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春が近づき、何かも近づく

#219 安全対策という口実なのデス

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SIDEミスティア

……ハルディアの森。それは、ボラーン王国内にあるとある広大な森。

 一時期は開拓なども計画されたが、どういう訳か森に入れない人が出るなどがあり、断念されている。

 何しろ、神獣フェンリルが住み着き、森全体を侵入者が入り込めないような結界を作り上げたとされるからだ。

 そして今、その森へ……

「‥‥‥こうして、森の前に来てみますと、強い気配のようなものが感じられますわね」
「フー」

 馬車から降り、指定された待ち合わせの場所でミスティアとフィーアたちは待っていた。



 現在、ボラーン王国の王城では、暗殺者などの馬鹿者もとい刺客が増加しており、その掃除のために、安全策として王子・王女たちは各自安全な場所へ一時的に避難をさせられていた。

 第2王女であるミスティアも例にもれず、仕事は休んでも良いからという話のもと、今回の避難先であるシアンたちのところへ向かわされたのである。

 とはいえ、そのシアンだが、どうも魔王という存在。

 これまでに何度も顔を合わせた相手でもあり、その実力は確かなものであると、護衛についているフィーアが示している。

 何にしても、そういう魔王の元であれば確実に手を出すような馬鹿者はそう居るまいという事で、わざわざ出されてきたが‥‥‥


【シャゲ~!】
「フー!!」

「‥‥‥なんかもう、既に色々と凄そうな気がしますわ」

 大きな馬車を、馬ではなく大きな植物が牽引して来た時点で、ミスティアはそうつぶやくのであった。








「ようこそ、第2王女様……もとい、ミスティアさん」
【お久しぶりですね】
「ええ、久しぶりね」

 森の奥の方へ進むと屋敷のような物があり、その前で下車すると、その主たちが出てくる。

 目の前の青年はシアンであり、その傍らにいる美女のアラクネは、彼の使い魔兼伴侶とされるハクロ。

 それに、その後方にはフィーアの生みの親でもあるメイドのワゼがおり、何度も顔を合わせたことのある相手。

……けれども、油断もできない相手でもあろう。

 なぜならば、シアンという者は、先日の温泉都市とやらの騒動で確実に今代の魔王とされ、その実力は未知数。

 いつのまにか周囲におり、持ってきた荷物を運び入れている、髪色が違うフィーアの姉妹機、ミニワゼシスターズとやらも、一国の軍を相手取れるメイドたち。

 そしてシスターズの生みの親でもあるワゼもまた、とんでもない性能を誇るメイドゴーレム。

 ハクロに関しては…‥‥まぁ、美女である以外は害は無さそうである。

 とにもかくにも、正直言って簡単に国一つ滅ぼせそうな戦力がここに集中しているが‥‥‥幸運とすれば、彼らにはそのような事を起こすような気がない事であろう。

 中立の魔王、そうであるからこそ今は平和。

 けれども、万が一にでも彼の大事なものに手を出せばどうなるのかは、もうすでに良い例が並びまくっていた。

 機嫌を損ねるようなことはせず、まぁまぁの付き合いでいけば危険でもないだろう。



 何にしても、この場所であれば、刺客なども来ることができない。

「これからしばらくお世話になりますが‥‥‥迷惑とかではないですわよね?」
「大丈夫。コチラとしても今さら増えたところで大丈夫だし、普段こっちが何かしらの迷惑をかけていると考えると、多少はね‥‥‥」

 ミスティアの言葉に、シアンが軽く笑いながら答える。

 うん、ある意味それはそれでどうなのかと言いたいが…‥‥魔王の出現が明確化されたことで、色々と仕事が増え、心労も増えたのでそのわびとしてならば間違ってもないかもしれない。

 まぁ、これはこれで、強力な相手の庇護下にいるような状況下であれば安泰であろう。

 少なくとも、刺客たちも来ないだろうし、彼女にとって可愛いような癒しでもあるフィーアも休めるだろうし、文句はない。

 いつまでかかるのかは気になるが…‥‥魔王との親交を深める名目もあれば気になる事もあるまい。

「あら?そう言えば、養女が出来たとか前にフィーア経由で来ましたが‥‥‥その子が見えませんわね?」

 ふと、その事にミスティアは気が付き、そう口に漏らす。

「ああ、ロールの事かな?今ちょっとね‥‥‥」

 ふいっと目を向けた先に何があるのか、ミスティアもつられて見てみる。

 何があるのかと、疑問に思った次の瞬間であった。



ガキィィィィィィィン!!
「あははははははは!!新しく氷の滑り台が出来たにょ!!」
【ガウガーウ!!】
【ガウゥゥ!!】

 向いた先を見れば、瞬時に何やら大きな氷の滑り台が出来上がり、さっそうとそこを板のような者で滑っていく少女とそれの後を追って遊んでいるらしい、大きな獣たち。

 情報によれば、その獣の方は神獣フェンリルの子供たちらしく、仲のいい遊び相手にもなっているらしいが‥‥‥


「‥‥‥うん、元気なお子さんですわね」

 取りあえず、考えたらきりがなさそうな事なので、色々と言うのを彼女はあきらめるのであった。

 なお、その様子を見ている大きな白いフェンリルと、氷像のように固まっている薄い緑のようなフェンリルに関しては、気にしないことにした。

「本当はポチが馬車を牽引してくるはずだったんだけど‥‥‥」
「朝からの遊びで、巻き添えになってますからネ」

 聞こえてくる会話も、気にしないほうが良いと判断するのであった…‥‥
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