぇぇ!!」
彼らが声を張り上げて叫ぶと、村のあちこちから人が出てきて急いで動き出す。
えっさわんやと病人を運び入れ、私も混じって手伝っていく。
見れば多くの人々が倒れており、各自が布団ごと担架で運ばれていく。
「よっせ、次!」
「はい!次!」
「不味くても飲め!次!」
「もう一杯とか無理だ!次!!」
はいはいはいはいっとリズムよく、搬送された人々に薬が投与されていく。
飲み薬タイプのようで、注射器はいらないようだが、それでも相当激マズなのか、飲んだ後に顔を悪する人が多い。
けれども効果はあったようで、薬が無くなる頃合いには、最初に投与された人から病状が回復していった。
「ふぅ‥‥‥なんとか全部、間に合ったか」
「病人、結構いましたね‥‥‥病状を見ると、確かに間に合わなかったら不味かったかもしれませんね」
ぐでーんっと、なんとか全員投与し終わり、回復の兆しを見せたところで私たちは疲れて倒れ伏す。
蒸気機関車として牽引している時はさほど感じなくとも、人間体だとそれなりに感じるからね…‥‥ここまで関わったのは良いけど、皆疲れているようである。
「というか、そもそもこの風邪ってどこから発生したのでしょうか?」
「それが分からないんだよなぁ‥‥‥例年とは違って突然だったからな」
私の問いかけに対して、周囲の人々はそうだそうだと頷きあう。
突発的な流行ということなのか…‥‥まぁ、おかしくもないか。
「でもまぁ、無事に間に合ってよかったよ‥‥‥すまないな、助けてくれて」
「いやいや、こちらとしても見かけたからね。放っておけなかっただけさ」
ははははっと、互にほっとしてほんわかとした雰囲気になっていた…‥‥その時であった。
「大変だ大変だ大変だデンドーラ村長ぉぉ!」
「どうした!!」
村人の一人が突如としてその場に駆け込み、デンドーラ村長に慌てた様子で説明し始めた。
「村の食糧庫がやられている!!盗難被害だ!!」
「ぬわんだとぅ!?」
その報告を聞き、デンドーラ村長は驚愕の声を上げ、すぐさま現場へ向かった。
私もついでに一緒になって見に行けば、村の端っこにあったという食糧庫が…‥‥
「食料が全部なくなっているだとぅ!?」
中を見て見れば、何もないもぬけの殻。
どうやらこの雪の積もる時期はここで食糧を蓄えておき、やり過すつもりだったらしいが‥‥‥この状態では、全員が風邪から治ったとしても全滅の危機である。
「どこのどいつが盗んだ!!」
「食糧庫にカギはきちんとかけていたはずだ!!」
「そもそも入り込む隙間もないはずだぞ!!」
てんやわんやして、村の人たちが慌てふためく中、ふと私はあることに気が付く。
「あれ?なんかここだけ音が違うような…‥‥」
空っぽの食糧庫内部を歩くと、一部の床を踏んだ際の音が違っていた。
「何?」
「なんだと?」
その言葉を聞き、皆が集まって調べて見れば…‥‥そこには隠し通路が掘られていた。
「どこのどいつだ!!こんなものを作ったやつは!!」
「というかどう考えてもここから運んでいっただろ!!」
考えられる盗難のタイミングとすれば、風邪で皆が寝込んでいた時。
村長たちが薬を取りに向かっているその間ぐらいのようだ。
「よし、この穴を通って先へ進むぞ!!もしかすると相手は塞いでいないのかもしれん!!」
「「「おーーーー!!」」」
デンドーラ村長の掛け声に合わせ、村の人たちが一致団結する。
乗り掛かった舟とも言うし、ついでに手助けのつもりで私も共に穴を通って見ることにした。
「‥‥‥思った以上に広いな」
「食料はでかい物もあるからな‥‥‥余裕をもって通れるようにしたのだろう」
所々に崩落防止のための支え棒などがあり、明りに関しては手に持ったランプだよりではあるらしいが、それでも十分光源として機能している。
「あれ?分かれ道になってないか?」
先へある程度進むと、何やら道が分かれていた。
「これは…‥‥方角的には隣の村の道だ。でも、こっちは違うな」
「確か、廃村が無かったか?去年あたりに最後の爺さん村長が亡くなったはずだが…‥‥」
「おーい!!そっちに入るのは隣村のデンドーラ村長かー!!」
「!!」
っと、どうやら話していると隣村の方につながる道らしい方から別の人達が現れた。
話を聞くと、どうやらその隣村の村長らしく、こちらでも食糧庫の被害を受けたそうなのだ。
「となると、こっちの廃村の方の道に行ったのかもしれぬが…‥‥廃村だからこそ、人はいないはずだろ?」
「そのはずだよな?がめつい金庫親父村長が金庫を抱えて亡くなった話をしたからな」
何だろう、その廃村の村長。面白おかしそうな死に方してないかな?
とにもかくにも、合流して共に先へ向かえば、広い場所へ出た。
「‥‥‥間違いない。ここは廃村だ」
「家々も雪で潰され、カマクラもできてないはずだが‥‥‥」
穴から出て、広い空間へ出たところで各々そう口にする。
「廃村ですよね?なのに、こんな雪の下に空間があるのはおかしくないでしょうか?」
「そう考えると、誰かが掘ったのだろうが…‥‥廃村にメリットなんてないぞ?」
そもそも、この国のこの時期の猛吹雪時には、どの都市も村も雪の下に建物を建設して過ごすのだが、場所によっては条件が最悪なところも多い。
水源が泥水しかなかったり、要の雪に水分が多く含まれていてドロドロだったり、あるいは猛獣が住み着いていたりする場合もあり、条件にちょうどいい場所が無い時もあるのだ。
この廃村もその悪い条件があったようで、ちょっと崩落しやすい危険性があるそうだ。
…‥‥崩れそうになったらすぐに逃げ出せるようにしておくが、そんな廃村となった場所に居つくメリットはそうそうないはずである。
「考えられるとすれば‥‥‥盗賊の類か?」
「ああ、そうかもな」
何処の世界にも悪人はいるというか、腐った根性たくましいような盗賊はいるらしい。
この世界だと雪が降るこの時期限定で活動をする盗賊団がいるそうで、一致団結してやり遂げるその様は、その根性を別の方向へ活かせばいいものになるとまで言われているそうだ。
「もしかすると、前々から狙われていたかもしれぬな‥‥‥」
あの通路を掘るのにも時間がかかるはずだし、計画的な犯行の可能性が高い。
もし盗賊だとすれば、丸腰に近いこの面々ではやられる可能性があるし、いったん戻って武器を取ろうかと話し合いをしようとしていた‥‥‥その時であった。
ドォォン!!
「「「!?」」」
突然の爆発音に、一斉にその音の方を見て見れば、何やら天井の雪にひびが入りつつ、向こう側から煙が流れてきた。
「なんだ?」
「爆発‥‥‥誰かが爆破したのか?」
天井に危険が生じつつも、何が起きたのか確認するために私たちは注意深く現場へ急行した。
そして、そこで見たのは‥‥‥‥
「…‥‥なんじゃこりゃ」
「炎上しているな‥‥‥」
そこにあったのは、おそらく廃村に作られた簡易的なカマクラ。
大きさ的に大人数が入ったのだろうが、そこは今木っ端みじんになっており、内部にあったらしいものが炎上していた。
その周囲には黒焦げになった物体などが多くあり、中には人が混ざっていた。
「だ、だずげでぐれぇ!!」
「息があるぞ!」
倒れていた者たちの中で、辛うじて声が出せた者のそばへ私たちは駆けより、その場で出来た応急処置を施し、事情を聴いた。
‥‥‥どうやらこの廃村、予想通りとある盗賊団が占有し、アジトとして扱う予定があったらしい。
やけどを負いつつも息があるこの人物はその下っ端の者だったようで、アジトから他の村への雪の道を掘らされつつ、大人数だったので養うための食糧の強奪を行っていたそうである。
だがしかし、この爆発が起きたのは‥‥‥どうも盗賊内で争いが起きてしまい、火薬を持っていた者が使って、思いのほか大きな爆発が引き起こされたそうなのだ。
「一致団結するとか聞いていたんだけど‥‥‥」
「ぞ、ぞればおがじらだちだげで、あっじらはそこまで…‥‥」
上層部分だけはきちんと規律がとれていたが、取れていなかった末端の者がやらかしたのが、この被害のようである。
とにもかくにも、村から盗まれた食料も炎上し、しかもまだ燃え盛っているせいで、天井部分があぶられて溶け始めた。
「急げ!!崩落するぞぉぉ!!」
まだ辛うじて息のある盗賊たちも罪を償わせるべくそれぞれが運び、通って来た穴へ急いで避難した。
そして全員がその場から逃げて数分後、廃村の方から物凄い崩落音が響き渡って来たのであった…‥‥‥
‥‥‥‥風邪の危機から脱出できたのに、今度は食糧難の危機。
盗賊に遭うとは運もなく、しかもこの雪が積もる時期は他の村の方も余裕があるわけではない。
なので、このままでは乗り切れずに全滅かと思われたが…‥‥流石にここまで関わっておいて、見捨てる事もできまい。
「‥‥‥乗り掛かった舟なら、最後まで乗っておくかな」
「な、何かできるのか?」
「食堂車を使う。私の連結している車両の一つで、村一つぐらいなら余裕のはずだ」
食料を譲るにはちょっとできない部分があるのだが、提供する程度であれば問題ない。
機関車ボディ&客車連結状態に戻りつつ、しばらくの間、餓死者が出ないように私は食堂車を使って食を提供し続けるのであった‥‥‥‥
「一応、今回だけだからね?ずっと一か所に居続けるのもつまらないし、終わったらさっさと出かけるよ」
「うう、迷惑をかけ続けて済まない…‥‥終わったら、何かお礼ができればいいのだが…‥‥」
「だったら、本とか無いかな?蔵書とか増やしたいし…‥‥」
…‥‥無料ではなく、それぞれに話を提供してもらうなど、それ相応の対価はもらっておきました。
次に動けるまで、搾りだしてもらおうかなぁ…‥‥‥
しゅううっと蒸気を吐き、ボイラーの火を絶やさないように燃焼させつつ、私は立ち往生を喰らっていた。
びゅごおぉぉおぉっと風音もすさまじいながらも、車体の半分が埋まるほどの豪雪にあったのである。
雪かきを付けて、出力を上げれば走り抜ける事も不可能ではないが、こういう天候が悪い時は迂闊に動かない方が良い。
そう言う事を理解しているので、かれこれ数日間は雪の中に立ち往生しているのだが‥‥‥いかんせん、天候の回復は見込めそうになかった。
そもそも、最初はこんな天候ではなく、普通に日差しの心地いい晴れた世界であった。
だがしかし、進むにつれて猛吹雪が吹き荒れ始め、引き返そうにもいつの間にか激しすぎて引き返せなくなったのである。
しかも線路が無いからこそ宙に浮いているわけにもいかず、いったん地面に着陸したが…‥‥この様子だと、雲の上に走っていたほうが良かったかもしれない。でも、雷雲だったりするからな‥‥‥雷、人間じゃあるまいし多少直撃しても平気だが、音が怖いんだよね…‥‥。
『まぁ、石炭を燃焼させれば凍り付く心配もないのが幸いかな。燃料の残量自体に心配はないし、止むまでまだまだ停車できるか』
車体の半分が雪に埋もれているが、特に問題なし。
客車内もきちんと暖房を全開にしており、凍死する危険性はないだろう。いや、私は蒸気機関車だからまずそれは無いか。水を使っているので、そっちが凍ったらそれはそれで困るけど。
何にしても吹雪でどんどん車体が埋もれていくが、今のところ問題は無い。全力で動輪を回せば脱出できるし、雪の中に浸かっていても平気だからね。
せっかくなので内部で人間体の一部を解放し、車両の中にある図書室でゆっくりとこれまでの旅で仕入れてきた蔵書でも読み直そうかなと考えていた‥‥‥その時であった。
―――リンリンリーン!!リンリンリーン!!
『‥‥‥ん?』
なにやら吹雪の中、軽快な鈴の音が鳴り響き、何事かとそちらへ気配を探る。
猛吹雪だというのに何かが駆け抜けているようだが、いかんせん視界が悪い。
だが、だんだんこちらの方に近づいてきているのか、その姿がぼやぁっと移って来た。
『犬ぞりか』
そこで駆け抜けていたのは、数頭ほどの犬で牽引させて進む犬ぞり。
念のためにライトを消灯し、気配をちょっと消したところ相手は気が付かずに横を通り過ぎようとしている。
どうもこの先に人家でもあるようで、3台ほどの犬ぞりで荷台も牽引しているようだが‥‥‥ふと、様子がおかしいことに気が付いた。
『あ、犬でも厳しいな、コレ』
見れば、徐々に速度が落ちている。
この周辺に人家はないので、まだ先の方になるのだろうが、あの様子では辿り着く前に止まりそうだ。
「がんばれー!!もうすぐで着くぞ!」
「ですが旦那ぁ!!犬たちが限界に近いでっせぇ!!」
「それでも行かねばならんだろ!!何しろ薬草を一刻でも早く届けなければ不味いだろうが!!」
‥‥‥吹雪の音の中でも、カクテルパーティー効果というべきか、注意して聞けば会話内容が聞こえてくる。
なにやら切羽詰まった状況のようだが‥‥‥まぁ、ここであったのも何かの縁だ。手助けした方が良いだろう。
『ボイラー内、圧力上昇。ブレーキ弁解除。シリンダー内異常なし…‥‥出発進行!!』
―――――ボォォォォォォ!!
ドッゴォォォン!!
蒸気を吹き上げ、ピストンを動かし、埋まっていた車体を起こして雪から脱出する。
雪かきを素早く装備し、雪上走行を開始し始めるとすぐに追いついた。
「な、なんだあれ!?」
「なんか見たことないのが迫って来たぞ!!」
ボォォッと汽笛を鳴らし、ライトを点灯させて近づいてきた私に気が付いたのか、そりの人達は驚愕したような目でこちらに顔を向ける。
速度を落とし、そりに合わせつつ、私は彼らに声をかけた。
『怪しいモノではない!ただ単純に吹雪の中であなた方を見かけ、手助けしようと思った者だ!』
「しゃ、しゃべったぁぁ!?」
「何者かはわからぬが…‥‥我々を助けてくれるのか?」
『ああ、そのつもりだ』
そりで駆け抜けながらも、3台をまとめ上げているらしい中心の人物がそう尋ねてきたので、私は返答した。
者か物かその部分にツッコミを入れずに、まずはそこからいうところを見ると、結構心が図太そう。
「ならば頼もう!」
「だ、旦那ぁ!?こんな得体のしれない者に頼っていいのですぁ!?」
「どっちにしろ、犬たちではこれ以上走らせられん!!今はただ、この助け舟(?)に頼ればいい!!何かあれば儂が全責任を取る!!」
『おお、なんかカッコイイ言葉』
こうも堂々と発言されるのは面白い。
物語などでは聞いたりするが、旅する中でこういう発言をする人はあまりいなかったからなぁ‥‥‥うん、何かと面白そうだ。
ひとまずはそりも載せるためにいったん停車し、客車へ彼らを案内するのであった。
―――――ボォォォォ!!
「もらった地図だと、吹雪の中だが雪上走行で20分もあれば着くかな」
「は、早いな‥‥‥犬ぞりだとまだかかるというのに‥‥‥」
「いや、まず旦那、驚くポイントそこじゃないでしょ」
温かくした客車内にて、彼らの前に私は人型の姿で現れ、もらった地図を見て進路を確認すると、それぞれ私の姿を見て驚く。
「あんた、何者なんだ?人がいないかと思いきや、にゅっと床から生えるように現れて驚いたんだが」
「ああ、私はこの列車を牽引しているただの蒸気機関車さ。そちらこそ、この吹雪の中急いでいたようだが‥そっちは何者で、なにがあったんだ?」
「助けてもらったのに、まだ名乗らなくて済まない。こっちの二人は私の部下のヨーデルとヤン。儂はこの者たちの上司でもあり、この先にある村の村長のデンドラーだ」
部下二人はそれぞれひげズラ親父に、散切り頭。
そして、このデンドーラという人は一見ふくよかそうに見えるが、鍛えているようで筋肉質なおっさんであった。
「毎年、この時期に非常に猛吹雪が吹き荒れてな…‥‥いつもならば村全体で雪籠りをしていたんだ」
「だがな、今年はどうも違って、質の悪い風邪が流行り出したんだ」
「ほぅ?」
話によれば、彼らはこの先にあるイサム村という所の出身で、毎年この吹雪の時期には雪に埋もれつつ、大量に積もる事を逆手にとって、雪の下で建物が全部カマクラだったり、氷を溶かして水源にしたりして暮らしていたらしい。
だがしかし、今年はどうも村の中で質の悪い風邪が流行し、全滅の危機に陥っているのだとか。
「この時期は、国全体が雪に沈むからな‥‥‥移動は雪下にトンネルを掘るか、雪上の犬ぞりがメインとなる」
「だけど、今年度は掘る前にやられて、仕方がなく上を通って隣村まで行かなければならなかったんだ」
「何しろ、病自体は医学書でしっかり分かって、必要な薬草なども分かったんだが…‥‥備蓄が無くてな」
そのため、薬の製作に必要な薬草をわざわざ犬ぞりで取りに向かい、帰還中だったのだとか。
けれども今年は例年よりも非常に吹雪が激しく。犬ぞりでも中々進めない状態だったようだ。
「そこで、あなたが来てくれて助かった…‥‥色々と聞きたいこともあるが、窓の外を見る限り、この速度なら間に合うはずだ」
「ああ、話を聞いて今更に出力を上げたからね。吹雪で向かい風で、線路上ではないとはいえ、このぐらいなら何とか出せる」
悪天候な条件下だが、なんとかもうちょっとスピードを上げることができる。
安全を考えるならもうちょっと落とすべきだろうが、流石に今は緊急事態のようだしね…‥‥動輪を動かさないとね。
あ、犬たちに関しては床暖房システムを入れたからか、猫でもないのに丸くなって寝転がり中。車内を汚さないようにしてもらいつつ、今はこの悪天候を駆け抜けるのみ。
「にしても、酷い吹雪だ‥‥‥地図があっても見にくいなこれ」
「話しぶりを見ると、どうもあの牽引している蒸気機関車とかいうのがあなたのようだが…‥‥見にくいのか?」
「ああ、ちょっと目がややこしいけどね」
車内でも人間体を出して本体の方を動かすことができるけど、視界がちょっと分かりにくい時もある。
しかも今はかなり吹雪が激しく、より慎重にしつつ速度を出さないとなぁ…‥‥
「‥‥‥あ、ところで一つ良いかな?」
「なんだ?」
「今の話で雪の下に村を作ったのは分かるけど、これって停車時雪上に止まればいいの?それとも村の方に止まればいいの?」
「…‥‥そう言えば、どっちだ?」
「雪上に出る通路を使おうにもこの車体だと入らんぞ」
「あ、でも考えれば全部収納すればいいか。犬ぞりの方に薬草を載せているならそこで停車して、引っ込めれば良いからね」
「どうなっているんだ、その体?」
そのツッコミは受け付けておりません。私自身、自分でたまに自分が良く分からない時があります。そもそも誰に改造されたのかもよく分からないで旅を続けているが、特に気にすることはないからなぁ。
ああ、でもできれば線路がない世界とかあるなら、自力で線路を作れればいいなぁと思ったことはある。水上・雪上・空中走行ができても、足元が何か落ち着かないからね。
何にしても速度を上げ、ピストンを全力で動かし、動輪を回転させ雪上を駆け抜ける。
蒸気と雪がともに吹っ飛んでいき、どんどん突き進むうちに、そろそろ停車地点となる。
「っと、ブレーキを掛けないとな‥‥‥ちょっと待っててね」
人間体部分を消し、本体の蒸気機関車の方へ意識を全部向ける。
こういう停車時に、滑りやすい雪上では万全にして置かなければ、下手すると盛大な事故が起きかねないからね‥‥‥ああ、この体になる前に、富豪の家の線路で事故が起きて、脱線した時の思い出がなんか今思い出したなぁ。修理されたけど、地味にトラウマなんだよ。
ボォォォォォ!!
ギギギギギギギィ!!
汽笛を鳴らし、蒸気を吹き上げ、ブレーキを全開でかける。
急停止しすぎないように気を遣いつつ、目的地をオーバーランしないように調整して‥‥‥ようやく止まった。雪上走行だとブレーキが難しいね。
『それじゃ、一旦降りてくれ。人間体になる時に内部に人がいたら、ちょっとアレだったりするんで』
「アレ?」
『前に一回、ちょっとやらかしまして…‥‥』
詳細を聞かせず、全部降りてもらい、私も蒸気機関車ボディから人間体へ変身する。
そして薬を運ぶのを手伝いつつ、雪下の村へ到着した。
「薬が来たぞぉぉぉ!」
「急いで病人を運べぇぇ!!」
彼らが声を張り上げて叫ぶと、村のあちこちから人が出てきて急いで動き出す。
えっさわんやと病人を運び入れ、私も混じって手伝っていく。
見れば多くの人々が倒れており、各自が布団ごと担架で運ばれていく。
「よっせ、次!」
「はい!次!」
「不味くても飲め!次!」
「もう一杯とか無理だ!次!!」
はいはいはいはいっとリズムよく、搬送された人々に薬が投与されていく。
飲み薬タイプのようで、注射器はいらないようだが、それでも相当激マズなのか、飲んだ後に顔を悪する人が多い。
けれども効果はあったようで、薬が無くなる頃合いには、最初に投与された人から病状が回復していった。
「ふぅ‥‥‥なんとか全部、間に合ったか」
「病人、結構いましたね‥‥‥病状を見ると、確かに間に合わなかったら不味かったかもしれませんね」
ぐでーんっと、なんとか全員投与し終わり、回復の兆しを見せたところで私たちは疲れて倒れ伏す。
蒸気機関車として牽引している時はさほど感じなくとも、人間体だとそれなりに感じるからね…‥‥ここまで関わったのは良いけど、皆疲れているようである。
「というか、そもそもこの風邪ってどこから発生したのでしょうか?」
「それが分からないんだよなぁ‥‥‥例年とは違って突然だったからな」
私の問いかけに対して、周囲の人々はそうだそうだと頷きあう。
突発的な流行ということなのか…‥‥まぁ、おかしくもないか。
「でもまぁ、無事に間に合ってよかったよ‥‥‥すまないな、助けてくれて」
「いやいや、こちらとしても見かけたからね。放っておけなかっただけさ」
ははははっと、互にほっとしてほんわかとした雰囲気になっていた…‥‥その時であった。
「大変だ大変だ大変だデンドーラ村長ぉぉ!」
「どうした!!」
村人の一人が突如としてその場に駆け込み、デンドーラ村長に慌てた様子で説明し始めた。
「村の食糧庫がやられている!!盗難被害だ!!」
「ぬわんだとぅ!?」
その報告を聞き、デンドーラ村長は驚愕の声を上げ、すぐさま現場へ向かった。
私もついでに一緒になって見に行けば、村の端っこにあったという食糧庫が…‥‥
「食料が全部なくなっているだとぅ!?」
中を見て見れば、何もないもぬけの殻。
どうやらこの雪の積もる時期はここで食糧を蓄えておき、やり過すつもりだったらしいが‥‥‥この状態では、全員が風邪から治ったとしても全滅の危機である。
「どこのどいつが盗んだ!!」
「食糧庫にカギはきちんとかけていたはずだ!!」
「そもそも入り込む隙間もないはずだぞ!!」
てんやわんやして、村の人たちが慌てふためく中、ふと私はあることに気が付く。
「あれ?なんかここだけ音が違うような…‥‥」
空っぽの食糧庫内部を歩くと、一部の床を踏んだ際の音が違っていた。
「何?」
「なんだと?」
その言葉を聞き、皆が集まって調べて見れば…‥‥そこには隠し通路が掘られていた。
「どこのどいつだ!!こんなものを作ったやつは!!」
「というかどう考えてもここから運んでいっただろ!!」
考えられる盗難のタイミングとすれば、風邪で皆が寝込んでいた時。
村長たちが薬を取りに向かっているその間ぐらいのようだ。
「よし、この穴を通って先へ進むぞ!!もしかすると相手は塞いでいないのかもしれん!!」
「「「おーーーー!!」」」
デンドーラ村長の掛け声に合わせ、村の人たちが一致団結する。
乗り掛かった舟とも言うし、ついでに手助けのつもりで私も共に穴を通って見ることにした。
「‥‥‥思った以上に広いな」
「食料はでかい物もあるからな‥‥‥余裕をもって通れるようにしたのだろう」
所々に崩落防止のための支え棒などがあり、明りに関しては手に持ったランプだよりではあるらしいが、それでも十分光源として機能している。
「あれ?分かれ道になってないか?」
先へある程度進むと、何やら道が分かれていた。
「これは…‥‥方角的には隣の村の道だ。でも、こっちは違うな」
「確か、廃村が無かったか?去年あたりに最後の爺さん村長が亡くなったはずだが…‥‥」
「おーい!!そっちに入るのは隣村のデンドーラ村長かー!!」
「!!」
っと、どうやら話していると隣村の方につながる道らしい方から別の人達が現れた。
話を聞くと、どうやらその隣村の村長らしく、こちらでも食糧庫の被害を受けたそうなのだ。
「となると、こっちの廃村の方の道に行ったのかもしれぬが…‥‥廃村だからこそ、人はいないはずだろ?」
「そのはずだよな?がめつい金庫親父村長が金庫を抱えて亡くなった話をしたからな」
何だろう、その廃村の村長。面白おかしそうな死に方してないかな?
とにもかくにも、合流して共に先へ向かえば、広い場所へ出た。
「‥‥‥間違いない。ここは廃村だ」
「家々も雪で潰され、カマクラもできてないはずだが‥‥‥」
穴から出て、広い空間へ出たところで各々そう口にする。
「廃村ですよね?なのに、こんな雪の下に空間があるのはおかしくないでしょうか?」
「そう考えると、誰かが掘ったのだろうが…‥‥廃村にメリットなんてないぞ?」
そもそも、この国のこの時期の猛吹雪時には、どの都市も村も雪の下に建物を建設して過ごすのだが、場所によっては条件が最悪なところも多い。
水源が泥水しかなかったり、要の雪に水分が多く含まれていてドロドロだったり、あるいは猛獣が住み着いていたりする場合もあり、条件にちょうどいい場所が無い時もあるのだ。
この廃村もその悪い条件があったようで、ちょっと崩落しやすい危険性があるそうだ。
…‥‥崩れそうになったらすぐに逃げ出せるようにしておくが、そんな廃村となった場所に居つくメリットはそうそうないはずである。
「考えられるとすれば‥‥‥盗賊の類か?」
「ああ、そうかもな」
何処の世界にも悪人はいるというか、腐った根性たくましいような盗賊はいるらしい。
この世界だと雪が降るこの時期限定で活動をする盗賊団がいるそうで、一致団結してやり遂げるその様は、その根性を別の方向へ活かせばいいものになるとまで言われているそうだ。
「もしかすると、前々から狙われていたかもしれぬな‥‥‥」
あの通路を掘るのにも時間がかかるはずだし、計画的な犯行の可能性が高い。
もし盗賊だとすれば、丸腰に近いこの面々ではやられる可能性があるし、いったん戻って武器を取ろうかと話し合いをしようとしていた‥‥‥その時であった。
ドォォン!!
「「「!?」」」
突然の爆発音に、一斉にその音の方を見て見れば、何やら天井の雪にひびが入りつつ、向こう側から煙が流れてきた。
「なんだ?」
「爆発‥‥‥誰かが爆破したのか?」
天井に危険が生じつつも、何が起きたのか確認するために私たちは注意深く現場へ急行した。
そして、そこで見たのは‥‥‥‥
「…‥‥なんじゃこりゃ」
「炎上しているな‥‥‥」
そこにあったのは、おそらく廃村に作られた簡易的なカマクラ。
大きさ的に大人数が入ったのだろうが、そこは今木っ端みじんになっており、内部にあったらしいものが炎上していた。
その周囲には黒焦げになった物体などが多くあり、中には人が混ざっていた。
「だ、だずげでぐれぇ!!」
「息があるぞ!」
倒れていた者たちの中で、辛うじて声が出せた者のそばへ私たちは駆けより、その場で出来た応急処置を施し、事情を聴いた。
‥‥‥どうやらこの廃村、予想通りとある盗賊団が占有し、アジトとして扱う予定があったらしい。
やけどを負いつつも息があるこの人物はその下っ端の者だったようで、アジトから他の村への雪の道を掘らされつつ、大人数だったので養うための食糧の強奪を行っていたそうである。
だがしかし、この爆発が起きたのは‥‥‥どうも盗賊内で争いが起きてしまい、火薬を持っていた者が使って、思いのほか大きな爆発が引き起こされたそうなのだ。
「一致団結するとか聞いていたんだけど‥‥‥」
「ぞ、ぞればおがじらだちだげで、あっじらはそこまで…‥‥」
上層部分だけはきちんと規律がとれていたが、取れていなかった末端の者がやらかしたのが、この被害のようである。
とにもかくにも、村から盗まれた食料も炎上し、しかもまだ燃え盛っているせいで、天井部分があぶられて溶け始めた。
「急げ!!崩落するぞぉぉ!!」
まだ辛うじて息のある盗賊たちも罪を償わせるべくそれぞれが運び、通って来た穴へ急いで避難した。
そして全員がその場から逃げて数分後、廃村の方から物凄い崩落音が響き渡って来たのであった…‥‥‥
‥‥‥‥風邪の危機から脱出できたのに、今度は食糧難の危機。
盗賊に遭うとは運もなく、しかもこの雪が積もる時期は他の村の方も余裕があるわけではない。
なので、このままでは乗り切れずに全滅かと思われたが…‥‥流石にここまで関わっておいて、見捨てる事もできまい。
「‥‥‥乗り掛かった舟なら、最後まで乗っておくかな」
「な、何かできるのか?」
「食堂車を使う。私の連結している車両の一つで、村一つぐらいなら余裕のはずだ」
食料を譲るにはちょっとできない部分があるのだが、提供する程度であれば問題ない。
機関車ボディ&客車連結状態に戻りつつ、しばらくの間、餓死者が出ないように私は食堂車を使って食を提供し続けるのであった‥‥‥‥
「一応、今回だけだからね?ずっと一か所に居続けるのもつまらないし、終わったらさっさと出かけるよ」
「うう、迷惑をかけ続けて済まない…‥‥終わったら、何かお礼ができればいいのだが…‥‥」
「だったら、本とか無いかな?蔵書とか増やしたいし…‥‥」
…‥‥無料ではなく、それぞれに話を提供してもらうなど、それ相応の対価はもらっておきました。
次に動けるまで、搾りだしてもらおうかなぁ…‥‥‥
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