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第2章:少年期後編~青年期へ

59話 日常とその裏と

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SIDEエル

…戦争云々の話はさておき、様子から見ると戦火がすぐ近くにあるわけではない。
 
 そのため、すぐに巻き込まれるような危険な状態ではないので、エルたちは冒険者登録をしているのを利用し、休日となっている本日は暇つぶしとして、久しぶりにギルドへ行って何か受けられる依頼が無いかと探しに来たのだが…

「思った以上に、今日は物凄い量の依頼が貼りだされているな」
「大量にありますね…休みの日に片づけたい人が多いのでしょうか?」

 ドーンと依頼が張り出されている掲示板の横に山のように積み重なっているのは、依頼を張り出す掲示板に張り切れなかった依頼書の山のようである。
 平日以上の量に驚かされるのだが、ギルドの職員に確認してみたところ休日が原因というわけではないらしい。
 原因として、戦争に依頼で冒険者の多くが出向いてしまったために、通常であればすぐに消化されるはずの依頼がすぐに受理されることがなくて、その結果としてたまっていったのがこうやって積み重なったそうである。
 量が量だけに、依頼達成時の報酬を増額して受注されやすいように狙っているらしいが、それでも冒険者の数が戦争で減ってしまっている以上、行える人員が不足してしまっている状態。
 すぐにしなければいけないなどの、緊急性の高いものばかりではないのだが、それでも人手不足ゆえに解決されないのが多くて、依頼の手数料などを利益としているギルドとしては困るし、依頼主側も受注が遅いと問題の解決が遅くなるし、色々と困る影響が出てしまうらしい。

 そのため、こうやって目立つようにして受けてくれる人を一人でも確保しようとしているようだが…これ、一回受けたら次はこれも、これもというように押しかけられる可能性が無きにしも非ず。

「‥‥‥よし、今日は受けないで、休日だからおとなしく遊びに向かおうか」
「「「「逃げないでくれぇぇぇぇ!!」」」」

 さすがにこの量を受けさせられるのも困るので、巻き込まれないうちにすたこらさっさと逃げようとしたが、ギルド内にいた受付嬢や残っていた冒険者たちの悲痛な叫び声が響いた。
 うん、依頼が多すぎて消化しきれないゆえの残業対応があるらしくて、いつもならばまだ軽めのホワイト企業状態の体制のはずだが、この状況においてはブラック企業のような状態になっているようである。
 こういう様子を見せられると、かつて転生前にブラック企業勤めをしていた身としては見捨てようにも見捨てにくくなるだろう。

 とはいえ、ほとんどの受注可能ランクが‥‥‥

「E~Dランクからってなっているけど、俺達ってHランクだよね?」
「うむ、受注できないのじゃ」

 残念ながら、受注可能なものではなかった。
 スキップ申請をやっておらず、依頼を頻繁に受けることもないのでランクアップも大してしておらず、受注可能な分の依頼がない。
 それでも、低ランクでも可能な採取系やバイト系の依頼があったので、やれそうなところを少し片づける手伝いをしておくのであった。

「薬草収集依頼、これならすぐに、栽培や採取可能。ちょうど、手持ちにある」
「ペッパーアントの群れ程度であれば、エルと一緒に殲滅できますよね。ほかにもビーラビット、タラコナッスゥ、プリンウルフの討伐依頼…弱い相手が多いですが、その文楽に倒せそうです」
「ふむ、弁当や料理の頼みごとの依頼もありじゃな。料理の幅を広げたいし、ちょうどいいのじゃ」
「不眠症なので寝かせてという依頼なら楽だね~♪歌うだけで解決だもの~♪」

 数がそこそこあろうとも、皆で力を合わせれば苦労しないな。
 それぞれの得意分野があるからこそ、分担して行っていけばどれもこれもすぐに済みそうだ。

「あ、でもスライムは勘弁してほしいですね…ちょっときついです」
「ゴブリン討伐もじゃな…わっちら、そこトラウマあるのぅ」

…討伐系に関しては、渋い顔をするものもあったようだ。
 倒せるだけの実力はあるはずだが、それでも経験からちょっと相手にするのは厳しいのもあるんだろうなぁ。




――――――――――
SIDEハクロたち

…深夜、昼間にあった受注可能な大量の依頼を受け、全てをこなしたハクロたちは王都内の家で、それぞれぐっすりと寝ていた。
 エルは学生専用の寮にいるために離れているのだが、それでも問題はない。何かがあれば、ハクロたちはすぐに向かい、速攻で寮の中へ侵入することが可能だからだ。
 とはいえ、あまりにも簡単に侵入できるためにセキュリティ面が大丈夫なのかと少々不安になって、自分たちが侵入しやすい経路は残しつつも、そのほかの侵入者対策としての改善策を出しており、よっぽどの理由がなければ入り込もうと思う者もいないはずなので安心していたのだが…


「すぴぃ、くぴゅぅ…んんにゅ?これは…またですか」
「感知、植物たち、伝達」
「ふむ、よっぽど余裕がないのか、影のものも活用しようとしているのかのぅ」
「忍べていない時点で、既にダメな気もするね~♪」

 熟睡していたはずだが、ぱちりと目を覚まし、そう口にしながらそれぞれ寝間着姿からきちんと衣服を着替え、外に出るハクロたち。
 月明りが綺麗に都市内を照らしつつ、その明かりの下にでて、いったん寝ていた体をほぐすためにググっと伸ばしたりなど準備体操を行い、素早く動けるように変えておく。

「ふむ、不届き者たちが入ってきておるようじゃなぁ。負け戦がほぼ確定しそうな状況で、ひっくり返すならば工作をしてとでも考えたのじゃろうが、侵入を察知されるようではまだまだじゃな」
「念のために、住民たちが簡単に起きないように『爆睡歌(改)』流した~♪多少悲鳴が上がっても、全員夢の中~♪」

 今の時間帯は深夜であり、都市内を出歩くような輩の姿はそんなに見ることはないだろう。
 皆寝静まり、中には酔っ払いが道端で寝ていたりするが、それでも人が行きかうような様子などはほぼ失われている。

 だが、ハクロたちは感じていた。モンスターとしてのものや元々の勘や警戒心ゆえに、侵入者が入り込んできていることを。
 都市中にこっそりと張り巡らした糸や木の根、妖術で生み出した透明な火の玉に、人の耳には聞こえない領域で歌って反射した音などもとにして、位置を把握し、しっかりと迎撃及び捕縛ができる体制を整える。

 油断はしない。変な薬を用意されている可能性も否定できないし、見つかってないと相手が油断しているであろうその隙だけを狙い、一撃で仕留めるのだ。

「下手な騒ぎで、エルの睡眠が妨害されても困りますからね…かかる火の粉は振り払い、大火事になる前に火種を消しましょう」
「火、植物きつい。耐性あっても、やられるのは嫌だし、エルのほうに迷惑がかかるのも嫌」
「かつていた国とは言え、容赦はしないのじゃ。まぁ、そこが仕向けてきたと確定したわけではないのじゃが、面倒ごとは潰すのが吉じゃ」
「歌を聞くのはいいけれども、邪魔になるのなら片づけないといけないからね~♪」

 にこやかに口にしつつ、彼女達は散開し、把握した不審者たちの撃退及び捕縛、殲滅へと素早く取り掛かり始める。
 王国と皇国の戦争が始まってから、そこそこの侵入回数を感知するようになったが…ただ工作を行うためだけにしては、ちょっとばかり人数が多いような気がしていた。
 予想としては何かたくらんでいるのか…可能性としては自分たちという戦力を得るために、エルを狙おうとしていることも考えられるだろう。
 
 彼女達にとって大事なエルに害を加えそうなものだというのであれば、普段は彼の前に出すようなことがない冷酷な一面を、その姿を使って徹底的に恐怖を植え付けるのみである。
 命を奪うことはしない。簡単なことだが、終わらせてしまえばそれだけになってしまうのだから。

「さて…いきましょうか」

 その言葉を合図に、彼女たちは分散し、侵入者たちを狙って動き出す。
 やってくるのであれば、それ相応の覚悟をもって、自ら狩られる立場になってもらうのだ。

 そして今夜も人知れず、殲滅が行われ…それぞれが迎える末路は決まっていくのであった。


「ぎゃあああああ!!腕が腕がぁ!!」
「熱い熱い熱い!?追っかけてくるぅ!?」
「ひげぇぇぇ!!粘着物で毛根がぁぁぁぁ!!」
「あべしあべしあべしぬるぬるびんたがぁ!!」


…翌朝、決まってなぜか置かれている、何をしでかそうとしていたのか書かれた内容を刻まれた捕縛された者たちを見て、今日も何があったのかと首をかしげる衛兵たちの姿があったのであった。

「おいおい、まただよ。工作員とかが捕縛されていたぞ」
「こうやって何をしようとしていたのかわかるものがあるのは良いのだが、なんでこうなっているのやら」

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