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春が近づき、何かも近づく

#237 悪くは無いのですが、どうしてこうしたのデス

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SIDEボラーン王国

「‥‥‥王国の首都を突如として襲った、怪物たちの大群。その数は多く、劣勢に立たされ、全滅は免れなかったかもしれない」

 ボラーン王国王城、城門前に仮建設された避難民たちの居住区の中心にて、国王は演説をしていた。

 今回の災害‥‥‥いや、人災とも言うべき怪物たちの襲撃。

 大きな悲劇を生みそうな事態ではあったが‥‥‥

「だが、それでも幸運というべきか、我々はある助けを借りる事が出来た。いや、借りたというよりも、むしろ向こうが自ら動くことだと判断した結果というべきだろう」

 
 もしも、動かずに静観などをされていたら、この国は終わっていたのかもしれない。

 しかし、偶然というべきか、その者は動いてくれた。


「とはいえ、その者はただの者ではない。諸君らも、最近耳にした噂があろう?」


 そう問いかける言葉に、聞いていた人々は首を傾げつつ、とある噂話をふと思い出す。

 少し前、この国にある温泉都市で、とある愚王子がやらかした騒動の話を。

 その騒動の最中に確認され、その存在が噂になったことを。


「悪でもなければ善でもない、ただ中立という立場…‥‥ゆえに、表立って動くこともなければ、本来はこうして解決しに出てくることもない。だが、今回の危機に関しては、わざわざ出向き、そして彼は怪物どもを絶ったのだ…‥魔王がな」

 その言葉に、ごくりと息をのむ者たち。

 魔王、それは物語に出てくることも有る存在。

 数百年前の魔王を最後に、今までは聞くこともなく、忘れられかけていたが、それでもやはりどこかで耳にしたであろうもの。

 世界を滅ぼす悪もいれば、善行をなす善もいる。

 そして、今、噂に挙がっていたのは、その善悪でもない中立となった魔王。

 その魔王が今回の怪物襲撃の解決に、出向いてきたというのだ。

「中立という立場上、本来はこういう国の存続にかかわる事件には出向かぬ。だが、実は我々には少々彼に縁があったがゆえに、今回ばかりは助けてもらえたのだ。‥‥‥ただ、あくまでも『今回は』だ。縁があれども彼は中立の魔王、そう何度も頼ることはできぬ」

 その言葉にうんうんと同意する者や、不満そうな顔をする者がいるが、仕方がない事だろう。

 今回のように国の力では解決できぬ事件もあるだろうし、そう言う時に借りれらたら良いと考えても…‥‥相手は魔王、人とは違うのだ。


 念のために、国王は牽制をかけておく。

「ああ、ついでに連絡手段はあるが、いつでも好きなようにという訳にもない。彼には彼なりの生活もあり、国の勝手で振り回すこともできぬ。もし、彼がいるからと言って他国へ戦争を仕掛けるようなことがあり、結果的に負けそうになったところで自業自得の言葉で済まされるだろうしな」

 暗にそう簡単に利用できない存在であり、頼みの綱にできるだろうとか甘い事を考えている輩へ向け、そう言葉を放つ国王。

 大掃除をしていたとはいえまた愚者が出ないとも限らないし、ある程度の予防をこうやってしておくが…‥‥それでも油断はできない。

「…‥‥まぁ、それは置いておくとしよう。それよりももう一つ、今回の件に置いて重要な事もあるからな」

 重要な事?っと、その場にいる者たちが首をかしげる。

「相手が魔王とは言え、彼自身の力によって今回の事件は解決した。国では手に負えないような相手に対して、どうにかできているのだが…‥‥自主的なものだとは言え、流石に国としては何もしないという訳にもいかないだろう」


 魔王の力を借り手こそ、今回の事件は収まった。

 逆に言えば、いなければ収まらず国の滅亡になっていたかもしれないだけに、その功績がどれだけ大きなものであったかという事にもなる。

「魔王相手に褒賞というよりも、国として彼に対しての誠意を見せる必要はあるだろう。彼自身、褒賞目当てで動く訳でもなかったが‥‥‥‥助けてもらって何もしないという事では、国としての面子は無いも同然。だが、どうすればいいのかという話となった」

 金か?爵位授与か?いや、それらは意味がないだろう。

 魔王は魔王で過ごし、そのようなものはいらないはず。

「そこでどのようなものにすればいいのかという議論が上がる中‥‥‥‥今回の事件に関してもある程度繋がった、縁を使えないかという話になった。縁を強めておき、国としてはできるだけ関係を良好にできるようにという物だな」

 その言葉に、何人かがどの様な方法を使うのかわかった顔をした。

「あの魔王との縁は、実は我が娘…‥‥第2王女のミスティアが持っていた。仲のいい友人としてな」

 何がどうやって、魔王と友人になるのかというツッコミを入れたい顔もある。

 だが、普段ミスティアが国に対してどのように動いているのかを理解している者たちは、それはそれであるなぁっと納得する顔にもなっている。


「そこでだ、その縁も考えた結果として出されたのは、ある案。そう、我が娘ミスティアを魔王の元へ嫁に出すという事であった」

 その言葉に、一瞬その場の空気が固まった。

 事実上の政略結婚とも言うようなものであるのだ。


「ああ、先に言っておくのであれば魔王の人格は非常に良いと言っておこう。少なくとも、愛を育めないような相手ではないし、家族になった者には非常に大事にすることを既に知っているからな。むしろ、害した場合の方が怖ろしいというべきか…‥‥」

 噂話にある先日の温泉都市の騒動。

 あの元凶は、その魔王の家族をとある愚王子が害そうとした結果ともあるそうで、まだ軽く済んでいるのは良いが、あれ以上の被害が予想できる。

「魔王自身の力も恐ろしいが…‥‥それでもこういうことできちんと縁を結び付けられるのはいいかもしれぬ。ミスティアも納得しておるし、問題はない。いや、しいて言うのであれば、ちょっとばかり修羅場になるかもしれぬが…‥‥大丈夫だと思われる」

 さらっと修羅場発言が出たが、おそらくは大丈夫だろうと言う言葉を人々は信じたい。

 いや、修羅場という話で言うのであれば、目の前のこの国王自身、正妃や側妃たちにやられていることを考えると、おそらく命ぐらいは‥‥‥‥いや、この話だと魔王の方が大丈夫なのかという心配はある。

 
「少なくとも、第1王女の嫁入りにはならぬがな。こちらはこちらでいらぬ争いの原因にもなりかねぬしな‥‥‥」

 何にしても、話はそこで終わった。

 色々ツッコミどころや不安もあるが、今はこの首都の復興が最優先。

 魔王の元へ第2王女が嫁ぐ件に関しては色々と言いたい気持ちもあるが、王女自身の反対もなさそうだし、大丈夫なはずだという意見が一致した。

‥‥‥ただ、ある意見も全員一致していた。

 この国の国王、愚王でも賢王でもないのだが、こういう真面目な話に関しての演説はそうしない。

 つまり、何か台本をあらかじめ読んでいる可能性があるのだが、すべての記憶は簡単ではない。

 ゆえに、何処かで間違えている可能性があり…‥‥今夜あたりに、正妃たちに国王が折檻される可能性があると。

 その事に関しての意見が一致し、どの程度あるのか賭けごとが成されたという‥‥‥



―――――――――――――――――――――
SIDEシアン

 首都から去り、ポチ馬車が到着し、帰宅する。

 その道中の中で、馬車の空気がちょっとばかり重いというか、妙なものになっていた。


‥‥‥色々と言いたいことはある。

 まぁ、首都内に大きな穴をあけた時点で、ただでは済まない可能性も考えていた。

 こちらとしては面倒事になりうるので、そのまま国に押し付けようと考えていたが…‥‥


【‥‥‥えっと、ミスティアさんはそれでいいのでしょうか?いえ、シアンを渡したくないとかそういう事ではないのですが‥‥‥】
「ええ、大丈夫ですわ。政略的に近いけれども、それでもこの騒動で王家が何もしないという訳にもいかないですもの。それに、居候させていただいた中でひどい目に合わせるような人たちではないと分かってますからね」
「いや、確かにその気もないけど…‥‥僕としてはハクロもいるんだけど…‥‥大丈夫なの?」
「問題ないですわ」

‥‥‥まさかの第2王女様、降嫁されました。

 国としては魔王とも仲良くしたいとか、そう言う意図は見えるし、文句も特に言えるわけもない。

「ミスティアおねえしゃあんが第2おかあしゃんになってもロールは反対しないにょ」

 ロールがそうつぶやくけど…‥‥良いのかこれ?

「ワゼ、過去の魔王に側妃がいたとかそういう話はあるのかな?」
「データ的には問題ないようデス。以前、預言者の人にもらったデータによれば、魔王には伴侶が付きますが、それ以外の者も付くことがあったそうですし、一夫一妻の者もいたようですが、中には数百人クラスもあったようデス」

 思った以上というか、ぶっ飛んだ前例もあったのか。

 何にしても、ハクロ以外の嫁がまさか来るとは思っていなかったが‥‥‥多分大丈夫だと思いたい。

 
「大丈夫デース。むしろ我が主はもっと人を持つべきだと思いマース!」
「うるさいデス、『ツェーン』。貴女はそろそろここで下車して首都に戻るべきだと思いマス」
「ひどくないデースか?せっかく、ようやく我が主を見る事が出来たのにデース」

‥‥‥うん、ついでに何か増えていた。

 見た目的にはワゼに近いが、男装の令嬢というべき人が馬車の横をかけながら答えている。

「‥‥‥ワゼ、彼女何でまだいるの?」
「ええ、どうやら森までの護衛をしたいようデス。何しろ、普段は首都に留めており、ようやくご主人様にお目にかかれたようですからネ」
「そうデース!!作られて早々に会う前に行かされた身にもなってほしいものなのデース!!」

 ワゼの言葉にそう答えるツェーンという女性。彼女は人ではなく、どうやら今回の件を知らせてくれた手の者らしい。

――――――――――――――――
【万能家事戦闘人型ゴーレム10・・『ツェーン』】
ミニワゼシスターズとは異なる形状をしているが、以前の親善試合後に生み出されたメイドゴーレムの一機であり、形状はαモードのシスターズの元になっている。
首都の方にある裏ギルドを統括する裏ギルドマスターの補佐を担当しており、裏社会に足を踏み入れている。
口調としては「デース」と似非外人風なものになっているが、ワゼいわく言語機能を少々間違えたそうで、固定されて修正できなくなっているそうである。
変型機能はシスターズ同様備え付けられているが、裏仕事部分に機能が割かれており、少々戦闘面では他の姉妹機に劣る。
ただし、経験自体はワゼたちが得られる分野以外のものを多く収拾でき、これでも十分必要な役割をこなせ、対人戦ではかなりの強さを誇る

――――――――――――――――

 騒動後に、ワゼに紹介されたが…‥‥ちょっと気になる部分があった。

「ねぇ、ワゼ。確かシスターズのズィーベンって『07』だったよね?その後に生み出したとして、ツェーンが『10』ってことは、まだ08、09がいるんじゃ‥‥‥‥」
「ええ、そうデス。いますがまた別の機会という事デス」
「…‥‥何と言うか、王女という立場としては、かなり聞き逃せないような…‥‥」
「なんかごめん…‥‥」
「まぁまぁ、生み出した人が滅茶苦茶なのはもうわかってマース。後は慣れるのが一番良いのデース」

 ツェーンのその言葉に、僕らはうんうんと頷くぐらいしかできないのであった。



「ところで、また今度の機会という事は08、09は他国にとか?」
「ハイ。08は騎士王国の方へ、そして09は特殊任務で今この世界に居まセン。帰還できないというべきか…‥‥まあ、不幸な事故デス。データは来るので、きちんと稼働していらしいですけどネ」

 ちょっと待て、それってどういうこと?いや、やっぱり聞きたくないな…‥‥前世とかそういうのがあるけど、異世界でやらかしている光景が非常に想像できるのだが…‥これ以上、考えないでおくか…‥‥

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