上 下
315 / 459
火種はどこにでも落ちていた

#297 良からぬものは自ら禍も呼んでしまうのデス

しおりを挟む
SIDEグズゥエルゼ

‥‥‥砂漠の小国、グラント。

 いや、そこはもはや国ではなく、死者のみが徘徊しまくる領域と化していた。

 かつては砂漠のオアシスの一つとして、そして奴隷市場の場として栄えていたころとは違い、今は既に荒れ果てている。

 度重なる砂嵐、生者を獰猛に襲うが周囲の点検を行わない死者たち。
 
 ゆえに今、その国の中心、その国を治めていた者たちがいた王城の中には、誰もいなかったはずであったが‥‥‥数日前から、その場所に音が鳴り響き始めた。



 その城の中というよりも、その地下奥深くにいつの間にか作られていた地下室。

 死者たちは音が聞こえても、それが何なのか理解することもなく、また、その場所は厳重に施錠され、隠されており、誰一人として迷い込むようなことは無かった。


「‥‥‥アンデッド共が、あと10体ほど必要か‥‥‥で、こっちには20体‥‥‥」

 そうぶつぶつつぶやきながら、地下室で作業を行う紫ローブを深くかぶった人物‥‥‥悪魔、グズゥエルゼ。

 その素顔はさらすこともなく、砂漠の強い日差しを避けるために地下に部屋を作って行動を起こしているものの、設計ミス故か、暑さ対策の冷房が効きすぎて、少々厚着を追加していた。

「地道に貯まっていくのは良いが‥‥まだ足りないか。一旦、生産面の方に力を入れるべきか」

 作るのは良いが、その材料となるアンデッドの数が足りない。

 新たに増やそうにも、生きている者たちをどこからか調達するにも労力がいるので、別の方法で行っているのだが‥‥‥いかんせん、未だに生産と消費のバランスがとれていない。

「しかしなぁ‥‥‥できればもっと、手っ取り早く助手とかが欲しいが‥‥‥心があれば裏切るだろうし、無ければ命令で動かせても扱いが面倒だ‥‥‥」

 はぁっと溜息を吐くが、解決するわけもない。

 今やっている生産部分を少々改造すれば、その面も解決するだろうが‥‥‥まだ、技術的に足りないのだ。

「ああ、稀代の錬金術師の研究を盗み取れたとは言え、重要な部分は全てないからなぁ‥‥‥独学なのも大変なことだ」

 悪魔と言えども万能ではなく、無ければ地道にやっていくしかない。

 とはいえ、研究成果もそれなりに出せているので、無駄な徒労とかはほとんどないのが救いであった。


「そうだ、いっその事、前に聖剣に利用したアレを使ってみるか。純度向上にも役立つだろう」

 ふと、思いついたことを実行しようと、彼は地下室内を動き回り始めるのであった…‥‥



―――――――――――――――――――――
SIDEシアン

「‥‥‥ワゼ、小国グラントの人口ってそんなに多くないはずだよね?」
「ええ、小国というだけあって、王国、騎士王国などと比べても半分もありまセン」

 ボラーン王国の城内にて、シアンはシスターズから常に送られてくる報告をまとめた書類を見て、そう問いかけた。


 あの砂漠の小国‥‥‥アンデッドたちが多いとはいえ、元は生者。

 生きていた人間にも限りがあり、流石にそう無限増殖なんてことはないはずである。

 某配管工のおっさんのように亀を踏んづけて‥‥‥とかはないよなぁ。


「それなのに、フロン、合計人数を調べて見ても、数が合わないんだよね?」
「そうでござるな。奴隷市場であった点を考慮し、奴隷たちのアンデッド化なども視野に入れて計算しているのでござるが…‥‥あきらかに、その状態になる間にいた生者よりも、今の死者の数が多いでござる」
「そうか」

…‥‥報告書を読んでいる中、ふとその数字に僕は疑問を抱いていた。

 シスターズが砂漠でアンデッドたちを殲滅しながら爆走し、悪魔の元へ向かっているのだが、その道中で討伐した死者の数と、その状態になる前の国の人口などが合わないのである。

 いや、周辺諸国が対策に乗り出て、その犠牲となった人たちもアンデッドになった可能性もあるのだが‥‥‥その予想される数よりも多いのが、明かにおかしくなっているのだ。


「‥‥‥フロン、計算だと、その原因既に出ているよね」
「ええ、出ているでござる…‥‥一応、合理的と言えば合理的で、効率面を考えてもそれなりに割に合うかもしれぬでござるが‥‥‥」
「ちょっとこれは、面倒な可能性も出てきましたネ」

 全会一致というか、全員大体同じ予想ができており、フロンの計算でもその可能性は非常に高いと出たようだ。

 死者がはびこる間にいたはずの生者の数と、今の討伐されまくっている死者の数の差。

 その原因として考えられるのは…‥‥


「討伐中のアンデットたちの成分分析も行いましたが‥‥‥個体値に差はあれども、いくつかは共通した類がありマス」
「そこから導き出せるのは‥‥‥‥」
「ある意味、生という事に対しての冒涜でもござろう」
「「「意図的に、何処かで生者を作って、死者に変えている(マス)(でござる)」」」


…‥‥何処からか攫ってきた人たちがいて、それをアンデッドにする可能性もあった。

 でも、この結果を見る限り‥‥‥どこかで生者を作っているようにしか思えないのだ。

 しかも、子どもを産むとかそういう方法ではなく…‥‥人工的な生命体として。


「私たちのような、メイドゴーレムの技術にも近いですね…‥‥技術的にも、何処かで使用されてますネ」
「ワゼたちのような技術‥‥‥悪魔が製造したとかじゃなくてか?」
「ええ。どこからかの盗難…‥‥未だに見ぬ、私を作った製作者の技術を模したと思われるものがありますからネ」

 厄介事に対しての分析を行う中で、見つけてしまったその事実。

 つまり、相手の持つ技術に、ワゼの元となるような物もあると考えると…‥‥相当面倒なことになるだろう。

 いや、元から面倒な相手が、更に進化したぐらいか…‥‥

 そう考えると、他にもいろいろ考えられる可能性が出てきてしまい、頭が痛くなるような気分になるのであった‥‥‥


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

【完結】悪役令嬢に転生しましたが、聞いてた話と違います

おのまとぺ
ファンタジー
ふと気付けば、暗記するほど読み込んだ恋愛小説の世界に転生していた。しかし、成り代わったのは愛されヒロインではなく、悪質な嫌がらせでヒロインを苦しめる悪役令嬢アリシア・ネイブリー。三日後に控える断罪イベントを回避するために逃亡を決意するも、あら…?なんだか話と違う? 次々に舞い込む真実の中で最後に選ぶ選択は? そして、明らかになる“悪役令嬢”アリシアの想いとは? ◆もふもふな魔獣と共に逃避行する話 ◇ご都合主義な設定です ◇実在しないどこかの世界です ◇恋愛はなかなか始まりません ◇設定は作者の頭と同じぐらいゆるゆるなので、もしも穴を見つけたらパンクする前に教えてくださると嬉しいです 📣ファンタジー小説大賞エントリー中 ▼R15(流血などあり)

処理中です...