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第1章:幼少期~少年期前編

30話 のんびり過ごす中では、必要事項かもしれない

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SIDEエル

 森の中で助けた、呪いがたっぷりかかりまくっていた狐獣人の少女。鑑定時に種族名で■■というような表記もされていたので本当の狐の獣人なのかという疑問もあるが、それは置いておくとしよう。
 鑑定魔法によってある程度の細かい呪いも判明したが、僕等の方でアンラッキーの呪いとやらとは打ち消し合う事が出来るようで、下手に不幸を呼んで呪い殺されるリスクは軽減したようだ。
 その為、しばらくは一緒に過ごしたほうが良いだろうという神父からのアドバイスもあり、彼女は僕らの家に身を寄せることになった。村の中だと他の家に身を寄せることもできるだろうが、一番最初に彼女と出会いつつ救助したのが僕らというのも合って、一番安心できそうなところが良いだろうというアドバイスによるものでもある。


「えっと、これからしばらくの間、お世話になります」

 ぺこりとお辞儀をして、狐獣人の少女は僕の今世の母であるルインに向かってそう口にする。

「あらあら、しっかりと礼儀正しいわねぇ。事情は息子から聞いたし、ゆっくりして良いわよ‥‥‥えっと、何て名前かしら?」

 ルインの問いかけに、狐少女は苦笑いを浮かべる。

「それが、記憶がなくて…私の名前も、鑑定魔法とかでも分からなかったようなんです」」
「鑑定魔法を使用しても、彼女の名前が分からなかったんだよね」

 記憶を失う呪いの影響によるものなのか、対象の名前も見ることができない状態。
 名無しの権瓶状態異常というべきなのか…うーん、我ながら微妙過ぎるかもしれない。

「そうなの?それならエル、貴方が彼女に仮の名前でも付ければいいんじゃないかしら?」
「え?」
「あ、それいいかもしれないです。エルに名前貰った私達も、賛成ですね」
「良い方法、間違いなし。名前、彼付けるの、うまいもの」

 母さんの言葉に対して、うんうんと頷くハクロとカトレア。
 彼女達に名前を付けたのは確かに僕だが、普通の少女に名前を付けて良いものなのだろうか?
 ちゃんとした名前があるならば、あとで判明した時に認識の方でずれ込みそうだが‥‥

「だ、大丈夫ですエルさん!どんな名前でも受け入れますから!」

 その提案に対して、狐獣人少女はそう口にする。
 本人の承諾があるのならば、躊躇せずに思い切って付ける方が良いのか…まぁ、仮称がないと今後不便だろうし、合った方が良いか。
 狐の獣人少女‥‥‥狐とくれば、稲荷神社とか、九尾とか、ごんぎつねとかいろいろあるが、何が良いのだろうか。いや、最後のは確かオスの狐…あれ?メスの狐だったっけ?どっちだったか。

 他に狐として思いつくのであれば、何かこうもっと近いもの…狐関連だと油揚げとか化け狐とか、殺生石とか…ふむ、これも確か九尾関連だし、いっそその方向でいくか。
 呪いがあるのならば、それをぶっ飛ばせるようなもっと強いものにあやかってみるのもありかもしれない。狐だと神の使いとかもあるし、妖怪でも何かと人気がある類もあるから…わかりやすいのは、日本三大妖怪の玉藻前たまものまえを参考にしようかな。

「たまものもえ・・いや、『タマモ』でいいかな?」

 呪いをふっとばせるような印象が欲しいからね。大妖怪といえるようなものの名前を付けるのはどうかと思うツッコミがあるかもしれないが、それは前世での話。
 今世のこの世界は前世とは関係ない部分もあるし、元ネタが分かるような転生者がいなければおそらく問題はないとは思う。多分。

「『タマモ』‥ええ、はい!それでお願いします!」

 仮の名前がうれしかったのか、満面の笑みを浮かべる狐獣人の少女、タマモ。
 由来に関しては思いっきり大妖怪でもあるが、禍々しい印象の物の怪とは真逆な様子を見て、ちょっと間違えたかもしれないかなと内心思ったが、気にしないことにするのであった。呼びやすさもあるしね。



 とにもかくにも、タマモという名を彼女に一時的に与えたが、家に置くのは大丈夫なのだろうか。
 そう思ったが、母にとっても嬉しい事らしく、問題はないそうだ。

「大丈夫大丈夫、今更一人や二人ぐらい子供が増えても大丈夫よ。ああ、娘が欲しかったからちょうどいいわね。ハクロちゃんも娘のようだったけど、やっぱりちょっと大人びた姿だったから、その成長過程を見れないのが残念でもあったのよねぇ」
「あー…私、姿変わってないですもんね。いえ、幼い時だと普通に蜘蛛でしたけどね」
「今年連れてきたというカトレアちゃんの場合は、同じように最初から成長しているし、言動が少し幼いけど、それでも娘というふにはちょっと見にくかったのねえ」
「今年生まれだから、まだ0歳児…でも、赤ちゃん、とかは当てはまらないかも」

 そう言えば、確かにカトレアの年齢を考えたら、この面子の中で一番下だった。
 見た目がハクロと同い年ぐらいなのに、盛大な年齢詐称している容姿だしね…まぁ、モンスターの中には生まれた時からお爺さんみたいな髭のモンスターとかいるし、永遠の18歳を名乗り続けるような人間だっていたりするから、年齢なんてものを考えても仕方がないのかもしれない。

 年齢と見た目がそれ相応に比例するとも限らないしな。ブラック企業の上司が夜な夜な赤ちゃんバブに会社の経費で通っているという情報とかもあったし、問題ないか。いや、それ普通に横領とかやらかしてるし、年齢とか言うよりも性癖なのか‥‥あれはまぁ、流石に社会的に殺せそうだが見ている方が精神的にダメージを負いそうだし、後で記憶から消すことにしたんだっけか。

 そんな負の歴史を思い出し、再度消去しつつ、一時的とはいえタマモがこの家に居つくことに関して、家族からの反対はなかった。
 賛成したのは母さんだけで、父さんは本日は留守だったから意見を聞けていないが、多分大丈夫だろう。そういや、父さん何しているんだろうか?また仕事でどこかに出かけているんだろうけど、赤いものを滴らせる姿で帰宅してほしくはないかなぁ…

――――――――――――――――
SIDEタマモ

…深夜、タマモはエルの家にある空き部屋を自室としてあてられ、とりあえず身の回りのものをそろえるまではベッドとハクロ製の衣服が入ったクローゼットだけの部屋で寝付いていた。
 エルたちは自室の方に寝ている中で、彼女は布団にもぐりつつも、考えごとをしてしまい、少々目が冴えてしまっていた。

(受け入れられたのはいいけれども…記憶をなくしている私に、誰が、何のために呪いをかけたんだろうか‥‥)

 自身に呪いが駆けられていることを、エルが鑑定魔法で示してくれた。
 だが、その呪いをかけたのはどこの誰であり、何の目的のためかまでは不明であり、どういう経緯でなって来たのかわからない不安がある。
 タマモ自身の記憶もなく、ここ最近で一番覚えているの、はあのゴブリンたちの餌食になりかけた時だけであり、思い出しただけでもぞっと悪寒を感じ、体が震えてしまう。

 助けられたとはいえ、襲われていたあの時の恐怖は、トラウマとして刻まれたまま。
 だが、その中で助けられて、あの優しくしてくれたエルと、その家族たちを想うと、ほっと温かい気持ちが広がって、震えが収まる。

(確か、教会の神父様いわく、呪いの数や悪意から考えて、相手はそれなりに金をかけられるような権力者の可能性があると言ってたかも)

 考えを少々戻して、呪いをかけてきた相手を考えると、かなり厄介な処の可能性が大きいだろう。
 そう考えると、もし自分が無事なのをその人物たちに知られてしまったら、エルたちに迷惑をかけるのではないだろうかと思ってしまう。

 ならば、迷惑をかけることが無いように、離れて暮らすか、もしくはどこかへ行くという手段もあったが、己にかけられた呪いがさらに不幸を呼び背てくる可能性もあるし、助けられたあの温かさを知った今、もう離れたくないと思ってしまったのだ。

 ならばどうすればいいか。

(彼らに、絶対に迷惑をかけないように、私自身を強くしたほうが良いのかも)

 ぐっとこぶしを握り、強くなろうと考えたタマモ。
 己の能力は呪いのせいで大幅に激減しているらしいが、呪いにかけられる前の自分の力が封じられただけとも解釈できる。
 つまり、今から頑張って努力すれば、封じられた分を補えるとまでは言えないが、それでも多少はマシになるかもしれないのだ。

 獣人ゆえの力を求める本能なのか、それとも皆のために強くなろうとする想いゆえかわからない。
 それでも、タマモは己を鍛えようと決意した。

(それに、エルにも恩返ししたいしね)

 森の中でのゴブリンから助けてくれたのはエルたちであり、主にエルが自ら動いたと聞いている。
 だからこそ、恩人のためにも必死になって恩を返さなければいけないと、タマモは思った。

 彼らに、その中でもエルに対して抱くのはその恩返しの心だけ。
 そう思っていたタマモだったが、彼女はエルの事を思うと自然と心が熱く、燃えたような気がした。
 絶対に、彼の役に立ちたい。彼の周囲にいる美しい蜘蛛や植物のモンスターたちにも負けないぐらい、一番になりたい。
 呪いが解け、もし少女でなくなり、大人となれば彼に一生を捧げても良い。

 その想いがどういうモノであるのか、彼女自身がエルに対してどういうものを抱いていたのかを理解するのは…もう少し、後のことであった。

――――――――
SIDE???

「何?まったく変化なしだと?」

 その頃、とある屋敷の中で報告を聞き、ぐびぐびと飲んでいたワイングラスを置いてその人物はそう口に出した。

「はっ、確かに変化もなく、依然として変わらないそうで」
「馬鹿な!?もし、あの森の中で奴が死んだのであれば、確実に次の継承者へ『アレ』が移るはずなのに…ええい、まだ死んでいなかったのか!!あれだけの呪いがありつつも、生き延びるとは運のいい奴よ!!」
「失礼ながら、あの方には不運になる呪いが欠けられているのでは」
「そんなこと、わかっとるわ!!」

 報告をしてきた配下に対して、忌々しそうな声で叫ぶ。
 ツッコミをいれずともどういうものをかけているのかを把握しており、だからこそ生き延びているかもしれない話を信じることができないのだ。

「あれだけの呪いをかけ、力も失っている状態だというのに、まさか生き延びているかもしれぬとは…いや、ゴブリン共の慰みものになって生き延びている可能性もなくはないが、それでも命をつなぐのは信じられぬ」

 少し落ち着きつつ後に、考え込むようにうなりながら、考えられる可能性を引っ張り出す。

「そういえば、あの付近に村があるようでして、あなた様はそんな辺境の村など、村外の人物を受け入れぬだろうと言ってましたよね?可能性としては、その村が案外、得体のしれない呪いまみれのよそ者を、快く受け入れた可能性があるのでは?」
「ええい!!黙れ黙れ!!ぐぅ、このままではまったく移らず、下手すればこの所業がバレるかもしれぬ。その前に、アレを手に入れ、絶対的な覇者となってやりたいのだが、己の手を直接汚すのは汚い事でやりたくなくて任せたのがあだとなっか‥‥こうなれば仕方があるまい」

 配下の言葉にいら立つが、こうしてはいられないと考えこみ、その人物は決断した。

「下手をすればまずいかもしれぬが、その村に奴が匿われた可能性もある。ならば、そこに襲撃をかけ、外部に情報が流出する前に、全てを知る者がいないように、皆殺しにしてしまうのだ!」
「なっ!?そんな大ごとを行えば、隠しきれない場合がありますが!?他国の辺境の、それこそすんごいド田舎にあるような場所とは言え、バレたら大問題です!!」
「黙れ!!どうせあんな辺境の村なんて誰も気にしないだろうし、気が付かれたとしても何があったかまではわからぬだろう!!問題なんてものは、それが起きたという事に気が付かなければ生じないのだ!!」

 もうすぐその己が求めていたモノが手に入りそうなのに、なかなか手に入らない苛立ち故にその人物は叫ぶ。呪いで対象の人物を人知れず葬り去る予定であったが、こうなれば己の所業が世に出るのも時間の問題と考え、この際村の襲撃を彼らは企てることにした。

 どうやってかを考え、当初は呪いで村全体にとも考えたが、経費が掛かり過ぎるし、確実にとも言い難い。呪いで殺しきれなかったのは、既に証明されているからだ。
 ならば、物凄く単純明快な方法として、手ごろないなくなっても問題のない傭兵かごろつきたちを雇い、盗賊のふりをして村に襲撃をかけて皆殺しをさせることに決定した。
 女子供も容赦なく、いや、女だけなら自分の元へ持ってこさせようと考える。
 用が済みしだい、使用した者たちも葬り去ってしまえば証拠もなくせて、払うお金も無くなって、都合が良いだろうと考えていたが…彼らはこの時点で、完全に滅亡の道が決まってしまった。


 ああ、何故この時、盗賊の襲撃が感知されてしまう可能性を考えていなかったのだろうか?
 それに、もしも襲えたとしても、盗賊を撃退できるだけの戦力がいるとも考えなかったのだろうか?

 なんにせよ、己の滅亡の道を自ら建設していき、立派な破滅という建物がそびえたっている事実に関して、彼等は気が付くことがなかったのであった‥‥‥‥
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