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何が良いのかどうかはその時次第かもしれないけど

#319 あげておとされるってどんな気持ちなのデス

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SIDEシアン

(…‥‥さてと、仕掛けられたのは分かるけど‥‥‥思った以上に、やばいなアレ)

 会場内にいた者たちがうつろな状態となり、漂う屍のような光景がある中、シアンは混ざって同じような振りをしつつも、周囲を素早く見渡していた。

 ミスティアの方も見れば、同じくうつろそうになっているけれども、そのふりをしているだけというのが分かる。

‥‥‥まぁ、よく見れば、目に光があるかないかぐらいですぐに分かるが‥‥‥相手がこれに気が付かないように願いつつ、その黒幕らしい人物が会場内へ入って来た。


 4,5名ぐらいの取りまきと思われる者たちと入って来たのは、事前にワゼ情報で入手していた、このアブリルサーモン法王国の貴族の一人‥‥‥オーレブチル公爵家当主。

 正確には、王籍を降格した王女の一人が起こした公爵家の入り婿であり、正式な跡継ぎはその妻と子供の方にしかないはずだが‥‥‥まぁ、それは今はどうでもいいだろう。

 風船のように膨らんだヒキガエルのような容姿をしつつも、そのオーレブチル公爵は全体を見渡した。


「ふむ、まぁまぁ予想通りだな。素晴らしい効き目があったというか、見事に全員かかっていたな」

 ニマニマと笑みを浮かべながら、この現象の原因となった道具の元へ彼は歩み、それを手に取った。

「ふむ、動作は正常‥‥‥流石というか、良い買い物をしたなぁ」

‥‥‥ワゼ情報によれば、あの道具は洗脳系の魔道具らしい。

 特殊な周波数の音を響かせつつ、魔力を糧に動き、他者の体へ作用させ、軽い暗示状態とさせ、人を操ることができるものだそうだ。

 とはいえ、その道具自体の力はそう大きいものでもなく、普通に過ごしている相手に使用しても全然効果がない。

 それなのに、今、この会場中の者たちが操られているのは、特殊な使用法によるものだ。


「はははは、流石公爵様。あの愚物を利用して茶番劇を引き起こしただけで、ここまで効果を高めるとはすごいではないですか」
「そうだろうそうだろう!心が無防備な相手なら聞きやすい道具ならば、こういう状況を容姿すれば容易く操れるという者だ!」

 取りまきの一人の言葉に、機嫌よく答える公爵。

 そう、心が無防備な状態であれば、あの道具は真価を発揮し、大勢を操ることができるそうだ。

 しかし、そう簡単に心が無防備な状態とは作りにくいので、この会場で茶番劇を起こすことによって、人々の心に王太子たちへの安心感を抱かせると同時に、無防備に近い状況を作り上げたようである。

「しかしながら、あの愚物も見ていて愚かすぎましたねぇ。ストーカーをするならするで、もっと粘着質に行かなければいけません。いえ、まずは手に入れたいのであれば、既成事実を作ってしまうべきでしたのに」
「いやいやいや、それは無理だろう。あの見事な蹴りを見るように、そう簡単に行くわけがないと誰もが思うだろうし、まともに向かえば、あっけなくあの者は終わっただろう。だがしかし、終わる人生が見えるからこそ、それをむしろチャンスとして、こちらのものにさせてもらったのだ」

 あはははっと、取りまきたちと笑う公爵。


 あの茶番劇は、もともと人を油断させるために考えている中で、愚物を見つけ、それを利用していたようだ。

 そう考えると、あの潰された愚物はそれはそれで被害者のようにも思えるが、元々放置していてもやらかしていたのは目に見えており、あの公爵たちがやっていたのは、精々微量な興奮剤を混ぜて興奮させ、焚きつけてやったぐらいなこと。

 何にしても、アレはもう救いようがない者だとして判断しつつ、自分たちの計画に利用しただけだ。

「しかし、この洗脳装置はすごいな…‥公爵様、計画を聞いたときから思っていたのですが、これがどこで手に入れた物なのでしょうか?」
「うむ、それは数年ほど前にというべきか‥‥‥ちょっとあるやつに依頼した際に、ついでに買ったものでもあるのだ。元々他を蹴落とすために毒薬を買う予定だったが、セットでお得だと言われたからな」

‥‥‥特定の条件以外では効果が薄い洗脳道具。

 とはいえ、その条件をそろえることができれば絶大な効果を発揮するだろうし、相手によってはより利益を得られるだろうと思い、軽めの投資のつもりで、あの公爵は洗脳の道具を購入したそうである。

「何だったか…‥おお、そうそう、グレッグ、グレッグル、グレグ‥‥‥いや、違う。確か、グズゥエルゼとか言う若造が作ったと言っていたからな。効果が薄い状態のものを見せてもらったが、その時に使えると思って買っておいたのだ」
(…‥‥グズゥエルゼ‥‥‥ああ、あれか‥‥‥)

 聞き覚えがあるというか、既に冥界とやらに堕ちている悪魔。

 あれの置き土産が、今回の原因らしい…‥‥面倒ごとの輩を潰したのに、その置き土産でさらに面倒をかけてくるのは本気でやめて欲しい。



「何にしても、これでこの場にいる者たちは、我々の配下になった!他国の重鎮たちも良いが、もっとも良いのは王族たちを手中に収められたこと!!これにより、国を支配することができるぞぉぉぉ!!」

 ぐわっはっはっはっと、上機嫌に高笑いをしていた‥‥‥その時であった。



ドスッツ!!
「‥‥‥ぐぶぅえ?」
「ええ、ちょうどいい具合に事が運びました。なので、それを渡してもらいましょう」


 公爵の胸に、突然大きな刃が生え‥‥‥いや、違う。背後から剣で突き刺され、公爵は倒れ込む。

 そしてその剣を抜きながら、公爵の背後の方にいた取りまきの一人が、洗脳の道具を奪い去る。


「こ、公爵様!!」
「き、貴様なんてことを!!」

 床に倒れ、赤い染みが広がっていく公爵をささえ、取りまきたちが叫ぶが、その刺した元取りまきの一人は、物凄くにやぁっと不気味な笑みを浮かべた。

「ええ、なんてことを、と言われましても、最初からこれを狙っていたのです」

 そう言いながら、その人物は洗脳装置を手に取り、彼等へ向ける。

「利用価値は理解していましたが、自分一人では難しい物…‥‥ならば、ここまでの準備を他人にしてもらえれば、美味しいところで戴けるでしょう」
「な、何だと!?貴様裏切って、いや、元から裏切る算段だったのか!!」
「ええ、ええ、ええ!そうですそうです!!何故ならば、このような道具は、こちらで扱う方がふさわしいと思いましたからねぇ!!」

 そう言うが早いが、その取りまきの者はばっと身をひるがえし…‥‥次の瞬間に、その姿を変えた。

 一般的なモブ風味というか、パッとしない取りまきたち。

 その元取りまきとも言うべき奴も同じような感じであったはずが、今、その姿を変えた。



 メキメキという音と共に、腕が極太となり、指の本数が減って、大きな爪が生える。

 体が肥大化し、顔も人のものから、異形化していき、ぐぐぐうっと口元が前に伸びたかと思うと、大きな牙を生えそろえる。


 数十秒も経たぬうちに、その正体をその取りまきは表した。

「そうでしょうそうでしょうそうでしょう、驚くのも無理はないでしょう」
【何しろ、今まで着ていたのは・・・・・ただの死体。あなたがたの知る人物は既に亡き者になっており、代わりにその場にいただけのモノ】
【そしてさらには、こういう美味しい場で一気に突き落とし、その絶望を味わうモノ】


【混沌と絶望を愛する我が名は『ベルゼブブ』であり、それ以外のモノでもあらず!!大悪魔にして、彼の悪魔グズゥエルゼ様を慕いつつ、その技術収集を行うモノ!!】

‥‥‥牙が生えた巨大なハエというか、バランスが明らかに悪い醜悪な容姿となり、元取りまき‥‥‥いや、悪魔、ベルゼブブはそう叫んだ。

【その中でも、この洗脳装置は彼が作った初期構想の中で、割と残されていた一品!!これの真価を発揮する様と、扱うことによって優越感に浸り、絶頂をしていた相手の絶望を吸う事を目的にしていたが‥‥‥思いのほか、良い味わいではあったぞ!!】

 巨大なハエと化したにも関わらず、生えている牙の動きから、ニヤリと表情を変えたことが分かる。


「な、なんだと‥‥‥!?」
「しかもでかい怪物かよ!!なんでこんなものが!!」
【んうんぅんぅ?言ったであろう、悪魔グズゥエルゼ様が創り上げた作品の収集のためでもあると!!先日討伐されてしまったようだが、彼のお方の作り上げた素晴らしい作品は、まだまだこの世界に眠っている!!それらをすべて探し出し、その機能をフルに活用する光景を見つつ、ついでに人々の絶望も味わえるという、まさに素晴らしいことを動機とせずにして、何と言うか!!】

 取りまきの言葉に、恍惚そうな顔をしてベルゼブブはそう答える。


‥‥‥いやまぁ、予想はある程度していたけど、情報収集もしていたけど…‥‥うん、この悪魔あれか、コレクターか。

 しかも趣味の悪すぎるというか、何と言うか‥‥‥粘着質・変態な感じしかしない。

 その上、今の口ぶりだと、ワゼの手の及ばなかったものとかがまだあるようなんだが…‥‥知りたくなかったなぁ、そんないらない情報は。


【まぁ、この道具を使った光景と、絶頂からの絶望の落差を味わえただけで、もうすでに満足だ。なのでその例として‥‥‥】

 そう言いながら、何やら胸元をごそごそとして、大きな黒い塊をベルゼブブは持ち出した。

【彼のお方が創り上げた道具‥‥‥と言いつつ、とある方の技術を元にして改造を施したとされる、瞬間溶解弾!!一国に加えて、その他重鎮たちもまとめて消える、その歴史を見せようではないかぁ!!あ、お前たちも巻き添えで、これを冥途の土産にして良くがいい!!】

 そう告げると、ばっと翅を広げて飛んだかと思えば、空中でフォームを構え…‥‥その塊を、思いっきり投げた。


「「「「ひぎゃぁぁあぁあああああああ!!」」」」

 溶かされる未来に、恐怖を覚えたのか取りまきたちは悲鳴を上げ、泡を吹いて失神する。




‥‥‥まぁ、この辺で良いだろうか。どうせ茶番のような物だし、さっさと徹底するに越したことはない。

 でもその前に、色々と聞きたいこともできたし…‥‥

「手を出させてもらうか」

 

 ぶわっと魔力を一機に放出し、魔力の衣を増大させる。

 そしてそのまま、大きくさせて‥‥‥

カッキィィィィィン!!


「…‥‥ホームランっと」

 堕ちてきた塊を、バットで打つがごとく、大きく打ち返した。

 一応、着弾予定は大丈夫な方にしているが‥‥‥まぁ、この程度、相手も予想できていただろう。


【んぅんぅんぅんぅ?やはりというべきか、この世界の魔王には効果がなかったんですねぇ、この洗脳装置。まぁ、その前からすでにみられていたのは分かってましたよぅ】
「気が付かれていたのは、予想できていたよ。こういう演技は素人だからね」

 上空で、そう話しかけてくるベルゼブブへ向けて、僕は返答する。

 やはりというか、相手にはこの大根役者なうつろ動作はバレていたようだ。


【んぅうう、魔王相手では圧倒的に不利ですな!彼のお方はそれで負けたとも聞きますし、撤退しようにも逃げ道は塞がれ、戦うしかないでしょうかぁ?】
「‥‥‥いや?別に、誰が戦うって選択肢をすると言った?」
【そうでしょうそうでしょうそうでしょう!!ならばやはり道具を使って戦闘を‥‥‥あ、や、いや、ちょっと待ってください?今、戦わない様な口ぶりでしたが?】


…‥‥僕の言葉を聞き、少し遅れてベルゼブブはマヌケそうな顔で、そう疑問を投げかけてくるのであった。

 本当は殲滅したほうがいいかもしれないけど‥‥‥ちょっとね、ある考えが思いついたのもあるんだよ。

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