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第1章:幼少期~少年期前編

18話 面倒事は自分の手で育ててしまうのだと、誰かが言っていた

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‥‥‥色々と無茶苦茶な結果が出たが、それでも自分の適性に関して知ることはできた。
 ゆえに、魔法に関しての授業を正式に受けることが出来るようになったのだが、滅茶苦茶膨大な魔力量と制御能力の低さゆえに、制御のため、エルは制御のための鍛練を行うことになった。
 生徒ではないものの保護者枠としてハクロが傍にいてくれるのだが、それでも制御のための鍛練方法を授業中で教師陣からしっかりと確認させてもらったが、中々大変なものである。

 まぁ、大変だとしても、しっかり積み重ねて魔法をまともに扱えるようにならなければ、自分の将来的に目指すスローライフに確実に支障が出るのが目に見えている。
 だからこそ、真面目にしっかりやるのだが…その想いとは裏腹に、先生に勧められたお手軽な制御訓練方法はまさかの「あやとり」だった。

 前世の世界でもあったひもを使うちょっと古い遊びだが、それでもただの遊びにあらず、魔法によって腕のようなものをつくりだし、それを手のように動かしてあやとりをするというものだ。
 手のようにするものにかんしては、流石に火とかだと危ないので、まだギリギリ質量のある土などを使って腕を作り上げ、細かい動きをして操作するのだが‥‥‥制御訓練としては効果的らしい。
 何しろ、指先の細かい動きまでやる必要があるし、ちょっとでもバランスを崩せば魔法で作った腕が崩壊して使い物にならず、加減を間違えれば糸が千切れる。
 案外繊細な制御が必要とされており、集中力が削られつつもそこそこ気にしながら魔力を放出することを目的にするには理にかなった方法でもある。

 だがしかし、一つ問題があった。
 前世か等も含め、あやとりのド素人が自力で作れるのは、単純な「川」ぐらいである。
 不器用ではないのだが、某青猫頼りつつ才能が偏り過ぎる男の子のようにはいかないものだ。

 それに、制御能力が低いゆえに、川以外のものをやろうとちょっとは工夫してみようとすると、力み過ぎて糸がブチっと切れたりするのだ。
 ハクロが作った糸で、なおかつ更に頑丈なものを用意してもらっているのに…それすらも千切るこの魔力に自分でも呆れたくなる。
‥‥というか、この世界にもあやとりってあったのか。絶対に誰か、もっともらしい理由で制御訓練の名目で組み込んだ転生者がいると思う。もしかするとその某少年かもしれない。

 それはともかくとして、今何とか川から脱却して、「森」などにも挑戦しているのだが、これがなかなか難しい。
 力を入れ過ぎて千切れたり、逆に千切れなくても力がなさすぎて持てていなかったりと、繊細な微調整が必要で、難易度がすごく高いのだ。

「これをこうして、あとはここに‥‥‥」

ぶちっ

「‥‥‥また切れた」
「というか、私の糸がこうも簡単に切れること自体が驚きですよ」

 またまた失敗し、替えのあやとりの糸をハクロに用意してもらったが、そもそもの話、アラクネの糸がこうも簡単に切れてしまうのはおかしいそうだ。
 まぁ、蜘蛛の糸は同じ太さの鉄骨よりも頑丈だというし、さらにそのモンスターであるアラクネだとさらに強度が高いそうで、本来は彼女の意思でしか切断できないような代物でもあるそうだ。

 そして僕の横で、彼女はあやとりの糸を供給しつつ、見本になるあやとりの教本を見て「銀河」や「宇宙」などを作っている。こんなところで、蜘蛛としては正しいような間違っているような、何とも言えない糸の才能を発揮しているのはどうなのだろうか。
 すごいんだけど、どうやってんのそれ?挙句の果てに、この都市全体を一本の糸で表現したあやとり作品まで作ったけど、本当に何をどうしたらそうなっちゃうの?

 それはともかく、あやとりも中々奥が深く、制御の難しさも相まって疲弊する。

「‥‥‥もうこれで一旦休んで、切り替えようかなぁ」
「そうしたほうが良いでしょうね。だいぶ疲れて集中力もなくなっているようですし、気分転換も兼ねて、外に出ましょうか」


 授業も無事に済んでおり、今は放課後の時間。
 他の生徒たちは自主訓練に励む者もいるが、学校の外に出て都市内の中を散策するものもいるのだ。

 その為、本日僕らはその仲間に入るために、気分転換も兼ねて外に出て、散策することにした。
 自主鍛練も必要だけど、適度な気分転換も大事だろう。


 とりあえず、どこにいこうか迷ったので、手っ取り早く色々ある商店街の方に、僕等は訪れることにした。
 商店街では様々なものが売っているのだがその中で僕らは真っ直ぐアルクレウス商会の店へ向かった。

「すいません、これ使えますよね」
「どれどれ‥‥‥っ!?ハイ!!どうぞどうぞご自由に!!」

 店員にとあるカードを見せると、一瞬で目を見開いて丁寧に対応してくれた

 そう、このカードは以前、この都市へ来る前にとある爺さんを助けた際にもらった物なのだが、その爺さんはなんとこのアルクレウス商会の会長だった。
 そして、そのお礼の品というのが、星金貨1枚分(日本円にして一億円相当)のモノまでなら無料で購入できるこのカードだったのだ。一カ月にそれだけしか使用できないらしいが、それでも十分すぎる代物である。
 そのため、せっかくこの都市に商会の店があったので、先日ちょっと試してみたら使用でき、利用することにしたのであった。
 なお、良からぬ大人たちに言いがかりをつけられて取り上げられる可能性もあったのだが、この商会ではそういうことはなく、徹底的に店員たちにはその手の教育がされているらしい。
 迷惑なお客が出たら、店の奥からゴリゴリマッチョなやばい人たちが出て、何処かへ連れて行くそうだ。
 
「とりあえず、本日買うとしたら…これかな?」
「栽培キット、ですか?」

 手ごろな品として何かないかと探す中、僕らが目を付けたのは野菜の種とプランターがセットになった商品だった。

――――――
『趣味用お手軽栽培キット』
狭いスペースで、お手軽に新鮮な野菜や果物を育てることが出来る、初心者にもおすすめな栽培キット。
付属のプチットメオトゥやキューンリなどの種を植えて育てていたり、あるいは他にも育てられる範囲の様々な野菜を作り、趣味としてやっている人が多い。
また、これで収穫できる作物で食費を浮かす目的を持つ人もいるが、場合によっては作り過ぎてきっと代の方がお高くなる本末転倒なことになる人がいたりもする。
――――――

 やや園芸向けなのかもしれないが、こういうのはちょっと欲しくなる。
 寮室内に土を持ち込むのは余りよろしくはないそうだが、このキットはスペースをそこまで取らず、槌お手軽に栽培が出来るので便利な品物でもあるだろう。あ、水耕栽培タイプもあるのか。

「でも、エル。そもそも寮に食堂がありますから、育てて収穫しても、そんなに意味がないのでは?」
「わかっていないなハクロ、これは将来へ向けてのちょっとした投資なんだよ」

 将来的には、何処かでスローライフを送りたい。
 だがしかし、その時には作物の栽培などをして生活をするだろうが、まともに育てることが出来なければ怪しいものになるだろう。ハクロの糸で布地や服を作って売り歩くこともできそうだが、頼り過ぎるのも不味いとは思うからね。
 一応、授業でもそういった人向けに農業の授業もあったりするのだが、やはり実践に勝る物はなく、ちょっと実践に近くなるこの栽培キットで、少しづつ経験を積むのである。


 
 そんな目的もありつつ、購入した後に帰還し、栽培キットを自室で開封した。

「ついでに制御訓練も兼ねてやってみるか」

 キットの中に土を入れて種を埋めて、やってくだけの簡単なものだが、その作業をあやとりがわりにやってみる。
 散々苦労したけれども、なんとかコツは掴んできており、壊すことが無いように慎重に進める。
 ついでに他の部分での制御訓練になるように、魔法で土を生み出したり、それを土台に水魔法で適度に湿らせたりと作業を加え、より一層集中して動かす。

 そして、その土には今回、流石に素人が一からやり過ぎるのは大変なので、付属の野菜の種を植え、適度に育ちやすいように、日のあたりの良いところへ設置することにした。窓際が一番良いかな?日

「えっと、あとは2~3週間ほどで作物がなるのか。意外に成長速度が速いけど、お手軽なキットの付属品なら、当たり前なのかな?」
「案外簡単な作業でしたね。30分もかかっていませんよ」

 あとの作業としては、時々水をやったり、付属している肥料を加えたりとするだけだが‥‥‥なんとなく物足りない気もするかも。
 せっかくなので、栽培の授業がある可能性を考え、村の方から適当な果物の種とかも一緒に植えてみた。これも育ったら面白そうだしね。競合して枯れることになりかねないけど、そんなに影響はないとは思う。

「ついでに、魔法で成長を促進できないかな?」

 2~3週間ほど待てばいいだけだが、ちょっと早めに食べたくもなるだろう。
 せっかく異世界なのだから、そんなことに関連するような魔法もないかなと探してみたら、無属性の魔法の類であるらしく、不可能ではないことが分かった。

 魔法名もしっかりあるようだけど、これはイメージも必要かな?


「えっと、詠唱だと育て育て、綺麗な花を咲かせ実をならせ『となりの、コホン、『クイックグロース』」

 ちょっと一瞬、某森のお化けを思い出しかけたが、それが魔法名になりそうだったので、慌てて訂正しておく。
 詠唱は特に必要がないとも言われているけど、これで変なイメージが入り込んだら怖いからね‥‥森の奥でいつも見ているようなお化けとかになったら、それこそシャレにならない。

 そう思いつつ、魔法が成功したかなと思って見たのだが…特に、変化はなかった。

「あれ?」
「不発でしょうか?」

 まったく変化がないプランター。
 まぁ、そりゃ世の中そううまくいくわけもないか。ドバっとあふれて急激な成長の可能性もちょっと考えたけれども、何もかも予想通りに動くこともない。
 それに、慌てる必要もないし、これもちょっとした遊びなだけだしね。

 その為、今はただ待てばいいだけだと思いつつ、一旦放置した。
 すぐに世話をするのではなく、地道に少しづつやれば良いだけだと思って‥‥‥




…‥‥だがしかし、この時僕らは知らなかった。
 制御できていたと思っていたが、魔法で生み出した土と水に、見た目よりも高濃度の魔力が込められてしまっていたうえに、今の魔法で種に過剰なほど魔力が注ぎ込まれていたことを。
 多すぎる魔力は時として害にもなるらしく、いくつかは死滅していたが、その魔力に耐え抜き。生き残った種があったことを。
 だが、まともな種になるはずもなく…結果として、それは本来の道から外れることになってしまった。





 真夜中、エルたちがぐっすりと眠る中、栽培キットにようやく変化が目に見えて訪れ始める。
 ぴょこんっと勢いよく小さな芽が飛び出し、成長し始めた。
 そして、込められた魔力を糧にして成長し、形状が変わり、本来の道から外れたものはさらに異なる者へと変貌していく。
 込められたエルの魔力がカモフラージュの役目を果たしてしまったのか、ハクロも全くその以上に気が付かないでぐっすりと寝ていた。


 そしてその成長は留まるところを知らず、キットからも溢れ出すほどに大きくなっていき、月が空の上に上った頃合いには、一つの大きなつぼみが出来上がっていた。
 そして翌朝、その存在はようやく気が付かれたが…やらかした事は既に、取り返しのつかない事態へと発展していたのであった‥‥‥‥
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