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第3章:青年期~いよいよここから始まる話

88話 飛翔するものVS森のもの

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…皆の実力としては、かなり高いと言っていいだろう。
 人間である自分がこの中で魔力以外は一番弱いだろうし、そう考えると亜人や魔物である彼女たちの身体能力のほうが、圧倒的に高いと思う。

 だからこそ、実力がある者同士、相手の力がどれほどのものなのか推し量るために、適当な一撃を決めるために動く。
 大地を蹴り上げ、空から急降下し、木槌と足をぶつけてその一撃を確認する。

 模擬戦場の範囲はそこそこ広くなっているが、それでも縦横無尽に大空を舞うハーピーのジェリアにとっては少し狭い場所で飛行能力が抑えられるがゆえに少々不利なところもあるが、一方でルシアもまだあの大槌ではなく木槌に変えて日が短いので、重さによる攻撃がしづらいところから不慣れな部分がある。

 だがしかし、それでもお互いにまずは一撃を入れたことで大体の力量差を測定しあい、距離を取って再度攻撃の体制へ移行する。

 空からの急降下よりも、ここは足を活かした攻撃のほうが良いと判断したらしく、地に降りたジェリアはルシアの後ろに素早く駆けて回り込み、蹴りを叩き込もうとする。
 大空を舞うだけが彼女の種族の特徴ではなく、足の攻撃も強力なもの。

 だが、ルシアはその先の読みし、攻撃をされる前に木槌を素早く後方へ回し、木槌で受け止めて直撃を避ける。
 蹴られる衝撃までは防ぎきれず、少しばかり交代をするが、一瞬だけ勢いがなくなって止まるジェリアの足を狙ってつかもうとするが、羽を羽ばたかせて後方にはじけ飛ぶように動き、回避。

 距離を取り、一撃を叩き込み、防ぎあい、お互いに攻防は一進一退の様子を見せる。

 攻撃や回避までの素早さはジェリアのほうが上だが、一撃の重みと防御力の高さではルシアが上のようで、ややつり合いが取れてしまっているのだろう。

 だからこそ硬直しそうな試合の流れとなったが、その流れを壊すべく、地面を粉砕するかのような一撃でルシアは思いっきり木槌を床に叩きつけた。

ドォォォォン!!

 地面が揺れ、走ろうとしていたジェリアのバランスが崩れ、その場に躓く。
 倒れた彼女に接近し、ルシアは木槌を振り上げる。
 ここで降参でもすればすぐにでも止められるようだが、その手を選ぶことななく、ジェリアは地面を蹴り上げて飛び跳ねて回避。
 そのまま宙を蹴り上げるように足を動かしつつ翼で羽ばたいて無理やり軌道を変えて、蹴りの一撃の用意を行い、迎え撃つようにルシアも木槌を振りかぶり、衝突しあう。

 蹴りと木槌の応酬によって、互いのぶつかる音が響き合い、空気そのものも揺れているかのような振動となる。
 ぶつけ合う衝撃で周囲が揺れ動くが、お互いに攻防に支障をきたさない。


 とはいえ、このままではらちが明かないと考えたのか…どうやら次の一撃で強烈なのを叩き込もうとしたらしい。

 ジェリアは翼を広げて一気に上まで飛行し、大空から急降下をして襲い掛かる。
 かたや、ルシアは木槌をもって回転し、遠心力で勢いを増加させていく。
 そして遠心力をそのままに、木槌が燃えたその瞬間、ぶん投げた!!

ドォォォォォォォォォン!!

 燃える木槌に急降下する足がぶつかり合う。

 あいにくながら、炎上したせいで脆くなったのか木槌は破壊されて勢いそのままに急降下をし続けるジェリア。
 だが、武器を破壊したとはいえその衝撃ですこしばかり速度が落ちており…どうやらルシアはその瞬間を狙っていたようだ。
 だが、それでも止まるルシアではない。
 バーサーカーと化してオークの群れを蹂躙していたが、恐るべきはその武器の扱いではなく、それを扱えるだけのパワーを持つこと。

 徒手空拳になり、勢いが少し落ちたルシアの攻撃を見切り…ぶつかり合うその瞬間、ぎりぎりで回避して彼女の足をようやくつかむ。

「しまったのさ!?」
「遅イ!!」

 がしいっとつかんだその拳は容易く外れることなく、落ちてきている勢いを利用していったん上に持ち上げ、下に叩きつける。

 だぁぁぁんっとまるで合気道で流すかのようにされた攻撃によって…叩きつけた音が響き、しばし静寂となった後、ジェリアが翼を上げた。

「ま、まいったのさ!!」

 ジェリアの降参の声が上がり、ようやく試合が終わったのであった…

「ふぅ、ナイスファイトだっタ!」
「見ごたえある試合というか、よく勝負がついたな」
「なんというかすさまじかったですね‥‥‥」
「すごい戦いだったよ~♪作曲できそうかも~♪」
「ふみゅっ、何か武器、持たせた方が良いかもね」

 試合の感想を皆で口にし、見ているだけでも結構面白かったと意見が一致しあう。
 と、そこでふとタマモが気が付いた。

「のぅ、少し思ったのじゃが、審判はどこじゃ?降参の声が出たのに、試合終了と言っていないようなんじゃが」
「あれ?そういえばどこに…」
「「「あ」」」


 なにやら試合終了の声が聞こえないことにタマモが気が付き、続けてエルたちも気が付いた。
 そしてよく探してみれば…あの戦いの光景を見ていて、このギルドでのレベルを超えていたせいなのか、審判が立ったまま気絶していたことに気が付くのであった…


「うわぁ、あぶくをふいてますね…」
「怖かったんじゃろうなぁ。あの衝突しあう姿を、審判の立場ゆえに近くで見ていたのじゃからあたりまえかもしれぬがのぅ」

…職務を全うするだけの精神は、見事というべきか。


――――――――――――――――
SIDE都市モストンギルド長


…一人のギルド職員がまっとうに職務を務めていたその意気を感心されていたそのころ。
 モストンのギルド内…この試合から逃亡して、普段はまともに見る気はない仕事のほうに逃げたギルド長は、ある地獄を見て呆然としていた。

「な、な、な…」

 一応、ギルド長を任せられるだけあって、やる気はないがやろうと思えばそこそこの仕事がこなせるギルド長。
 山のように積み重なっていた書類をやり続け、ある程度整理をして、やったものとやっていないものを分けて休憩に入っていた。
 
 仕事の合間の休憩を取ろうとして、ぐぐっと体を伸ばして少しだけ机から離れたのだが…先ほどからギルドがやけに揺れるなと考えていた矢先に、突然、目の前に、それが落ちてきたのである。

 その落ちてきたものを見て、ギルド長のヨークデルは固まった。


 なぜならば、それは先ほどルシアとジェリアの戦いで爆散した木槌の破片だったのだ。
 ほとんどは模擬戦場に堕ちていたはずだが…神のいたずらか、それとも押し付けたが故の天罰か、ガラスを突き破って吹っ飛んできた木片が強襲してきたのである。

 しかも、まだ少しばかり炎上しており、落ちたうえがピンポイントで処理を終えた書類のほうで、一瞬ギルド長はムンクの叫びのようになった。
 それでも火災が起きたらまずいので消火し、幸いすぐに火は消えていたのだが…終わったはずの書類が見事に、消し炭になってしまったのであった。


 一応、ギルドの書類は大事なものであるがゆえに、予備は用意されている。
 そのため、万が一の事態があっても、また書き直せばいいだけの話になるのだが…山のように積み重ねていた分の半分が、盛大に失われたのは精神的に来ただろう。
 
「ま、また、やり直し…か…ごふっ」

…木片を飛ばしてきたものを罰するべきなのだろうが、それよりもやった仕事が無駄になったことに対して、ギルド長はショックを受けて倒れてしまうのであった。
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