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第1章:幼少期~少年期前編
28話 休みのひと時も、面倒事の風が吹く ※R15?
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SIDEエル
‥‥‥今後、駄目王子が量産されないように防止策になるような魔道具を見つけて、説明を終えた謝罪の場から数日後、エルたちは故郷の村へ帰郷していた。
王都での散策も手短に終え、さっさとこれ以上の面倒事に巻き込まれないように、村まで真っ直ぐに向かう馬車に乗って帰って来たのだ。
そのおかげか、今回はスムーズに進み、賊や襲撃してくるモンスターに遭遇することもなく、無事に辿り着いたのであった。
「それにしても、謝罪の場で見つけてもらう事が出来たこの『変化のピアス』は、中々良いものだったな。これはこれで、確かに国宝に指定されてもおかしくはないのかもね」
「エルがその年で大人の身体になったりした変化は、驚きますしね」
「制限があるけど、守れば色々変化し放題、便利すぎる」
僕がそうつぶやけば、うんうんと頷くハクロとカトレア。
本日は森の中で木の実探しをして、家に持って帰って食べようと思っているのだけれども、一休みをしているのであった。
‥‥‥実は、変化のピアスを手に入れた後、まずは物は試しにという事で、大人の姿になってみたのだ。
制限としてあくまでもピアス側が感じ取った予測による姿なので、そんな風に成長するとは確定したわけではないが、それでも未来予測が出来そうなのは面白い。
この環境で、うまく成長してくれればすごい高身長になるかもしれないと期待を抱き、まずは、年齢的に17~18歳ごろの状態に変化できるように調整したのだが‥‥
「約165センチ、微妙に小さい」
「エル、180センチは欲しいって言ってましたけど、まだ足りないですね」
「…おおぅ」
このまま成長した際の現実は、中々シビアなものだった。
小さいって言われても、平均的に考えれば‥‥‥って、そういえばこの世界の成人男性の平均身長って知らないな。でも、目標よりもはるかに足りていない。
原因として考えられるのは、肉を食べる機会などが少ないことなのかもしれない。
前世とは違い、この世界の主な食用肉はモンスター産が多いのだが、そうそう食べる機会が多いってわけでもなく、基本的に野菜や魚が中心になりやすい。
畜産なんかをしようとしても、牛とか豚の肉は美味い事を理解しているのか、野生の獣やモンスターが襲撃をかけやすく、その為に畜産業が早々定着していないのだ。地方によってはまだ何とかできそうなところもあるらしいが、流通量が多いって訳でもなく、なかなか難しい問題である。
魚とかならばまだあるのだが‥‥‥それでも足りないものは足りない。できれば大きくなりたいなら肉を食べたりしろとか言う人もいるだろうが、値段が高かったり、もしくは入荷されていないことがあって、なかなか食べる機会がないのだ。
あの無料になるカードとかはあるけど、あの商会では食肉関係は扱っていないらしい。干し肉などはそこそこ出たりするらしいが、それでもあくまで保存食だし、大量に食べれるって訳でもないようだ。
まぁ、今の生活のままだとその身長になってしまうと分かったことは、良かったか。生活習慣の改善を考えるいいきっかけになってくれただろう。
でも、個人的にはもっと身長が欲しい。割と切実な問題。いや、背が低いのはそうそう悪い事ばかりでもないのだが、見た目的に…この絵面的に合法ショタおねみたいなことになっているから改善したい。人によってはありかもしれないけど、僕としてはしっかりとした立派な大人の姿になっておきたかったのだ。
とにもかくにも、将来的なスローライフのためにも、ある程度の力も欲しいので筋力の増強が必要であり、身長も高い方が作業する際に高いところの物を取りやすい利点がある。
ならば手っ取り早くより多く食べて、一番良さそうなのは肉食だろうが、そう都合よく世の中は動かないのだ。
「いっその事、オークの集団とかがやってきて、調理してしまえばいいんだろうけれどなぁ」
「さらっとヤバそうなこと言わないで下さいよ。それに、オークは嫌ですよ!!あれは絶対ダメです!!」
「性的に無理。あれは、肉塊で、醜悪で、絶対悪」
基本的に女性にとって悪夢の象徴ともされるモンスターでもあるようで、ハクロたちは遭遇したくないと言って鳥肌を立てていた。学校で見たモンスター図鑑でも、やばい感じの姿で描かれていたからね。例外的なものもいるらしいが、エロゲとかにありそうな意味での王道の姿をしたのが一般的なようで、遭遇したくないと思うの無理はない。
というか、王道を突き進んでいるような代表と言って良いようで、何しろ、異性と見れば孕ませるとか搾取するとかあるし、遭遇したらまず一目散に逃げたくはなるだろう。前者はまだわかるけど、後者に関してはオスと大差ない姿をしたメスオークもいるようで、そちらはそちらで世の男たちに恐れられているそうだ。
しかも、大抵の場合巣を作って拠点としているらしいが、その中には性的対象を閉じ込めて奴隷にしているような奴もいて、大きくなっていれば確実に犠牲者も見つけてしまうらしいのが嫌すぎるものである。王道をどこまで突き進むのか‥‥まともなオークがいてほしいとも思うだろう。
そう考えつつも、醜悪な見た目とは裏腹に肉が美味しいらしく、被害が出る前に発見次第刈りつくされているそうなので、遭遇確率が低いだろうと思う。
肉食が無理なら、せめてもっと食べていくべきかと思いながら、いつものように何故かよく木の実を見つけられる力を生かして収穫しまくり、ある程度貯まった…その時だった。
「ウビアアァァァァァァァッ!!」
「「「!?」」」
突如として、森全体が震えるような気持ちの悪い咆哮が聞こえてきた。
この森では聞くことがないようなものでありつつ、続けて後に更に声があがった。
「みやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「な、何今の咆哮と悲鳴は!?」
「どちらも聞いたことはないですが、どう考えても不味そうな感じです!」
「誰か、襲われているのかも。図鑑で見たオークの鳴き声とは違うようだけど、何かヤバいのは間違いない」
誰かが襲われている可能性もあり、急いで助け出そうと僕らは駆け抜け始める。
でもちょっと進んだあたりで、ふと気が付いた。
「森の中なら僕らが走るよりも、ハクロの方が早いじゃん!」
「そうでした!エル、背中に乗ってください!!」
「カトレア、村の方に戻って大人たちを呼んできて!!僕等だけじゃ逃げるだけになる可能性もあるからね!!」
「わかった、ご武運を!!」
カトレアが村の方に向きを変え、僕はハクロの背中に飛び乗る。
落っこちないように固定した後、ハクロは糸を出して、すぐさま木々へつなげていく。
「それじゃ、行きます!」
すばやく糸を引っ張り上げ、その勢いで体も引っ張られる。
まるで、某巨人対策機械のような動きになるが、縦横無尽かつ走るよりも根っこなどに邪魔されない分、こちらの方が森の中でかなりの速さを誇るだろう。
この素早さはありがたく、早く現場へ急行しないと何か取り返しのつかない可能性もあったので、大急ぎで悲鳴の下へと向かうのであった。
「んにゅ、エルを乗せて動いてますけど、大丈夫でしょうか!!」
「大丈夫だよ!!このぐらい、平気さ!!」
あと、こんな状況だけど、リアル立体起動装置みたいな感じの動きが出来るのは、ちょっと面白くもある。景色がすごい速さで動くのに、よく狂いもなく動けるなぁ‥‥
――――――――
SIDE とある少女
「みゃあぁぁぁ!!やめてぇぇぇぇ!!」
森の中で、その少女は泣き叫んでいた。
目に一杯の涙をためてこぼしつつも、相手はそんなものは関係ないのだろう。
「ウビヤアァァァァァ!!」
少女に対して、お構いなしにそのモンスターたちは襲い掛かり、来ていた衣服をはぎ取っていく。
「ウビヤァァァァァア!!」
「ウビャビャビャ!!」
「やめてやめてぇぇぇ!!」
少女が必死に叫んでも、そのモンスターたちはやめなかった。
モンスターの方がより小柄な体格なはずなのに、暴れている少女を黙らせるために手に持った石などを少女にぶつけて弱らせ、無理やり体を押さえつけるほどの力を見せる。
「ウビヤァア!!」
「ウビアヤヤ!!」
少女の衣服をすべてはぎ取って、まだ幼い肢体に手をかけ、何かを降りかけてきた。
「な、なにこれ……痒い!?」
その液体がかかったところから、少女は自分の体に異常を感じた。
一気に燃え上がるかのように熱くなったかと思うと、物凄く痒くなってきたのである。
そう、夏に蚊に刺された痒みのようなものが、更に100倍にも増幅されたように、全身をじわりじわりと蝕んできたのだ。
「ま、まさか!!」
そこで少女はそのモンスターたちが何を思って、その液体をかけてきたのか理解した。
「嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
もはやこれまでかと思う少女の目の前で、モンスターが巨悪な生殖器を取り出し、それを無理やり差し込もうとした…その瞬間であった。
「ウビアァ、ウ」
「貫け切り裂け凍てつけ『アイスバレット』!!」
今まさに、いただきますと言わんばかりにしていたモンスターが、どこからか飛んできた氷の弾によって貫かれ、瞬時に絶命して倒れこんだ。
「ウビャカ!?」
「ウビヤァァァ!?」
その突然の攻撃に、モンスターたちは混乱したのであろう。仲間たちが倒れていく様を見て悲鳴を上げつつ、理解できていない様子だ。
「だ、誰かが‥‥‥」
その攻撃が魔法によるものらしいことを確認し、少女は誰かが助けに来てくれたのだと理解した。
一瞬でモンスターを倒したのであれば、もう大丈夫なのかもしれない。
恐怖の中にいた中で、どこからともなく差し込まれた希望の光に気が抜けた瞬間、緊張の糸が切れ、気絶したのであった。
―――――――――――――――
SIDEエル
「うわぁ!!なんかやばい現場に遭遇したかも!?」
「ご、『ゴブリン』ですよ!?いえ、その上位種とかもいるようです!!」
流石に森の中なので火事を避けつつ、威力がありそうな魔法を使って、襲われていた人を助けたのだが、その周囲にまるで1匹見つければ30匹はいるとある異世界でも実は存在するらしい災厄の混沌こととある蟲のごとく、うじゃうじゃといるその気持ち悪いモンスターたちを見て、思わず僕らはそう叫んだ。
ハクロはその姿を見て、どんなモンスターなのか分かったようだが、念のために、鑑定魔法で詳細を見てみよう。
「『鑑定』!」
―――――
『ゴブリン』
小鬼型のモンスターであり、徹底的にこれでもかと醜悪な容姿が詰め込まれまくって、その凶悪な面構えと繁殖力を兼ね備えている気持ち悪いモンスターの一種。
一体だと弱いことを理解しており、常に多くの群れで行動し、集団で獲物をしとめ、均等に分配して統率を乱さないようにしている。
オーク同様に様々な種族の雌雄を狙い、繁殖を行うのだが、こちらはその小柄な体格故か、幼い少女や少年を狙うため、別名「ペドペドイーター」と呼ばれている。なお、範囲にいないのであれば、成熟した雌雄でも問題なく、単純にこの身の問題なだけだとも言われている。
また、圧倒的な繁殖力のために、1匹見つければ100匹はいるため、徹底的な殲滅が必要であり、個体では弱いのだが集団ではその統率力が厄介ともされている。
――――――
‥‥‥オーク以上と言って良いような奴だった。うわぁ、弱いイメージがあるはずなのに、その集団戦法で強さを引き上げているというわけか。
しかし、なんだその呼ばれ方。いろいろな意味で恐怖を感じるのだが、見つけたらすぐに根絶やしにしないと不味い類か。
ひとまず今は、この状況で相手が混乱している隙に、人命救助が優先である。
「ハクロ!あの子だけ一旦群れから引きはなせないか!!」
「お任せですよ!」
バッとハクロが糸を飛ばし、捕らわれていたらしい少女を巻き付け、一本釣りの要領で引き離し、手に持った。
そのまま背中に背負いつつ、渡された糸を使って僕と一緒に彼女の背中に固定し、振り落とされないようにしておく。
「エル、大人たち、呼んで来た!!すぐに来ると思う!!」
丁度ここで、村の方で呼ぶことを終えたのか、森の木々を生かしてどこからともなくカトレアが素早く生えてきたようだ。
「カトレア!説明は省くが、今いるやつらを逃さないようにしてくれ!」
「了解!!説明されずとも、蜘蛛よりもツーカー、簡単、全部捕獲!!」
「今さらっと、何か言いましたよね!?」
ハクロのツッコミを気にせず、カトレアはたくさんの木の根を素早く地中から突き上げ、一気にゴブリンたちを鳥かごのように囲った。
1匹でも逃すと危ないそうなので、これで全部かとしっかり確認し、魔法を放つ。
「氷結して芯まで凍って、魂まで砕けて逝け!!『アブソリュート・ゼロ』!!」
問答無用で発動した氷魔法が、ちょうど鳥かごの範囲に収まる部分だけ効果を発揮し、ゴブリンたちは抵抗する間もなく、全て氷像と化した。
ある程度魔法に関しての制御能力を鍛えてきたが、それでもまだノーコンな部分があるからね…油断して動きが鈍かったり、今みたいに身動きできないように固定した状態じゃないと不安もあったが、無事に発動できて内心ほっとしたよ。
「あとは全部砕けばいいか」
「なら、これで、やるだけ」
そう言うと、カトレアは木の根から何かを生やした。
見た感じ、物凄くごつごつした岩のような…ああ、『ロックドポテイトゥ』の実か。ジャガイモに近いものだが、その硬度は岩なみにあり、皮をむくだけでも一苦労らしい。
「『ポテトクラッシュ』」
そうカトレアがつぶやくと、全部のポテトがぶちっと千切れて、大量に出来上がっていたゴブリンの氷像に次々に命中していく。
ドゴ!バキィッツ!!メギグシャァ!!
次々に命中しては、砕けていく様子は凄まじい。
凍り付いているがゆえに出来ることも何もなく、氷像と化したゴブリンたちは数分後に全て砕け散って、同時に命も散らしたのであった。
解凍しないほうが良いだろうなぁ…これ、絶対グロイ光景だ。
そんな事も思いつつ、状況が何とか安定したので次の方に意識を移す。
「まずはこの子の方か」
背中の方でぐったりしている、助けた少女を確認する。
どうも気絶しているようで、頭を見れば‥‥‥可愛い獣の耳があった。
「獣人の女の子かな?…って、ハクロ!!服を着せてあげて!!」
気が付いたのだが、この少女服を着ていなかった。
全身に青あざなどもあり、ゴブリンたちにひどい目に遭わされたのが良く分かるが‥‥‥どこから来たのだろうか?この辺りに獣人の集落とかもなかったはずだ。
とにもかくにも、まずはこの子が起きるまでの間に手当てをしつつ、大人たちがやって来たので状況説明と少女の保護、それとゴブリンの死骸に関しての処分も考えることになるのであった‥‥‥
「それにしても、えげつないポテトの雨あられだったな…」
「氷像じゃなくても、骨が砕けそうなものですよ」
「不審者撃退用に、密かに開発、品種改良。でもこれ、硬度に割り振り過ぎて、調理大変」
‥ゴブリン叩き割った芋、食べたくないよ。
‥‥‥今後、駄目王子が量産されないように防止策になるような魔道具を見つけて、説明を終えた謝罪の場から数日後、エルたちは故郷の村へ帰郷していた。
王都での散策も手短に終え、さっさとこれ以上の面倒事に巻き込まれないように、村まで真っ直ぐに向かう馬車に乗って帰って来たのだ。
そのおかげか、今回はスムーズに進み、賊や襲撃してくるモンスターに遭遇することもなく、無事に辿り着いたのであった。
「それにしても、謝罪の場で見つけてもらう事が出来たこの『変化のピアス』は、中々良いものだったな。これはこれで、確かに国宝に指定されてもおかしくはないのかもね」
「エルがその年で大人の身体になったりした変化は、驚きますしね」
「制限があるけど、守れば色々変化し放題、便利すぎる」
僕がそうつぶやけば、うんうんと頷くハクロとカトレア。
本日は森の中で木の実探しをして、家に持って帰って食べようと思っているのだけれども、一休みをしているのであった。
‥‥‥実は、変化のピアスを手に入れた後、まずは物は試しにという事で、大人の姿になってみたのだ。
制限としてあくまでもピアス側が感じ取った予測による姿なので、そんな風に成長するとは確定したわけではないが、それでも未来予測が出来そうなのは面白い。
この環境で、うまく成長してくれればすごい高身長になるかもしれないと期待を抱き、まずは、年齢的に17~18歳ごろの状態に変化できるように調整したのだが‥‥
「約165センチ、微妙に小さい」
「エル、180センチは欲しいって言ってましたけど、まだ足りないですね」
「…おおぅ」
このまま成長した際の現実は、中々シビアなものだった。
小さいって言われても、平均的に考えれば‥‥‥って、そういえばこの世界の成人男性の平均身長って知らないな。でも、目標よりもはるかに足りていない。
原因として考えられるのは、肉を食べる機会などが少ないことなのかもしれない。
前世とは違い、この世界の主な食用肉はモンスター産が多いのだが、そうそう食べる機会が多いってわけでもなく、基本的に野菜や魚が中心になりやすい。
畜産なんかをしようとしても、牛とか豚の肉は美味い事を理解しているのか、野生の獣やモンスターが襲撃をかけやすく、その為に畜産業が早々定着していないのだ。地方によってはまだ何とかできそうなところもあるらしいが、流通量が多いって訳でもなく、なかなか難しい問題である。
魚とかならばまだあるのだが‥‥‥それでも足りないものは足りない。できれば大きくなりたいなら肉を食べたりしろとか言う人もいるだろうが、値段が高かったり、もしくは入荷されていないことがあって、なかなか食べる機会がないのだ。
あの無料になるカードとかはあるけど、あの商会では食肉関係は扱っていないらしい。干し肉などはそこそこ出たりするらしいが、それでもあくまで保存食だし、大量に食べれるって訳でもないようだ。
まぁ、今の生活のままだとその身長になってしまうと分かったことは、良かったか。生活習慣の改善を考えるいいきっかけになってくれただろう。
でも、個人的にはもっと身長が欲しい。割と切実な問題。いや、背が低いのはそうそう悪い事ばかりでもないのだが、見た目的に…この絵面的に合法ショタおねみたいなことになっているから改善したい。人によってはありかもしれないけど、僕としてはしっかりとした立派な大人の姿になっておきたかったのだ。
とにもかくにも、将来的なスローライフのためにも、ある程度の力も欲しいので筋力の増強が必要であり、身長も高い方が作業する際に高いところの物を取りやすい利点がある。
ならば手っ取り早くより多く食べて、一番良さそうなのは肉食だろうが、そう都合よく世の中は動かないのだ。
「いっその事、オークの集団とかがやってきて、調理してしまえばいいんだろうけれどなぁ」
「さらっとヤバそうなこと言わないで下さいよ。それに、オークは嫌ですよ!!あれは絶対ダメです!!」
「性的に無理。あれは、肉塊で、醜悪で、絶対悪」
基本的に女性にとって悪夢の象徴ともされるモンスターでもあるようで、ハクロたちは遭遇したくないと言って鳥肌を立てていた。学校で見たモンスター図鑑でも、やばい感じの姿で描かれていたからね。例外的なものもいるらしいが、エロゲとかにありそうな意味での王道の姿をしたのが一般的なようで、遭遇したくないと思うの無理はない。
というか、王道を突き進んでいるような代表と言って良いようで、何しろ、異性と見れば孕ませるとか搾取するとかあるし、遭遇したらまず一目散に逃げたくはなるだろう。前者はまだわかるけど、後者に関してはオスと大差ない姿をしたメスオークもいるようで、そちらはそちらで世の男たちに恐れられているそうだ。
しかも、大抵の場合巣を作って拠点としているらしいが、その中には性的対象を閉じ込めて奴隷にしているような奴もいて、大きくなっていれば確実に犠牲者も見つけてしまうらしいのが嫌すぎるものである。王道をどこまで突き進むのか‥‥まともなオークがいてほしいとも思うだろう。
そう考えつつも、醜悪な見た目とは裏腹に肉が美味しいらしく、被害が出る前に発見次第刈りつくされているそうなので、遭遇確率が低いだろうと思う。
肉食が無理なら、せめてもっと食べていくべきかと思いながら、いつものように何故かよく木の実を見つけられる力を生かして収穫しまくり、ある程度貯まった…その時だった。
「ウビアアァァァァァァァッ!!」
「「「!?」」」
突如として、森全体が震えるような気持ちの悪い咆哮が聞こえてきた。
この森では聞くことがないようなものでありつつ、続けて後に更に声があがった。
「みやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「な、何今の咆哮と悲鳴は!?」
「どちらも聞いたことはないですが、どう考えても不味そうな感じです!」
「誰か、襲われているのかも。図鑑で見たオークの鳴き声とは違うようだけど、何かヤバいのは間違いない」
誰かが襲われている可能性もあり、急いで助け出そうと僕らは駆け抜け始める。
でもちょっと進んだあたりで、ふと気が付いた。
「森の中なら僕らが走るよりも、ハクロの方が早いじゃん!」
「そうでした!エル、背中に乗ってください!!」
「カトレア、村の方に戻って大人たちを呼んできて!!僕等だけじゃ逃げるだけになる可能性もあるからね!!」
「わかった、ご武運を!!」
カトレアが村の方に向きを変え、僕はハクロの背中に飛び乗る。
落っこちないように固定した後、ハクロは糸を出して、すぐさま木々へつなげていく。
「それじゃ、行きます!」
すばやく糸を引っ張り上げ、その勢いで体も引っ張られる。
まるで、某巨人対策機械のような動きになるが、縦横無尽かつ走るよりも根っこなどに邪魔されない分、こちらの方が森の中でかなりの速さを誇るだろう。
この素早さはありがたく、早く現場へ急行しないと何か取り返しのつかない可能性もあったので、大急ぎで悲鳴の下へと向かうのであった。
「んにゅ、エルを乗せて動いてますけど、大丈夫でしょうか!!」
「大丈夫だよ!!このぐらい、平気さ!!」
あと、こんな状況だけど、リアル立体起動装置みたいな感じの動きが出来るのは、ちょっと面白くもある。景色がすごい速さで動くのに、よく狂いもなく動けるなぁ‥‥
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SIDE とある少女
「みゃあぁぁぁ!!やめてぇぇぇぇ!!」
森の中で、その少女は泣き叫んでいた。
目に一杯の涙をためてこぼしつつも、相手はそんなものは関係ないのだろう。
「ウビヤアァァァァァ!!」
少女に対して、お構いなしにそのモンスターたちは襲い掛かり、来ていた衣服をはぎ取っていく。
「ウビヤァァァァァア!!」
「ウビャビャビャ!!」
「やめてやめてぇぇぇ!!」
少女が必死に叫んでも、そのモンスターたちはやめなかった。
モンスターの方がより小柄な体格なはずなのに、暴れている少女を黙らせるために手に持った石などを少女にぶつけて弱らせ、無理やり体を押さえつけるほどの力を見せる。
「ウビヤァア!!」
「ウビアヤヤ!!」
少女の衣服をすべてはぎ取って、まだ幼い肢体に手をかけ、何かを降りかけてきた。
「な、なにこれ……痒い!?」
その液体がかかったところから、少女は自分の体に異常を感じた。
一気に燃え上がるかのように熱くなったかと思うと、物凄く痒くなってきたのである。
そう、夏に蚊に刺された痒みのようなものが、更に100倍にも増幅されたように、全身をじわりじわりと蝕んできたのだ。
「ま、まさか!!」
そこで少女はそのモンスターたちが何を思って、その液体をかけてきたのか理解した。
「嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
もはやこれまでかと思う少女の目の前で、モンスターが巨悪な生殖器を取り出し、それを無理やり差し込もうとした…その瞬間であった。
「ウビアァ、ウ」
「貫け切り裂け凍てつけ『アイスバレット』!!」
今まさに、いただきますと言わんばかりにしていたモンスターが、どこからか飛んできた氷の弾によって貫かれ、瞬時に絶命して倒れこんだ。
「ウビャカ!?」
「ウビヤァァァ!?」
その突然の攻撃に、モンスターたちは混乱したのであろう。仲間たちが倒れていく様を見て悲鳴を上げつつ、理解できていない様子だ。
「だ、誰かが‥‥‥」
その攻撃が魔法によるものらしいことを確認し、少女は誰かが助けに来てくれたのだと理解した。
一瞬でモンスターを倒したのであれば、もう大丈夫なのかもしれない。
恐怖の中にいた中で、どこからともなく差し込まれた希望の光に気が抜けた瞬間、緊張の糸が切れ、気絶したのであった。
―――――――――――――――
SIDEエル
「うわぁ!!なんかやばい現場に遭遇したかも!?」
「ご、『ゴブリン』ですよ!?いえ、その上位種とかもいるようです!!」
流石に森の中なので火事を避けつつ、威力がありそうな魔法を使って、襲われていた人を助けたのだが、その周囲にまるで1匹見つければ30匹はいるとある異世界でも実は存在するらしい災厄の混沌こととある蟲のごとく、うじゃうじゃといるその気持ち悪いモンスターたちを見て、思わず僕らはそう叫んだ。
ハクロはその姿を見て、どんなモンスターなのか分かったようだが、念のために、鑑定魔法で詳細を見てみよう。
「『鑑定』!」
―――――
『ゴブリン』
小鬼型のモンスターであり、徹底的にこれでもかと醜悪な容姿が詰め込まれまくって、その凶悪な面構えと繁殖力を兼ね備えている気持ち悪いモンスターの一種。
一体だと弱いことを理解しており、常に多くの群れで行動し、集団で獲物をしとめ、均等に分配して統率を乱さないようにしている。
オーク同様に様々な種族の雌雄を狙い、繁殖を行うのだが、こちらはその小柄な体格故か、幼い少女や少年を狙うため、別名「ペドペドイーター」と呼ばれている。なお、範囲にいないのであれば、成熟した雌雄でも問題なく、単純にこの身の問題なだけだとも言われている。
また、圧倒的な繁殖力のために、1匹見つければ100匹はいるため、徹底的な殲滅が必要であり、個体では弱いのだが集団ではその統率力が厄介ともされている。
――――――
‥‥‥オーク以上と言って良いような奴だった。うわぁ、弱いイメージがあるはずなのに、その集団戦法で強さを引き上げているというわけか。
しかし、なんだその呼ばれ方。いろいろな意味で恐怖を感じるのだが、見つけたらすぐに根絶やしにしないと不味い類か。
ひとまず今は、この状況で相手が混乱している隙に、人命救助が優先である。
「ハクロ!あの子だけ一旦群れから引きはなせないか!!」
「お任せですよ!」
バッとハクロが糸を飛ばし、捕らわれていたらしい少女を巻き付け、一本釣りの要領で引き離し、手に持った。
そのまま背中に背負いつつ、渡された糸を使って僕と一緒に彼女の背中に固定し、振り落とされないようにしておく。
「エル、大人たち、呼んで来た!!すぐに来ると思う!!」
丁度ここで、村の方で呼ぶことを終えたのか、森の木々を生かしてどこからともなくカトレアが素早く生えてきたようだ。
「カトレア!説明は省くが、今いるやつらを逃さないようにしてくれ!」
「了解!!説明されずとも、蜘蛛よりもツーカー、簡単、全部捕獲!!」
「今さらっと、何か言いましたよね!?」
ハクロのツッコミを気にせず、カトレアはたくさんの木の根を素早く地中から突き上げ、一気にゴブリンたちを鳥かごのように囲った。
1匹でも逃すと危ないそうなので、これで全部かとしっかり確認し、魔法を放つ。
「氷結して芯まで凍って、魂まで砕けて逝け!!『アブソリュート・ゼロ』!!」
問答無用で発動した氷魔法が、ちょうど鳥かごの範囲に収まる部分だけ効果を発揮し、ゴブリンたちは抵抗する間もなく、全て氷像と化した。
ある程度魔法に関しての制御能力を鍛えてきたが、それでもまだノーコンな部分があるからね…油断して動きが鈍かったり、今みたいに身動きできないように固定した状態じゃないと不安もあったが、無事に発動できて内心ほっとしたよ。
「あとは全部砕けばいいか」
「なら、これで、やるだけ」
そう言うと、カトレアは木の根から何かを生やした。
見た感じ、物凄くごつごつした岩のような…ああ、『ロックドポテイトゥ』の実か。ジャガイモに近いものだが、その硬度は岩なみにあり、皮をむくだけでも一苦労らしい。
「『ポテトクラッシュ』」
そうカトレアがつぶやくと、全部のポテトがぶちっと千切れて、大量に出来上がっていたゴブリンの氷像に次々に命中していく。
ドゴ!バキィッツ!!メギグシャァ!!
次々に命中しては、砕けていく様子は凄まじい。
凍り付いているがゆえに出来ることも何もなく、氷像と化したゴブリンたちは数分後に全て砕け散って、同時に命も散らしたのであった。
解凍しないほうが良いだろうなぁ…これ、絶対グロイ光景だ。
そんな事も思いつつ、状況が何とか安定したので次の方に意識を移す。
「まずはこの子の方か」
背中の方でぐったりしている、助けた少女を確認する。
どうも気絶しているようで、頭を見れば‥‥‥可愛い獣の耳があった。
「獣人の女の子かな?…って、ハクロ!!服を着せてあげて!!」
気が付いたのだが、この少女服を着ていなかった。
全身に青あざなどもあり、ゴブリンたちにひどい目に遭わされたのが良く分かるが‥‥‥どこから来たのだろうか?この辺りに獣人の集落とかもなかったはずだ。
とにもかくにも、まずはこの子が起きるまでの間に手当てをしつつ、大人たちがやって来たので状況説明と少女の保護、それとゴブリンの死骸に関しての処分も考えることになるのであった‥‥‥
「それにしても、えげつないポテトの雨あられだったな…」
「氷像じゃなくても、骨が砕けそうなものですよ」
「不審者撃退用に、密かに開発、品種改良。でもこれ、硬度に割り振り過ぎて、調理大変」
‥ゴブリン叩き割った芋、食べたくないよ。
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