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春が近づき、何かも近づく

#214 使いこなせればいいのデス

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SIDEミスティア

「‥‥‥やっぱり来ましたね。というか、これは…‥‥多すぎですわ」

 目の前にこんもりと積もれた書類の山。

 その内容は、どれもこれも色々と異なるのだが、唯一共通するものがあった。


「各国の情報網、流石というべきでしょうか?全部魔王との間を取り持ってほしい手続きばかりですわね」
「フー」

 内容をさっと読み流し、つぶやくミスティアの横に、さらに追加で書類を持ってきたフィーアが呆れたように息を吐く。

 フィーアの今の護衛対象はミスティアだが、元をたどると主は件の魔王……シアンとなり、その主に対しての手続きの山に対し、どういえば良いのか分からないのだ。

「温泉都市での騒動は早めに終息したはずですが‥‥‥やはり、そううまいこと世の中は動かないわね」
「フ」

 うんうんと、ミスティアの言葉に同意しつつ、また書類を持ってくるフィーア。

 残念な事というべきか、不運というべきか‥‥‥‥この国で現在、王族を介してであればミスティアが確実であるという情報もしっかりと取られているようで、次から次へと魔王との交渉をお願いするようなものが多い。

 それなら自分で直接出向けと言いたいのだが、相手が中立の魔王であるという事が問題なのだ。


「下手にやらかせばどうなるのかは、もうすでに実例が出てますしね」

 各国の情報網を舐めてはいけないというべきなのか、魔王の所業を色々と集められていたようで、その内容を再確認させられる。

 一国の軍を蹂躙する兵力がある、情報網はトップクラス、魔王自身の戦闘力やその規模、暴れた時の被害など、色々とあり、一部はわざと情報を漏らされているような気がするレベルなのだ。

 こうなってくると迂闊な手段も使えず、頼れるところを探した結果、ミスティアにたどり着くのは分かり切っていたが…‥‥いかんせん、量が多い。

「干渉しないほうが良いことが多いのに、なぜこうもわざわざしてくるようなものが多いのかしらね」
「フー」

 やれやれと言うように、同意するフィーア。

 何にしても、秘密裏に送られてきたものが多いようで、どれもこれもきちんと見通しつつ、返答を書かなければならない。

……というか、そもそもこれはミスティアの一存で決まるようなものでもないし、相手のシアンの都合などもあるのですぐに決定も出せるわけもない。

 フィーア経由でワゼの方に判断を仰ぐこともできるが…‥‥大体の回答が「来るな」の一点張りになるのが目に見えている。

 国際的な軋轢を生みだしかねないような気もするし、迂闊なものができない。


 はぁっと盛大に溜息を吐きつつ、最近発売された胃痛予防薬とやらを服用し、仕事に取り掛かり始めるのであった‥‥‥‥


―――――――――――――――――
SIDEシアン

「よっとはっと、おっと!‥‥‥んー、やっぱりまだ難しいな」
【色々と変化するのはすごいんですけれどね】
「面白いけど、半端ない魔力量なにょ!」

 温泉都市騒動から時間が経過し、本日僕は庭にてドーラ相手にちょっとした練習を行っていた。

【シャゲェ、シャゲシャゲ】
「あ、やっぱり?まだ偏っている?」
【シャゲェ】
 
 子フェンリルたち相手に戯れているドーラだけに、こういう戯れのようなことも付き合ってくれるのは助かる。

 何しろ今、僕がやろうとしているのは…‥‥先日の騒動で出来るようになった、この魔力の衣制御だからね。



 先日の温泉都市での騒動のどさくさに紛れて、僕はいつの間にかこの衣を出すことができるようになっていた。

 あの時は強い怒りで吹き上がる魔力が自然と集束して形作っていたが、練習を積み重ねた現在、自分の意志である程度顕現を自由自在にできていた。

 魔力で出来た黒い衣。その防御力も攻撃力も高く、魔法を使う時のようにイメージしながら扱えば、様々な形に変化する。

 ばさっと羽織るようなマントから、黒い片手剣、防御特化の盾に、拳銃、某有名な天元突破みたいなものなど、イメージの使用によっては自由自在。

 だがしかし、この衣、一度顕現させるのにかなりの魔力を消費するうえに、動かすのにちょっと苦労する。

 あの時は怒りで力づくに動かしていたが、今はそんなことをせずにやっているせいか、例えるのであれば感情に身を任せていた時は一直線に進めるのに対し、普通の状態だとフラフラと定まらない。。



 何にしても、自由に使えるようにすれば便利なことに変わりはなく、いざという時の武器にはちょうどいい。

 ハクロの糸製の衣服でも防御力は高いので、これで万が一のことがあっても対応能力が増えるのだから良いだろう。

「ま、これで万が一またハクロが攫われそうになっても、すぐに取り返せる手段にもなるかもね」
「うん、良い手段なにょ!」
【色々とできますしね】
「ご主人様の攻撃手段増加は、嬉しい事デス」

 普段は魔法屋として働いているし、そう戦闘するような局面もないけど、いざという時に動ける手札が増えるのはありがたい。

 ミニワゼシスターズもあの騒動で一部全損・半壊したけど、今は修理も改良も終え、前のようなことは置きにくくなっただろう。


「それにこの衣、形状変化でこんなこともできるな」

 
……人というのは地に足を付けて歩くだけに、空に憧れを持つこともある。

 だからこそ、気球とか飛行機とかを作ったが、自分の力で飛んでいるわけではない。

 だが、この衣を纏えば…‥‥なんと浮くことができるのだ!!


「前のミサイルよりはいいなぁ‥‥‥‥」
 
 思い出すのは、以前のウイルスを作った研究所を襲撃する際に、ミサイルのように飛翔した苦い思い出。

 あれとは安全性も格段に違うし、何より自分の力で飛べている感覚がある。

 それにこの飛行方法、工夫次第ではハクロを走らせ、ジャンプしてもらい、空中でベルト状にして合体し、共に飛ぶことも可能だろう。

 腕で持って飛べばいい?いや、ちょっと無理があった。にゅるっとベルトで巻きつけたほうが安定するしね。

 しいてこの飛行方法に欠点を上げるとすれば、飛翔するだけで魔力も大きく消費するので、長時間は無理そうなことぐらいだろうか?

 何にしても、翼を手に入れたので大空を行くこともできるだろう。

 家族で空中旅行もいいかもしれない。

 何にしても、今はまだ練習を積み重ねるのであった…‥‥
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