上 下
204 / 459
寒さ到来面倒事も到来するな

#191 被害はあったのデス

しおりを挟む
SIDEシアン

「…‥‥ん」

 ふと、目を覚ますと、辺りは暗かった。

 あの寒い室外ではなく、どうやら室内に入れられたらしい。


「そうか、あの絶叫で…‥‥」

 ここに至る前の事を思い出し、僕はそうつぶやいた。





 雪の女王と化し、暴走したロールを止めるために、物体X濃縮体とやらを飲み込ませた。

 その時に放たれた断末魔とでもいうべき絶叫は、戦闘で疲れていた体に響き、そのまま気絶してしまったのである。

 あの後どうなったのか、気絶した身ではすぐには知れなかったが…‥‥


ふにっ
「ん?」

 ふと、右手の方に何か柔らかい感触を感じ、見ればそこにはハクロが寝ていた。

【すぅ……シアン……】
「‥‥‥寝ちゃったのか」

 おそらく、僕が気絶した後このベッドに運び、ずっといたのだろうか?

 で、中々目を覚まさず、この暗さから察するに、夜になって寝てしまったのだろう。

「でも、ちょっとどこに手を持っているのかなぁ…‥‥」

 意識し始めて感覚をしっかりと感じたのだが、僕の右手は寝ているハクロに挟み込まれていた。

 なんか妙な圧迫感があると思ったら、抱えてすぽっとはまっているのである。

 ええ、そりゃ柔らかいわけですよ、圧迫されるわけですよ、生暖かさを感じるわけですよ。…‥‥いかんな、ちょっと妙に焦ってしまった。

 まぁ、夜のとかで色々やっているので何をいまさらというかもしれないが…‥‥それでも気恥ずかしいものは気恥ずかしいのである。

 むやみやたらに動かせないけどね。いや本当にこれ、魔性の双丘だ……



「何にしても、ずっといてくれたのなら、ありがとうハクロ」

 下手に動かすとさらにやばい事になりそうなので、右手は動かせないが、左手ならば体を横にして何とか動かせる。

 その左手で、そっと彼女の頭をなでようとしたところで…‥‥


【むにゅう、かぷぅ】
「あ」

 頭が動いたと思ったら、目でも開けているのかと言いたいぐらい正確に、僕の手が彼女の口の中に入れられた。

 ちょっと甘噛み状態のようだが、歯が立っているので下手には動かせない。

……久しぶりに、捕食本能が出たのだろうか。と言うかこれじゃ、手が動かせない‥‥‥‥。

 右手に谷間、左手に口内。これどうしろと?


 手が滅茶苦茶ふやけつつ、もう片方の手がぐにゅっと潰され、動きが封じられる。

「でもまだ足が…‥‥」

 少々悪いが、これも抜け出すためには必要であると割り切って、足で彼女の身体を押せば、その反動で同時に引き抜けるはず。

 そう考え、実行する。

 足をなんとか動かし、彼女の食指付近にかけ、しっかりと押せる状態にする。

 あとはこのまま、足を思いっきり伸ばしてしまえば…‥‥


「せーのでっ!!」

 ぐっと気合いを入れ、押そうとしたところで…‥‥僕は少しミスをしていた。

 足でやったとはいえ、そのまま真っ直ぐに押せるわけでもない。

 

ずるっ

 見事に押した部分で足を滑らせ、空振りをする。

 そして、其のままの勢いで足は彼女の間に入って、突っこむ。

……その後、自然と上へ向かった先へ、見事に直撃した。

 しいて言うのであれば、彼女がまだ男とかじゃなくて良かったというべきであろうか。

【みっひゃあああああああああああああああああ!?】

 とはいえ、その勢いはなかったことにはならないのであった。





「‥‥‥それで、ご主人様をそのまま全力で糸で縛って、外へ放り投げたと?」
【…‥‥はい】

 そして現在、彼女はワゼに説明をしていた。

 寝ていたとはいえ、大体どうなっていたのかはなんとなくでわかり、説明は可能であった。

 まぁ、シアン自身がやらかしたとはいえ………



「僕が無理にやらなければよかっただけなんだから、そこまで怒らなくても良いよ、ワゼ」
「ですがご主人様、窓をぶち割って除雪した庭に頭から行ってまシタ。当たり所が悪ければ、そのままお亡くなりデス」
「まぁ、運が良かっただけというか……」

 悲鳴を上げ、ビビったハクロに思わず投げられた僕。

 そのまま放物線を描き、部屋の窓を勝ち割ったが、いた部屋は2階。

 そして、そのまま華麗に雪へダイブするかと思いきや、既にドーラやシスターズによって除雪されていたようで、素肌の地面が待ち受けていた。

 割れた音に気が付いたワゼが飛び出し、あと数秒遅ければそれこそ悲惨な事態になりかねなかったが‥‥‥命があるだけでも奇跡なのだ。


 とはいえ、やらかしたハクロを無罪放免にもできず、僕の方でもどうにかできた手段は他にもあったかもしれない。

 そう言う訳で、この件に関してはまた後にすることにした。






 とにもかくにも、今は別件‥‥暴走したロールの方へ、話題を寄せた。

「‥‥‥で、これがロール?元に戻ってない?」
「戻ってマス」
  
 ベッドに寝かされているのは、あの暴走した雪の女王…の姿ではなく、泡を吹いて気絶したままのロールの姿があった。

 気絶の原因は、とんでもなく鮮明に分かっているのだが、この姿に戻った理由までは分からない。


「呪いは解けたはずなんだよね?」
「ハイ。センサーの反応もなく、解呪されてマス。ですが、肉体的状態は解呪前に近いものとなってマス」
【近いもの?完全に戻っているとかじゃないの?】
「ええ、適合率43%で、残る部分は新たに形成された模様デス」

 解呪したのに、また幼少の‥‥‥いや、正確には幼体と言うらしい姿に戻っているロール。

 原因はワゼにもわからず、おそらくわかるであろう預言者の方は‥‥‥‥


「…‥‥うわぁ、まだ溶けてないのか」
「かっちんこっちんで、雪の女王の力ゆえに作業がいま一つ進みまセン」

 綺麗に氷像と化しており、解凍までにはまだ時間がかかりそうだ。

「火の魔法で溶かせるかな‥‥?加減間違えたら丸焼きになるけど」
「試す価値はあると思われマス」

 雪の女王の力によるものであれば、それを上回る力でやればいい。

 加減を間違えれば預言者は哀れな焼き預言者になるであろうが‥‥‥義体とか言う話だし、焼けても多分問題あるまい。



 とはいえ、流石に室内でやるのは危険なので、外に出て解凍することにした。

 ついでに…‥‥


【シャシャ―】
「‥‥‥え?ヴァルハラさんに、ポチも解凍希望?」

 ドーラがどこからか持ってきたのは、氷漬けになっているヴァルハラさんとポチである。

 ヴァルハラさんの方は、まだ格好つけたいい感じの氷像となっているが‥‥‥ポチの方はなんだこれ?コメディアンでも目指しているのか?


 何にしても、やるのであればまとめたやったほうが良いだろう。

 考えて見たら、この森は元々フェンリル一家がいた森だし、巻き添えにしたような形なので責任を取るべきである。

「それじゃ、解凍として出せる回答は…‥‥やっぱり火の魔法かな。『フレイムタワー』!!」

 火柱を打ち出し、氷像たちをその周囲に設置し始める。

 じわじわと氷が解け始め、解凍速度は順調そうだ。


「んー、この調子なら10分もしないうちに終わるかも?」
【案外、あっさりと溶けていってますよね】

 火柱を見ながら僕らは解凍を待ち、のんびりと火の温かさにあやかってみようかなと思っていたその時であった。


【ガウーーーーッ!?】
「ん?」

 ふと、何やら子フェンリルの悲鳴を耳にし、皆が振り返った先には、一頭の子フェンリルがゴロゴロと転がって悶えていた。

【ん?何があったんだい!!】

 慌ててロイヤルが駆けつけ、子フェンリルの容態を見ようとしたその時、何かを子フェンリルは口から飛ばした。

「あ!」

 その飛んでいる物体は…‥‥雪の女王に断末魔を上げさせた、物体X濃縮体。

 口の中に入れれば即座に解けて、その味が爆発する凶悪な代物だが、どうも外れていた内の一つが凍結し、残っていたらしい。

 面白半分で雪を食べていたようで、その最中に子フェンリルは知らずに口へと含み、溶ける前に勘で味を知るという技をやってしまったのだろう。


 そして今、その溶けかかっている濃縮体は綺麗に飛んでいき‥‥‥火柱の中に入った。


「ッ!!いけまセン!!皆さま伏せてくだサイ!!」

 それを見たワゼの口からは、非常に慌てた様子の声が出る。

 その指示に僕らは従い、とっさに身を伏せた数秒後、火柱の中が急に明るくなり、閃光を放つ。

 そのまま輝きを増した次の瞬間……大爆発が起きた。



チュドォォォォォォォン!!

「うわあああああああああ!?」
【きゃああああああああああああああっ!?】
【ヒええええええ!?】
【【【ガウーッ!!】】】

 ワゼたちがとっさに何かの防御壁のようなものをはり、衝撃波だけが僕らに襲い掛かった。
 
 熱風などではなかったとはいえ、その勢いはすさまじく、僕らは宙にふっ飛ばされ、落下する。



【えっとえっと、せーい!!】

 とっさに機転を利かせて、ハクロが特大の蜘蛛の巣を張り、僕らはその上に軟着陸する。

 辛うじて激突という形に張らなず、皆の無事に皆ほっとした。

……が、これはあくまでも僕らだけの話。

 氷像溶かしていた者たちは火柱付近に立っており…‥‥


【ぐっふっつ‥…】

 氷が砕け、衝撃波がもろに来たのかポチは気絶している。

【ぐぬぬぬ……溶けて早々、なんだこれは‥‥‥】

 びっくりしつつも、流石に格が違うのか全然傷ひとつないヴァルハラさん。


 そして…‥‥

「…‥‥なんじゃぁこりゃぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」

 義体だったのが幸いしたのか、生身であれば凄惨な状態となっていた預言者。

 解凍され、この現状に唖然とし、そう叫ぶのであった………







  
しおりを挟む
感想 1,076

あなたにおすすめの小説

転生勇者の異世界見聞録

yahimoti
ファンタジー
ゲームのメインストーリーが終わったエンドロール後の異世界に転生したのは定年後の会社員。体は子供だけど勇者としての転生特典のチートがある。まあ、わしなりにこの剣と魔法の異世界を楽しむのじゃ。1000年前の勇者がパーティメンバーを全員嫁さんにしていた?何をしとるんじゃ勇者は。わしゃ知らんぞ。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...