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第2章:少年期後編~青年期へ

68話 命が惜しけりゃ、やらかすな

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SIDEエル
…話を聞こうと試みたが、残念ながら爆睡するハーピーの少女ジェリア。
 どういう経緯で盗賊につかまったのか確認をしたかったが、無理にたたき起こすことも不味いだろう。
 本人から聞くのが先か、それとも捕らえた盗賊たちから事情を聴くのが先か…どっちになるのかもわからないので、ひとまず今晩はハクロ達の家に預け、エルは寮のほうに帰還した。

 既にだいぶ遅くなっていたが、きちんと事前に手続きをしていたため、深夜の帰宅であっても特に問題はない。
 寮の門番さんに挨拶を軽く済ませ、自室へ戻りベッドへ横になった。

「預けたはいいけど…どうなることやら」

 あのマイペースぶりを見るに、説明自体もまともにできるのか不安なところはあるだろう。
 しいていうのであれば、本人が恐怖も何も感じていないというか、のんびりとしている様子だったので、怯えられるようなこともない。
 それに、一応モンスターの類であり…それならば、同じモンスターであるハクロやカトレア、ミモザがそばにいたほうが、安心感が増すであろう。
 タマモは獣人だからくくりには入らないが、それでも男だらけの場所よりも同性の多い場所のほうが良いとは思う。

 まぁ、事情を聴いた後はどう扱うかが問題になるだろうが、難しいことにならないと思いたい。
 鑑定で出てきた種族の説明を見るとおいておくのは不味そうな気がしなくもないが、本人のあののんびりとした感じから見ると、予想よりも危険度は低いのかもしれない。
 でも、なんだろうか。何かこう、嫌な予感というか、やらかされそうな感じもあるが…悩んでいても仕方がないか。

「難しいことを考えずにさっさと寝ようかな。今日はもう疲れた、ふわぁぁぁ」

 遅いのもあったし、だいぶ疲れていたのか大きなあくびがでたので、部屋の明かりを消し、ベッドに横になるエル。
 ああ、そういえば部屋の窓閉めたっけ…いや、眠いし確認は明日でいいか。ハクロ達ならやすやすとこの寮に侵入できるだろうが、その他でそう簡単にここに侵入してくる輩とかはいないだろうなぁ…










ばさぁ、ばさぁ、ばさぁ

「…ふわぁ…ん?何の音?」

 ふと、何やら羽音が聞こえ、エルは目を覚ました。
 見てみれば、まだ真夜中なので辺りは暗く、月明りは綺麗だが浮遊感を感じるほど地面が真下に見えるようで…んん?なんだ、この違和感。

 眠い目をこすりながらも周囲を見渡し…そして、状況を思い知らされた。

「って、なんで空にいるんだぁぁぁぁあ!?」

 まっすぐベッドで横になって寝たはずだが、どういうわけなのかベッドの中ではなく、エルの体は今、空の上にあった。
 はっきりと頭が覚醒したところで体中の感覚を改めて感じ取ってみれば、肩のほうに圧迫感というか、見ればがっしりと足でつかまれている状態。
 絵で表すならば獲物を捕獲した猛禽類の足につかまれているような…

「いやこれ、ハーピー足じゃん!?」

 真上を見れば、あのハーピーの少女が、エルをつかんで飛んでいたのである。
 鳥は鳥目というから真夜中は飛びにくそうなものだが、そこはモンスターだから関係ないのだろうか?
 いや、今はそんなことを考えている場合ではないだろう。何をどうして、ハクロ達と一緒に寝ているはずの彼女が今、ベッドで熟睡予定だった我が身をつかんで飛翔しているのだろうか、

「あ、起きたのさ?」

 そこでようやくエルが起きたことに気が付いたのか、ハーピーもといジェリアが口にした。

「落ちたらアウトな高度にいるせいで、嫌でもおめめぱっちりになったんだけど!!というか、何をやっているんだよ!!」
「ふふん、よく聞いてくれたのさ!!今、あたしは『番攫《つがいさら》い』を行って、都合の良さそうな場所を探しているのさ!」

 エルの問いかけに対して、あっさりとジェリアは答えてくれた。
 ハーピーの中で、彼女の種族は、異性を攫うことがある。
 その中でも、番と認めた者を連れ去るのがあるそうだが、まさか出会ってすぐの今、自分がなるとは思わなかった。


「ちょっと待て!?すぐに寝ていて俺の姿を見たの一瞬程度と言っていいはずだよな!!何で今、やらかしまくっているの!?」
「いろいろあるのさー!!」

 叫んでみるが、のほほんとした回答しか返ってこない。
 まともに答える気がないのか、自由奔放に生きているのでどうでもいいのか…後者の方が可能性が高いだろう。のんびり屋気質は変わってなくて、後でゆっくりしてくれるとでもいうのだろうか。

 だが、現在進行形で巻き込まれている状況に関しては、非常に不味いものがある。
 かなり上空を飛行しており、何とか離してもらってもこの高さでは死亡確定。
 飛ぶすべも持たないし、魔法でどうにか…いや、なんかそれよりもやばいものが接近している可能性があると、第六感が告げている。
 何かこう、どどどっと勢いよくやってきているようなと、エルが感じ取った時だった。

「-----!!」
「ん?」

 ふと、声が聞こえエルは下を見た。
 その声の主のありかを見れば、遥か地上のほうで駆け抜ける影が月明かりに照らされ、その姿が浮かび上がる。

「エルぅぅぅぅ!!待ってくださぁぁぁぁい!!」
「待て待て待ってぇぇぇぇ!!」
「うぉぉぉぉぉ!!逃がさないのじゃぁぁぁ!!」
「ハクロ、カトレア、タマモ!!」

 見れば、その声の方にはハクロたちがいた。
 どうやら攫われてすぐに気が付いたようで、追ってきてくれているようだ。

 周囲の状況を見ればいつの間にか都市を離れているようだが、まだそう遠くはないようで、距離的には問題ないだろう。
 それにしても面子的に足りないような…あ。

「ミモザは?」
「ミーはここなのよ~♪」
「!?魚が空を飛んでいるのさ!?」

 いつのまにか背後をとっていたミモザに対して、ハーピーの少女は驚愕の声を上げた。

 
 忘れがちというか、下半身が魚なので一見水中でしか活躍の場がなさそうだが、ミモザは宙をも泳げるマーメイド。
 海だけではなく空も泳ぐ場所として動けるようで、その速度は地上を走るハクロ達にも劣らず、乾燥は大敵だが頑張れば相当な速度が出るようだ。
 だからこそ、大空をかっきって追跡も可能なのだ。

「貴女の目的はどうでもいいですが、エルを攫うのは感心しませんね~♪。じっくり理由を聞かせてもらうために、今は眠りなさい~♪『惰眠のいざない』」
「そんなのでどうにかでき、ピピピピィ、すやぁぁ…」
「即オチかい!!」

 ミモザが歌ってすぐに、あっさりとジェリアは眠ってしまった。
 抵抗できそうな口ぶりだったが、残念ながら全く抵抗することもできずにあっさりと夢の世界へ旅立たれたようで、翼が止まり落下し始める。
 このままだと地上に激突だっただろうが、落ちる前にミモザが素早くエルとジェリアを抱え込み、地上への激突は免れた。
 そのままゆっくりと降り立ち…地面にようやくエルは足が付き、心の底からほっとした。


「さてと、それじゃ、エルを何故さらったのか、洗いざらい話してもらいますかね」
「場合によっては、解体してかまわぬのじゃろう?」
「ふみゅっ、夜の活動、光合成できないのが辛い。それを分からせるべし」
「なんにせよ、色々と事情聴取を開始し始めるよ~♪」

 地上に降りて何もできないように手早くハクロとカトレアが糸と蔓で拘束し、寝たままのじぇらいを確保する。
 なぜ、こんな真夜中にエルを攫う事を決行したのか。
 どのようにして、居場所を特定したのかなどの聞きたいことはあるが…その前に、ハクロたちから立ち上る憤怒の雰囲気に、エルは気圧された。

 どうやら全員、ゆっくり寝ていた中での騒動だったのもあるし、彼女たちの付き合っている相手であるエルをさらわれたことで、相当不機嫌な様子。
 ハクロとカトレアがびしんびしんと糸と蔓を鞭のようにしならせ、タマモは9本の尻尾が逆立ち、ミモザは歌を更に深い眠りへ誘うものへ変えつつ悪夢の類にするものにしていた。

 これはそうとう怒っているのだと理解できたが…うん、自業自得とはいえこりゃただでは済まないだろう。
 眠気も何もかも吹き飛び、今はただ、せめてハーピーの少女の命だけは助かるように、見るしかできないのであった…

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