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春間近、でも頭春は来ないで欲しい

#248 何もすべてがマイナスになるわけではないようデス

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SIDEゼロツー

「~♪~~~♪」

 その日、メイドゴーレム試作型事、ゼロツーは気分良く鼻歌を歌っていた。

 本日は都市アルバスにて、彼女はお使いのために訪れており、初めて見る都市の光景に興味を持っているのだ。

 まぁ、お使いに出された理由としては、経験蓄積と…‥‥



「良いですか、絶対に全部割らないようにしてくださいネ?」
「-!」

 びしっと敬礼して返答した、ワゼからのお使い内容を彼女は思い出す。


 彼女達の製作者の生というべきか、ワゼには無い機能がゼロツーには搭載されていた。

 それは、何かしらのドジをやらかす機能である。

 おそらくはその製作者がメイドとはどのようなものかを探求したせいか、もしくはその趣味であったせいか、データが吹っ飛んでいるはずのゼロツーに残されていた機能。

 その機能のせいで、食器数百枚、洗濯物数十枚、料理20品以上を、起動してから台無しにしてしまっていた。

 そこで今回、こういう人気の多い場所へわざと出向かせ、周囲の注意を行うようにさせ、ドジ機能をできるだけ制限をかけられるように経験を積むべきという事で、お使いとしてここに来たのであった。

 


 とはいえ、長い間停止していたせいもあってか、それとも初めて見る都市の光景ゆえか、彼女の気分は高揚していた。

 一応注意はしているのだが、それでも気分的に楽しく想えてしまう。

‥‥‥そのせいで、少々体の動きも大きくなっており、ワゼには無いものがおもいっきり目立って揺れ、少々人目を引いていたのだが、彼女はその事に気が付かないでいた。


「----?‥‥!」

 気分を高揚させつつ、本日のお使いのために、店を探して彼女は見つける。

 
 まずは、食器関係という事で雑貨屋である。


「アー、アー、スイマセン、食器、売ッテマスカー?」
「ん?ああ、食器ならそっちのコーナーだよ」
「アリガトウゴザイマス」

 まだ不慣れな言語機能を使用しつつ、必要な品がある場所を店員に聞くゼロツー。

 教えてもらった方を見れば、確かにそこには食器が陳列していたのであった。


――――――――――――――――――
SIDE???

‥‥‥世の中には、情報に聡いものと聡くないものがいる。

 その情報で得た内容によっては、自分がそれを行うのか、行うべきではないのか、判断する必要があるのだが‥‥‥‥その判断の仕方によっては、地獄を見るであろう。



 そして今、都市アルバスの一角にて、とある集団が集まっていた。

「‥‥‥本気か?その依頼主の頭おかしいんじゃないか?」
「残念ながら、本気のようだ。いや、元から頭がおかしいというべきか‥‥収集家としては、今のこの時こそ、絶対に集めるべきだとか」
「うーん、それはどうかな‥‥‥裏ギルドの方でも断られているっていうし、絶対に手を出しちゃまずい奴だよね」
「だがよー?金になるならいんじゃねーの?」

 カクカクシカジカと話し合いつつ、どうすべきか悩む一団。

 とはいえ、提示された金額を考えると、貰えるのであれば受けた方が確実に良いような気もした。

「だがな‥‥‥その盗る相手ってのが、アラクネか…‥‥この都市に現れる魔法屋の使い魔らしいが、その卵か‥‥‥」
「情報を得ても、まだ出てきている様子がないからな。孵化とやらがあるまで、姿を出さないんじゃないか?」
「そうすると、その依頼元の卵を得ることはできないな‥‥‥」
「まぁ、まだ来ないと決まったわけでもーねし、ああだこうだ言っても、考えがまとまらねーぜ?」

 その言葉に、一同は納得する。

‥‥‥彼らの正体は、とある窃盗団。

 裏ギルドには所属していないが、それでも非合法な依頼などを受け、依頼主の欲しいものを各自に手に入れてくるという事で、その手の社会では有名であった。

「まぁ、とりあえず適当に買い物でもするか。あそこの雑貨辺りがいいんじゃないか?」
「そうだな、この間皿が割れちまったし、新しいのが欲しいぜ」
「うーん、でも金がもったいないなぁ‥‥‥」
「だからこそ、盗めばいいーだろ?」

 金が無いのであれば、万引きすればいい。

 窃盗団という割にはせこいような、小さい犯罪のような気もするが、彼らはそれを選んだ。


 その雑貨屋に入り、とりあえず目当ての食器コーナーへ彼らは向かい、品定めを行う。

「んー‥‥‥この皿とかどうかな」
「ああ、スープとかに映えそうだよね」
「肉とかのせるならこれか‥‥‥」



 ある程度品定めし、店員の目を確認し、素早く懐へ潜り込ませる。

「ん、とりあえずこれぐらいで十分か」
「ずらかるぞ」

 このまま気が付かれずに外へ出れば、それだけで完璧なはずであったが…‥‥天罰というものは、すぐそばに迫っていた。

「-----!!」
「「「「ん?」」」」


 何か悲鳴のような声が聞こえ、何事かと一同はその声の方を振り向く。

 見れば、そこにいたのは立派なものを胸にぶら下げたケモミミメイドと…‥‥彼女の手から離れて降りかかろうとする、大量の食器であった。

ガシャガシャシャガッシャァァァァァァァァン!!
「「「「ぎゃああああああああああ!?」」」」

 降りかかる皿やカップ、ありとあらゆるものが直撃し、彼らはその場に倒れ込む。

「スイマセン!!滑ッテツイウッカリ!!」

 慌てて駆け寄って来た元凶のメイドが見えたが、頭にも当たっており、彼らは意識を失うのであった‥‥‥‥


――――――――――――――――――
SIDEゼロツー

「アア、ドウシマショウ!?」

 あわあわと慌てふためくゼロツー。

 数分前、彼女はある程度の食器を見繕い、とりあえずこれらで十分と判断し、購入しようと動いていた。

 その際に、選んだ食器を全部まとめて持ったのだが、いかんせん彼女のポンコツぶりが出てしまったお言うか、かごなどを用意しておらず直に重ねて全部持った。

 そして、いざ購入のために店員の元へ向かおうとして…‥‥

「ア」

 ぼゆんっと弾んだ胸が下から突き上げ、食器の山がバランスを崩して崩れかける。。

 何とかしようと、慌てて根性で押さえるも、今度はその柔らかさにはじけ飛んでしまった。


 そして現在、そのはじけ飛んだ先にいた人たちに当たり、気絶させてしまったのである。

「ドウシマショウ、ドウシマショウ、ドウシマショウ!!」
「おい!!さっきの音はなん‥‥って、なんじゃこりゃぁぁ!?」

 慌てふためいていると、店員が慌てて駆け寄って来て、現場の惨状を見て叫ぶ。

 散乱する食器に、倒れている数人の者たちは、さながら事件現場。

「おいおいおい!!何をうちの商品で客を…‥‥ん?」

 メイドの方で何かをやらかしたと確信した店員は、詰め寄って聞こうとしたところで‥‥‥ふと、その倒れている者たちの顔を見て、動きを止めた。

「こいつらは確か‥‥‥おい!!衛兵たちを呼んできてくれ!」








「‥‥‥間違いない。こいつらは指名手配中の窃盗団だ!お気楽な奴だらが、逃げ足も速く、その上変装などでごまかして発見しにくかったが‥‥‥皿などに当たってその変装がとけているぞ!」
「ああ、やはりそうでしたか。前に指名手配犯の知らせなどを受けていたのですが‥‥‥」

 数分後、急いでやって来た衛兵たちによって照合され、その気絶していた者たちは指名手配中の窃盗団であることが判明した。

 店員が気が付いたのは、この店員は副業で冒険者を兼ねており、たまに賞金首や指名手配犯などが出る依頼を見ており、その中にあった人相書きを覚えていたのだ。

 偶然というべきか、何と言うべきか。

「お手柄です!!食器の雪崩によって、こいつらの素顔がでたのです!!」
「こいつらうちの製品も懐に持っていやがった!!おかげで非阿木が大きくなる前に捕まった!!」

「エ、エエエ‥‥‥?」

 やらかしたと思っていたら、どうやらいい方向へなんとか転んだらしい。

 衛兵たちの方から窃盗団に付いていた賞金と、店の人からお礼の食器を貰いながら、ゼロツーは流されるまま流される。

 気が付けば、店を出た時には当初の予定以上の食器と、想定外の収入を得ていたのであった。

「‥‥‥トリアエズ、馬車ヘ一旦オキマショウ」

 流石に今のような奇跡はそうそう起きないし、このまま持っていてもやらかす可能性がある。

 そう考え、ひとまず手持ちを0にするために、待たせてある馬車の荷台へ彼女は乗せに向かうのであった。

――――――――――――――――――
SIDE???

「くっくっく‥‥‥ここが当分、良さそうだな」

 都市アルバスの馬車の停留所にて、とある馬車の御者席の男は不気味な笑みを浮かべていた。

 彼は、ただの御者ではない。

 深夜に人知れず、あらゆる人を狙って跳ね飛ばし、強盗を行う犯罪者なのだ。

 しかも御者をかねており、足が付く前に素行で逃走しやすく、各地で彼のことが指名手配されてはいる物の、その足が自由過ぎてすぐに捕まえられれない。

 気が付いたときにはすでに移動し、新たな犠牲者を生む巨悪な輩ではあったが‥‥‥



「‥‥‥お、なんか轢けそうな獲物がいるが‥‥‥むう」

 ふと気が付けば、ちょうどこの都市での最初の犠牲者にふさわしそうなものが歩いていた。

 手元には何も持っていないメイドだが、その服の質などを見る限りそう悪くはない。

 むしろ、ポケットの中などに蓄えていそうだと彼は推測した。

「あの肉付き具合と言い、跳ねた時の感触も良さそうだが‥‥‥ぬ、まだ昼間か」

 人気のない深夜にこそ、犯行を行う価値と成功率がある。

 今の時間帯では、流石に人気もあるが…‥‥

「‥‥‥だが、極上の獲物であることは間違いなさそうだ」

 周りを見れば、馬車の停留所というだけあって馬は多い。

 だがしかし、時間帯を見れば昼時というべきか、そのせいで御者たちの姿もなく、人の目は無いと言っていいだろう。

「この都市、初獲物が昼間からのほうが、幸先が良いか‥‥‥」

 馬車を動かし、停留所へ停めるふりをして、そのメイドの方へ狙いを定める。

 そして少しづつ調整し‥‥‥一気に加速させた。

 このまま狙い通り進めば、気が付いたときにはすでに手遅れな距離。

 初獲物が中々極上の者であると、彼は笑みを浮かべ、その轢く瞬間となった‥‥‥‥時であった。


「アベシッ!?」

‥‥‥何をどうやればできるのか、そのメイドは何もないところで盛大にすっころんだ。

 前からずべっと滑り、何かが反動になったのか跳ね跳び、そのまま転がっていく。

「え?」

 そして轢こうとしていた場所を過ぎ去り、予定と違う展開にあっけにとられる。

 このまま何事もなかったように、知らぬ存ぜぬで通り過ぎて逃げ切れればよかっただろう。

 流石に犠牲者を多く出した彼にとっては、この失敗も慣れた者で、そのままできたはずであったが‥‥‥そのメイドの置き土産があった。

 脱げたと思わしき靴が、馬車の車輪に引っかかる。

 タダの靴であれば何事もなく潰せていたのだが…‥‥どういう訳か、その靴はすさまじい強度を持ち、馬車の車輪に潰されずに耐えきった。

 そのせいか、車輪が押し上げられ、馬車のバランスが崩れ、横転してしまった。


「アワワワ…」

 視界に入ったのは、逃げた靴を回収し、こちらを見て慌てるメイド。

 それを最後に、彼の意識は失せたのだった‥‥‥‥


――――――――――――――――――
SIDEゼロツー

「ド、ドウシマショウ‥‥‥?」

 何が起きたのか、ある馬車が横転し、ゼロツーは慌てふためく。

 ひとまずは自分の靴を回収してはき直し、その馬車の状態を見てどうすべきか考える。


 ここは馬車の停留所でもあり、他に御者がいないか見渡すも誰もいない。

 いるのは馬ばかりであり、ここから近い医者とか衛兵とか探したくとも、まだ把握し切れていない。

「エット、エット‥‥コウイウトキハ‥」

 考えに考え、ある決断を下した。

 ここから抱えて連れて行きたくとも、その場所も分からないし時間もかかる。

 ならば、先ほどの雑貨屋時の衛兵たちのいた方向へ投げれば・・・・なんとかなるのではなかろうか。

 その案を彼女は採用し、倒れていた御者の男を持ち上げ、狙いを定める。

「アトハ何トカナッテクダサーイ!!」

 ぶぉんっと、見事な投球で男を投げ飛ばすゼロツー。

 後は野となれ山となれ、バレないうちにその横転していた馬車の方もさっさと起こし、投げた方向へ急いで駆け抜け、説明しに向かうのであった。


――――――――――――――――――
SIDEとある衛兵


「待てぇぇぇ!!」
「待てと言われて待つ馬鹿がいるかぁぁぁぁ!!」

 何処の誰もが良いそうな、テンプレのように交わされる言葉。

 都市アルバスのとある一角にて、その衛兵はスリの現行犯を追っていた。

 駆け抜けるが、中々追いつけず、このまま逃げられてしまう可能性が高い。

 他の衛兵たちを呼ぼうにも、このルートでは遭遇率も低い。

「くっ、そろそろ限界か‥‥‥」

 ぜぇぜぇと息が切れ始め、逃げ切られそうになった…‥‥その瞬間であった。

「ははははは!!このままにげきってや、」

 衛兵の様子を見て、勝利を確信していたらしいスリ。

 だが、その言葉は続く前に、空から天罰が降って来た。


ひゅるるるるる‥‥‥どっごぉぉぉぉぉぉん!!
「ぎゃああああああああああ!?」
「なっ!?空から人が!?」

 空から流れ星のごとく、誰かが降って来た。

 そして、それはスリに直撃し、そのままゴロゴロと転がらせていく。


「い、今のは一体‥‥?」

 突然の出来事に、疲れも忘れて唖然とする衛兵。

「と、とりあえず捕縛だ!!」

 何とか気を取り直し、捕縛作業を彼は行うのであった。



‥‥‥この後、彼はスリを捕縛し、飛んでた人物に首をかしげてくると、とあるメイドが駆け寄って来て、説明された。

 半信半疑で疑わしかったが、ちょうどと言わんばかりそのスリの仲間らしきものがこそっとやって来て、連れ戻そうとしていたところで‥‥‥

「サセマセン!!‥‥ア」
「うぉい!?」

 手近にあったものとして、投げられてしまい、その話しを信じるしかなくなったのであった。



 後に、大きなたんこぶを作りつつ、この日彼はスリを二人現行犯で逮捕し、投げられて飛んで来たらしい人物が、偶然にも指名手配されていた凶悪犯であることが判明し、手柄を得る。
 
 しかし、それはメイドのやったことであり、彼自身は納得できず、この日からより一層犯罪者の取り締まりを強化して頼れる衛兵の一人として数えられるようになったのは、また別のお話。

 そして都市アルバス内の衛兵たちの間で、謎の強烈捕縛分投げたゆんメイドの話が広がり、彼女のファンクラブが出来たのも、また別のお話である‥‥‥




――――――――――――――――――
SIDEワゼ


「…‥‥で、結局お使い自体には成功したようですが‥‥‥何をどうしたら、必要以上の量を得てくるのですカ?」
「‥‥‥サァ?」

 自宅に戻り、ワゼからの問いかけに首をかしげるゼロツー。

 取りあえずシスターズにここまでなった経緯を調査させることを決めるワゼ。

「まぁ、何にしても成功したのは良さそうですが‥‥‥‥ドジをやらかす機能は制限できましたカ?」
「…‥‥」
「そこ、目を背けないのデス」

 ああ、これは制御できなさそうだなとワゼは思いつつも、自分の姉とも言えるゼロツーには、これ以上厳しくも言えないと諦め、ひとまずはその持ってきた品々の整理を行い始めるのであった…‥‥


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