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良からぬ企みは、なぜこうも生み出されるのか

#336 見えないところに答えはあるのデス

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SIDEワゼ

「…‥‥思いのほか、あっさり閲覧できましたが‥‥‥ふむ、やはり衰退しているとはいえ、残された蔵書などの質は非常に高いデス」

 錬金術師たちの禁書庫ともされ、許可がなければ入れない秘密の部屋。

 そこに許可をもらい、蔵書の山を一冊ずつ見ていたワゼであったが、その内容を見て思わず感嘆の声を洩らした。



 ワゼ自身、結構滅茶苦茶な技術の塊でもあるが、この蔵書に書かれているものもほとんどが相当なレベルのものである。

 かつては錬金術で誇っていた国だけというのもあり、今の錬金術師たちの技量では不足しまくって再現できないような内容だとしても、それでも中身は優れていた。

「私につながりそうなものもあれば、関係なくとも利用できそうなものまで‥‥‥データ更新、共有作業がはかどりますネ」

 シスターズと通信で内容を共有し、各自で処理を行い、理解を深めていく。

 とはいえ、中には複雑怪奇すぎるものや、悪筆過ぎて全く読めないレベルのものもあるので、辺りハズレは相当大きいようであった。

「ん?」

 っと、詰まれていた蔵書の中で、ふと一冊、やけに人の手あかまみれというか、汚れまくった本がある事に彼女は気が付く。

 見た感じ、つい最近ぐらいに相当読み込まれた形跡があるのだが‥‥‥

「‥‥ふむ、錬金術師フィンという人の著書‥‥‥作成した魔道具リストですカ」

 この蔵書には様々な錬金術師たちの本があるが、軽く調べて見たところこの著者は最盛期の頃合い‥‥‥錬金術で国が活性化していた時に、特に貢献した者らしい。

 ぺらぺらとめくると、その人物が作成したものが多く載る中で、あるページにワゼは目を惹かれた。

「『賢者の石』の作成方法‥‥‥ですカ」

 内容を読む限り、いくつかの作成パターンがある。

 だが、どうも相当材料が難しいものが多く、再現するにしても困難なものが多い中、今回とある疑惑・・・・・に関しての調査内容にかかるようなものを、彼女は見つけた。

「‥‥‥やはり、作成パターンⅢに、使用された形跡がありそうデス」

 自身のルーツを探りつつも、そのとある事に関して調査も進めていたワゼ。

 それに当たりそうな内容を見つけると、シスターズへ彼女は指示を出した。

「もしかすると、既にやらかされている可能性が大きいですが‥‥‥‥できれば、その前にご主人様方の観光などを終わらせ、早期に国を出るように促しましょウ」

 いやな予感がしつつも、彼女は禁書庫を後にする。

 蔵書のほとんどすべてのコピーは全てとったので、時間があればまた読み直すこともできるだろう。

 少々犯罪のような気がしなくもないが、内容を悪用することもない。

 ただ今は、このディングルア王国内で悪用されているようだし、これなら多分大丈夫かもしれないと思うのであった。

「しかし‥‥‥このフィンという方の著書、なんかこう、引っかかりますね‥‥‥?」



―――――――――――――――――――
SIDE ???

「…‥‥駄目だったか」

 丁度その頃、とある隠し部屋。

 地下深くにあり、何重にも隠蔽を張り巡らせ、誰にも気が付かれない様な、それこそワゼの探知にもかかり切らないような場所で、その者たちは落胆したような声を出した。


「これで、60回目‥‥繰り返せば精度が上がるかと思えば、全然うまくいかないな」
「ああ、しかもそろそろ不味い状態だな‥‥‥」
「繰り返し過ぎたせいで、呼び出すだけのエネルギーもそろそろ底が尽きてきたぞ」

 ぐしゃっと崩れ落ちる物体を見て、彼らはそう議論しあう。

 目的のために、ある物を作製しようとしているだが、まったくうまくいかないのだ。

 内容が間違っているかもしれないと思い、参考していた資料は禁書庫へと返還し、他の資料を基にして再現してみようとするが、むしろその参考していた最初の資料通りの方がまだ成功率が高い結果になったのだ。

「そもそも、これだけの人数を利用して、まだあるのかという疑問もあるが‥‥‥」
「悪人というのは増えるからな。たった10人、20人程度、利用しても問題は無いだろう」
「我々もそれに当たりそうな気もしなくはないが‥‥‥まぁ、自分自身を実験台にするのは最後の手段か」

 まだまともそうな思考を持つ者もいそうな気もするが、もはやここまで来ると全員共犯者。

「王太子妃様の作られるあのヤヴァイものを利用して見ようと思ったが‥‥‥使用する前に材料が全て溶けたからなぁ」
「むしろあれを平然と食べられる、この国の王太子こそ何者と言いたいような」

 材料を変えつつ、自国の王太子の驚愕能力に興味をひかれつつ、失敗を彼らは繰り返す。

 成功する兆しもなく、もはや希望も見えないだろう。

「だが、何としても成功せねばならん…‥‥賢者の石さえ手に入れられれば、後はどうとでもなるからな」
「ああ、資金源となるあのお方の催促もあるが、できさえすれば、我々はさらに研究の深みに入れるだろう」

 それでもあきらめが悪く、執拗に足掻くのは彼らなりの努力。

 それが良い方向へ活かせていれば、そのような事をしなくても良かったのだが…‥‥やはり、使い道を間違えているとしか言いようがないだろう。

「‥‥‥材料自体が、普通の人間ではまず無理か」

 っと、その中にいた者たちの中で、一人がボソッとそうつぶやいた。

「ああ、そう言えばそうなるな‥‥‥人間の構成物質だけでは、やはり足りないものもあるのか?」
「しかし、そうなると他の材料も必要そうだが‥‥‥考えられる物は入れたしなぁ」
「何かこう、変わった者で代用して見るべきか‥‥‥?」

 そのつぶやきから議論が始まり、彼らは徐々に内容を濃くしていき、成功への道を模索していく。

 だが、最終的に出た結論は…‥‥

「材料自体を変える方が良いか」
「そう言えば、現在この国へ、王太子妃の夫である魔王がいたが‥‥‥アレを材料にできないか?」
「無理だろう。魔王自体が材料になるかはともかく、我々では確実に手に負えない」
「であれば、あの魔王についていたゴーレムの方はどうだろうか?」
「…‥‥なるほど、その手段もありかもしれないな。もしくはあの魔王の子供たちでも、我々程度であればどうにか制御し、利用できるかもな」

‥‥‥盛大に、地雷を踏み抜きつつ、自らの滅亡を決定づけてしまうものであった。
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