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1章 旅立ちと始まり

1-01 始まりの音

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『そうやって、拾い育てられたのはお前だ、ジーク。お前は本当の儂の孫では無かったが、それでも共に歩んだ日々は楽しかったぞ』

『だからこそ、儂がいなくなった今、外へ出て旅に出ろ。この魔物溢れる魔障の森から出て、世界を見て回れ!!飛び回り、研鑽し、その命を見つめるのだ!!』

『やれるはずだと、儂は信じておるぞ―――』



「『愛する息子、ジークへ』、か」

 遺言として用意されていた箱を開き、中に入っていた手紙を読み終え、俺は空を見つめた。

 目の前にあるのは、つい昨日いなくなってしまった爺ちゃん‥‥‥いや、実の親でも祖父でもなかったようだが、それでも僕を育ててくれた親のような人だった。










‥‥‥十数年前、僕は赤子のころにこの森で爺ちゃんに拾われて、育てられる中で『ジーク・ルーガス』と言う名を貰った。

 ここでの毎日は楽しく、爺ちゃんと二人だけの暮らしに疑問を持っていなかったが‥‥‥こうやって正面から事実を書き連ねた手紙を読まされると、血のつながりが無かったことを実感させられた。

 けれども、そんな事は関係ない。爺ちゃんは死の間際まで、俺の事を考えてくれたのだから。


「でも、自分で死ぬ数日前に墓穴と火葬用の着火剤と、墓石を用意するのは準備が良すぎないかな?」

 少々未来を見ていたというか、予知していたような爺ちゃんだったが今回ばかりは流石に用意が良すぎる。

 大嵐の前日ならば慌てて畑に布をかぶせて守ろうとしても、直ぐにふっ飛ばされたし、森でヤバい奴が暴れていた時はボッコボコにしていたけど、それにはちゃんとした理由があって気まずい空気にもなった。


 それなのに今回は、しっかりとしているのはどうなのか…‥‥まぁ、いなくなってしまったものは仕方がない。あの爺ちゃんの事だ、何処か抜けている可能性があるから、最後まで念入りに確認しまくる羽目になったからな。

 それでも爺ちゃんの遺体は死の間際に告げてくれた遺言通り、しっかりと葬送をしておいた。残しておくと森から死体を食べる魔獣が出現して、酷い有様になると教えてもらっているからね。

 この間なんて、狩ったばかりの猪の処理を少しサボったら、ものすっごい量のでかい蠅が出たからなぁ‥‥‥あの時にごきっと腰が逝ったことが原因だとは思いたくはない。



 とにもかくにも、あとはこの遺言だと‥‥‥ここから出て、世界を巡れと言うのだろう。森から出るなと厳しく言っていた爺ちゃんだったが、できれば俺は一緒に旅をしたかったよ。

 森の中の、爺ちゃんと過ごしていたここが、僕にとっての世界であったけれども、その世界の外を爺ちゃんとめぐりたかったなぁ。








 悲しい気持ちに襲われつつも、これから一人で生きるという事で奮い立たせ、過ごしていた家の中をあらかた片付けておく。

 その片付けの中で、何時か旅立ちの日も予想していたのか爺ちゃんが用意していたらしい必要な道具の詰まったカバンを見つけたので肩にかける。

 この家から外の世界へ出るのは良いのだが…一歩でも外に出たら凶悪な魔物がうろついているのが、この魔障の森であり、今まで出ることがかなわなかったところだ。

 何度か挑戦したけれども、かなり高確率で死にかけ、その度に爺ちゃんに助けられたんだよなぁ。特に数年前の巨大蛇に飲み込まれた時が一番ヤバかったかもしれない。

 けれども、爺ちゃんの死と共に一度だけこの家から外までつながる道が構築されたようで、森の外までつながる綺麗なトンネルが出来上がっていた。


 ここを通って、外へ向かえと最後に爺ちゃんが言っているような気がするよ。最後まで、本当にありがとうな。




「それじゃ、行ってくるよ爺ちゃん。世界を見て、旅をして‥‥‥何をすればいいのか具体的に全然わからないけど、何かできないか探すよ」

 爺ちゃんと一緒に過ごしたここは、俺にとって大事なひとつの世界だった。

 でも、死と共にその世界も崩れ去り、後に残るのは森の外という広大な世界。

 読み書き、金の計算、野宿その他出るのに必要な手段などはしっかりと爺ちゃんが来るべき時に備えて教えてくれており、不安もない。


 いや、不安部分は嘘である。

 外で爺ちゃん以外の人と出会えたのならば、どうやって過ごしていくかだな‥‥‥どうしよう、爺ちゃん以外の人って今まで見たことないし、本を持って教えてくれたのは良いけどこんな田舎というか魔境の場所から来た人を外の人は相手にしてくれるのかなぁ…‥?

「出来れば新しい人に出会う前に、誰か付き合ってほしいなぁ」









―――――


…もう、ここまでくれば大丈夫だろう。

 そう思うことはできたが、もしもこれ以上やってくるのであれば、防ぐことはできない。


 私の逃げる力は尽きた。足は折れているし、目もちょっと潰れたし、体も傷だらけ。

 ボロボロなこの体に美味しい所なんぞ無いはずなのに、執拗に狙ってくるやつに攻撃され、このまま横たわっていても朽ちるだけにしか思えない。


 ああ、それでも良いか。それもまた運命であるならば。

 ここで死にゆくのであれば、最後は喰われることなく静かに‥‥‥
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