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寒さ到来面倒事も到来するな

#209 巻き添えデス

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SIDEハクロ

【‥‥ううっ‥こ、ここは】

 痛みを感じながらも、ハクロは目を覚ます。

 温泉都市で受けた強襲と、謎の襲撃者による打撃により、彼女は気絶させられていた。

 ゆえに、どれだけ時間が経過したのかは把握できないが…‥‥


ガチン
【‥‥拘束ですか】

 金属音に気が付き、見れば鎖のようなもので拘束されていた。

 両腕はまだわかるが、足の方は人とは違うので拘束されにくいゆえか、蜘蛛の部分の腰辺りへ巻き付けている。


 場所はわからないが、何処か薄暗く、地下室のような雰囲気はあった。

 いや、違う。地下とも違うような異様な気配に包まれているような…‥‥。



 どうしたものかと考えつつ、探ろうにも探れない現状。

 糸を操る手段はあれども、拘束されているこの状態では下手な動きも取れないし、限界もある。


【シアン…‥‥】

 孤独なこの状況に寂しくなり、愛する人の名をつぶやき、ハクロは涙を流し始める。

 物寂しいこの現状に泣いていたが…‥‥涙を止め、今の状況をどうするべきか考え始めた。

 いつまでも泣いていても状況は好転しないだろうし、今できる事であれば、試したほうが良い。

 何もせずにいるよりも、何かしなければいけない。


【道具系統は‥‥‥ありませんね】

 衣服等は攻撃された時の状態のままとは言え、流石に護身用液体を投げつけたせいか、身体検査を受けたようで、武器の類が没収されているようだ。

 両手などが使えないとはいえ、感覚を研ぎ澄ませばある程度把握もできる。

 普段抜けて居る分、こういう時には発揮できる賢さがあった。

【であれば、まずはこの拘束をどうにかしたいところですが‥‥‥】

 つけた相手であろう襲撃者の姿もなく、来る気配もないので脱走の用意をしたい。

 けれども、繋がれている鎖のようなものには鍵穴もなく、両手がふさがれている分ピッキングなどはできない。

【うーん……あ、そうだ】

 そこでふと、ハクロはある方法を思い出した。

 普段忘れがちだが、ハクロには一応毒の攻撃手段もある。

 正直言って、そこまで使う事もないし、護身用物体Xを投げつけたほうが楽なので利用する機会もなかったが、使えないことはない。

【毒を使えば‥‥‥あれ?そう言えば‥‥‥どうやって出すんでしたっけ…‥‥】



……思い出したのは良いが、肝心の毒の出し方を彼女はすっかりと忘れていたのであった。

【あああああああ!!そう言えば私どうやって毒を出していたんでしたっけ!?最初の頃はワゼさんに提供したりしたのに、今では使用機会もないので忘れましたぁぁぁぁぁあ!!】

 ある意味、野生を忘れていたが故の弊害が出てしまった瞬間でもあった‥‥‥


――――――――――――――――――――――
SIDEシアン

「‥‥‥そうか、攫われたのか」

 泣きじゃくっていたロールをなだめ、疲れたのか眠ってしまった彼女を宿のベッドへそっと寝かせ、ミニワゼシスターズに後を任せる。

 全損・半壊した者もいたが、修理に時間がかかって復帰は先になるだろう。




 詳しい事情を把握し切り、シスターズからの細かな情報をえて、僕は動き出す。

 激しい怒りは渦巻くが、不思議と激情することはない。

……いや、違う。

 表立って暴れるような類ではなく…‥‥静かな怒りが奥底からこみ上げ、周囲に魔力が噴き出し、渦を巻き始める。

「ワゼ、ハクロの位置は?」
「現在、全センサー稼働中デス。ハクロさんを襲撃した人物も感知。温泉都市の北東部の地下を作り、潜ったようデス」
「そっか、じゃあ今から向かえるか」
「ハイ」

 シスターズがいない分、情報収集能力が低下すれども、流石はワゼ。

 既に敵の居城を把握し、戦闘態勢へ移っていたようだ。

「‥‥‥ご主人様、魔力を少し抑えてほしいのデス。少々、逆流によって可動域に負担がかかってしまいマス」
「ああ、ごめん」

 今の僕の魔力はどうもかなり出ているようで、自然とワゼたちにも流れていたらしい。

 もともと起動時に使用し、以降は自己で動くようになっているとはいえ、それでも僕から有事の際に魔力を供給してもらって動けるようになっているらしいが、その部分へ今、膨大な魔力が流れてしまっているようだ。

「敵の詳細を確認。メグライアン王国第1王子シャーグという愚者のようですが、ただの愚者ならまだしも、怪しげな道具を得て、異様な状態へ変貌。護衛の騎士たちが異変に気が付き、取り押さえようとしたようですが‥‥‥そこで爆発し、そこからハクロさんたちへ襲撃したようデス。動機はおそらくですが、暴走した欲望によるものカト」

‥‥また、この手の愚者か。

 その得た道具とやらで変貌し、本当にその愚者の意志で動いているのかも怪しいところがあるが、今はそんなことは関係ない。

「僕の家族‥‥‥いや、の妻に手を出すとは…‥‥許せない」

 静かに怒りが沸き上がりつつ、口調が自然と乱暴になる。

 普段はそこまで意識しないが、こういう点でもう自分は相当な怒りを得たのだろう。

 渦を巻いていた魔力が集束し、身体に纏い、しっくりとくる衣服へ変貌を遂げる。

 マントが付属しており、翻すとともに、僕の体は浮き上がる。


「‥‥‥大事な妻を取り返すために、全力を出させてもらおう。ワゼ、命令だ。持てるだけの能力を使い、ハクロを取り返すために手段を選ぶな」
「了解デス」
「それじゃ、向かうか‥‥‥‥愚者の元へ」

 ぶわっと魔力で風が起こり、俺たちをハクロの居場所へ向けて飛ばしてくれる。


 聞いた話だと、ハクロに暴力も振るったようだが…‥‥彼女の痛みを百倍、いや、何千、何万何兆倍にもして返してあげるのが良いか?いや、それでは足りない。

 養女とは言え大事な愛娘にもやらかしてくれたようだし、ワゼの分身とも言えるようなシスターズも壊しやがった。

 家族へ手をかけるような奴には、情け容赦もない。

 あるのはただ、地獄へ送るだけだ。



……自然と噴き出し、衣服の形へ集束した魔力に収まり切らない分が再び周囲へ吹き荒れさせ、嵐を引き起こし始める。

 怒りの威圧が周囲に立ち込め、騒ぎで集まっていた人々が失神して倒れていくが、関係ない。

 今はただ、愛しのハクロを取り返しに向かうだけだ。

 そう胸に刻み、ハクロの元へ急ぐのであった…‥‥

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