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春が近づき、何かも近づく

#234 差があるというのはこういう事なのデス

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SIDE ハデライス

‥‥‥ハデライス。アンデッドモンスターのリッチと呼ばれるものに似てはいるが、自称それとは異なる存在。

 彼もまた、シアン同様転生者でもあった。
 
 ただし、最初から彼はアンデッドではなかった。




 昔々、彼がまだ人間であったころ。

 彼はとある農村で誕生し、その時にはまだ前世の記憶はなく、ガキ大将として威張り散らして過ごしていた。

 だがそんなある時、その村に新しい住民が来た際に、その天下は終わってしまった。

 いつも取り威張りちらし、その新しい住民の子供に喧嘩を売って…‥‥それはそれは、見事な報復にあい、ガキ大将の座を転落させられたのである。

 翌日から子分たちも離れ、普段から偉そうにふんぞり返っていた彼の元には誰もおらず、見事に陣王の無さを露呈させた。

 その事実に憤慨し、彼は怒り狂う中、うっぷん晴らしとして畑を荒らそうとしたところで鳥の糞を頭に堕とされ、汚いと思って洗おうと川へ向かい、そこで滑って転んだ。


 その衝撃で彼は気絶し、そして目が覚めた時に…‥‥前世を思い出してしまった。

 彼の前世はとある富豪の長男で、その当時も今のように好き勝手に動いていた。

 金に任せて愛人を何人も雇い、邪魔者は消していく。

 気に入らなくなれば処分し、色々と自由にしていたのだが、その人生は早めに終わった。

 死因は単純に、愛人全員から背中に刃を刺されての出血多量によるショック死である。



 何にしても、その前世を思い出した後、彼は今の自分の生活が耐えがたいものになってしまった。

 この世界にはネットもゲームもマンガもなく、女遊びをしようにも金がなく、しかもここは田舎の農村。

 よくライトノベルとかであるような前世知識のチートとかを活かそうにもその材料もなく、そもそもあったとしても作れるほどの頭もない。

 



 成長し、ある程度自立できるようになったところで彼は村から出た。

 そしてある都市にて、冒険者という職業を知り、これを利用して一獲千金を…‥‥と思ったが、現実は甘くない。

 モンスターの討伐も大変だし、実力を伴わないものはできないし、その日暮らしな事が多く、借金を積み重ね始める。

 借金という手段を得たせいで、女遊びなどに手を出し、賭博、違法取引なども受け始め…‥‥最終的には犯罪者となり、鉱山での強制労働の実刑を受けた。

 このまま生涯ずっとここで償えと言うのかという絶望に襲われたが…‥‥幸運というべきか、その時代は悪の魔王がいた時代。

 その鉱山を狙っての襲撃事件が起き、そのどさくさに紛れて彼は逃亡に成功。

 だが、このまま逃亡生活を続けていたところで結局は捕まる可能性もあり、彼は考えに考え‥‥‥その魔王の元へ就くことにした。

 表向きは忠誠を誓い、裏ではこの魔王をなんとか亡き者にして自分がその座に就けるようにと言う野望を持って。


‥‥‥とは言え、その野望は叶わなかった。

 魔王の元へ集った仲間の中には、他者を蹴落とす者もおり、見事に彼はその罠にかかり、アンデッドへと変貌。

 人間時代とは比べ物にならないほどの強さを偶然にも得たのだが…‥それが奮われることは無かった。

 何故ならば、強くなって早々に封じられてしまったのである。

 どうもアンデッド系統じゃないと封印できないような道具があり、それを利用するためだけにその罠が仕掛けられたのであろう。

 そのまま消せばよかったような気もするのだが‥‥‥おそらくは、普通に消してもそれはそれで面倒な事が起こると考えられたようだ。

 何にしても、そのまま封じられた彼は、そのままずっと表舞台に立つ間もなく、姿を消した。





 そして、封印されて数百年。

 封が解けないようにされていたのだが、長い年月の間に彼が封印されていたものが発掘され、人々の手に渡り、本日めでたく開封されてしまったのであった。

 そして封が解けてすぐにうっぷん晴らしに暴れ、適当にその解いてくれたものを脅迫し、封印当時から時間が経っていることを聞き出した。

 そして悪の魔王もいない様なので、ならば今こそ自分が天下を取る時だと思い、動き出したのであった‥‥‥


―――――――――――――――――――――――――
SIDEシアン

【アア、アアアアアア!!忌々シイ同僚ノ罠ニ封ジラレテイタガ、今コソ我ガ野望成就ノ時!!貴様ラハソノ贄ニナッテモラオウ!!】

 そうアンデッド‥‥‥ハデライスとやらは、叫び、攻撃を仕掛けてきた。

 杖をかざし、その杖に漬けられていた黒球が光ると同時に、先ほど出て来た怪物たちが続々と姿を現し始めた。

「うわぁ、悪趣味というか、質より量主義なのかな」
「どうもここで一気に動くようデス」

 
 数が多く、若干どす黒い部分‥‥‥人肉とかが使用されているらしい部位が欠けているものが多い。

 おそらくは材料不足なのだろうけれども、こうも大量の怪物たちを出せるのは脅威なのかもしれない。


‥‥‥まぁ、普通の相手ならね。

「むしろこっちの方が楽かも?」

 全部を一つに詰めた奴よりも、わざわざ拡散してくれる方が楽かもしれない。

 数の暴力とも言うが、その暴力はある程度の強さがあって成り立つものだし、そもそも凌駕する相手には意味をなさない。


「せっかくだから新魔法で相手してやるよ!!」

 そう言い放ち、僕は魔法の準備をした。

 その魔法は、以前温泉都市でこの衣が発現するきっかけになったとある大屑野郎に食らわせた類のもの。

 けれどもあれは少々威力が強すぎるし、こんな地下でやらかせば落盤とかでこっちにも影響が出る。

 ならば、もっと威力を小さくしつつ、コントロールしやすい魔法は無いかと考え、今がその考えを実践するいい機会だ。

「『サンドバレット』!!」

 大岩の時に比べると範囲が少々狭くなるが、真の数の暴力というべきものを見せつける魔法。

 小さな砂の粒が生み出され、大量に超高速で打ち出されていく。

 砂嵐のように想えるが、その嵐の風よりもさらに凌駕した超高速。

 摩擦熱で燃え尽きないギリギリのものだが、うまくできたようだ。


ズドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
【ビギゥ!?】
【グゲェェ!?】
【ゲッチャァァァン!?】

 大量の超高速砂塵が襲い掛かり、怪物たちに無数の穴が開き、更にどんどん増やして跡形もなく消し飛ばしていく。

 ふとワゼの方を見れば、どうも彼女の方もこの機会に新兵器を試すようだ。

「こういう怪物相手…‥‥コーティングされただけのアンデッドの大群には、この対軍用装備を試しましょウ」

 ワゼの腕が変形し、右手にパラボラアンテナのようなものが、左手に機関銃のようなものが現れる。

「右の方は万が一用。ですが、出番はたぶんないデス。では、皆さまにこれを受けていただきましょウ」

 そうにっこりと彼女は微笑みながら言い、迫りくる怪物たちへ向ける。

 そしてカチリと音が聞こえた次の瞬間…‥‥


キイィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!

 甲高い金属音のような音が響き渡る。

 そしてその音が聞こえて数秒後、怪物たちに変化が起きた。

【グギャ?ゴ、ゲ、ゲバァァァァァ!?】
【ゼバァァァァ!?】

 怪物たちの動きが硬直したかと思うと、数秒後には…‥‥


「‥‥‥グロッ!?」
「ふむ、ちょっと問題ありますねコレ」

 ワゼのつぶやきにツッコミを入れたいが、今のグロ映像のインパクトが強くて動けない。

 ハデライスとやらの方を見れば、あちらも流石に今の光景がr18グロと付きそうなもののせいか、唖然としつつも嘔吐しかけていた。

‥‥‥ワゼ、今後その武器はできれば禁止してほしい。表現するのもおぞましいような最後を見たくないんだけど。敵味方関係なく精神的ダメージが凄まじいからね‥‥‥


 とにもかくにも、その兵器や魔法によって怪物たちは殲滅されていく。

 ハデライスの方もこの状況は不味いと思ったのか、次々と惜しみなく怪物たちを作り上げていくが、その都度僕らによって殲滅されていく。







‥‥‥そして数十分後、ようやく打ち止めとなったのか怪物たちがでなくなった。

 周囲には蹂躙後の後継買いが広がっているが、目の前のハデライスは未だに健在。

 いや、持っていた杖もこの殲滅作業中にどさくさに紛れて壊したせいか、もうすでに怪物を生み出す力も失ったようだ。

【馬鹿ナ馬鹿ナ‥‥‥‥アレダケノ数ヲタッタ二人ニ‥‥‥‥】
「というかそもそも、最初から相手になってないよね」
「むしろ怪物たちの処理よりも、普通に掃除する方が大変ですネ」


 唖然としてそうつぶやき続けているようだが、僕等にとっては何の事もなかった。

 何か罠を仕掛けてくる可能性もあったが‥‥‥‥どうもあの怪物たちの大量生成のみで解決できると思っていたようで…‥‥無策だったようだ。

 いや、ここまで来れている時点でもう少しどうにかすべきとか考えられるはずだろうし、それすらしないってことはそこまで考える余裕が無かったのか、その頭が無かったのか。



 何にしても、残るは今回の元凶であるハデライスのみ。

 ガタガタと歯を鳴らし、必死に考えているようだが何も浮かばないようだ。


 一歩、また一歩と近づくと、奴は体を震わせ、後ずさりをしたがここは地下であり、部屋はもうない。


【ヒ、ヒィィィッ、ク、来ルナ!!】
「散々怪物を仕向けまくって、上の首都でも迷惑をかけまくった元凶が今さら何を言うんだ?」

 前世持ちの同郷のようだが、関係もないし、特に手加減する意味もない。

 魔王にもとか言っていたが、この実力だとそこまでもなさそうだよな。


「でも考えたら、さっきの灼熱とかも耐えきって不意打ちしてきているし‥‥‥‥生半可な魔法だと生き延びるか」

 いや、アンデッドだしそもそも生きているのかという話にもなるが、消滅させにくいうというのは厄介である。

「でしたら、これを試しましょうカ?」

 そう言い、ワゼの腕が再度変形し、大きな大砲を担いだような状態になる。

「‥‥‥何それ?」
「試作型魔力変換式荷電‥‥‥‥省力して『魔電砲』デス。元々は掃除の際にゴミを殲滅するための目的で開発したものなのですが、いかんせん小型化などに問題点が残っている試作機デス」

‥‥‥そのゴミが、糸くずとかそう言った類ではないような気もするのだが‥‥‥詳しく聞かないほうが良さそうだな。

「あと、動力源に少々エネルギーを食いますので、申し訳ございませんがご主人様、魔力をくだサイ」
「んー、この衣で触れているだけで良いやつ?」
「そうデス」

 ぴとっと、僕の魔力で出来ている衣で触れると、砲身にじんわりと衣がしみこんでいく。


【ナ、ナンダソノ明ラカニ無事ジャ済マナイ物ハ!!】
「無事じゃすまない、ではありまセン。確実に消滅させるものなのデス」

 叫んで問いかけるハデライスに対して、冷静に答えるワゼ。

 そうこうしている間に砲身が光り始め、膨大な魔力がどんどん吸い取られていく。


「発射まであと十数秒…‥‥逃げたいのであれば、逃げてみなサイ」
【ウッ、ソンナ物ニゲラレナイ事ヲワカッテ言ッテイルダロウ!!コウナレバ‥‥‥‥来イ!!切リ札ヨ!】

 そう叫び、ハデライスが手を振ると同時にその足元に魔法陣のような物が浮かび上がる。

 そして次の瞬間、その魔法陣から彼を背に乗せ、巨大な怪物が出現した。


【フハハハハハ!!コレゾ切リ札ノゾンビワールドラゴン!!コレヲ使ウトシバラクウゴケナクナルヨウダガナリフリカマッテラレヌ!!ソノ攻撃スラシノゲルデアロウ耐久力ヲミ、】
「発射」

 言い終わる前に、引き金をワゼが引いた。

 ヴォンッ!!っと大きな音を立て、一瞬静止したかと思うと…‥‥強烈な光の筋が打ち出された。

 そのまま直進し、ハデライスが呼びだした怪物へ直撃するかと思われた…‥‥が。


「あ、そう言えばこれ拡散モードでしタ」
「え?」

 ワゼがぽつりとつぶやき、そのすぐ後に直進していた光の筋が幾つにも分れた。

 ただし、一つ一つが拡散して細くなるのではなく、どれも最初以上の太さになるという謎の拡散。

ズドドドドドドドドドドドドドドドドド、ドォォォォォォン!!

【ギエェェェェェェェェェッ!?】

 怪物もろともハデライスも光が飲み込み、すべてが直撃する。

 どう考えてもただの掃除用じゃないだろうというツッコミを抱きつつも、自信満々そうであったハデライスが骸骨だけど確実に絶望顔を浮かべている姿が見えたのであった‥‥‥

 
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