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第1章:幼少期~少年期前編

24話 潰しつつ動かしつつ

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SIDEエル

‥‥‥故郷から出て、スクライド学校に入学してから、はや3カ月ほどの月日が流れていた。
 異世界なのに前世のような季節の移り変わりが存在しているらしく、ポカポカ陽気の日々はもう間もなく終わりをつげ、太陽が照り付けてくる夏の季節と切り替わっていく。
 そして季節の移り変わりと一緒にやってくるというように、学校ではそろそろ夏季休暇の時期…いわゆる夏休みの時期に入ろうとしていた。

 ブラック企業勤めだった時は、そんな休みの時なんぞ子供のころにしか存在しなかった。
 まぁ、今は転生してしっかり子供なのだから間違ってもないのだが、それでも休みがあるという感覚はものすごく楽しみに感じるものがあるだろう。
 日々の勉強も楽しくもあるが、それでも長期的な休みの時期があるというのは時間を学びなどに費やしている時間を獲得した時から、更に嬉しさを増してくるものだ。何事もメリハリが大事で、長すぎると退屈になりかねないが、今のこの時期が一番、より楽しみやすいものになっているだろう。

「でも、夏休みの計画としては無計画かな。行きたい場所が、あまり無いような」
「やること…長い休みならゆっくりと過ごすだけですけれど、村での生活とそんなに大差ない気もしますしね」
「私、エルの村、初めて行くのだけど、やることある?」

 これが現代の日本とかであれば、車や電車、飛行機などの移動手段が多彩にあるからこそ、旅行を計画したりするのだろうけど、この世界の移動手段は基本的に徒歩や馬車ばかり。
 交通機関の中には魔道具と呼ばれるものを使って稼働する自動車もどきのような物や、モンスターを馬代わりに利用することでより長距離・高速移動を可能にしたものなどもあるらしいが、利用料金が高めだったりするので利用しにくいところがある。
 予定する旅行先の情報を得にくいのも合って、ちょっとばかり出るには勇気がいるのもあるしなぁ…まぁ、まだ知識が少ないから、どんどん蓄えて余裕で旅行を出来るようにしたいところだ。
 

「今は素直に、この休みで帰郷しても良いけどね。そもそも旅行とかへ行くと時間かかるけど、旅行先で‥‥‥この宿題の山、できる?」
「あー…無理ですね」
「少しづつやるなら良いけど、溜めてしまうと、後が厳しい」

 机の上に、休み前にしっかりと全生徒に事前配布された夏休みの宿題の山を見てつぶやき、彼女達も同意する。…異世界だろうとどこだろうと、学生は宿題で苦労させられるようだ。地頭は悪くはないので苦戦はしないが、それでも自由研究などの類は考えるのが大変そうである。
 ハクロたちの観察日記とかはありかもしれないけど…日記系統、三日坊主で終わりそうな気がしなくもない。 

 ちなみに、貴族家の生徒たちの中には、権力を利用し、人を雇って宿題をやってもらうような奴もいるらしい。そんなことをしたらズルではないかと言いたいのだが、世の中そう甘くはないように仕掛けているとも聞く。
 なんでも、貴族の世界はいわば騙し、騙され、腹の探り合いをすることが多い魑魅魍魎が渦巻きまくる恐ろしい世界でもあるらしく、その前準備・仮体験のようにという目的で、、その宿題を如何にしてごまかしてやりきるかなども調査されるそうで、酷すぎるレベルだと夏休み明けに激重な補修が用意されていたり、逆にうまい事世渡りができるようなものであれば、多少は目をつぶるそうだ。基準もそこそこ厳しいらしく、そう簡単に通り抜けできる人はいないようで、毎年何人かは確定で補修らしいけれどね…

 そんな世界があっても、平民である僕らには関係ない話だろう。
 貴族が大変だろうが何だろうが、そんなものに関わり合いになるつもりもないし、一生をスローライフで過ごす目的があるから、魑魅魍魎の渦巻きまくる場所に向かう意味もない。
 ブラック企業と比べるとどうなのかは気になるのだが…どっちもどっちか。何にせよ、今世では関わりたくないものではある。

「あ、でもエル、これはどうしましょうか」
「これって‥ああ、それか」

 宿題の山を整理して、後でどこから手を付けようと考える中、ふとハクロが取り出してきたのは、一通の手紙。
 平民が使うような紙ではなく、貴族家が使うような高級で上質そうな肌触りがある。
 差出人を見れば見慣れぬ名前があったが、調べてみると、驚くべきことに、この国の国王が差出人のようであった。

 一介の平民に、何故国王が手紙を出すのか。
 そんな疑問を抱いたが、内容を読んでみると、多少は納得することが出来た。

「怪奇肉団子廃嫡、でも、王族の系譜から外したとはいえ、無関係ではない。だからこそ、謝罪のために来て欲しい、って書いてある」
「謝罪なのに呼びつけ…いや、仕方がないか。国王がそんな簡単にほいほい出てきて、どこでも誤ったらそれこそ王家の醜聞とかになりかねないからね」

 以前、決闘を挑んで来ようとして全く何もできなかったウルトラメタボリックシンドロームマンこと巨大肉塊男。名前を忘れてしまったが、今はもう廃嫡からの追放の罰則を出したとはいえ、あの肉塊がわずかな間でも王家に属していたのは変えようのない事実。
 汚点を出してしまったことに関してすぐに対処したいのも合って、被害を受けた僕らの方にも確認と謝罪のために来て欲しいという事なのだろう。
 あと、中身をよく読むと奴は廃嫡されたが、国王としての前に、一人の親として正式な場できちんと謝罪をしたいのもあるらしい。

 あの事件から少々時間も経過しているが、王家にもいろいろと仕事があり、中々その機会に恵まれなかったようである。
 ついでになぜか、その後すぐに他の王子たちでも何やらすぐさま整理整頓が行われたらしく、断罪や処分などが行われ、その対応に追われていたという噂もあるらしいが‥‥こっちの方で、忙しすぎてなかなか機会に恵まれなかったという方が分かりやすいだろう。
 噂だと、短い期間の間に10人近く処分されたらしいが、それだけの人数の処分は確かに時間がかかりそうだしね。

 むしろ何故、そんな処分祭りをするレベルまで放置していたのか‥‥うん、甘いというカ、何というか、この国の王が愚王すぎることはないけれども、凡庸さが溢れすぎた人みたいな評価の噂も合ったことに納得いったよ。
 でも、本当になんでそんなにすぐに狩りまくったのかなぁ…肉塊男の一件で、他の隠していたことが連鎖的に爆発したのだろうか?


 何にしても大粛清と言えるようなことが起きたとはいえ、少々王城に出向きにくい感じもある。
 別に貴族に偏見を持つわけではないが、あのメタボキングのような奴が他にもいそうで、近づきにくい所。清掃されて綺麗になっていたとしても、スローライフを送りたい身としては、そういった輩に関わりそうな機会は避けたいところだ。

…でも、そんな理由はあるが、それはそれでこれはこれ。王城の方に興味がないわけでもない。
 スローライフをする上で必要になる住みかを考えると、周囲の争いに巻き込まれないような家も欲しくなり、そう考えると守りの要のようになっているような城というのは、参考になるかもしれない。
 世のなかには動く城などもあるらしいが、王族が住まう場所であり、だからこそ大事なものを守るためにガッチガチに固めているイメージもあるのだ。

 そう考えると、将来のスローライフ物件の参考にするために、近い場所まで出向き、目で直接確認できる機会としては最適かもしれない。

 ちなみに、休暇中の方が好ましいだろうという配慮から、すぐに向かう必要もないとある。
 事前に都合の良い日程を記入して送ることで、その日に入場許可がマッハで降ろすことが出来るようにもなっているらしい。
 強制的でもないのだが、将来の参考なども考えて、僕等は王城へ出向くことを決めるのであった‥‥

「ところで、謝罪の場ですけれども、私達も正装にした方が良いのでしょうか?受ける側ですけれども、ドレスコードは大事と聞きますからね」
「そう言えばそうか。相手は王族だし、しっかりした服装にしないとね」


―――――――――――――――
SIDEバルドロス国王

「‥‥‥なぁ、イツウドスン宰相、あの手紙で彼らは来てくれるだろうか?」

 エルたちが服装に関して考えている丁度その頃、王城にて手紙の差出人であるバルドロス国王は、側近の宰相イツウドスンに問いかけていた。
 本日の国王としての仕事で、書類に判を押している作業をしながらなので、多少は話しかけやすいのである。

「ふむ、五分五分ぐらいでしょう。どうしても貴族としての立場と平民としての立場では、感覚がやや違うところもあるため、陛下的には来て欲しいという内容の手紙でも、あちらにとっては上から目線のように見えてしまい、嫌悪感ゆえに断る可能性も否定できませんからね。そもそも、謝罪したいのに呼びつけるような形になっているのが、マイナスだと思われますな」
「そこは仕方があるまい‥‥学校に正式訪問などはできるが、愚息だった者の謝罪で出向くのは、王家に敵対するような者たちの都合の良いツッコミどころになりかねないからな。本当は直接出向き、余の情けない元息子の後始末をきちんとするためにも、謝罪をしたいが…地位というのは、時として不自由なものだ」
「元はと言えば、陛下のばらまいた腐った種が原因ですけれどね。責任を感じて動くのは良いですガ、陛下は少々甘く、判断が遅い部分があるからこそ、こんなことになりますからね。下手すると、追放し、廃嫡した元王子たちが徒党を組んで下剋上を狙いかねないところもありますがね」
「‥‥想像に容易いのが悲しいなぁ」

 イツウドスンの言葉に対して、バルドロス国王は何も言い返せなかった。
 文字通り自分の手によってやらかした出来事ではあるが…それでも親としての思いもある。それでも、甘さを残していては国も腐らせかねないので、しっかりと処分が出来る機会があれば、積極的にやらなければいけないのである。

「それにしても、まともな方に成長した子供たちの方は、早期に自ら王位継承権を放棄し、まともでない方々は放棄せずにみっともなくしがみつく‥‥‥これはこれで不思議ですなぁ」
「父は同じなのに、子が同じにならないのはどうしてだと思うか、イツウドスンよ?」
「同じような教育もありますが、それでも本人の資質に影響される部分があるのでしょう」

 母が異なるが、それでも同じ父の血を引くはずなのに、何故か王家に属する者の血筋の者は、極端に性質が分かれてしまう。
 まじめな子は真面目になり、不真面目な子は救いようのないクズに…どうしてそうなるのかは不明で、答えはいまだに出ていない。
 一説では、王家の血はまともか屑になるように分けられており、大抵の場合、後者が生まれやすくなるという呪いがかけられているのではないかという話も出ていた。

 実際に、王家から出ていった子孫にはそのような傾向はなく、王家に入った途端にそんな呪いのようなものが発動しているというように、やらかす者が産まれてしまうのである。
 偶然というには出来過ぎており、かといって必然というとどうすればいいのかと、頭を悩ませるものになっていた。

「ああ、将来が不安だというのに、未だに王太子が決まらぬというのも混乱の原因か、まともな者が出ていきやすい分、後に任せるのが…おおぅ、恐ろしい」
「優柔不断だし、陛下もそろそろびしっと決めてくれればいいんですがね」

 国王の悩みの種は、まだまだ解決する気配が見えないだろう。
 自分で蒔いた種を成業するのは、どうやら難しいようであった。

「いっその事、他国へ夜逃げしようか…王家から出れば、まともなものがこりゃいかんという事で、戻ってきて国をどうにかしてくれる可能性もあるな」
「却下。国王陛下が出て行ったら、あっと言う間に滅亡国家になります。きちんと大丈夫な相手を選び、隠居する時も常に付き添い、仕事をやり遂げてください」
「宰相、そうなった時に、お前はどうするのだ?」
「陛下の隠居後に、即田舎へ帰らせていただきます。魑魅魍魎から王太子を守るハードゲームを、どうぞゆっくりと陛下だけがお楽しみになってください」
「国を案じているのか、余を軽んじているのか」

 国王の案は、その場で一蹴されてしまいつつ、余計な不信を抱いてしまうのであった…


「安心してください、国王陛下。たとえ陛下が意を痛めようとも、我々臣下が支えますからね、国の仕事を行うという物凄く大事な仕事を面倒な仕事をこなすことが出来るのは、国王陛下生贄という立派なお方哀れな人しかいませんからね」
「本音も聞こえてくるのだが…?」
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